国内の腸管出血性大腸菌問題

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Transcript 国内の腸管出血性大腸菌問題

鹿児島市消費生活研究会
鹿児島市消費生活センター
2011年6月17日
食・環境・生態系の健康リスク
世界、国および地域におけるリスク管理
鹿児島大学農学部付属 越境性動物疾(TAD)病研究センター 岡本嘉六
最近話題となった健康リスク
● 食のリスク: 伝統的調理法がない中で「牛肉細切れ」を
生で食べる「ユッケ」問題
● 放射能汚染: 避難誘導の混乱、広範な食料汚染を引き
起した原発事故のリスク管理
● 越境性動物疾病: 口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ
が国内侵入したが、さらに怖い狂犬病の侵入リスク
日本と世界における食中毒の発生状況
地域における食文化の継承
食のリスク: 伝統的調理法がない中で「牛肉細切れ」を
生で食べる「ユッケ」問題
●
農場生産
収穫
家畜
生産
出荷
消費
加工
農薬取締法など
家畜伝染病
予防法など
流通
食品衛生法
と畜場法
食肉
検査
加工
カット
輸入検疫
流通
消費
子供たちが「牛肉細切れ」を生で食べて死亡した責任は、
親の無知によるものであり、「安全に食べる」ための食のリ
スクに関して親の再教育と学校教育を実施する必要がある。
飲食チェーン店での腸管出血性大腸菌食中毒の発生
【ユッケ食中毒】
自治体
厚生労働省食品安全部監視安全課
現在の入院者
(重症者)
有症者
死亡者
総数
男
女
総数
男
女
総数
男
女
富山県
富山市
石川県
福井県
横浜市
139
24
1
4
1
70
13
1
3
0
69
11
0
1
1
14
1
5
0
9
1
3
1
2
1
1
0
0
1
1
1
1
0
合計
169
87
82
17
5
12
4
2
2
厚生労働省は、原因究明調査、生食用食肉を取り扱う営業施設に対する緊急監視
を行っている。生食用食肉を提供する飲食店において、
○ どの施設において適正な生食用の加工を行っているかを店内等に掲示し、
○ 営業者間の取引の際に衛生基準に基づく生食用の加工を行っているか否かを
文書で確認するよう、都道府県等に指導を依頼しています。
腸管出血性大腸菌食中毒 *病原大腸菌
患者数
事故数
患者数
1996*
1997*
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
179
176
15
8
16
24
13
12
18
24
24
25
17
26
27
14488
5407
182
46
113
378
273
184
70
105
179
928
115
181
358
l1996年に起きた堺市学
死者数 校給食事故では、児童・教
職員の家族など約9500人
8
が発症し、うち3人が死亡し
0
た。管 直人厚生大臣がカ
3
イワレ大根を灰色扱いした
0
ため生鮮野菜などに対する
1
風評被害が広がった。
0
2002年に9名の死亡者
9
を出したのは病院給食であ
1
り、食肉は使われていな
0
かった。
0
毎年、牛のレバー刺や
0
ユッケによる中毒が多発し、
0
厚労省から注意喚起が行
0
われてきたが、本年になっ
0
て死亡者が出たことによりメ
0
Q38 腸管出血性大腸菌は人からうつるのですか?
腸管出血性大腸菌は100個程度の菌数でも感染すると言われていますが、感
染するのは菌に汚染された飲食物を摂取したり、患者さんや無症状病原体保有者
の糞便で汚染されたものを口にした場合だけで、職場や学校で話をしたり、咳・くしゃ
み・汗などでは感染しません。ヒトからヒトへの感染を予防する基本は手洗いです。
排便後、食事の前、下痢をしている子どもや高齢者の排泄物の世話をした後などは、
せっけんと流水(汲み置きでない水)で十分に手洗いをしましょう。
厚労省
感染症法 「三類感染症」
全数把握疾患
感腸
染管
症出
の血
発性
生大
状腸
況菌
腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別発生状況
感染研: 感染症発生動向調査
O157
O26
2009 2010 2009 2010
全国
東京都
大阪府
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
2371 2732
215
161
237
35
34
27
55
17
41
242
211
186
33
29
51
15
20
25
計
O111
2009 2010 2009 2010
697
564
75
85
18
10
9
146
16
12
17
30
17
34
16
16
1
4
11
5
4
13
2
2
4
1
0
2
0
0
4
2
0
4
0
1
9
0
0
13
3143 3381
235
173
250
182
50
41
72
47
62
278
227
206
34
34
71
20
24
51
食品安全も大事だが、感染症を防ぐ個人衛生も重要!
