Transcript 6/1講義

第2章 教育課程とカリキュラム

 ( 5 )日本における教育課程編成と学習指導要 領  ① 「学習指導要領」とは何か  学習指導要領とは、小、中、高等学校及び特別 支援学校における教育課程編成上の基準となる 文書。文部科学省が、学校教育法施行規則に基 づき作成している。なお、幼稚園に関しては、 幼稚園教育要領がある。 2020/4/29

第2章 教育課程とカリキュラム

  ② 教育課程編成と学校教育法 第 25 条 幼稚園の教育課程その他の保育内容に関す る事項は、第 22 条及び第 23 条の規定に従い、文部科 学大臣が定める    第 33 条 小学校の教育課程に関する事項は、第 29 条 及び第 30 条の規程に従い、文部科学大臣が定める。 第 48 条 中学校の教育課程に関する事項は、第 45 条 及び第 46 条の規定並びに次条において読み替えて準 用する第 30 条第2項の規定に従い、文部科学大臣が 定める。 第

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条 高等学校の学科及び教育課程に関する事項は、 前2条の規定及び第 62 条において読み替えて準用する 第 30 条第2項の規定に従い、文部科学大臣が定める。

第2章 教育課程とカリキュラム

  ③ 教育課程編成と学校教育法施行規則 第五十条 小学校の教育課程は、国語、社会、算数 、理科、生活、音楽、図画工作、家庭及び体育の各教 科(以下この節において「各教科」という。)、道徳 、特別活動並びに総合的な学習の時間によつて編成す るものとする。  2 私立の小学校の教育課程を編成する場合は、前項 の規定にかかわらず、宗教を加えることができる。こ の場合においては、宗教をもつて前項の道徳に代える ことができる。 2020/4/29

第2章 教育課程とカリキュラム

  第五十一条 小学校の各学年における各教科 、道徳、特別活動及び総合的な学習の時間の それぞれの授業時数並びに各学年におけるこ れらの総授業時数は、別表第一に定める授業 時数を標準とする。 第五十二条 小学校の教育課程については、 この節に定めるもののほか、教育課程の基準 として文部科学大臣が別に公示する小学校学 習指導要領によるものとする。 2020/4/29

第2章 教育課程とカリキュラム

    第七十二条 、特別活動及び総合的な学習の時間によつて編成するものとす る。 中学校の教育課程は、必修教科、選択教科、道徳 2 必修教科は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健 体育、技術・家庭及び外国語(以下この条において「国語等」 という。)の各教科とする。 3 選択教科は、国語等の各教科及び第七十四条に規定する中 学校学習指導要領で定めるその他特に必要な教科とし、これら のうちから、地域及び学校の実態並びに生徒の特性その他の事 情を考慮して設けるものとする。 第七十四条 中学校の教育課程については、この章に定めるも ののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する 中学校学習指導要領によるものとする。 2020/4/29

第2章 教育課程とカリキュラム

2020/4/29

第2章 教育課程とカリキュラム

        ④ 学習指導要領の性格 ─ 公示・告示・基準性 1.公示と告示 ・公示:国民に広く知らしめる ・公示の方法・手段としての告示 ・告示:国の機関の場合には官報、地方公共団体の機関 の場合には広報に掲載する ・学習指導要領は、文科省が官報に掲載することによっ て、国民に広く知らせている。 ・学習指導要領のほかには、常用漢字等国語政策に関す る閣議決定が公示されている ・このことを持って、文科省は、学習指導要領の「法的 拘束力」(その基準性)を主張している。 2020/4/29

第2章 教育課程とカリキュラム

    2.基準性(文科省の主張) ・教育課程編成上の「基準」 ・教科書作成上の「基準」 ・学校教育における教育活動全体に関する基準    3.大綱的性格 ・「告示」は、法令ではないので、一般的には強制力を持たない ( あ くまでも行政指導の一つ ) ・最高裁の判決( 1976 年旭川学テ裁判):告示という形式を持っ て法的拘束力が生じることは無い、「大綱的な基準」であれば、「 必要かつ合理的な基準として」の性格を持つことは認めているが、 そのことだけによって、その内容全てについて、それを遵守する義 務が生じるものではない、としている 2020/4/29

第2章 教育課程とカリキュラム

    近年の学習指導要領作成の過程では、文科省はこの「大綱的基準」 という性格をかなり意識し、生徒の過重な負担にならなければ「発 展的学習」として、この枠を超えて教育することを推奨している。 また、学校の創意工夫を盛んに強調している。 しかし同時に、「最低限共通に守られるべき基準」としてその遵守 を強く求めている。 4.教育課程編成の責任の所在(文科省の主張) 「各学校においては、教育基本法及び学校教育法その他の法令並び にこの章以下に示すところに従い,生徒の人間として調和のとれた 育成を目指し,地域や学校の実態及び生徒の心身の発達の段階や特 性等を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとし,これら に掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。(中学校学習 指導要領総則「教育課程編成の一般方針」) 2020/4/29

第2章 教育課程とカリキュラム

      ( 6 )カリキュラム(教育課程)編成の基本的視点 1.「誰が学校の教育課程を編成するのか」という編成 主体のあり方、その組織や権限の所在に関する問題 2.「何を教育内容として選択し、構成するか」という 内容選定の基準とか原理に関する問題 3.学校の活動を全体としてどのように構成するかとい う教育課程の全体構造に関する問題 4.学校の教育課程をどのように客観的に評価し、改善 に役立てていくかという教育課程評価・改善の問題 (柴田義松『教育課程 ─ カリキュラム入門』 2000 ) 有斐閣 2020/4/29

