苦痛緩和のための鎮静 ガイドライン 緩和治療専門医向けレクチャー用 1.0 日本緩和医療学会 苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン 作成委員会 内 容 Ⅰ. 背景 ・歴史的経緯 ・頻度 ・鎮静に対する態度に関する医師の要因 Ⅱ. 概念 ・定義 ・安楽死との違い ・鎮静を妥当とする倫理原則 Ⅲ. ガイドライン ・作成経緯 ・使用上の注意 ・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意 Ⅳ. まとめ Ⅰ.背 景 歴史的経緯 1990年 専門在宅ケアのがん患者の50%に鎮静が必要 1994年 各国の緩和治療医の報告 最善の緩和治療を行ったとしても 緩和困難な苦痛は存在するか? YES 1996年~Netherlands, Australia, U.S.A.の 安楽死合法化 耐えがたい苦痛に対する選択肢(last resort) 緩和困難な苦痛に対する Continuing 最善の対処とは何か? debate Ventafridda V.

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Transcript 苦痛緩和のための鎮静 ガイドライン 緩和治療専門医向けレクチャー用 1.0 日本緩和医療学会 苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン 作成委員会 内 容 Ⅰ. 背景 ・歴史的経緯 ・頻度 ・鎮静に対する態度に関する医師の要因 Ⅱ. 概念 ・定義 ・安楽死との違い ・鎮静を妥当とする倫理原則 Ⅲ. ガイドライン ・作成経緯 ・使用上の注意 ・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意 Ⅳ. まとめ Ⅰ.背 景 歴史的経緯 1990年 専門在宅ケアのがん患者の50%に鎮静が必要 1994年 各国の緩和治療医の報告 最善の緩和治療を行ったとしても 緩和困難な苦痛は存在するか? YES 1996年~Netherlands, Australia, U.S.A.の 安楽死合法化 耐えがたい苦痛に対する選択肢(last resort) 緩和困難な苦痛に対する Continuing 最善の対処とは何か? debate Ventafridda V.

苦痛緩和のための鎮静
ガイドライン
緩和治療専門医向けレクチャー用
1.0
日本緩和医療学会
苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン
作成委員会
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅰ.背 景
歴史的経緯
1990年 専門在宅ケアのがん患者の50%に鎮静が必要
1994年 各国の緩和治療医の報告
最善の緩和治療を行ったとしても
緩和困難な苦痛は存在するか?
YES
1996年~Netherlands, Australia, U.S.A.の
安楽死合法化
耐えがたい苦痛に対する選択肢(last resort)
緩和困難な苦痛に対する
Continuing
最善の対処とは何か?
debate
Ventafridda V. J Palliat Care 1990; 6 (3): 7-11.
Quill TE. Ann Intern Med 2000; 132: 408.
Ⅰ.背 景
歴史的経緯
Classical pessimistic belief
苦痛は全て緩和できない Classical optimistic belief
苦痛は全て緩和できる
Current belief
意識を保ち緩和できる苦痛と
緩和できない苦痛がある
緩和困難な苦痛に対する最善の対処とはなにか?
ケア
鎮静
生命維持治療の中止
自発的な水分・栄養摂取の中止
自殺幇助・安楽死
医学的妥当性
倫理学的妥当性
社会的妥当性
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅰ.背 景
頻 度
Systematic review
合計
せん妄
呼吸困難
倦怠感
27%
(437/1617
)
12%
8.5%
がん治療病院に勤務する看護師の体験
31%
(35214/111990)
持続的深い鎮静を行ったことのある医師
66%
(456/697
7.2%
)
疼痛
4.0%
92%
ヨーロッパ・北米の
1.1%
嘔気・嘔吐
(49/53)
緩和治療専門医
・持続的鎮静が必要な患者は30%程度と見積もられる。
・Population-based survey (Europe) では2.5-8.5%/全死亡
日本の
がん治療医
Morita T. Palliat Med 2004; 18: 550-557.
Morita T. J Clin Oncol 2002; 20:758-764.
Chater S. Palliat Med 1998; 12: 255-269.