1996~2010年における腸管出血性大腸菌食中毒の概要
割合
死者数
%
割合
%
致命率
患者1万人当り
年齢区分
患者数
0~4
5~9
10~14
15~19
20~29
30~39
40~49
50~59
60~69
70以上
不詳
583
7,426
4,678
1,442
2,147
1,540
1,809
1,796
728
431
429
2.5
32.3
20.3
6.3
9.3
6.7
7.9
7.8
3.2
1.9
1.9
1
4
2
0
0
0
0
2
0
13
0
4.5
18.2
9.1
0.0
0.0
0.0
0.0
9.1
0.0
59.1
0.0
17.2
5.4
4.3
0.0
0.0
0.0
0.0
11.1
0.0
301.6
0.0
計
23,007
100.0
22
100.0
9.6
70歳以上
不詳 0~4歳
60~69歳
高の 健
いあ 康
のる 弱
で方 者
、) (
一は 高
般、 齢
健食 者
康中 、
成毒 若
人で 齢
よ死 者
り亡 、
注す 妊
意る 婦
が危 、
基
必険 礎
要性 疾
。が 患
50~59歳
内円
患者数の割合
5~9歳
40~49歳
30~39歳
10~14歳
20~29歳
外周
死者数の割合
15~19歳
10~14歳
50~59歳
70歳以上
英国における腸管出血性大腸菌食中毒の発生状況
(検査室で確認された症例)
人
口
10
万
人
当
た
り
世界のどの国においても、
O157食中毒は発生している。
2005年の米国では1.4。
日本はむしろ少ないことを
理解すべきである。
:スコットランド
:イングランドおよび
ウェールズ
:北アイルランド
鹿児島市の人口を約60万人とし、各地方の罹患率を当てはめると
スコットランド(4.8): 28.8人
イングランドおよびウェールズ(1.8): 10.8人
英国環境食糧農林省
北アイルランド(2.1): 12.6人
Zoonoses Report 2007
英国におけるサルモネラ食中毒の発生状況
日本のサルモネラ食中毒患者数は年間2000
名程度である。人口が日本の約半分の英国
で、・・・
報
告
数
(
人
)
S. Enteritidis PT4は1980年に英国に出現し、鶏が感染すると産卵停
止に至らず菌が卵に入り込んでしまうことから食中毒の多発を招いた。
S. Typhimurium DT104は1984年に英国ではじめて分離された多剤耐
性菌であり、治療上の重要な問題とされてきた。
いずれも世界各地に広がり、日本でも大きな問題となった。大腸菌
O157だけでなく、新たな病原体が次々出現してきた。
年
間
発
生
件
数
大腸菌O157が産生するベロ
調査の精度強
化と規模拡大
毒素により腎臓の毛細血管
が破壊され、溶血性尿毒症
症候群に陥った子供達が死 食肉センターへ
のHACCP導入
亡する痛ましい事故の防止
に努めたが、流行の勢いは
止まらない。
西部諸州に
おける大規
ハンバーガー・
模発生
チェーン店での
米国とカナダに
跨る広域事故
米国における大腸菌O157による年間事故件数
(1982~2002年)
食文化・食習慣
生焼けハンバーガー(pink hamburgers)を好む: 34 %
高所得(>=$60,000) 45 % > 低所得(<$60,000) 30 %
大卒以上 38 % > 高卒以下 25 %
他の人種 36 % > 黒人 12 %
カリフォルニアとコネチカット州 43% > 他の州 27 %
未殺菌生乳を好む: 1.5 %
スペイン系 4.9 % > 他の人種 1.4 %
FoodNet Presentations, 1996-1997
取材人数: 7493人
実施時期: 96年7月-97年6月
生産から流通までは法規制できるが、消費行動を法規制すること
はできない。分厚いステーキをレアで注文する生肉を食べる風習が、
大衆化社会の中で「生の挽肉を食べる」ように歪んでしまった。
米国の市販牛ひき肉の大腸菌O157調査成績
年
検査数
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
