青年期の自立をめぐって - NPO法人 わたしたちの生存ネット

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青年期の現在
~自分探しのゆくえ~
NPO法人神戸三宮コム 理事 [email protected]
岡田 盾夫
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1.はじめに
1-1.ライフステージの中の青年期
*発達加速 思春期開始の早まり
と成熟遅延(青年期の延長)
・10歳頃~30歳超え(15歳~34歳?)
・身体的・生物的次元
・心理的・社会的次元
「古典的モラトリアム」的…(~60年代)
↓
「モラトリアム」的…(~80年代)
↓
「ポスト・モラトリアム」的…の兆候(90年代~)
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*「大人」とは何か?
A.生理的大人
①身体が大きくなり、運動能力が強い
②生殖能力がある
B.社会的大人
③親からの経済的自立
④仕事や家庭で責任を果たせる
C.心理的大人
⑤落ち着いていて、小さなことで騒がない
⑥場面に応じて態度を使い分けられる
⑦知恵・知識があってそれを伝えられる
小浜逸郎『正しい大人化計画』(ちくま新書)より
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表1.青年期の延長とその区分(笠原嘉『アパシー・シンドローム』(1984)より)
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2.青年期の発達課題
2-1.臨界期仮説
生体の感受性が、特別の刺激に対して最大限に高ま
る時点・時期がある。・・・一定の経験が生体の反応
のレパートリーの一部となるためには、その期間に生
じなければならないという限定された時期が存在す
る。・・・
(ローレンツ、スピッツ、ピアジェ、エリクソン、マーラーら)
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表2.エリクソンのライフサイクル(心理・社会的危機と個体発達分化図式)
1
Ⅰ
信
2
3
4
5
6
7
8
アイデンティティ
性的アイデン
ティティ
対
両性的拡散
指導性と
服従性
対
権威の拡散
イデオロギー
への帰依
対
理想の拡散
頼
対
乳児期
不
信
自律性
対
恥、疑惑
Ⅱ
幼児前期
Ⅲ
自発性
対
罪悪感
幼児後期
勤勉性
対
劣等性
Ⅳ
学童期
Ⅴ
青年期
Ⅵ
成人前期
Ⅶ
成人期
時間展望
対
時間拡散
自己確信
対
アイデンティ
ティ意識
役割実験
達成の期待
対
対
否定的アイデ
労働麻痺
ンティティ
対
アイデンティ
ティ拡散
親密性
対
孤 立
世代性
対
停滞性
統合性
対
絶 望
Ⅷ
老年期
(エリクソン1950、鑪幹八郎00年)
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*東洋の「ライフ・サイクル」
・ヒンドゥ圏
学生期⇒家住期⇒林遊(棲)期⇒遊行期
シャカ: 16歳・結婚 29歳・家出 36歳・悟り
・五行思想(中国)
青春⇒朱(赤)夏⇒白秋⇒玄(黒)冬
・孔子(中国)
志学(15歳)⇒而立(30歳)⇒不惑(40歳)⇒知命(50歳)
⇒耳順(60歳)⇒従心(70歳)
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2-2.<危機>としての青年期
身体(生物)次元→心理・社会次元→実存次元
(身体的・生物的次元の蠢動にはじまり、
心理的次元の安定によって、終わる)
① 身体像の変容をどう受け入れるか
*女性は外形的に、早く、内側から、<決定的>に
→思春期やせ症など:成熟拒否的
*男性は、成人(対他)手本に、繰り返し実験して
<獲得>対象として→醜形恐怖など:未熟さへの恥
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② 同年配者関係の形成
③ 親との関係
児童期
同
年
輩
親
プレ青年期
青年期前半
友人:一対一
同性・同年輩
(「チャム」関
係)
青年期後半
遊び友だち
(必ずしも実在
せぬ、必ずし
も人間でない)
同性・同年輩
の遊び友だち
(ギャング・エ
イジ)
友人:一対一、
同年輩の異
性への接近
絶対の両親
他の大人との 両親への依存 大人一般へ
比較:第2幕 と反抗
の距離、自
目の母子分離
分たちだけ
の社会
笠原嘉『アパシー・シンドローム』からアレンジ
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④ 成人世代全体に対する反応
*権利主張、制約・コントロールに敏感。
対抗的グループ⇔対抗の反対極へのいち早い同調