Miccinesi G. J Pain Symptom Manage
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅰ.背 景
鎮静に対する態度に関する医師の要因
呼吸困
難
燃え尽き
傾向†
終末期医
療の経験‡
精神的
苦痛
持続的深い鎮静を優先
する医師
1.02
1.02
1.01-1.04 1.00-1.04
うつ病
せん妄
鎮静を優先する医師
0.72
0.59-0.89
0.75
0.61-0.92
燃えつきや終末期ケアの経験が鎮静の施行率に関与している
Odds比(95%信頼区間); †: Maslachの情緒的消耗(0-54; 高いほど情緒的消耗が強い)
‡: 尺度(1-4; 高いほど終末期医療の経験が多い)
Morita T. J Clin Oncol 2002; 20: 758-764.
Ⅰ.背 景
施設による鎮静の施行率
0
0%
Continuous-deep sedation
for physical symptoms
5
10
15
20
(%)
25
0
Continuous-deep sedation
for phycho-existential suffering
20
40
60
(%)
80
0%
5.0%20%-
5.0%-
40%60%-
20%-
80%Morita T. Support Care Cancer 2004; 12: 584-592.
Ⅰ.背 景
まとめ
• 鎮静は、「最善の緩和治療を行ったとしても、緩和困難な苦痛
が存在すること」が明らかになったうえで、最善の対処とは何
か?という枠組みで議論されている
• 鎮静の施行頻度は30%前後と見積もられるが、頻度は医師
によって差があり、燃え尽きや終末期医療の経験が関与して
いる
• 鎮静が過剰におこなわれた場合、意識を低下させずに緩和
が得られたかもしれない苦痛をもった患者が意識低下を前提
とした治療を受けるという好ましくない現象が生じる
• 鎮静によってしか緩和されない苦痛を持った患者に鎮静が適
用されなかった場合、患者は不必要な苦痛を体験することに
なる。
• 適切な鎮静を行う基準となるガイドラインが必要
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅱ. 概 念
定 義
Palliative sedation therapy
苦痛緩和のための鎮静
1)苦痛緩和を目的として患者の意識を低下させる
薬物を投与すること
E.g., ミダゾラムを持続投与する
または
2)苦痛緩和のために投与した薬物によって生じた
意識の低下を意図的に維持すること
E.g., モルヒネを投与したあと意識が低下しても減量しない
Ⅱ.概 念
定 義
1. 鎮静水準
浅い鎮静
言語的・非言語的コミュニケーションができる程度の軽度の意識低下をもたらす鎮静
深い鎮静
言語的・非言語的コミュニケーションができないような深い意識低下をもたらす鎮静
2. 鎮静方法
間欠的鎮静
一定期間意識の低下をもたらした後に薬物を中止・減量して、意識の低下しない時
間を確保する鎮静
持続的鎮静
中止する時期をあらかじめ定めずに、意識の低下を継続して維持する鎮静
不可:「死亡まで鎮静を行なう」と決めて鎮静を開始する(sedation toward death)。
可:「この病態は回復困難だから死亡まで鎮静が続くかも知れない」という前提で鎮静を
開始して、病態が改善したかどうかを定期的に評価して、「病態が変わらないから鎮静を
きると苦しくなるので継続しよう」というプロセスを積み重ねる。
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅱ.概 念
鎮静と安楽死の違い
鎮静
安楽死
意図
苦痛の緩和
患者の死亡
方法
苦痛緩和に必要量の 致死性薬物の投与
鎮静薬
E,g,. ミダゾラム
E,g,. バルビツール
10mg/日持続投
00g/1回投与
与
望ましい結果
苦痛の緩和
患者の死亡
望ましくない結果 患者の死亡
患者の生存
European Association of Palliative Care, Ethics task force.
