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生物学
第13回 ニューロンは電気を使う
和田 勝
ヒトの脳はニューロンが一杯
胎児が発生する過程で脳の容量が
飛躍的に増えていることは、今見た
とおりです。
ちょっと、他の動物比較してみましょ
う。
神経系の進化
・いろいろな動物の神経系
脊椎動物では神経細胞は神経管から分化します。
脊椎動物の脳の進化
脊椎動物の脳の進化
なぜ増えたのか
前回は、咀嚼筋と関係づけて脳の
容量が増える余地が生まれたと述
べました。
この他にも、いくつかの遺伝子の突
然変異が関係しているのではない
かと考えられています。
なぜ増えたのか
○HAR1(human accelerated region of
the human genome) 500万年前?
○プロダイノルフィン 700万年前?
制御領域が複数、他の霊長類は1
involved in the anticipation and experience of pain and the formation of deep
emotional bonds, and that are also critical in learning and memory
○脳のオキシトシン 170万年前?
なぜ増えたのか
○FOXP2(forkhead box protein P2)
20万年前以降、おそらく5万年前?
転写調節タンパク質、ニューロン間の
接続を通して言語獲得と関係?
○マイクロセファリン 3.7万年前?
小脳症の原因遺伝子の一つ、大脳
の発達に関係
なぜ増えたのか
○ASPM(abnormal spindle-like
microcephaly-associated protein)
5800年前?
ニューロンの数が増える
神経系が発達すると感覚ニューロン
と運動ニューロンの間に、介在ニュ
ーロンが入るようになります。
その結果、中枢神経内に介在ニュ
ーロンの集合が生まれ、複雑なネ
ットワークが形成され、ここでいろ
いろな処理が行なわれるようになり
ます。
感覚ニューロン
介在ニューロン
運動ニューロン
ニューロンの数が増える
脊髄と脳
ニューロンの数が増える
中枢神経系(脊髄と脳)の中に介在
ニューロンによる神経回路が、つくら
れるようになります。
特定の神経回路が、定型的行動パ
ターンに対応するようになります(た
とえば、歩行運動)。
ニューロン各部の名称
脊椎動物の神経系
脳
中枢神経系
大脳、間脳、中脳、
小脳、延髄
脊髄
脳神経系(ヒトでは12対)
末梢神経系
脊髄神経系(ヒトでは31対)
脊椎動物の神経系
末梢神経系は機能面から分類すると
感覚神経 (脊髄では後根へ入る)
体性神経系
(求心性・末梢から中枢に向かう)
運動神経 (脊髄では前根から出る)
(遠心性・中枢から末梢へ向かう)
交感神経
自律神経系
(遠心性)
副交感神経
ヒトの脳
ヒトの脳(大脳辺縁系)
神経細胞とグリア細胞
大脳皮質の錐体細胞
倍率:100倍
ニューロンは電気信号を伝える
ニューロンは軸索末端へ電気的に信
号を伝えます(伝導)。
電池を使って豆電球をつける場合は
どうでしょうか。
電子がマイナス極
から押し出され、
プラス極に吸収さ
れるので、電子が
流れます。
ニューロンは電気信号を伝える
電子の流れの向きとは逆向きの流れ
を想定して、これを電流と呼んでいま
す。電池は高いところに置いた水槽
で、電流はそこから水路を通って下に
流れる水にたとえられます。
ニューロンの電気信号の伝導は、こ
れとは少し異なります。
ニューロンは電気信号を伝える
ニューロンが電気信号を伝えることが
できるのは、ニューロンという細胞が
電気信号を発生し、伝える能力があ
るからです。
どうしてそのようなことができるのでし
ょうか。
チャネルとポンプ
ニューロンを含めて、すべての細胞
は次の図のようなポンプを細胞膜に
持っています。
+
+
Na /K 交換ポンプ
カリウム漏洩チャネル
またニューロンを含めて、すべての細
胞は次の図のようなカリウム漏洩チ
ャネルを細胞膜に持っています。
カリウム漏洩チャネル
脂質の二重膜である細胞膜に、タン
パク質でできているイオンを通す穴が
開いているのです。
この穴は、カリウムイオン(K+)だけ
を通す性質を持っています。
そのため、、、、
体の中では
そのため、ニューロンの中はK+が多
く、細胞の外側の体液はK+が少ない
ので、前のスライドにあるように、ニュ
ーロン内が負になる電位差が生じま
す。
K+
+
K
静止電位
ガラス電極を使って実際に測定してみると、