⇔成人世界にも同世代集団にも所属しない「退却」
⑤ 「世界」と「他者」との関係
*抽象化能力の発達、知性化、合理化。
抽象的な意味での「世界」、「他者」の発見
*世界と自分、他者と自分との至適な関係・距離の模索
*自立・個性化のための安定した枠組みの形成
⑥ アイデンテイティの探索
・「自分は他者と違って自分である」:斉一性の感覚
・「いかにして自分となってきたか」:一貫性の感覚
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⑦青年期最後の仕上げ
「自分とは何か」「自分は何になるのがふさわしいか」 「世界は自分に
何を求めているか」
↓「自分探し・生きがい」の探索。
同一性拡散・混乱の危機
自殺、(うつ、統合失調症・・・)、アパシー、ひきこもり、 反社会的行為・・・
(笠原嘉「アパシー・シンドローム」1984)
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3.青年期:現代の問題
3-1.「青年」から「若者」へ
・~60年代:「古典的モラトリアム」(近代化・高度成長)
太陽族、怒れる若者たち、「異議申し立て」
・70年代~80年代:「モラトリアム」(消費社会・一億総中流)
優しさとしらけ、3無主義、モラトリアム人間、
クリスタル族、新人類、オタク、独身貴族
・90年代~:「ポスト・モラトリアム」(成熟社会、格差社会)
自分探し、パラサイト、フリーター、ひきこもり、
ニート、ロス・ジェネ、ワーキングプア、プレカリアート
(不安定プロレタリアート)、孤族
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*モラトリアム心理の変化
小此木圭吾(1977)、宮本みち子(2002年)による
古典的モラトリアム(~60年代)
新モラトリアム(~80年代)
1.半人前意識
→
全能感
2.禁欲
→
欲望開放
3.修業感覚
→
遊び感覚
4.上の世代の継承
→
局外者
5.自己直視
→
自己分裂
6.自立への渇望
→
無意欲・しらけ
↓90年代以降
「ポスト・モラトリアム」的
新自由主義(ネオ・リベ)・グローバリズム・中流社会崩壊・「格差」顕在
化の中で→「自立・自己責任」強迫
→問題の「個人化」・「心理学化」
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3-2. 「プレカリアート」化する若者たち
~過剰適応か、挫折・退却か~
・中学生不登校12万人、 高校中退10万人→図1
・高卒3年以内離職率48%、大卒離職36%(7-5-3現象)→図2
・25~34歳 フリーター:92万人(07年)
・NEET(若年無業者):64万人(02年以降) →図3
・社会的ひきこもり: 69.6万人(10年、内閣府調査)→図4
・非正規雇用者 20~24歳 43%
25~29歳 28%(07年)→図8
・若年失業者(15歳~34歳)129万人(03年ピーク)→図6.
↓「格差」しわ寄せ
若者のプレカリアート(不安定プロレタリアート)化
・企業における「心の病」が多い年代:「30代」は61.0%(06年)
・うつ病、現代型うつ病(双極Ⅱ型)の増加:
104万人(08年、推定300万人)
・さまざまな症状化・自殺関連行動、犯罪(「アキバ」事件など)
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表3.現代青年期のアイデンティティ危機
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3-3.ニート・ひきこもり問題
*ニート(NEET):Not in Education,Empoyment or Training
04年頃から問題化。実態はさまざま。→図3
*社会的ひきこもり:90年代後半から問題化。→図4
・単一疾患ではない。またなんらかの精神障害の概念ではない。状態像。
・実態は多彩:生物学的要因(統合失調症、うつ病、広汎性発達障害・・)も
・20代後半までに問題化し、6ヶ月以上自宅に引きこもり社会参加しない状
態が持続し、ほかの精神障害 が第1原因と考えにくい・・・(斉藤環)
・10年、内閣府が調査:69.6万人
図4:『子ども・若者白書』H22年版より
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*「ひきこもり」・「ニート」の心性
・<自己愛>の肥大化・自己へのこだわり
過剰な自尊感情(幼児的万能感?)
・家庭-学校-企業トライアングルの下で
→<成熟>の単線化・強迫性
・「自己決定」・「自己責任」・「自分探し」論の呪縛
①「好きなこと・やりたいこと」があるはずだ
②「やりたいこと」なら続けられるだろう
③「やりたいこと」は今わからなくていい・・・
↓(自己完結的な世界への埋没)
永遠の「成熟(自立)」拒否?