Eur J Palliat Care 2003; 10: 63-66
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅱ.概 念
鎮静を妥当とする倫理原則
一般的な倫理原則
●自律性原則(autonomy)
「患者の自律的な意思を尊重するべきである」
●与益原則(beneficence)
「患者の利益になるようにするべきである」
●無加害原則(non maleficence)
「患者に加害を加えないようにするべきである」
●正義・公平原則(justice / equality) 「社会的公平を保つべきである」
与益原則と無加害原則を同時に満たすことができない場合
●相応性原則(principle of proportion)
「好ましくない効果を許容できる相応の理由がある場合倫理的に妥当」
E.g., 苦痛緩和という好ましい効果に、意識低下や生命予後を短縮する可能性という
好ましくない効果がともなったとしても、相応の理由があるなら、倫理的に妥当。
①予測される益が予測される害をうわまわる
②著しい苦痛がある
③他の手段では緩和される見込みがない
2重効果の原則だけで
④患者の死期が迫っている
鎮静を妥当化することは
●2重効果の原則(principle of double effects)
支持されていない
①行為自体が道徳的である
②好ましい効果のみが意図されている
③好ましい効果は好ましくない効果によってもたらされるものではない
④好ましくない結果を許容できる相応の理由がある(=相応性原則)
Ⅱ.概 念
鎮静を妥当とする倫理原則
2重効果の原則を適用する複数の立場
好ましくな
い効果
主張
例
意識低下
可:苦痛緩和に伴う2次的な意識
低下
不可:意図的に意識を低下させる
薬物の投与
可:疼痛に対してモルヒネを増量した2次的な傾眠
可:生命短縮が予測されても意図
されていない
可:死亡が数時間以内に生じると考えられる全身状
態が非常に悪化した患者が呼吸困難を訴え鎮静を
行う場合、鎮静薬の直接作用による呼吸抑制と死
亡をもたらす可能性があるが、苦痛緩和を意図して
いることが了解できるように鎮静薬を少量ずつ緩徐
に投与する
不可:鎮静を行わなかったならば数ヶ月の生存が見
込める患者に水分・栄養の補給を行わずに持続的
深い鎮静を行う
Quill
生命短縮
の可能性
(確実で
ないもの
に限る)
不可:生命短縮が確実に生じる
生命短縮 可:鎮静の意図は苦痛緩和であり、
の可能性 生命短縮を意図しない
(確実なも
のも含
む)
不可:せん妄に対して患者の意識を低下させること
を意図して睡眠薬を投与する
Sulmasy
Rousseau
Ⅱ.概 念
鎮静を妥当とする倫理原則
2重効果の原則に対する反論
・「鎮静によって死期が早められる」前提が医学的知見で支持されない
・意図的な意識低下を許容しない立場(Sulmasy)
「意識の低下を意図している」とする臨床家の見解と矛盾する
・生命予後を確実に短縮する場合に鎮静を許容しない立場(Quill)
著しい苦痛を放置することがより倫理的であるとされる場合が生じる
・鎮静は苦痛緩和のみを意図していると主張する立場(Rousseau)
1)意図は両価的である
2)意図と予見を明確に区別することはできない
3)意図のみならず結果に責任を持つ必要がある
に対する配慮が
十分ではない。
・2重効果の原則単独で鎮静を妥当化することに合意は得られていない
・しかし、「意図が苦痛緩和であること」は共通した倫理的根拠である
Ⅱ.概 念
鎮静を妥当とする倫理原則
一般的な倫理原則
●自律性原則(autonomy)
与益原則(beneficence)
無加害原則(non maleficence)
正義・公平原則(justice / equality)
「患者の自律的な意思を尊重するべきである」
「患者の利益になるようにするべきである」
「患者に加害を加えないようにするべきである」
「社会的公平を保つべきである」
与益原則と無加害原則を同時に満たすことができない場合
●相応性原則(principle of proportion)
「好ましくない効果を許容できる相応の理由がある場合倫理的に妥当」
E.g., 苦痛緩和という好ましい効果に、意識低下や生命予後を短縮する可能性がとも
なったとしても、相応の理由があるなら、倫理的に妥当;
①予測される益が予測される害をうわまわる
②著しい苦痛がある
③他の手段では緩和される見込みがない
④患者の死期が迫っている
2重効果の原則(principle of double effects)
①行為自体が道徳的である
②好ましい効果のみが意図されている
③好ましい効果は好ましくない効果によってもたらされるものではない
④好ましくない結果を許容できる相応の理由がある(=相応性原則)
Ⅱ.概 念
鎮静を妥当とする倫理原則と臨床の対応
A.医療者の意図
1)医療チームが、意図が苦痛緩和であることを理解している
2)鎮静を行う意図(苦痛緩和)からみて相応の薬物、投与量、投与方法が選択されている