このように内部の方がおよそマイナス70mV低く
なっています。何故でしょうか。
平衡電位
ところが、Ⅰに
KClを加えて、10
倍の濃度差を作
ると
1)KイオンがⅠ
からⅡへ移動
Ⅰ槽とⅡ槽のKCl
濃度が同じ場合
は、両者の間に何
も起こらず、電位
差もありません
2)ⅡからⅠへ
電気的に引き
戻す力
1)と2)が釣り
合い、電位差が
生じます
イオンが移動する
この場合は、電子ではなく、K+イオン
が電気を運んでいるのです。Ⅰ槽の
K+濃度が10倍高いと、2つの槽の間
に、計算上、およそ58mVの電位差が
生じることになります。
体の中では
細胞の電気的な性質を考える上で憶
えておく必要のあるのは、K+のほか
に、ナトリウムイオン(Na +)と塩素イ
オン(Clー)だけです。。
体の中では
Na +とClーの濃度は、K+とは逆に、
ニューロン内部で低く、外で高くなっ
ています。
K+
+
Na
Na+
+
K
ー
Cl
Clー
活動電位
ニューロンを電気を使って刺激する
と、活動電位を記録することができま
す。
活動電位
オシロスコープを使わないと記録できないような、
早い経過をたどります。
閾電位
静止電位
活動電位
活動電位
このように早い電位変化なので(ms)、
下の動画のような記録をとることができ
ます(これは細胞外電極で複数のニュ
ーロンの活動電位を記録しているので
、縦方向の高さが複数あります)。
活動電位
長い時間軸で
活動電位を見
ると、棘状に見
えるので、これ
を「インパルス」
とか「スパイク」
と呼ぶことがあ
ります。
ニューロンは電気信号を伝える
ニューロンの細胞膜には、 K+イオンの
ほかに、 Na +イオンを通す穴が開いて
いるのです。この穴はふだんは閉じて
いますが、興奮すると開きます。
ニューロンの細胞膜に電気的なひずみ
が生じると、この穴が開くのです。その
ために Na +イオンが流入して一瞬、電
位が逆転します。これが活動電位です。
電位依存型ナトリウムチャンネル
こんな構造をしています。
電位依存型ナトリウムチャンネル
電位依存型ナトリウムチャンネル
前スライドの動画からわかるように電位依存性ナ
トリウムチャンネルは、3つの状態をとります。
チャンネル閉、反応性あり
チャンネル開
チャンネル閉、反応性なし
この回復
過程は時
間がかか
る
不応期
活動電位の伝導
こうしてニューロンの限られた部分に
電位の逆転が起こります。
この逆転の部位が、軸索に沿って伝
わっていきます。
ちょうどドミノ
倒しのように
です。
Wikipediaより
実際のニューロンでは
2)軸索を伝導して
1)ここで活動電位
が発生(ドミノ倒し
で最初のドミノを押
してやる)
3)ここから伝達
物質を放出
無髄神経と有髄神経活動
無髄のニューロン(自律神経系のニュ
ーロン)では、まさにドミノ倒しのよう
に逆転部位は連続して伝わっていき
ます。
有髄のニューロン(感覚神経や運動
神経)では、跳躍伝導が起こります。
活動電位の跳躍伝導
有髄神経
ランビエ絞輪を飛び飛びに伝わる
活動電位の跳躍伝導
飛び飛びにドミノが配置されていて、
その間はボールが空中を飛んで間が
空いたドミノを倒すようなものです。
そのために伝導速度が速くなります。
神経伝達物質の放出
神経軸索末端まできた電気的信号に
よって、神経伝達物質放出がおこりま
す。
電気的信号が、どうして伝達物質の
放出につながるかを説明します。
シナプスまでくると
神経伝達物質がシナプス間隙に放出され、
シナプス後膜の受容体に受け取られます。
伝達物質の放出 1
インパルスが軸索末端に到着
伝達物質の放出 2
電位依存型Caチャンネルが開い
てCaイオンが流入
伝達物質の放出 3
シナプス小胞がシナプス前膜と融
合して開口分泌で伝達物質を放出
伝達物質の放出 4
神経伝達物質アセチルコリンはシ
ナプス間隙を拡散し、受容体と結合
伝達物質の放出 5
受容体は開口し、Naイオンが流入
伝達物質の放出 6
アセチルコリンは分解され、小胞
膜はリサイクルされる
運動神経による筋肉の収縮
脊髄から出た運動神経の軸索末端
は、筋肉とシナプスでつながっていて
、電気的信号によって、アセチルコリ
ンという神経伝達物質放出がおこりま
す。
その結果、筋肉が収縮するのです。
アセチルコリン受容体
Naイオンを通す穴が開いているタン
パク質です。
アセチルコリンの結合する場所があ
り、結合すると穴が開きます。
アセチルコリンの量が多ければ、多
くの受容体に結合して、たくさんの穴
が開きます。その結果、小さな電位
の逆転が起こります。
アセチルコリン受容体
それでは、アセチルコリン受容体の本体は?
