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不規則波の表現:有義波、スペクトル
酒井哲郎:海岸工学入門,森北出版
第3章(pp.27-36)
風波は実際には不規則な波浪(波高,周期が一定ではない波;不規則波)
であるため,その取り扱いに工夫を要する(統計的な手法を導入する).
有義波(significant wave):不規則波を代表的な波高,代表的な周期で表
現する.規則波(単純な三角関数で表される波)のような取り扱いが可能に
なる.
スペクトル(wave energy spectrum):不規則波は様々な波浪成分を有す
る.各成分波のエネルギーで表現する.
波高h
波高
平均水面
(h=0)
時間t
周期
ゼロアップクロス法(zero-up crossing method)による波高と周期
波高h
波高
平均水面
(h=0)
時間t
周期
ゼロダウンクロス法(zero-down crossing method)による波高と周期
不規則波(実際に観測された波浪の時系列)の例(例A)
(ゼロアップクロス法で17個の波に分解した例)
有義波
・有義波高H1/3
ゼロダウンクロス法またはゼロアップクロス法を用いて波高
の時系列データから100個以上の波を取り出し,それぞれの
波の波高,周期を求める.波高の大きい方から3分の1の波
の波高の平均値を波高の代表値とする.これを有義波高と
いう.
・有義波周期T1/3
波高の大きい方から3分の1の波高の波の周期の平均値を
周期の代表値とする.これを有義波周期という.
先の波浪の例では
波高の大きい順は7,4,1,17,16,15番の波(17波/3→6波)となる.
これらの波の波高の平均,周期の平均がそれぞれ有義波高,有義
波周期となる.
最大波高Hmax:波群の中で最高の波高を示す波.先の例では7番の波
最大周期Tmax:波群の中で最高の波高を示す波の周期.先の例では7番の
波
1/10有義波高H1/10:波高の大きい方から10分の1個の波を取り出し,その波
高の平均値を10分の1有義波高という.先の例では7番と4番の波を用いる.
1/10有義波周期T1/10:波高の大きい方から10分の1個の波を取り出し,その
周期の平均値を10分の1有義波周期という.先の例では7番と4番の波を用
いる.
平均波:すべての波の平均で定義される波高(平均波高)と周期(平均周期)
を持つ波.
有義波高や有義波周期を海岸構造物の設計波として用いることが多い.
水位hの頻度分布(ある水位hの出現確率)
水位h(平均水面を0とする)
ある水位h+dh
dh
0
ある水位h
時間
T1
T
T3
T4
T5 T6
T7
T8
2
T
0時刻からT時間の波浪データがある.水位がある任意の水位hと微少な増分
dh間(h~h+dh間)の値をとる確率p(h)dh は次式で表される.
p(h)dh =(T1+T2+T3+T4+T5+T6+T7+T8)/T
非常に長いくまた多くのデータを用いて,あらゆるhについてその出現確率を
調べると次式のようになる.水位の出現確率は正規分布になる.
2

h
1
1
h
 
  
p  
exp     
 2  
2
 


:正規分布
σは水位変動の標準偏差
波高の頻度分布
Longeut-Higginsは波高の頻度分布はレイリー分布(Rayleigh distribution)
になることを理論的に示した.(1952)
   H 2 
 H
pH  
exp     
2
 4H 
2H


:H 0
0 :H 0
波高の出現確率に上記のレイリー分布を用いると以下のような関
係が誘導される.
H1/3  1.60H
H1/10  1.27H1/3  2.03H
最大波高については10~20分データに関して次の関係がある.
Hmax  1.6 2.0H1/3
周期に関しては以下の経験的な式がある.
Tmax  T1/10  T1/3  1.1T
不規則波は例えば上図のように様々な規則波の合成(重ね合わせ)
として考えられる.不規則波の例(例B)
合成波(不規則波)を逆に様々規則波に分解し,それぞれの成分波の周波数
(周期の逆数)を横軸に,波高の自乗を縦軸にとる.例Bでは下図のようになる.
17.5m2
不規則波(不規則変動)を周波数分解
し,各成分の波の振幅(波高)の自乗の T=8.69sec
分布をエネルギースペクトルという.
f=0.12Hz
この分布形が不規則波の性質を表す.
例Bは5個の規則波から成り立っていたが,例Aのような波は無限個の規則
波から成立する.