意図は苦痛緩和である
B.患者・家族の意思(1かつ2)
自律性原則
1)患者
(1)意思決定能力がある場合
必要十分な情報を提供されたうえでの明確な意思表示がある
(2)意思決定能力がないとみなされた場合
患者の価値観や以前の意思表示にてらして患者が鎮静を希望することが十分に推測できる
2)(家族がいる場合には)家族の同意がある
相応性原則
C.相応性
患者の状態(苦痛の強さ、他に苦痛緩和の手段がないこと、予測される生命予後)、予測される益
benefits(苦痛緩和)、および、予測される害harms(意識・生命予後への影響)からみて、とりう
るすべての選択肢のなかで、鎮静が最も状況に相応な行為であると考えられる。
1)耐えがたい苦痛があると判断される
2)苦痛は、医療チームにより治療抵抗性と判断される
3)原疾患の増悪のために、数日から2-3週間以内に死亡が生じると予測される
D.安全性
1)医療チームの合意がある。多職種が同席するカンファレンスを行うことが望ましい
2)意思決定能力、苦痛の治療抵抗性、および、予測される患者の予後について判断が困難な場合
には、適切な専門家(精神科医、麻酔科医、疼痛専門医、腫瘍専門医、専門看護師など)にコン
サルテーションされることが望ましい
3)鎮静を行った医学的根拠、意思決定過程、鎮静薬の投与量・投与方法などを診療記録に記載す
る
Ⅱ.概 念
鎮静を妥当とする倫理原則
まとめ
・鎮静の倫理的妥当性は、自律性原則、相応性原則、および、2重効果の原則の第2要
件(意図されている)によって支持される
・2重効果の原則のみによって鎮静を妥当化しようとする試みは、合意が得られていない
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅲ.ガイドライン
作成経緯
委員会
森田達也
木澤義之
池永昌之
志真泰夫
林 章敏
下山直人
中保利通
向山雄人
安達 勇
明智龍男
緩和医学
緩和医学
緩和医学
緩和医学
緩和医学
麻酔・疼痛学
麻酔・疼痛学
腫瘍学
腫瘍学
精神医学
(聖隷三方原病院 緩和支持治療科)
(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
(淀川キリスト教病院 ホスピス)
(国立がんセンター東病院 緩和ケア病棟)
(聖路加国際病院 緩和ケア病棟)
(国立がんセンター中央病院 緩和医療科)
(東北大学医学部附属病院 緩和ケアセンター)
(財団法人癌研究会附属病院 内科)
(静岡県立静岡がんセンター 緩和医療科)
(名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野
国立がんセンター研究所支所 精神腫瘍学研究部)
大西秀樹
精神医学
(神奈川県立がんセンター 精神科)
岡田美賀子 看護学
(聖路加国際病院 緩和ケア病棟)
河 正子
看護学
(東京大学大学院医学系研究科 ターミナルケア看護学分野)
二見典子
看護学
(ピースハウス病院 看護部)
大谷木靖子 看護学
(昭和大学横浜市北部病院 看護部)
栗原幸江
ソーシャルワーク (静岡県立静岡がんセンター 緩和医療科)
清水哲郎
倫理学
(東北大学大学院 文学研究科哲学専攻分野)
白浜雅司
倫理学
(三瀬村国民健康保険診療所)
稲葉一人
法学
(科学技術文明研究所 元大阪地方裁判所裁判官)
尾藤誠司
方法論
(国立病院東京医療センター 内科)
Ⅲ.ガイドライン
作成経緯
過 程
系統的文献検索(114編)
草案の作成
デルファイ法
ガイドライン委員会案の決定
外部委員,エンドユーザー,遺族へ審議
日本緩和医療学会理事会の承認
出版・配布
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅲ.ガイドライン
使用上の注意
対象
緩和ケア病棟に入院している、緩和ケアチームの診療を受けて
いる、治癒を見こむことができない成人の癌患者とその家族
使用者
緩和ケア病棟、緩和ケアチームの医療チーム
効果の指標
・生命の質・死の過程/死の質 (quality of life, dying, and
death)。
・何が生命の質・死の過程/死の質を決定するかは、患者・家族
の価値観によって異なるため、画一的には決定できない。 個別性
・身体的苦痛の緩和、精神的おだやかさ、人生の意味や価値を
感じられること、家族との関係を強めること、こころ構えができる
・ ・
こと、心残りがないことなど。
苦痛緩和だけが目標ではない
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅱ.概 念
鎮静を妥当とする倫理原則と臨床の対応
A.医療者の意図
1)医療チームが、意図が苦痛緩和であることを理解している
2)鎮静を行う意図(苦痛緩和)からみて相応の薬物、投与量、投与方法が選択されている
意図は苦痛緩和である
B.患者・家族の意思(1かつ2)
自律性原則
1)患者
(1)意思決定能力がある場合
必要十分な情報を提供されたうえでの明確な意思表示がある
