Transcript ユニバーサル・サービス
インターネットの進化と可能性 地上波デジタル放送と ユニバーサル・サービス 慶應義塾大学 政策・メディア研究 科 福田 剛士 <[email protected]> 本日の構成 1. ユニバーサル・サービスとは何か 2. アナログ放送における地理的問題点の解 決策 3. 地上波デジタル放送における考えうる解 決策とその問題点 4. まとめ 1-1.ユニバーサル・サービスの定 義 • • 電話事業において提唱された概念 OECDの報告書「ユニバーサル・サービスと電 気通信料金の見直し」(91年)による定義(1) 1. 2. 3. 4. • 全国どこに住んでいても電話を利用できること 誰でも経済的に電話を利用できること 均質サービスが受けられること 料金について差別的取扱いがないこと 「あまねく公平」原則 日本では電気通信事業法と日本電信電話株式会社法 アメリカでは連邦通信法 (1):林紘一郎・田川義博「ユニバーサル・サービス」中公新書、1994年 1-2.ユニバーサル・サービスの淵 源 • AT&Tの1908年6月の広告 • “One Policy, One System, Universal Service” • 電話事業の特殊性 インフラ構築と維持のコス ト 費用逓減による自然独占 地域独占 • 信頼性のあるサービスを あまねく全国に提供する にはどうすればよいか? 全国規模の一社独占 地域独占会社の連合 • 20世紀初頭、相互接続は 技術的に困難 (1):林紘一郎・田川義博「ユニバーサ ル・サービス」中公新書、1994年よ り(P.64) 1-3.電話事業における ユニバーサル・サービスの実現 • 「あまねく公平」なサービスのためには独占シ ステムが望ましい ユーザの利益と事業者の利益の間の妥協点 技術的理由(ポリシーやアーキテクチャの統一) 財務的理由(地域間・部門間の内部補助) • 20世紀の先進国における電話事業の目標:独占 に基づくユニバーサル・サービスの実現 電話事業は公益事業の一環であるという認識 アメリカ: AT&T(長距離、大都市)と地域独占会社 日本: 戦前は政府直轄、戦後は電電公社 その他(英国など): 電気通信は政府事業 1-4.地上波デジタルTV放送における ユニバーサル・サービスの定義 • ある国のTV放送において、すべての人が 1. どこに住んでいても(地理的条件) 2. 妥当な料金(受信料)で(経済的条件) 3. 基本的なサービスを利用できること(基礎的 かつ必要最低限のサービス水準の保証) • 本課題では地理的条件について考える 2.アナログ放送における地理的問題点の 解決策 • 難視聴地域における放送サービスの担保 • 有線インフラを用いたCATVによるサービスの提 供 難視聴地域において、有線テレビジョン放送事業者 は当該の都道府県で放送局を開設しているすべての 放送事業者によるテレビジョン放送又はテレビジョ ン多重放送を受信し、そのすべての放送番組に変更 を加えないで同時にこれを再送信しなければならな い(有線テレビジョン放送法第13条および第14条 ) • 放送サービスの主体はあくまでも放送(無線)イ ンフラを用いた一般的TV放送 • CATVはそれを補完する手段にすぎない 3.地上波デジタル放送における 考えうる解決策 • 有線テレビジョン放送法と同様のアプ ローチ 受信障害を回避するために当該の都道府県で 提供されている地上波デジタル放送のサービ スを有線インフラを利用して行う アプローチ 有線インフラとして既存の地域情報インフラ (地域のTCP/IPネットワーク)を用いる • TCP/IPネットワークと地上波デジタルの サービス及びコンテンツには親和性があ る • 追加的投資を抑制しつつ地理的意味での 3-1.電気通信役務利用放送法上の 問題点 • 「電気通信役務利用放送事業者は、他の 電気通信役務利用放送事業者又は放送事 業者の同意を得なければ、その電気通信 役務利用放送又は放送を受信し、これら を再送信してはならない」 (電気通信役務利用放送 法第十二条) • キャリアやコンテンツプロバイダは当該 都道府県でサービスしている放送事業者 の同意を得る必要がある • 全ての地域・全ての事例において円滑に 合意が形成できるのか? 3-2.再送信における問題点 • TCP/IPネットワークを用いた放送サービス・コ ンテンツに対するユーザの期待とは何か? • 「自分が見たいものを見たい時間に、見たい形 式で享受する」自由 時間、場所(自宅、移動時、その他) デバイス(TV、PC、携帯型プレイヤ、PDA、携帯電 話等) 扱いやすいフォーマットへの統一(再エンコード) 個人的利用に限定したコピー、バックアップ • コンテンツの蓄積再放送サービス 現行の法制度において再送信として認められるの か? 3-3.地域情報インフラ整備における問題点 • ADSLの人口カバー率は9割以上(都市部が中心) • 市町村カバー率は2003年12月時点で52% 最も代表的なADSLサービスであるFLETS ADSL(1.5Mbps)のカバー率 残り48%の地域ではアナログモデムかISDN 国際大学GLOCOMとCANフォーラムの調査による 石橋啓一郎氏(国際大学GLOCOM研究員)によるWeblogの記事 http://ishbash.blogtribe.org/entry756f621f1be7c64f16cd7c560857e094.html • 難視聴地域であり、かつ広帯域ネットワークが 未だに導入されていない地域の存在 • 地域情報インフラとしての広帯域ネットワーク をどう整備するか? 4.まとめ • 本課題で提案した方 法における問題点 通信事業者と放送事業 者との間の合意形成 法的な再送信の定義の 見直し 地域情報インフラの実 際の普及率の低さ 放送におけるビジネス モデルの見直し • ユニバーサル・サー ビスの再定義が必要 放送と通信のデジタル 化による相互乗り入れ 汎用的インフラとして のインターネット 通信におけるユニバー サル・サービスと放送 におけるユニバーサ ル・サービスの境界の 揺らぎ 法的にもビジネス的に も「放送と通信の融 合」という現実を考慮 したモデルが必要