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第27回 理論懇シンポジウム 2014年12月24-26日 重力理論と量子エンタングルメント 高柳 匡(京大基研) g ① はじめに: なぜ量子エンタングルメント? 素粒子論の``伝統的な’’目標:物質の最小単位の解明 物質⇒素粒子の集合体、場の理論や超弦理論の記述 さてでは、 時空⇒ もともと与えられていると仮定するのではなく、 何か最小単位の集合体とみなせるのか? ``時空の素粒子?’’ ⇒ 量子エンタングルメント?! [最近のAdS/CFTの解釈] 「時空の面積~エンタングルメント・エントロピー」 参考文献 [解説本] 高柳匡著 「ホログラフィー原理と量子エンタングルメント」 SGCライブラリ106 臨時別冊・数理科学(2014年4月) [日本物理学会誌] 西岡辰磨(東大本郷)、笠真生(イリノイ大) 、高柳匡 「AdS/CFT対応とエンタングルメント」 (2014年6月号) [専門的レビュー] 西岡-笠-高柳, arXiv:0905.0932, J.Phys.A42:504008,2009. 高柳, arXiv:1204.2450, Class.Quant.Grav. 29 (2012) 153001. 内容 ① はじめに:なぜ量子エンタングルメント? ② エンタングルメント・エントロピーとは? ③ ホログラフィック・エンタングルメント・エントロピー ④ AdS/CFTの新しい解釈(AdS/MERA) ⑤ おわりに ② エンタングルメント・エントロピー(EE)とは? • エンタングルメント・エントロピー(EE)とは、 量子エンタングルメントの度合いを測定する量 基底状態の``アクティブな自由度’’をあらわす。 • 量子的な秩序変数として盛んに活用されている。 量子多体系の数値実験における``観測量’’ *複雑なハミルトニアンが与えられた時に臨界点の セントラルチャージ(c)を数値的に求めるために利用。 *c定理やF定理の強劣加法性を用いた証明。[Casini-Huerta 04,12] エンタングルメント・エントロピーの定義 多体系の量子力学において、全体系を部分系AとBに 2分割し、Hilbert空間を二つの直積に分ける: H tot H A H B . 具体例: (1)スピン鎖を二分割する。 A (2)場の理論の空間を二分割する。 B B 全体系の密度行列を tot とする。 例えば絶対零度(純粋状態)では、 tot 。 このときBを観測しない(Bをトレースアウトする)と仮定した場合 の密度行列は、 A TrB tot , と書け、これをAに制限した密度行列と呼ぶ。 この設定で、「Aに関するエンタングルメント・エントロピー」 S A を A に対するフォン・ノイマンエントロピーとして定義する: S A T rA A log A . 場の理論とEE 従来の場の理論の考え方: ハミルトニアン(ラグラジアン)や演算子の 構造に着目。相関関数やS行列の計算。 ? ⇒局所的、代数的な手法 (大域的な情報はブラックボックス) * 熱的な純粋状態と混合状態を区別できない。 * トポロジカルな自由度(非局所的)を扱いにくい。 * 演算子を指定する必要があるので、普遍的な議論がしにく い。 量子エンタングルメントを用いる手法の長所 量子状態 に着目し、その性質をEEなどを用いて調べる。 (EE = ヒルベルト空間の任意の部分空間に対する関数) ⇒非局所的、幾何学的な手法 *様々な場の理論の性質が幾何学的に捉えられる: (1) 場の理論の局所性 ⇒ 面積則 (EE∝面積) (2) c定理、F定理 ⇒ 強劣加法性 (~三角不等式) * EEは非局所的な量なのでトポロジカルな性質を検知できる。 * 余次元の存在を示唆する⇒AdS/CFT対応と相性が良い。 A 例:1+1次元場の理論 S A S ( x, y, t ) x y → 2+1次元? ③ホログラフィック・エンタングルメントエントロピー (3-1) AdS/CFT対応 AdS/CFT対応 [Maldacena 1997] (d+2)次元反ドジッター(AdS) 空間上の(量子)重力理論 古典重力解 (ブラックブレーンなど) 無毛定理 = (d+1)次元空間上の 共形場理論(CFT) ラージN、強結合の 量子臨界点 ユニバーサリティ (3-2) ホログラフィック・エンタングルメントエントロピー(HEE) [笠-高柳 06] 境界 Area( A ) SA . ( d 2) 4GN N B A (時間方向を省略した) 極小曲面 A AdSd 2 2 2 2 dz dt dx CFTd 1 ds R z2 2 2 z ここで、 A は、d+2次元時空中のd次元の最小面積曲面 (極小曲面)であり、境界が部分系Aの境界と一致するもの。 