・大人に<なりたがらない>若者と、
大人に<ならせてくれない>社会と
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3‐4.現代型(双極Ⅱ型)うつ病
・「うつ」患者の増加(99年:48.1万人→08年:104.3万人)
・「98年問題」(自殺3万人越え。「自己責任」の時代へ)と連動。
・抗うつ薬 SSRIの日本導入(99年)。
・従来の中高年(「白秋」期)発症型から「青春」期型へ、「内因」的というより
「環境反応」的)。
・メランコリー親和型(真面目・几帳面・他者同調的)に「依存性」が混入。「自
責」より、他罰的(自己愛的)。
・「軽い」うつと躁の循環。慢性的で薬効小さい。自殺危険もある
・不安障害、薬物依存、境界例、拒食・過食などの状態像をとることも。
・自己価値の低下、空虚感、自己愛的→
<自己を自己として受け入れる>ための回り道。
ちょっと違う「自分探し」を。
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3-5.青年期と自殺
・09年度自殺統計: 20~24歳 22.1人/10万人
25~29歳 23.9
30~34歳 25.0
・・・55~59歳 36.7
・総死亡数に対する自殺死亡数:40.8%(25歳~29歳)
図7-2.青少年(30歳未満)の自殺者数と割合(『自殺対策白書』H23年版)
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図7-1.年齢階級別の自殺者の推移(『自殺対策白書』H.24年版)
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図7-3.自殺の動機
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3-6.若者の自殺関連行動
・自殺者中、自殺未遂歴「あり」:男13.7%、女:30.1%(H22年)
・20~30歳代女性(45%以上)多い。男性(16%以上)
・精神科救急(都立松沢病院):50人/年⇒100人/年(00年以降)
・高校生11.9%に自己切傷体験、4.0%に過量服薬体験
⇒KINDの「自殺志向」も20~30歳台女性が多い
・リストカット等自傷行為、物質(薬物)濫用、拒食・過食、嗜癖・・・
・「アピール」性より、不快感情(怒り、恐怖、絶望感、つらさ)への
対処。自殺意図、操作・意思伝達志向も⇒「よく言えたね」。
・「傷つけちゃダメ!」より、援助関係が続くことが大事
・大げさでなく、あっさり。傷への対処、置換スキル提案も
・境界例(BPD)、人格障害、PTSD、感情調節困難(障害)などと
診断されることが多い
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5.<青年期>にどうかかわるか
*わたしたちは真に人間としての関係を結べる「お
とな」で
ありうるか?
*すべてのWが通過してきた道→<先輩>という
より、<ピア>の関係。
同時代を<共苦>する関係として・・・
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*成熟したパーソナリティとは?
オルポート(1961)
① 自己意識の拡大:自己意識を、つねに「自分自身」の外に
向けて拡大し続けること
② 自己か他者への暖かい関係をもつこと:すべての人間的状
況に敬意と理解、そして愛を
③ 情緒的安定・自己受容
④ 現実を正確に認知し、課題をもち、その解決のための技能
を有していること
⑤ 自己を客観視でき、洞察する能力とそれに伴うユーモアの
感覚を持っていること
⑥ 人生を統一する価値志向性と宗教的情操、また義務と責
任のはっきりした哲学を持っていること
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図1.小・中・高校における不登校生の推移、高校中退者の推移
(『子ども・若者白書』H23年版より)
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図2.新規学卒者の在籍期間別離職率の推移(高卒・大卒)
(『子ども・若者白書』H22年版より)
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図5.フリーターの推移(『子ども・若者白書』H23年版)
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*若者にしわ寄せされる「格差」
・「希望」の格差
*経済的格差
↓
* 質的格差(職種、ライフスタイル、ステイタス)
↓
*心理的格差(「希望格差」:職業、家庭、教育・・・など不安定な
リスク社会において、「努力」が報われないと感じる人々から
「希望」が喪失していく。(『希望格差社会』山田昌弘氏)
・「アキバ」事件(’08.6)が象徴するもの
「負けっぱなしの人生」→低い自己肯定感
→「承認」欲求の異常な昂進→自己破滅を通しての存在の誇示
(「眼差し」の希薄な社会への帰属・承認欲求の挫折)
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図6.年齢階級別完全失業率の推移(『労働経済白書』H22年版)
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図8.雇用形態別雇用者数の推移(『労働経済白書』H22年版より)
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図9.年齢別未婚率の推移(『子ども・若者白書』H22年版より)
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図10.少年刑法犯の検挙人員・人口比の推移(H23年版『子ども・若者白書』)
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