(2)意思決定能力がないとみなされた場合
患者の価値観や以前の意思表示にてらして患者が鎮静を希望することが十分に推測できる
2)(家族がいる場合には)家族の同意がある
相応性原則
C.相応性
患者の状態(苦痛の強さ、他に苦痛緩和の手段がないこと、予測される生命予後)、予測される益
benefits(苦痛緩和)、および、予測される害harms(意識・生命予後への影響)からみて、とりう
るすべての選択肢のなかで、鎮静が最も状況に相応な行為であると考えられる。
1)耐えがたい苦痛があると判断される
2)苦痛は、医療チームにより治療抵抗性と判断される
3)原疾患の増悪のために、数日から2-3週間以内に死亡が生じると予測される
D.安全性
1)医療チームの合意がある。多職種が同席するカンファレンスを行うことが望ましい
2)意思決定能力、苦痛の治療抵抗性、および、予測される患者の予後について判断が困難な場合
には、適切な専門家(精神科医、麻酔科医、疼痛専門医、腫瘍専門医、専門看護師など)にコン
サルテーションされることが望ましい
3)鎮静を行った医学的根拠、意思決定過程、鎮静薬の投与量・投与方法などを診療記録に記載す
る
Ⅲ.ガイドライン
(1)医学的適応
治療とケアの実際
●専門緩和サービス
●成人、非治癒がん
●耐えがたい苦痛
●治療抵抗性
●生命予後3週間以下
PPIやPaP score
Intolerable suffering(耐えがたい苦痛)
①患者自身が耐えられないと表現する
②(患者が表現できない場合)、
チームでの判断
患者の価値観にてらして、患者にとって
耐えがたいことが家族や医療チームにより十分推測される
●鎮静の対象になりうる症状は、せん妄(痴呆に伴うせん妄など臓器不全を
伴わないせん妄は除く)、呼吸困難、過度な気道分泌、疼痛、嘔気・嘔吐、
倦怠感、痙攣・ミオクローヌス、不安、抑うつ、心理・実存的苦痛(希望のな
さ、意味のなさなど)などである。
●不安、抑うつ、心理・実存的苦痛が単独で持続的深い鎮静の対象症状とな
ることは例外的であり、適用の判断は慎重に行なうべきである。
●「身の置き所のなさ」、「不穏」、「混乱」、「全身のつらさ」、「精神的苦悶」な
ど定義が曖昧な用語の使用は推奨しない。苦痛の内容を特定できない場
合、「特定できない苦痛」と記載する。
Ⅲ.ガイドライン
(1)医学的適応
治療とケアの実際
●専門緩和サービス
●成人、非治癒がん
●耐えがたい苦痛
●治療抵抗性
●生命予後3週間以下
PPIやPaP score
Refractory suffering (治療抵抗性の苦痛)
①全ての治療が無効である
チームでの判断
②患者の希望と全身状態から考えて、
予測される生命予後までに有効で、
かつ、合併症の危険性と侵襲を許容できる治療手段がない
●治療可能な要因について、原因治療、対症療法、寄与因子(苦痛を耐えや
すくする、耐えにくくする心理・社会的・環境要因)ついて検討する。
●十分な評価・治療を行わずに治療抵抗性であるとしてはならない。治療抵
抗性が不明瞭な場合、期間を限定して苦痛緩和に有効な可能性のある治
療を行うこと(time-limited trial)を検討する。
Time-limited trial
●代表的な治療をレビューする、専門家へのコンサルテーション。
Ⅲ.ガイドライン
治療とケアの実際
(1)医学的適応
●専門緩和サービス
●成人、非治癒がん
●耐えがたい苦痛
●治療抵抗性
●生命予後3週間以下
PPIやPaP score
生命予後の推定
●対象患者の全身状態を評価する
チームでの判断
1)評価尺度(Palliative Prognostic Score, Palliative Prognostic
Index)
2)予後因子(Karnofsky Performance Scale、呼吸困難、食思不振、経
口摂取量、せん妄、浮腫など)
3)臓器不全の有無(呼吸不全、肝不全、腎不全、心不全など)
4)臨床的に予測される予後
●「終末期」、「死亡が切迫している」など曖昧な表現は推奨しない。
●系統的な評価を十分行わずに患者の生命予後が限られていると判断して
はならない。専門家へのコンサルテーション。
●通常、持続的深い鎮静の対象となる患者の生命予後は数日以下である。
生命予後の推定に使われる評価尺度
終末期患者の予後判定の基準
Palliative Prognostic Index (PPI)
Palliative Performance Scale
経口摂取*
10-20
30-50
>60
著明に減少(数口以下)
中程度減少(>数口以上)
正常
4.0
2.5
0
2.5
1.0
0
1.0
3.5
4.0
浮腫あり
安静時呼吸苦
せん妄あり**
総得点>6: 3週以内死亡 80%、
*:高カロリー輸液施行中は正常0
**:薬物起因性と臓器障害に伴うものは;除外
終末期患者の予後判定の基準 Palliative .Prognostic Score
予後予測
Morita T, Support Care Cancer 1999; 7: 128-133.