h t    an cos  2 fnt  n 
n1
このような場合振幅anは非常に小さい値をとる.そこである周波数帯(f~f+df)
に存在する成分波の群を考える.
S(f)
f df
an2
f 2  S  f  df
S(f)はdfという幅を掛けるとエネルギーになる
この帯の中
にあるエネル
ギーを考える.
df
f
f f+df
S(f)が波のエネルギーの周波数ごとの分布を表す関数で周波数スペクトル
密度関数あるいは略して周波数スペクトルと呼ばれる.
f≒0.1Hz
T≒10sec
例Aの周波数スペクトル
ピアソン・モスコビッツ(Pierson・Moskowitz)のスペクトル


8.10 103 g 2
g
S( f ) 
exp 0.74 
4 5
 2  f
 2U19.5 f




ブレッドシュナイダー・光易型スペクトル
2
4
4
S ( f )  0.257  H1/3  T1/3  f 5 exp 1.03T1/3 f  


実際の海の波は場所と時間の関数である.

h  x, y, t    an cos  kn cosn  x   kn sin n  y  2 fnt   n 
n1

1次元の場合
h  x, t    an cos kn x  2 fnt   n 
n1
例A,例Bは場所を固定し時間変化(時系列)を見たものである.
上式の場合,スペクトル密度関数は周波数fと波の方向の関数になる.
f df  d

f
an2
 E  f , dfd

2

E  f ,  は方向スペクトルと呼ぶこともある.
波エネルギーの方向に関する分布を与える.(どの方向から来る波
が大きなエネルギーを持っているのかが分かる)
方向に関して積分すると周波数スペクトル密度関数が得られる.

S  f    E  f , d

周波数スペクトルと有義波高の関係
 



an2
1t 2
m0    E  f , dfd     lim h dt  h 2
t  t 
f 0   2
0 
0
H rms 2
h 
8
Hrms 2  8m0
2
H1/3  1.6H  1.60   / 4 Hrms  1.60   / 4
1/ 2
1/ 2
 4.01 m0
有義波周期とピーク周波数の関係
T1/3  f p  0.95
8m0
E  f ,   S  f   h  f , 
方向スペクトル
方向分布関数
周波数スペクトル
h  f ,   h0 cos  / 2
2S

 cos  / 2
S  S  f / f 
S  S  f / f 
h0 
2S

max
5
p
2.5
max
p
d
: f  fp
: f  fp
波の連
海の波は不規則であるが,大きい波が引き続いて数波づつ群
になって来襲することがあり,これが原因で防波堤などに大きな
被害が出ることが報告されている.
波高の連の長さj1 :ある設定した波高(例えば有義波高)よりも
大きい波が続いて現れる波の数
波高の繰り返しの連の長さj2 :波高が設定値を越えてから次の
波群の波高が設定値を超えるまでの波の数
   H 2 
 H
pH  
exp     
2
 4H 
2H


有義波高よりも大きい波高が出現する確率をPとすると
P


H1/ 3
H1/ 3
 p  H dH  
置換積分(変数変換)
積分公式から
H
X
H
   H 2 
 H
exp     dH
2
 4H 
2H


dH  HdX
H1/3
X:
H

 
  2
P
X
exp
 X dX


2 H /H
 4 
1/ 3


  2 
exp
2
 4 X 
 


H

2


 


1/3

P  
 0  exp   

exp

1.6
 0.14








 4

 2

 4 H  
2

 H / H
4
1/ 3
有義波高を越える波がj-1回現れ,その次は有義波高を越えない波が現
れる確率P1(j)を考える.
仮定:ある波とその前後の波の発生確率は同じレイリー分布に従う.
P1  j   P j 1 (1 P)
有義波高を越える波がj-1回
現れる確率
j回目に有義波高を越えな
い波が現れる確率
P1 1  0.1411 (1 0.14)  0.86
P1 3  0.1431 (1  0.14)  0.016
実際よりも小さい
現実には隣り合う波の相関が無視できない(出現確率分布が変わる).
短期統計:例えば10~20分など比較的短い観測時間で得られた波浪デー
タを用いて得た統計的諸量
長期統計:数十年にわたる長い観測時間で得られた波浪データを用いて
得た統計的諸量
波浪追算:過去に生じた波浪を再現すること.
波浪推算:将来の波浪を予測すること.