コメント: このHEE公式は、最近 [Lewkowycz-Maldacena 13]によって ほぼ証明に近い導出が与えられた。 このHEE公式はBekenstein-Hawkingのブラックホール エントロピー公式の一般化と思える。 ブラックホールのホライゾン(時間に依存しない場合) ⇔ 外曲率のすべての成分がゼロ ∩ 極小曲面 ⇔外曲率のトレースがゼロ AdS/CFT対応における情報の対応 An observer A ?? The information in A is encoded here. HEEの一般的な振る舞い [笠-高柳 2006] A 面積則の紫外発散 奇数次元のCFTの自由度を 特徴づける量。3次元のQFTで は、繰り込み群で単調減少。 [Casini-Huerta 2012, Liu-Mezei 2012, Myers-Singh 2012, …] 共形アノマリー(中心電荷)に比例 強劣加法性の幾何学的証明 [Headrick-高柳 2007] エンタングルメント・エントロピーが満たす最も基本的な性質の 1つである強劣加法性(Strong Subadditivity)[Lieb-Ruskai 73] を以下 のように簡単に幾何学的に証明できる。 C B A A B C A = B C A B A B C A = B C A B C C S AB SBC S ABC SB S AB SBC S A SC ④AdS/CFT対応の新しい解釈(AdS/MERA) (4-1) アイデア 各スピン対間のエンタングルメントを、スピン間の距離で分類。 x y 1ビット =時空の最小単位 のダイナミクス =エンタングルメントの波 =重力波 S A S ( x, y, t ) g ( x y) / 2, z y x, t 余次元(z=y-x) (4-2) テンソルネットワーク 最近、テンソル積状態と呼ばれるグラフィカルな方法で波動関 数を記述し、量子多体系の基底状態を変分法により数値計算を 行う手法が成功を収めており、盛んに計算されている。 基底状態の良い近似 ⇔ エンタングルメントを正しく再現 例:行列積状態 (MPS, Matrix Product States) [DMRG: White 92, Ostlund-Rommer 95…] T r[M ( )M ( 1 2 ) M ( n )] 1 , 2 ,, n 1 , 2 ,, n M : の行列 ( で厳密解) n Spins M ( ) 行列積状態の図示 1 2 3 1 2 n n i 1,2,..., , i or . Spin chain T r[M ( )M ( 1 1 , 2 ,, n 2 )M ( n )] 1 , 2 ,, n n Spins 行列積状態やツリー状態のEEは、以下のようにバウンドされるの で、一般に大きなEEを持つCFTの基底状態を記述できない。 S A 2 log ( log L ~ S CFT A ). A A 1 2 3 n1 n A 1 2 3 4 5 6 7 A S A ~ N交差 log , N交差 min[ Aとネットワークの交差 数]. 8 (4-3) AdS/CFT対応とエンタングルメント繰り込み MERA (Multiscale Entanglement Renormalization Ansatz): CFTの基底状態の波動関数を求める手法 [Vidal 05] CFTの持つ大きなエンタングルメントを実現するために、 エンタングラー(entangler)と呼ばれるユニタリー変換を追加す る。 エンタングラー 1 2 3 4 5 6 7 8 1 2 3 4 5 6 7 8 1+1 次元のCFTに対する MERAにおけるEEの計算 部分系A=長さLの線分 u 4 u 3 A log L u 2 u 1 A L S A Min[# Bonds] log L 2次元 CFTの結果と一致 u0 ここでAdS/CFT対応とホログラフィックなEEを思い出す。 