K-PS
1-2週
3-4
5-6
7-10
11-12
>12
10-20
>30
食欲不振
あり
呼吸苦
あり
白血球数
>11000
8501-11000
リンパ球数 0-11.9%
12-19.9%
8.5
6.0
4.5
2.5
2.0
0
総得点
30日生存確率(95%信頼区間)
2.5
0
1.5
1.0
1.5
0.5
2.5
1.0
0-5.5
>70%(67-87日)
5.6-11
30-70%(28-39日)
11.1-17.5
<30%(11-18日)
Malton M., J Pain Symptom Manage 1999; 17:240-247.
(2)意思の確認
●意思決定能力の評価
●意思決定能力が
・あるなら患者の意思
・ないなら推定意思
・あらかじめきいておく
●家族の意思
●患者・家族の意思の一
致
鎮静の意思決定に患者・家族がかかわる程度:
Empirical data
前向き多施設
観察的研究
(n=102, 21 PCUs)
患者
鎮静直前の同意
67%
(反復した同意)
(40%)
あらかじめの説明
表示できない理由 認知障害 82%
家族
96%
遺族調査
(n=280, 7PCUs)
55%
75%
89%
治療の目的
可能なコミュニケーション
予測される経過
鎮静しなかった場合の経過
86%
67%
68%
60%
・半数の患者が意思表示でき、半数の患者は主に認知障害のため意思表示できない
Morita T. J Pain Symptom Manage 2005; 30: 320-328.
Morita T. J Pain Symptom Manage 2004; 28: 557-565.
意思決定能力の評価
●意思決定能力の評価
①自分の意思を伝えることができる
②関連する情報を理解している
③鎮静によって生じる影響の意味を認識している
④選択した理由に合理性がある
●専門家へのコンサルテーション
チームでの判断
Strategy:
●関連する情報を理解している・鎮静によって生じる影響の意味を認識していること
「いま、苦しさを和らげるためにうとうとして過ごす(ぐっすりと眠る)方法があるというお
話をしましたが、どのようにご理解されましたか(もし、ねむって苦しさを和らげる方
法を取った場合、どのようになるとご理解されましたか?)」に対して、適切な返答
ができる
●選択した理由に合理性があること
「○○さんは、苦しさを和らげるためにうとうとして過ごす(ぐっすりと眠る)方法をご希望
される、とうかがいましたが、その理由を教えていただけますか」に対して、了解可
能な理由を挙げられる
(2)意思の確認
●意思決定能力の評価
●意思決定能力が
・あるなら患者の意思
・ないなら推定意思
・あらかじめきいておく
●家族の意思
●患者・家族の意思の一
致
意思決定能力がない場合の患者の意思の推定
●患者の価値観や以前に患者が表明していた意思に照らし合わせて、現在の状
態で患者が何を希望するかについて、家族と共に慎重に検討する。
1)家族に期待される役割は患者の意思を推測することであり、家族が全ての意
思決定の責任を負うのではない
2)鎮静の意思決定については医療チームが責任を共有する
Strategy:
●患者が意思表示できれば何を希望するかを家族と相談する
「本来であれば○○さんに伺うことができれば一番いいのですが、今は難しいので、今後の
ことについてご家族と少し相談させていただきたいと思います。私たちは、今までの〇〇
さんの生き方や価値観を大切にしたケアをしたいと考えています。もし、今の状態でご本
人さまが十分にお話できる状態でしたら、どのような治療を一番に希望されるでしょう?
