Transcript lecture006

緩和ケア
(palliative care
パリアティブ・ケア)
消化器・一般外科
夕部由規謙 嶋田仁 大坪毅人
本日の話

①緩和ケア全般の概論

②癌性疼痛:モルヒネ

③癌性腹水・癌性イレウス

(④予後予測)

目標:

患者さんに癌性疼痛に関して説明できるようになる

・オピオイドの使用法を知る

・オピオイドの副作用に対応できるようになる
①緩和ケア全般の概論
定義
緩和ケアは、生命を脅かす疾患による
問題に直面する患者とその家族に対して、
痛みやその他の身体的、心理的、
社会的な問題、さらにスピリチュアル
(宗教的、哲学的なこころや精神、霊魂、魂)
な問題を早期に発見し、的確な評価と処置を
行うことによって、 苦痛を予防したり
和らげることで、QOL(人生の質、生活の質)
を改善する行為である。
• 2002年 世界保健機構(WHO)
•
※ヘルシンキ宣言:ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則
1964年 第18回 WMA総会(世界医師会)
← 緩和ケアとは別もの
「ターミナルケア」から「緩和ケア」へ
×
○
キュアを目指す治療
ターミナルケア
緩和ケア
キュアを目指す治療
がん患者のかかえる苦痛は、がんと診断される時点から存在する。
決して、「治療しますか?緩和ケアにしますか?」という二者択一のものではない。
症状:
・癌性疼痛
・腹水・腸閉塞
・胸水・呼吸困難
・骨転移・リンパ浮腫
看護
終末期患者
精神的問題:
栄養管理
・不安・うつ状態
・希死念慮への対応
・終末期せん妄
社会支援
終末期癌の死因
死因
症例数
%
全身衰弱
68
33.0
肺炎
36
17.5
肝不全
26
12.6
呼吸不全
23
11.2
出血
17
8.3
消化管穿孔
5
2.4
頭蓋内圧亢進
4
1.9
脳血管障害
3
1.5
播種性血管内症候群
3
1.5
総数
206
100
心不全
敗血症
腎不全
終末期癌患者の死因は
8
3.9
悪液質(Cachexia)といわれる
7
3.4
6
2.9
全身衰弱が最も多い
終末期癌患者特有の主な症状


疼痛
倦怠感

【原因】

高Ca血症・低Na血症、感染症、脱水、抑うつなど
高Ca血症
骨転移がなくても癌患者の15%に認める
症状:
 胸水、心嚢水、気道狭窄、喘息、腹水、不安など
 呼吸困難
嘔気・嘔吐、食思不振、眠気、せん妄、便
秘、口渇など

嘔気・嘔吐

薬物副作用、高Ca血症、低Na血症、脳転移、消化管
閉塞、便秘、潰瘍など
オピオイドの副作用に似ている!