891
5407
5703
6065
8080
7785
6375
6770
6708
6392
7603
10975
10510
陽性数 陽性率
0
3
4
4
14
32
55
59
55
20
14
19
20
0.0
0.05
0.07
0.07
0.17
0.4
0.86
0.87
0.82
0.31
0.18
0.17
0.19
FSIS: Meat Animal Research Center
米国では牛群の88%に大
腸菌O157が侵入し、汚染群の
22%の個体が保菌していたと
いう調査結果がある。
食肉センターへのHACCPシ
ステムの導入により、解体時
の消化管結紮とトリミングで食
肉汚染は減少したが、調査精
度強化により完全ではないこ
とが判明した。
皮膚や毛に付着した糞便が
食肉センターを汚染しているこ
とに気付き、と殺前の牛体の
洗浄と消毒を徹底したところ
再び汚染が軽減してきた。
それでもゼロ汚染は達成さ
れていない。
米国における大腸菌O157感染源の概要(1982~2002)
事故件数
割合(%)
患者数
割合(%)
牛挽肉
未特定の媒介食品
農産物
その他の牛肉
その他の媒介食品
乳製品
75
42
38
11
10
7
21
12
11
3
3
2
41
23
21
6
5
4
1,760
646
1,794
563
206
300
20
8
21
7
2
3
33
12
34
11
4
6
小計(食品媒介性)
183
52
100
5,269
61
100
74
50
21
11
10
1
21
14
6
3
3
<1
812
651
280
319
1,265
2
9
8
3
4
15
<1
小計(食品以外)
167
48
3,329
39
計
350
100
8,598
100
感染経路不明
ヒトからヒト
レクリエーション用の水
動物との接触
飲用水
実験室感染
米国における腸管出血性大腸菌感染の発生状況
Estimates of foodborne
illness 2010
検査室
確認症例
O157
3,704
O157以外
1,579
患者総数の推定
値(信頼限界)
96,534
(26,982–227,891)
168,698
(17,163–428,522)
内食中毒の割合
推定症例数
(信頼限界)
68%
63,153
(17,587–149,631)
82%
112,752
(11,467–287,321)
入院割合
推定入院数
死亡割合、推定死亡数
内食中毒
42.6%
3,268
0.5%、 31
20
12.8%
405
0.0%、 0
0
汚染食品の
喫食
発病
糞便サンプ
ルの採取
大腸菌O157
の特定
研究機関が
菌株を入手
症例の確定
診断
CDC: Timeline for Reporting of E. coli Cases
こ
の
間
に
流
行
が
拡
大
す
る
恐
れ
通
常
、
2
~
3
週
間
を
要
す
る
米国における食品媒介性疾患の発生状況
Estimates of foodborne
illness 2010
サルモネラ
検査室
確認症例
41,930
患者総数の推定
値(信頼限界)
トキソプラズマ
1,229,007
173,995
(772,129–2,008,076) (134,593–218,866)
94
内食中毒の割合(%)
1,027,561
推定症例数
(644,786–1,679,667)
(信頼限界)
入院割合(%)
推定入院数
死亡割合(%). 推定死亡数
内食中毒
50
86,686
(64,861–111,912)
27.2
23,128
2.6
8,889
0.5, 452
378
0.2, 656
327
日本における食肉の調査結果の推移
腸管出血性大腸菌陽性%/大腸菌陽性%
「厚生労働省指定品目の調査結果の推移」より抜粋
2006
2007
2008
2009
2010
ミンチ肉(牛)
0/58
ミンチ肉(牛豚混合)
0/71
牛レバー(生食用)
7.1/71
牛レバー(加熱加工用)
カットステーキ肉
0/59
牛結着肉
0/74
