漂砂:漂砂、海浜変形

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漂砂:漂砂、海浜変形
酒井哲郎:海岸工学入門,森北出版
第6章(pp.66-87)
日本では海岸浸食(海岸線,汀線の後退)が問題と
なっている.
ダム,堰,各種砂防施設により河川から海岸へ供給さ
れる土砂量が少なくなっていることが主な原因
海の水位変動,流れ,波の作用によって移動する海岸の
土砂,底質を漂砂(sand drift)という.
(河川では流れによって移動する砂を流砂という.)
漂砂の挙動を解析しまた漂砂を制御することは海岸環境
保全にとって重要な事柄である.
鋸歯状運動
砕波
浮遊砂の移動
砕波による浮遊
砂漣による浮遊
砂漣の消滅
シートフローの形成
砂漣の発生
底面せん断に
よる移動
初期移動
底面せん断に
よる移動
・深い場所では波による流れは小さく,底質(海底面の土砂)は動かない.
・浅くなってくると底面の流れが強くなり(底面せん断力が強くなる),底質の静止摩擦
力よりも大きくなれば動き出す.底質が移動を開始する水深を移動限界水深という.
・さらに浅くなると海底に砂漣が形成される.砂漣周辺では渦が発生し底質を巻き上
げ浮遊させる.
・砕波点付近では砕波により底質が激しく巻きあがる.
水深が浅くなり底面の流速がある限界値を超えると,砂漣が消失し海底面は平らに
なる.またその上にシートフローと呼ばれる薄い高濃度の底質の層が形成される.
・汀線近くでは波の遡上に対応し,運動の軌跡がジグザグになる.これを鋸歯状運動
という.
砂漣(干潮時)
画像提供 西隆一郎先生(鹿児島大学)
河川工学では河床の土砂の移動限界掃流力t*cは
t*c  f  Re* 
Re* 
u*d

のように与えられる.ここでu*は摩擦速度(= (t* /r1/2),は動粘性
係数である.t*cよりも底面せん断力が大きくなると,土砂粒子が動
き始める.河川の流れは一方向であり,状況によっては定常流にも
なり得るので,底面せん断力と移動限界を結びつけることは考えや
すい.しかしながら,波の場は基本的に往復流であるのでせん断力
は非定常となる.また波と流れの関係を結びつける必要があり,河
川の場合と比較して取り扱いは複雑になる.
移動限界水深(critical depth for sand movement)
波の条件,水深と移動限界を結びつけることができるのなら,
工学上有意義である.
1
H 
 H0   L0 
2 h1
    
  sinh
L
 H0 
 L0   d 
n
初期移動限界:海底表面の突出した砂粒子がいくつか移動を開始する
n=1/4 =5.85
全面移動限界:海底の表層の砂粒子がほぼすべて移動を開始する
n=1/3 =1.770
表層移動限界:表層の砂が波の方向に集団で掃流され始める
n=1/3 =0.741
完全移動限界:水深変化が明瞭に現れる程度の顕著な漂砂移動が始まる
n=1/3 a=0.417
波浪による水粒子の動きは往復流となっている.砂漣背後で渦が発生し,
底面近傍の砂を巻き上げ浮遊させる.巻きあがった砂は沿岸流(一方向
流)によって運ばれ,流れが弱くなったところで沈降して堆積する.
巻きあがり浮遊した砂の移動を浮遊漂砂(suspended load)という.
往復流によるせん断力による砂の底面付近の移動を掃流漂砂(bed load)
という.
砕波が生じると全水深にわたって浮遊漂砂が生じる.このときの砂の鉛直濃
度分布は次式で与えられる.
 w0

C
 exp   z  a 
Ca
 z

実際の観測値は指数的な減少ではなく,片対数紙上で「く」の字に折れ曲がる.
砂漣の谷部で発生した砂の巻きあがり,シートフローの巻きあがりのためと考
えられている.
漂砂量
掃流漂砂量
 u

q
 12.5 

w0d
s

1
gd
 

2
*
3
fw
2
u   ub max 
2
2
*
h
浮遊漂砂量
q   Cvdz
0
記号の説明は教科書を参照
x
岸沖漂砂(たて漂砂)
沿岸漂砂(よこ漂砂)
汀線
y
岸沖漂砂:汀線に垂直な方向(x方向)に移動を繰り返す漂砂.波浪による
底面近傍の往復流が移動の外力.短期的には岸沖方向の海底形状を変
化させるが,砂の往復運動なので長期的な海浜変形を伴わない.
沿岸漂砂:沿岸流にのって沿岸方向に輸送される漂砂.一方向なので河川
からの土砂供給が不足すれば汀線の後退が発生する.
y
汀線
q L2T-1
qy
漂砂移動限界線
qy
qy 
y
y
qx
qx
qx 
qy
qx
x
x
x0
x0+B
x
z
平均水面
h
x0
漂砂の連続式
(漂砂の保存則)
h
1  qx qy 