せん妄

薬物副作用、高Ca血症、低Na血症、脳転移、
消化管閉塞、便秘、潰瘍など

高カロリー輸液(TPN)や1000ml以上の輸液
は代謝性合併症や体液貯留の悪化を来たす可能
性があるため推奨されない。

鎮静の適応:
①患者の耐え難い苦痛
②2~3週間の予後
③意識のある本人・家族双方の同意

終末期患者の6割が自宅療養を希望するが、在
宅で終末期をむかえられる患者は1割程度
②癌性疼痛:オピオイド
癌性疼痛

体性痛
突出痛に対するレスキュードーズが重要。

内臓痛
オピオイドが効きやすい。

神経障害性疼痛
難治性。鎮痛補助薬が効くことがある。
【痛みのパターン】
•
持続痛:
「24時間のうち12時間以
上経験される平均的な痛み」
•
突出痛:
持続痛の有無や程度、鎮痛薬
使用の有無に関わらず発生す
る一過性の痛み、または痛み
の増強。
突出痛
(breakthrough pain)
持続痛
(continuous pain)
麻薬製剤に対する誤解
 ①麻薬中毒になる
 ②命が縮む
 ③だんだんと効かなくなる
 ④意識がなくなる
 ⑤最期の手段
WHO方式 3段階除痛ラダー
中等度から
高度の痛みに
弱い痛みから
用いられる鎮痛薬
Nsaidsはずっと使う
中等度の痛みに
用いられる鎮痛薬
第2ラダー薬剤
弱い痛みに
モルヒネ
用いられる鎮痛薬
(ペンタジン・ソセゴンなど)は
オキシコドン
コデイン
ジヒドロコデイン
フェンタニル
モルヒネに拮抗するため併用
禁忌
トラマドール
非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs or アセトアミノフェン)
必要に応じて鎮痛補助薬を併用
(抗痙攣薬, 抗うつ薬, 抗不整脈薬, ケタミン など)
WHO方式がん性疼痛治療の5原則
•
1.by mouth
•
2.by the clock
•
3.by the ladder
•
4.for the individual
•
5.with attention to detail
WHO: Cancer pain relief.1986 改変
痛
み
を
と
る
・オピオイドを導入しても痛い場合、
持続痛か突出痛かを区別する
・持続痛にはオピオイドの増量、
突出痛にはレスキューを使用する
NSAIDsの開始
オピオイドの導入
残存・増強した痛みの治療
10
10
0
0
持続した痛みをとるために
オピオイドを増量する
(持続痛の治療ステップ)
副
作
用
対
策
動いたとき・突然の痛みに対処
するためにレスキューを使う
(突出痛の治療ステップ)
オピオイドの副作用対策
眠気
せん妄
嘔気
便秘
使用例
突出痛
(breakthrough pain)
持続痛
(continuous pain)
Base:オキシコンチン(10)2T2X
Rescue:オキノーム(2.5) 1時間空けて何度でも服用可
良いコントロール例
突出痛
(breakthrough pain)
持続痛
(continuous pain)
Base:オキシコンチン(10)2T2X
Rescue:オキノーム(2.5) 1時間空けて何度でも服用可
不足例
突出痛
(breakthrough pain)
持続痛
(continuous pain)
Base:オキシコンチン(10)2T2X
Rescue:オキノーム(2.5) 1時間空けて何度でも服用可
 患者にがん疼痛マネジメントについ
て教育することで、痛みは緩和する
(エビデンスレベル1A)
副作用に関して
この範囲でコントロールする
オピオイド鎮痛薬の副作用とその対策(嘔気・嘔吐)
•
•
•
•
•
•
•
モルヒネでは嘔気・嘔吐の頻度は高い.
患者さんが内服を拒む最大の理由が
嘔気・嘔吐なので、必ず制吐剤を併用.
1週間は必ず投与し、投与継続を判断。
使用薬剤
ノバミン セレネース プリンペラン
ガスモチン ナウゼリンなど
それでも改善しないときリスパダールを追加
1.
オピオイド開始後30〜50%の患者で嘔気あ
り。
2.
オピオイドによる嘔気・嘔吐は、オピオイド
開始後1〜2週間程度で軽減するとされてい
る。
3.
ドパミン受容体拮抗薬(ノバミン・プリンペラン)の
長期投与では、薬剤性の錐体外路症状に注
意。
オピオイド鎮痛薬の副作用とその対策(便秘)
・オキシコドン・モルヒネではほぼ全例に発症
・投与開始時から下剤を併用する.



使用薬剤
マグラックス カマ
プルゼニド アローゼン
ラキソベロン
オピオイド鎮痛薬の副作用とその対策
(眠気/せん妄)
まずは経過観察(原因検索)
疼痛が残る状態での減量は控える
・腎障害時のモルヒネ⇒オピオイドローテーション
・脳転移,高Ca血症,低Na血症,低酸素,重症貧
血,薬剤(眠剤や抗不安薬・抗うつ薬・H2ブロッ
カー)。


使用薬剤
眠気:リタリン 夕の処方は不眠の原因になるので朝処方する
<呼吸抑制>
呼吸数5回/分程度になっても、CO2が蓄積するほどの強い
呼吸抑制は少ない。
 まずは、モニタリング.SaO2の低下⇒酸素投与
 注射によるオピオイド投与時は、半分量に
 呼びかけに反応しない、あるいは呼吸回数が5回以下の場合

は、ナロキソン投与を考慮


ナロキソン(0.2mg/1ml/A)
生食19ml+ナロキソン1A(total 20ml)
1mlを1~2分かけてゆっくり静注
1時間を過ぎて呼吸が安定すればほぼ安全
モルヒネ
オプソ
オピオイドローテーション
オキシコンチン
フェンタニル
オキノーム
様々
1.
オピオイドの種類を変更すること。
2.
副作用の軽減・鎮痛効果の改善が主な目的。
3.
BaseとRescueは同時に種類変更する。
4.
第3ラダーから第2ラダーの変更は禁忌。
鎮痛補助薬