牛たたき
0/26
ローストビーフ
0/ 5
0/64
0/67
0/20
0/28
0/54
0/51
0/20
0/13
0/64
0/74
0/82
0/65
0/63
0/71
0/14
0/ 7
0/61
0/74
0/77
1.0/70
0/59
0/74
0/16
0/13
0.9/61
0.8/76
0/81
1.0/65
1.7/54
0/69
0/16
0/ 3
腸管出血性大腸菌が検出される割合はわずかだが、大腸菌の検
出率は高い。このことは、食肉は糞便によって汚染されており、O157
が検出されなかったのは、牛が保菌(5~10%)していなかっただけで
ある。 トイレがなく、床に寝そべる家畜の体表が糞便汚染するのは避
けられない。消化管結紮だけでは解決できない。
食のリスク: 伝統的調理法がない中で「牛肉細切れ」を
生で食べる「ユッケ」問題
●
食肉は無菌ではあり得ない
ハイリスク者は、加熱不十分な肉を食べてはならない
15歳未満の子供、70歳以上の高齢者、妊婦、免疫低下
を伴う基礎疾患のある方
● 子供に生肉を食べさせ、死亡させた親や大人は、殺人罪
で処罰されるべきである(消費行動の法規制はできない)。
● 一般健康成人が生肉を食べて食中毒(下痢、嘔吐、腹痛、
発熱)を起こしても、自己責任である。
● あらゆる食品には健康リスクがあることを理解するための
学校教育、成人教育を推進する必要がある。
栄養過多によるメタボが最も重大な健康リスクである。
●
トップの洞察・統率力が危機管理を左右する
放射能汚染: 避難誘導の混乱、広範な食料汚染を引き
起した原発事故のリスク管理
●
危機とは何か?
生命や財産に重大な脅威となる事態
戦争、災害、伝染病、有害物質、組織的犯罪(テロ)、・・・
危機管理の要点 : リスク・コミュニケーション
リスクマネジメント(Risk management)
予測される危機を未然に防ぐ
: 検疫
クライシスマネジメント(Crisis management)
発生後の対処方法
口蹄疫を例にすると
被害を最小限に食い止める : 初発地域において封じ込め
危機の拡大を防止する
: 蔓延防止
正常状態の回復
: 清浄化
危機発生時には基本的人権の一部が制約されることの理解が重要
危機管理の大綱
今回の原発事故で「想定外」と
1.予防: 危機発生を予防する いう言い訳が繰り返された。
2.把握: 危機事態や状況を把握・認識する
3.評価 「想定外」に対処するクライシスマネジメントの欠如
損失評価: 危機によって生じる損失・被害を評価する
対策評価: 危機対策にかかるコストなどを評価する
4.検討: 具体的な危機対策の行動方針と行動計画を案出・検討する
5.発動: 具体的な行動計画を発令・指示する
6.再評価
危機内再評価: 危機発生中において、行動計画に基づいて実施さ
れている点・または実施されていない点について効果の評価を随時行
ない、行動計画に必要な修正を加える。
事後再評価: 危機終息後に危機対策の効果の評価を行ない、危機
事態の再発防止や危機事態対策の向上を図る
電源喪失直後の判断
冷却不能になれば炉心溶融(メルトダウン)が起きる。
➜ 冷却機能の回復=電源確保
爆発前に、東京近辺の火力発電や製鉄所等から大
型発電機をヘリコプターで空輸すべきだった
爆発・放射能汚染が始まってからの対処
事態の把握: 既存の組織を活用せず「政治主導?」
拡散予測システムを無視: 既存組織から提供された
データに基づく拡散図が世界中で閲覧されていた(知ら
なかったのは日本国民だけ)➜ 英国気象庁
汚染実態の把握の遅れと基準の見直し?: 官僚組織、既
存の委員会を活用しなかった。 爆発後の避難指示が二
転三転、危機進行中の基準見直し、農水産物規制の滞り
福島 I131
英国気象庁によるセシウム137の拡散推定図
Weather Online
越境性動物疾病(TAD)の現状
狂犬病流行の現状と国内侵入のリスク
越境性動物疾病: 口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ
が国内侵入したが、さらに怖い狂犬病の侵入リスク