t 1    x y 
h1
x
岸沖漂砂による海浜変形
破線は初期勾配
波高が小さい
漂砂として掃流砂が卓越
波高が大きい
漂砂として浮遊砂が卓越
前浜
前浜
ステップ
または段
正常海浜
夏型海浜
平衡状態達した海浜形状(平衡
海浜)の汀線は初期海浜の汀線
より沖側にある.
沿岸砂州
(bar)
暴風海浜
冬型海浜
平衡海浜の汀線位置は初期海
浜の汀線よりも岸側にある.汀
線後退.
正常海浜
掃流砂は底面近くの流れの影響を受ける
底面付近の流れは沖から岸
に向かって減少しやがて沖向
きに変わる.
底面付近の流れは沖から岸
に向かって大きくなる.
平均水面
x
静水面
流砂の方向
掃流漂砂量は岸向きに小さくなる.
水深低下(堆積傾向)
qx
0
x
砕波点
h
1 qx

t 1  x
掃流漂砂量は岸向き
に大きくなる.
水深増加(浸食傾向)
qx
0
x
暴風海浜
浮遊砂は底面および水面近く以外の沖向き流れの影響を受ける
沖向き流れは大きくなる
沖向き流れは小さくなる
平均水面
静水面
x
流砂の方向
浮遊砂量は沖向きに大きくなる
水深増加(浸食傾向)
qx
0
x
砕波点
h
1 qx

t 1  x
浮遊砂量は沖向きに小さくなる
水深低下(堆積傾向)
qx
0
x
沿岸漂砂量
沿岸漂砂量は沿岸方向のエネルギー輸送量に比例すると考える.
n
1

2
Qy    r gHb cb cosb sin b 
8

次元をもつ係数
n=1とする.
1

2
 s 1 r gQy  K  r gHb cb cosb sin b 
8

無次元係数
沿岸漂砂による汀線の変化
沿岸漂砂が卓越する場合,長期的な海浜形状の変化が生じる可能性がある
任意のx=aにおけるy方向の水深の変化
h  a, y, t 
1 qy

t
1  y
z
h
y
沿岸方向
Bの範囲で積分
one-line theory
x0  y, t 
 Qy

1

 q 

t
1   h1  y

Qy ( y, t )  
x0  B
xo
L3T-1
y
x0
Qy
x
qy ( x, y, t )dx
B
長期的海浜変形による浸食
1)漂砂供給量の減少(砂防,ダム,河道浚渫などによる河口からの土砂流
出量の減少)
2)海岸地盤の沈下(地震とか地下水くみ上げなどによる地盤沈下)
3)自然外力の長期変化(波浪,潮流,平均海面の長期変化による浸食)
4)人為的地形変化(各種港湾,海岸構造物の築造による浸食)
5)非平衡の急深海岸(富山湾,駿河湾などのように急深海岸では沖に運ば
れた漂砂が岸へ戻ってこない)
6)宿命的海岸地形(大阪湾の泉南海岸のようにいかなる方向の波でも沿岸
漂砂量は漂砂の進行方向に多くなる)
短期的海浜地形による浸食
1)自然外力の短期変化(気象や海象の日変化ないし季節変化による浸食)
2)自然外力の異常変化(台風による高波や高潮,地震による津波などによ
る浸食)
3)河川流量の変化(洪水,渇水,放水などによる河口砂州の地形変化)
4)海水の取水・排水量の変化(発電所などの冷却用水の流量変化による)
海岸護岸
現地盤を被覆し波による土砂の浸食を防ぐ.沿岸漂砂の制御には役
立たない.
突堤
沿岸漂砂の制御.岸沖漂砂には役立たない.
離岸堤
沖側に汀線に平行に設置される構造物.
養浜工
人工的に砂を補給し海浜を造成する工法.砂が運び去られないよう突
堤や離岸堤と並用して施工されることが多い.
サンドバイパス
堆積した砂をポンプ浚渫船などにより下手の浸食海岸へバイパスする.
堆積傾向の汀線
防波堤建設前の汀線
浸食傾向の汀線