境界 Area( A ) SA . ( d 2) 4GN N B (時間方向を省略した) 極小曲面 A A AdSd2 (Poincare座標) z ここで、 A は、d+2次元時空中のd次元の最小面積曲面 (極小曲面)であり、境界が部分系Aの境界と一致するもの。 さて、このHEE公式から、 「重力理論の時空=エンタングルメントの集合体」 であることが予想される。 ⇒まさにそれがMERA!? A B A プランク長 MERAとしてのAdS/CFTの解釈 [Swingle 09] Min[#Bonds] A A Min[Area] A u ( u IR ) A 等価 u 0 u 1 AdSd 2 CFTd 1 2 2 dz dt dx e 2 2 計量 du 2 (dt dx ) , 2 z 但し z e u . ( 格子間隔) 2u 2 2 有限温度のMERA [Based on Thermofield dynamics, 松枝-石原-橋爪12] CFT1 CFT1 CFT2 CFT2 AdS/MERA AdSブラックホールの ペンローズ図 ブラックホール の地平線 (4-4) AdS/CFT対応とcMERA [笠-野崎-高柳 12] 場の理論の結果と比較するには、連続極限をとったエンタングルメン ト繰りこみの方が分かりやすい(⇒これがcMERA): Continuous MERA (cMERA) [Haegeman-Osborne-Verschelde-Verstraete 11] (u ) 基底状態をスケール uまで 粗視化 (u 0は基底状態自体) u P exp i ds[ K ( s ) L] u IR Ω , エンタン スケール IR 状態 (エンタン グラー 変換 グルメントは皆無 ) 実空間の繰りこみ : 長さのスケール ~ e u . ヒルベルト空間の次元は変えず、空間各点が独立のIR状態からスタ ートして、少しずつエンタングルメントを織り込み、基底状態を作る。 また一般に、IR状態はCFTの境界状態から構成できる。 [宮地-笠-Wen-高柳 14] cMERAにおける余次元方向の計量 簡単のため、並進不変な量子状態を考える。 このとき、余次元方向の計量guu 2 dsGravity g uu du 2 e 2u 2 2 dx g tt dt 2 は以下のようにcMERAで計算されると予想される: g uu du N 1 (u ) | eiLdu | (u du) 2 スケール変換の効果を取り除く フィッシャー 面積要素= guu du 情報計量 2 エンタングラーの密度2 . u du u u0 (4-5) 励起状態(量子クエンチ)に対する計量(guu) [Mollabashi-野﨑-笠-高柳 13] z g zz g (u) 重力波の伝播のように見える t t=2 t=1 t=0 z g zz z cMERAにおいて|g(u)|∝tであることから、EEが時間に比例して増 加する(SA∝t)ことが分かる。 これは2次元共形場理論の結果[Calabrese-Cardy 05]を再現し、 高次元のホログラフィックな結果[Hartman-Maldacena 13]とも合う。 ⑤ おわりに 本講演から、量子多体系(量子物理)、量子情報理論(情報)、重力 理論(幾何)の3つの分野の深いかかわり合いが分かった。しかし、 このような流れが本格的に始まってから間もなく、現在の知見は氷 山の一角に過ぎないかもしれない。 今後の一つの大きな方向性は、量子重力理論・超弦理論の基本的 なダイナミクス(アインシュタイン方程式など)を量子エンタングルメ ントの考え方を用いて、表現することであろう。 [部分的な成果:EEの第一法則=真空Einstein方程式の摂動] [沼澤-野崎- Prudenziati-高柳 13, Lashkari-McDermott-Raamsdonk 13 ] また、AdS/CFT対応に代表されるホログラフィー原理をより一般の時 空へ拡張するために、MERAの一般化も重要なテーマであろう。 [宮地-高柳, work in progress] 量子多体系の物理 (場の理論、物性理論、統計力学,可解系) AdS/CFT (ホログラフィー) 重力理論 (超弦理論) 量子エンタングルメント テンソルネットワーク HEE 量子情報理論 (情報幾何) BH情報問題