●
1977
1977
1982
1984
1983
1992
1997
1999
1999
2002
2003
2009
エボラ出血熱
? ➔ サル ➔人
カンピロバクター
鶏肉 ➔人
大腸菌O-157:H7
赤痢菌毒素➔大腸菌➔人
BSE(牛海綿状脳症)
牛 ➔人
ヒト免疫不全ウイルス
サル? ➔人
猫ひっかき病
猫 ➔人
香港新型インフルエンザ H5N1 水鳥➔鶏 ➔人
ニパウイルス
オオコウモリ➔ 豚、人
ウエストナイル熱
米国に侵入➔北米全体
SARS(重症急性呼吸器症候群) ハクビシン ➔人
高病原性鳥インフルエンザ H5N1 水鳥➔鶏 ➔人
世界流行インフルエンザ H1N1 人・豚・鳥ウイルスの融合
狂犬病は一旦発症すると治療方法がなく、
死を待つのみとなる恐ろしい病気である。
数週間から1年余を経て発症するが、筋肉は衰えておら
ず思考は明瞭だが、嚥下障害のために水が飲み込めなく
なり、恐水発作、脱水により興奮、不安狂躁、錯乱、幻覚、
攻撃性を示すことから、患者の管理が大変である。
ウィキペディア「狂犬病」からの引用
2004年の世界における狂犬病による死亡報告数
国の数
報告した国の数
(%)
死者数
アジア
アフリカ
南米
欧州
北中米
38
13
34%
24,329
43
4
9%
213
13
10
77%
55
40
37
93%
25
17
11
65%
19
アジアの主要国における狂犬病による死亡報告数
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
インド
30000
30000
30000
30000
30000
n/a
17000
17000
中国
230
234
373
505
899
1532
2009
5302
バングラデシュ
2000
2000
2000
1400
1400
n/a
1550
1550
パキスタン
57
n/a
188
2490
n/a
n/a
n/a
n/a
ベトナム
181
130
94
65
1550
60
30
n/a
ミャンマー
56
55
3
114
156
153
1100
n/a
フィリピン
323
362
398
359
293
269
258
248
n/a: 報告なし
厚生労働省健康局結核感染症課(2011年4月更新)
2008年イタリアで1発生
2008年10月21日 緊急通知
発生開始日: 10月10日
前回の発生: 1995年
出来事の適用範囲: 国内の
限定地域
罹患集団: キツネが森を散
歩中の人を襲って咬んだ。そ
のキツネはその場で殺され、
その人は必要な治療を受け
ている。
疫学的注釈: イタリアにおけ
る森林型狂犬病として過去
13年間で最初の事例であり、 東方の国からの侵入と考えられる。
適用した措置: 野生保有動物の制御、ワクチン接種をしない、罹患動
物を治療しない。
Rabies in Slovenia
症例数
スロベニアの都市型狂犬病(犬媒介)発生の推移
犬のワクチン接種義務化
犬媒介狂犬病がなくった
時期は、日本とほぼ同じ。
最後の人感染
犬媒介狂犬
病の最後
1921
1946
第二次世界大戦の
ためデータが不完全
1950
1954
1956
1945年から1956年の犬媒介狂犬病の内訳は、犬が80.07%、
牛が5.99%、猫が2.52%、豚が2.21%、小反芻獣が0.95%、キツネ
が0.95%、馬が0.32%とされている。ワクチン接種の義務化ととも
に、放浪犬の捕獲が行われ、犬が原因となる狂犬病はなくった。
症例数
スロベニアの野生動物における狂犬病発生の推移
経口ワクチンの
使用開始
1980
1988
ワクチン入り餌
のヘリコプター
による散布開始
1995
2008年に南方の
クロアチアの流行
が波及し、ワクチ
ン投下地帯で48
例が発生した。
2008
森林型狂犬病は東北部で発生していたが、川を越えて広がることは
なかった。1979年に北方のオーストリアの流行がスロベニアに波及し、
全土に広がった。1988年から始まったキツネに対する経口ワクチン
投与計画は、ヘリコプターによる散布(投下した餌は20~24/km2で60