以前になにかおっしゃっていたことはありますか?」
●家族からの情報をもとに、鎮静が最善の方法であると考えたことを伝え、責任を共有する
「今伺ったことから考えると、眠るようなかたちであっても、苦しみを感じなくてすむようにして
さしあげることが一番よいと思いますが、いかがですか。」
「この決断はとてもつらい決断だと思います。決して、ご家族の方だけに決めてください、とい
うことではありません。わたしたちは、ご家族のお考えをうかがって、一番よい方法を責
任を持って行いたいと考えています」
(2)意思の確認
●意思決定能力の評価
●意思決定能力が
・あるなら患者の意思
・ないなら推定意思
・あらかじめきいておく
●家族の意思
●患者・家族の意思の一
致
意思決定能力がある場合の患者の意思の確認:Rationale
鎮静を受けるとして情報を知りたいか(一般人口, n=457)
明確に
知りたい
それとなく
知りたい
聞きたく
ない
意識が低下する
85%
7.9%
6.6%
話ができる最後の
機会になる可能性
86%
7.9%
6.3%
・多くの一般人口は鎮静の意思決定に関与したいと考えている
・「知りたくない」人たちもいる
Morita T. J Palliat Med 2002; 5: 375-385.
意思決定能力がある場合の患者の意思の確認
●説明内容は、患者・家族の希望と、情報提供により生じる益benefitsと害harms
とを十分に検討したうえで個別に判断する。すなわち、知りたいという患者・家族
に対して十分な情報提供ができるよう配慮するとともに、患者・家族が知りたくな
い場合、あるいは、情報提供による害harmsが益benefitsを上回ると予測され
る場合には、提供する情報の量や伝え方に十分に配慮する 。
●検討するべき説明内容
1)全身状態:身体状況についての一般的説明、根治的な治療法がないこと、予測される状態と予後
2)苦痛:緩和困難な苦痛の存在、苦痛の原因、これまで行われた治療、鎮静以外の方法で苦痛緩和
が得られないと判断した根拠
3)鎮静の目的:苦痛の緩和
4)鎮静の方法:意識を低下させる薬剤を投与すること、状況に応じて中止することができることなど
5)鎮静が与える影響:予測される意識低下の程度、精神活動・コミュニケーション・経口摂取・生命予
後に与える影響、合併症の可能性
6)鎮静後の治療やケア:苦痛緩和のための治療やケアは継続されること、患者・家族の希望が反映さ
れることなど
7)鎮静を行わなかった場合に予測される状態:他の選択肢、苦痛の程度、予測される予後
意思決定能力がある場合の患者の意思の確認
Strategy:
●鎮静の選択枝を提示する
「いま、苦痛をやわらげるために十分に手を尽くしていますが、意識を保った方法ですっきり
症状をとることは難しいように感じています。苦しさをさらにやわらげるためには、すこし
うとうととして過ごす(ぐっすりと眠る)方法もあります。どのくらいの苦しさならよしとする
か、どのくらいのねむけならよしとするかは、おひとりおひとりで違いますので少し相談さ
せていただけますか。」
●鎮静がコミュニケーションへ与える影響を説明する
「うとうとして苦しさが和らぐようにすると、苦しさはあまり感じませんが、ぼんやりするので
複雑なことを話したり考えたりすることは難しくなるかもしれません」
「ぐっすり眠って苦しいのを和らげる方法をとると、苦しいのは感じなくなりますが、ご家族
とお話をすることは難しくなると思います」
●鎮静が生命予後へ与える影響を説明する
「おくすりを使うと寿命を短くするのではないか、とご心配されるかもしれません。苦しさが
取れるだけの少しの量のおくすりをゆっくりと使いますから、使ったからといってそのせ
いでかならず寿命が短くなるということではありません」
「苦しさをやわらげることが目的ですので、使うおくすりの量は健康な人では心臓や呼吸に
は影響しないぐらいの量です。ただ、今、○○さんのからだはとても不安定になっている
ので、ひょっとすると(おそらくは)おくすりを使って楽になったあと、またお話ができるよう
になることは難しくなる可能性があります(うとうととしたままで息をひきとられることにな
るかもしれません)。慎重に苦しさだけがとれることを目標として行いますが、もしもの時
にそなえて、お伝えしておいたほうがいい方や、そばにいていただいたほうがよい方は
いらっしゃいますか」
Sykes N. Arch Intern Med 2003; 163: 341-344.