第3章 的 カリキュラム編成と教育の目

 なぜ教育目的を取り上げるのか  1.教育目的は、教育内容の編成、教育方法とそ の性格、学習者の中に育てられるあらゆる能力、 資質、態度、教育の組織とそこでの活動の性格、 評価の基準、すべてを規定する。  2.目指す人間像によって、必然的に教育の在り 方も異なってくる 2020/4/29

第3章 的 カリキュラム編成と教育の目

• • • • (1)教育目的の諸類型 1.理想主義的目的論 ─ 「自立した人格」の形成(カント) ① カントの理想的人間像 – 自律性を持ち、自らが打ち立てた道徳法則にみずからの意思で 従うことができる存在 • • 「なんじの意志の格率がつねに同時に普遍的立法として妥当するよ うに行為せよ」 物自体の英知的秩序(客観的、普遍的秩序)を支配する道徳法則に みずからの意思で従うことができる存在 ② 教育の目的 – 「教育は人の中にある善の萌芽を発展させて、人類の理想に適応させる ことが究極の理想である」「子どもは‥‥人類の理想とその全目的に適 合するように教育されなければならない」 – 客観的、普遍的道徳法則に、自らの意志にもとづいて自分を律すること のできる自立した人間に育てる 2020/4/29

第3章 カリキュラム編成と教育の目的

 ③ 日本における事例ー旧教育基本法の教育目的  「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家 を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示 した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきもので ある。」     憲法理念(平和主義、国民主権、基本的人権の尊重)の実現   個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期す 普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育 人格の完成を目指す 平和的な国家および社会の形成者 真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ、自主 的精神に充ちた心身ともに健康な国民 2020/4/29

第3章 的 カリキュラム編成と教育の目

   2.功利(実利)主義的目的論(スペンサー) ① 彼が目指した人間像  生活の主要な領域において完全に生きることのできる人間  直接的な自己保存に必要な活動  生活の必需品の確保に関わる活動    子孫を育て、しつけをする活動 適切な社会的政治的関係を維持するのに必要な活動 生活の余暇を満たして、趣味や感情の満足を図る活動  現実社会において、自分自身の保全を考えながら、その利益を追求 していく人間、生活者として必要な活動に取り組むことができる諸 能力の所有者 ② 教育の目的  完全な生活への準備としての教育  生活の諸領域において完全に生きるのに必要な能力を育てる 2020/4/29

第3章 的 カリキュラム編成と教育の目

 ③ 日本における事例  1.学制序文( 1872 (明治5)年7月) ・ 2.福沢諭吉『学問のすすめ』  身を立てる財本としての学問、「実なき学問は先ず次にし、専 ら勤むべきは人間普通日用に近き実学なり 」  3.「生きる力」  「我々はこれからの子どもたちに必要となるのは、いかに社会 が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、 主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力 であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を 思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。 たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言う までもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しいこ れからの社会を【生きる力】と称することとし、これらをバラ ンスよくはぐくんでいくことが重要だと考えた」( 96 年中教審 答申) 2020/4/29

第3章 的 カリキュラム編成と教育の目

・ 3.児童中心主義的目的論( J.

デューイら) ・ ①目指す人間像 子ども自身の生活から出発して、その関心を拡大し、認識を広 げていく 存在 子どもの外部に目標が設定されるのではなく、教育の中心に現 実の子 どもが置かれる ・ ②教育の目的 子ども自身の経験(生活)の再構成 画一的で型にはめたような教育のスタイルから、子どもの関心 や感動 を中心に、より自由で生き生きとした教育体験の創造を目指そ うとした。 子どもの内的諸力の活用と発展 2020/4/29

第3章 的 カリキュラム編成と教育の目

   4.国家主義的教育目的論 ① 目指す人間像  国家に対して忠実な人間  国家に対して有能で必要とされる人間 ② 教育目的  国家の目的遂行に必要な人材の養成 2020/4/29

第3章 的 カリキュラム編成と教育の目

 (2)日本における事例   2)国家主義的教育目的論(教育令、学校令、森有礼の教育観、 教育勅語) 森有礼、教育勅語 2020/4/29

第3章 カリキュラム編成と教育の目 的

  3)大正デモクラシーにおける「全人教育」の主張 ・世界における「新教育」運動の影響    ・19世紀末から20世紀初頭にかけて世界各地で展開された教育改革 運動 ・画一的で型にはめたような教育のスタイルから、子どもの関心や感動 を中心に、より自由で生き生きとした教育体験の創造を目指そうとした ・スウェーデンのエレン・ケイ(『児童の世紀』)、アメリカの J.

デューイ(問題解決学習、『民主主義と教育』『学校と社会』)、パー カーストのドルトンプラン など    ・「綴り方教育」 (小砂丘忠義、村山俊太郎ら) ・沢柳政太郎(成城小学校):ドルトンプラン(パーカースト)の導 入 ・小原国芳(玉川学園):「全人教育」の主張  他人の型にはまらない、自己のものとしての教育、教育は結局自己 開拓であり、自己深化である 2020/4/29

第3章 的 カリキュラム編成と教育の目

     4)権利としての教育の目的 ・権利として保障されるべき教育は、人間の成長・発達の必 要性とそれを実現するための学習を保障するもの(人間的諸 能力の獲得を支援すること) ・発達の必要に応じた教育 ・諸能力の全面的発達 ・国家社会の主体的形成者(自立的、主体的判断能力を備えた 人間)=自律的存在   ・「人格の完成」をめざす(新旧教育基本法) ・ すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護 する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育 は、これを無償とする。(日本国憲法 26 条 2 項) 2020/4/29

第3章 カリキュラム編成と教育の目的

 (4)新教育基本法の教育目的  「個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の 精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育 成を期す」  「伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推 進する」(前文)  「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家および社 会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康 な国民の育成を期」す( 1 条) 2020/4/29