~70万個)によって効果を挙げた。1980~2008年の野生動物の罹
患割合:キツネ 94.94%、ノロジカ 2.82%、アナグマ 1.41%、その他。
野生動物の移動範囲は広く、1年
間で侵入地点から200~300km地
点まで狂犬病が広がった。
ハンガリー
オーストリア
イタリア
新
た
に
ワ
ク
チ
ン
餌
投
下
クロアチア
ワクチン餌投下だけで
はクロアチアからの侵
入を防げなかった。
60
2008年10月10日 初発例
2009年1月24日~ ワクチン餌35,000個
2009年5月23日~ ワクチン餌35,000個
50
2009年6月24日 イヌの初感染
野生動物
40
30
ロバ
2009年9月6日~ ワクチン餌52,000個
これ以降、餌の散布地域を拡大するが・・・
ウマ
イヌ、ネコ、ウマの感染が相次ぎ
ネコ
2010年4月9日 経過報告43:
「風土病化宣言」
イヌ
ノロジカ
20
アナグマ
キツネ
10
0
10
11
2008
12
1
2
2009
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2010
イタリアにおける狂犬病発生の推移
2
3
4
発生の舞台となったFriuli-Venezia Giulia 地方は、アルプス地方
の森林帯で旅行者らに人気の観光地だそうだが・・・
弱毒生ワクチン(Sinrab)は経口投与が可能であり、餌に混ぜて森
に置くことで野生食肉目(ネコ亜目とイヌ亜目)の狂犬病を制御できる
とされてきた。イタリアにおいて狂犬病の蔓延を阻止できなかったの
は、ワクチン餌をヘリコプターで散布および人手で要所に置くことが、
キツネの採餌行動とマッチしなかった? 地理的要因やキツネの生息
密度が左右しているのかも知れない。
1990年代初頭に、ドイツやフランスでワク
チン餌が奏功したが平坦な地形が有利に働
いたとも考えられるが・・・
同じく平坦な地形であっても制御できてい
ない国も多い。大量のワクチン餌を散布でき
る資金力がより大きな要素か?
2008年フランスで発生した事例は違法な輸送による
1件目: 狂犬病の症状と一致する雌犬を2月19日に安楽死させ
た。この犬はフランス生まれであるが、モロッコから不法に持ち込ま
れた犬(2007年11月に安楽死)と接触したことのある別のフランス生
まれの犬(2008年1月5日に安楽死)と接触があった。
2件目:ガンビアで2007年12月に生まれた雌犬が2008年3月15日
に初回のワクチン接種を受け4月5日の健康診断で良好と認定された
が、抗体価は測定されずにベルギーへ輸送された。4月13日にフラン
スへと輸送され空港で健康状態が悪化していたので開業医で診ても
らった。 3件目の開業医で神経症状から狂犬病が疑われた。この犬
は4月21日に死亡し、翌日、頭部が研究機関に送付されて判明した。
3件目:スペインで見つけ、10月に違法にフランスへ持ち込んだ犬
が10月31日に発病し、11月10日に死亡し、14日に狂犬病と診断され
た。唾液中にウイルスを排出する期間、10月16日から11月10日まで
拘留されていた。分離株は遺伝型1 Africa 1 のLyssavirusであった。
これはモロッコの北部地域を循環している株と近縁である。
1977年にWest Virginiaでアライグマに狂犬病が侵入し
て以降、中部大西洋沿岸地域に次々と拡大した。
Virginia:1978
Maryland:1981
Columbia:1982
Pennsylvania:1982
Delaware:1987
New Jersey:1989
New York:1990
Connecticut:1991
North Carolina:1991
Massachusetts:1992
New Hampshire:1992
アライグマから種々
の狂犬病ウイルスが分
離されるが、それらは
人の症例からは分離さ
れていない。
NY: ニューヨーク
Vt:ベルモント
NH:ニューハンプシャー
Me:メイン
Mass:マサチューセッツ