発作性/刺す/走る
リボトリール・テグレトール・ガバペン・リリカ

痺れ/しめつけ/つっぱり/焼ける
アモキサン・トリプタノール

腹膜刺激
キシロカイン

イレウスによる痛み
サンドスタチン

腫瘍による炎症・浮腫
リンデロン・デカドロン
癌性腹水
原因:
腹膜播種
腹膜の透過性亢進
低Alb血症
門脈圧亢進症など
症状:
緊満感
腹痛
嘔気
呼吸困難
治療:
輸液管理
利尿剤
腹水穿刺
腹水再還流法
CART
抗癌剤腹腔内投与
ステロイド
リドカイン
など
尿量低下しているからといって負荷は行わない
癌性イレウス
腸閉塞の原因





がん自体による機械的な閉塞
がん治療による閉塞
(術後癒着、放射線照射後の線維化狭窄)
薬による麻痺性腸閉塞
(オピオイド、抗ムスカリン薬)
全身衰弱による閉塞(宿便など)
がんと関係のない良性疾患
(絞扼性腸閉塞、閉鎖孔ヘルニアなど)
閉塞基点の把握:病歴・CT
上部消化管閉塞
耐術能あり and 予後数か
月以上
⇒ステント・バイパス
耐術能なし or 超短期予
後
⇒腸瘻・PEG(PTEG)

小腸以降の消化管閉塞
 経腸栄養不能なことが多い

*嘔気・嘔吐・腹痛などが問題

イレウス管は効果が見込めない場合が多い。
経鼻胃管(抜き差しや細径)・減圧胃瘻

バイパス術:
2ヶ月以上の予後が認められるときが一般的。
小腸以降の閉塞

疝痛がない(腸内ガスがまだ通過)
⇒蠕動亢進薬(ラキソベロン、プルセニドなど)

強い疝痛あり *蠕動亢進薬は禁忌
サンドスタチン(3A/日)、オピオイド、制酸剤、
鎮痙薬(ブスコパン60~120mg/日)、抗ヒスタミ
ン薬(トラベルミン、ドラマミン)、ステロイ
ドなど。
おまけ
終末期患者予後予測
Palliative Prognostic Score
臨床的な予後の
予測
1~2週
3~4週
5~6週
7~10週
11~12週
>12週
8.5
6.0
4.5
2.5
2.0
0
(Maltoni M. J Pain Symptom Manage 1999; 17: 240-247)
Palliative Prognostic Index
(Morita T, et al. Supprt Care Cancer 1999;7:128-33)
4.0
10-20
Palliative Performance
2.5
30-50
Scale(次ページ)
≧60
0
2.5
著明に減少(数口以下)
中程度減少(減少しているが数口よりは多
1.0
経口摂取*
い)
0
正常
1.0
浮腫
あり
3.5
安静時の呼吸困難
あり
4.0
せん妄
あり**
* :消化管閉塞のために高カロリー輸液を受けている場合は「正常」とする。
**:薬剤が単独の原因となっているもの,臓器障害に伴わないものは除外する。
Palliative Prognostic Score
食思不振
呼吸困難
白血球数
リンパ球%
あり
あり
>11,000
8,501~11,000
0~11.9%
12~19.9%
1.5
1.0
1.5
0.5
2.5
1.0
全身状態の評価尺度
(Anderson F, et al. J Palliat Care 1996;12:5-11)
Palliative Performance Scale
起居
活動と症状
ADL
経口摂取 意識レベル
正常の活動・仕事が可能
症状なし
100
正常
90
100%起居している
正常の活動が可能
いくらかの症状がある
自立
80
何らかの症状はあるが
正常の活動が可能
70
明らかな症状があり
通常の仕事や業務が困難
清明
ほとんど起居している
60
明らかな症状があり
趣味や家事を行うことが困難
50
著明な症状があり
ほとんど座位もしくは
臥床
どんな仕事もすることが困難
しばしば介助
著明な症状があり
ほとんどの行動が制限される
ほとんど介助
著明な症状があり
いかなる活動も行うことができ
ない
全介助
40
30
20
10
ほとんど臥床
常に臥床
ときに介助
正常
もしくは
減少
清明
もしくは
混乱
清明
もしくは
数口以下 傾眠±混乱
マウスケ
アのみ

終末期癌の死因の内もっとも多いのは肝不全である。

高カロリー輸液は終末期患者の浮腫を助長する。

終末期癌におき、高Ca血症は呼吸困難を来たす。

不安は鎮静の対象となりうる症状の1つである。

突出痛に対してはオピオイド投与から開始する。

消化管閉塞による痛みに非オピオイド・オピオイドの
疼痛治療は痛みを緩和しない。