ダイバーのための
海水魚図鑑より
いきなりシビレエイが出てきたが、、
アセチルコリン受容体
シビレエイの電気器官*からmRNAを取り出し、
cDNAをつくり、アミノ酸配列を推定
電気器官:筋細胞の特殊化した電
気細胞が、積層電池のように重なっ
て高電圧をつくれる
アミノ酸の疎水性の度合いを計算して、横軸に
アミノ酸番号を、縦軸に疎水性度をとってプロッ
ト、こうしてタンパクの構造を推定
アセチルコリン受容体
アセチルコリン受容体
シナプス後電位
このように電気信号は神経伝達物質
の放出に変換され、神経伝達物質が
受容体に結合することにより、再び
相手側のニューロンに小さな電位の
逆転を作るのです。
この小さな電位の逆転をシナプス後電
位(postsynaptic potential、PSP)といい
ます。
シナプス後電位には+とー
Na+を通して膜電位を脱分極(+)
興奮性シナプス後電位(EPSP)と
呼びます
Clーを通して膜電位を過分極側(-)
抑制性シナプス後電位(IPSP)と呼
びます
ニューロンの数が増える
神経系が発達すると感覚ニューロン
と運動ニューロンの間に、介在ニュ
ーロンが入るようになります。
その結果、中枢神経内に介在ニュ
ーロンの集合が生まれ、複雑なネ
ットワークが形成され、ここでいろ
いろな処理が行なわれるようになり
ます。
感覚ニューロン
介在ニューロン
運動ニューロン
ニューロンの数が増える
脊髄と脳
ニューロンの数が増える
中枢神経系(脊髄と脳)の中に介在
ニューロンによる神経回路が、つくら
れるようになります。
こうしてニューロン間の結合の数が
飛躍的に増加し、さまざまな回路や
働き方が生まれます。
ニューロンにはシナプスがい
っぱい
ニューロンにはシナプスがい
っぱい
神経伝達物質の種類によって、「+」と
「ー」の変化が、それぞれシナプスで
生じます。
これが合計されて、軸索の根元に伝
わり、ドミノ倒しの引き金になります。
時間的な加算
EPSPの
時間的加算
空間的な加算
EPSPの
空間的加算
抑制性シナプス後電位
IPSP
加算されてマイナスに
EPSPとIPSP
の加算
ニューロンにはシナプスがい
っぱい
ニューロンにはシナプスがい
っぱい
神経伝達物質の種類によって、「+」と
「ー」の変化が、それぞれシナプスで
生じます。
これが合計されて、軸索の根元に伝
わり、ドミノ倒しの引き金になります。
シナプス入力の統合
このようにして、ニューロンは他のニ
ューロンからの多数のシナプスの入
力を、時間的、空間的に合計して、そ
の値が大きければ、ドミノ倒しを開始
し、小さければ黙っているのです。
ニューロンが素子として働いている
事がよく分かりますね。アナログ→デ
ジタル変換をしているのですね。
シナプス入力の統合
3)軸索を伝導して
1)ここで多数の
シナプス入力が
統合
2)ここで活動電位
が発生(ドミノ倒し
の最初のドミノを押
してやる)
4)ここから伝達
物質を放出
まとめの動画