Conn:コネティカット
Ri: ロードアイランド
Pa: ペンシルベニア
1977
W Va: ウエストバージニア
Va: バージニア
NC: ノースカロライナ
Nj: ニュージャージー
Del:デラウェア
Md:マリーランド
NC: ノースカロライナ
CDC MNWR: April 22, 1994 / Vol. 43 / No. 15
症
例
数
(
千
頭
)
1990年に、米国で最も頻繁に狂犬病が発見されて
いたスカンクをアライグマが追い抜き、その症例数は
増え続けている。1991年から92年にかけて、中部大
西洋沿岸地域と北東部地域のアライグマの狂犬病の
報告数は3079から4311へと40%増加した。
アライグマを標的とした経口ワクチン投与が行われ
ているが、餌の撒き方と散布密度、時期と頻度など、
改善の余地が残されている。
*Connecticut, Delaware, District of Columbia, Maryland, Massachusetts, New
Hampshire, New Jersey, New York, northern North Carolina, Pennsylvania,
Virginia, and West Virginia.
†Alabama, Florida, Georgia, southern North Carolina, and South Carolina.
ニューヨーク市で確認された狂犬病感染動物数
ブロンクス
ブルックリン
マンハッタン
クイーンズ
スタッテン島
2003
2004
2005
2006
6
0
0
0
0
13
0
0
0
1
26
1
0
1
0
6
0
0
0
0
2007 2008
6
0
1
2
35
14
0
0
1
29
2009
14
0
12
1
1
0
1
39
0
0
検査数
陽性数
207
イヌ
261
ネコ
17
ウシ
21
その他の家畜
24
スカンク
22
キツネ
269
コウモリ
247
アライグマ
19
ネズミ
43
その他の野生動物
1130
計
0
5
4
0
12
6
2
50
0
2
81
2011年のニューヨーク州の発生動向調査(1/1~4/30)
ニューヨーク州において確認された
狂犬病罹患動物数
2009
検査室で確認された狂犬病(2011 年1月1日~4月30日)
アライグマの狂犬病はニューヨーク州に
1990年に侵入し、全域に広がった。ニュー
ヨーク州の狂犬病症例の大半はアライグ
マであるが、感染症例が様々な野生動物
およびワクチンを接種していない家畜を感
染させている。
New York Gov.
Dep. Health
Rabies
コウモリ:2
ネコ:5
ウシ:4
シカ1
灰色キツネ:3
赤キツネ:3
その他:1
スカンク:12
アライグマ:50
アライグマは、人懐こい
都市部でも生息できる
アライグマの繁殖力は、旺盛
駆除しても、それ以上殖える
アライグマは、狂犬病の保有宿主
米国: アライグマ、スカンク、コウモリ
欧州: キツネ
日本で狂犬病発生がなくなってから半世紀
日本にはアライグマやキツネなどの野生動物
がいないから大丈夫???
北海道
春に4~6頭の子供
を生み、1年で親とな
るためネズミ算式に
増えていく。
350
300
250
関東、近畿でも北海道と同時期からアライグマが
増えている。九州ではやや遅れて長崎県で発見さ
れた。そして、佐賀県には5年後に侵入し、生息域
を広げている。
福岡県と大分県には既に侵入しており、
九州山脈を南下するのは時間の問題
200
150
100
:長崎県
:佐賀県
50
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
日本における狂犬病発生状況
年
1953
1954
1955
1956
1970
2006
死亡者数
3
1
0
1
1*
2#
犬の発生数
176
98
23
6
ー
ー
*:ネパールを旅行中、犬に咬まれ帰国後発病、死亡した輸入症例。
#:フィリピンを旅行中、犬に咬まれ帰国後発病、死亡した輸入症例。
日本に狂犬病が侵入するリスクは?
貨物船に同乗
している犬が
接岸時に逃亡
逃亡犬が狂犬病の潜伏期間
内で、逃込んだ山中で発症し
たら・・・・
農林水産省動物検疫所: 狂犬病の現状及び水際における侵入防止対策
航空機による・・・・
法務省 外国人の退去強制手続業務の状況
表18 退去強制事由別の入管法違反事件の推移
平成16 平成17 平成18 平成19 平成20
不法入国 11,217 11,586 10,441 7,454 6,136
992
690
506
342
253
不法上陸
法務省 出入国管理をめぐる近年の状況
た収 す
数益 る 不
でを 国 法
あ得 内 入
りて 外 国
、い の の
認る 密
知実 航 背
さ態 ブ 景
れが ロ に
は
てあ ー ,
いる カ 密
なと ー 航
い考 が 者
密 ,を
航え
らこ我
者れ の が
はる 種 国
皆 のに
無。
こ事送
との 案 り
は数 に 込
言値 関 む
えは 与 こ
な摘 し と
い発 て を
だ・ 巨 ビ
ろ検 額 ジ
う挙 の ネ
。さ 不 ス
れ法と
犬の登録頭数と予防注射頭数
登録頭数
予防注射頭数
注射率
徘徊犬の
抑留頭数
返還頭数
17年度
18年度
19年度
20年度
21年度
6,479,977
4,796,585
74.0
6,635,807
4,910,047
74.0
6,739,716
5,097,615
75.6
6,804,649
5,091,515
74.8
6,880,844
5,112,401
74.3
88,846
14,542
86,621
14,948
73,303
14,621
64,575
15,266
57,276
14,627
ペットフード工業会推定飼育頭数
推定ワクチン接種率
世帯数
厚生労働省
12,522,000 13,101,000 12,322,000
40.7
38.9
41.5
飼い犬のワクチン接種率は40%程度
飼育世帯数
飼育世帯率
推定飼育頭数
一世帯当り
平均飼育頭数
ペットフード工業会: 犬猫飼育率全国調査
WHO勧告接種率
70%を大きく下回る
CDC: Clinical Signs of Rabies in Animals
Rabies virus causes an acute encephalitis in all warm-blooded hosts
狂犬病の最初の兆候は非特異的であり、無気力、発熱、
and the outcome is almost always fatal. The first symptoms of rabies
嘔吐および食欲不振を示す。数日以内に症状が進行し、脳
may be nonspecific and include lethargy, fever, vomiting, and anorexia.
Signs progress within days to cerebral dysfunction, cranial nerve
機能障害、中枢神経機能障害、運動失調、衰弱、痺、発
dysfunction, ataxia, weakness, paralysis, seizures, difficulty breathing,
作、呼吸困難、嚥下困難、唾液分泌過剰、異常行動、攻撃
difficulty swallowing, excessive salivation, abnormal behavior,
性、および/または自傷がみられる。
aggression, and/or self-mutilation.
The特異的症状を示さないので、流行地以外で早期診断は不可能
Prodromal Phase The "Mad Dog" Phase
The Paralytic Phase
狂騒期に入った犬を発見した時には、既に、相当広がっている
食欲不振、無気力、間
欠熱、刺激過敏、孤独
を好む
攻撃性、情緒不安定、徘徊、
失見当(家族を見分けられな
い)、捕食者への恐怖喪失
よだれ(嚥下障害)、開口
(局部麻痺)、全身麻痺
発生してからでは、遅い!
狂犬病防疫訓練を全国各地で実施すべきである
正門(検疫所)ではなく、裏門(密貿易)から侵入
イヌ、ネコ、アライグマ(野生動物)の診断
市民への啓蒙
行政の対応能力
「狂犬病予防法」に定められた犬の登録と予防接種
あなたは法律違反を容認しますか?
狂犬病流行の恐怖を味わいたいですか?