Morita T. J Pain Symptom Manage 2001; 21: 282-289.
Morita T. J Pain Symptom Manage 2005; 30: 320-328.
鎮静が生命予後へ与える影響を説明する :Rationale
予後予測モデルに
鎮静の有無を投入した結果
Original model
オピオイド投与量
観察的研究
R2=
0.467
St Chiristpher’s
0.471
日本の21施設
鎮静薬の使用
0.470
Benzodiazepine投与量
0.468
死亡
呼吸・心停止
呼吸・循環抑制
誤嚥性肺炎
奇異性反応
N=114
1.8%
N=102
3.7%
18%
2.0%
2.9%
・鎮静は集団としての生命予後に有意な影響を与えない
・個々の患者において、鎮静が直接の原因と考えられる死亡が5%で生じる
(2)意思の確認
●意思決定能力の評価
●意思決定能力が
・あるなら患者の意思
・ないなら推定意思
・あらかじめきいておく
●家族の意思
●患者・家族の意思の一
致
あらかじめ意思を確認する:Rationale
鎮静を受けるとして情報を知りたいか(一般人口, n=457)
病状を受け止められるようになってから
なるべく早く説明してほしい
52%
病状を受け入れていなくても
あらかじめ説明してほしい
40%
あらかじめの説明は必要ない
7.2%
・「あらかじめ説明を受けること」は
病状を受け止める方によって、希望する人も希望しない人もいる
Morita T. J Palliat Med 2002; 5: 375-385.
あらかじめ意思を確認する
●患者・家族が情報提供を希望する場合、あるいは、患者・家族にとって情報提
供により生じる益benefitsが害harmsを上まわると判断された場合、緩和困難
な苦痛が生じたときにとりうる手段について前もって情報を提供しておくことが
望ましい。
Strategy:
●患者の将来の苦痛に対する不安、例えば、「先生、この先もっと苦しくなるのでしょうか」、
「母が亡くなった時とてもつらそうでした。私もそうなるのでしょうか」といった表現が、鎮
静の選択肢についてあらかじめ相談するきっかけになることが多い。
●苦痛緩和に努めることを保証し、より詳細を話し合う準備があるか確認する
「先々つらいことがふえて苦しむのではないか、と心配されているのですね。以前とちがっ
ていろいろな方法があります。私たちは〇〇さんのつらさがなるべく少なくなるように十
分対応していきますので安心して下さい。いま、もう少し具体的な方法についてご相談
したほうがよろしいですか」
「痛みはこの先少し強くなってくるかもしれません。たいていの痛みは鎮痛薬を調節して
やわらげることができます。ただ、状況によっては、痛みをとろうとするとねむけがふえ
たり、うとうとするかたちで痛みをやわらげるという方法になる時もあります。もちろん、
その折々の○○さんの希望を伺いながら治療していこうと思いますが、いまもっとくわし
く相談したほうがよいですか」
「もし、鎮痛薬で痛みが十分にやわらげられないときに、例えば、睡眠薬などを使って何
時間か眠って苦痛をやわらげたり、つらさを感じないようにすることもできます」
(2)意思の確認
●意思決定能力の評価
●意思決定能力が
・あるなら患者の意思
・ないなら推定意思
・あらかじめきいておく
●家族の意思
●患者・家族の意思の一
致
患者・家族の意思が異なるとき:Rationale
希望するケア(一般人口、n=457)
家族を説得してほしい
37%
家族にかかわらず患者の意思にしたがってほしい
34%
妥協点を見つけるよう調整してほしい
25%
家族のいう通りにしてほしい
3.9%
家族の意見を調整した上で、自分の意思が優先される方法を求めている
Morita T. J Palliat Med 2002; 5: 375-385.
患者と家族の意思が異なるとき
●意思の不一致の解消に向けた努力を行う
1)付添いのできる環境を整える、家族に十分な説明を行なうなど、患者の状態を家族が十
分に理解できるようにする
2)患者と家族が話し合い、ともに納得できる方法を見いだすことができる場をつくる
3)家族の心理的要因(悲嘆や自責感など)に精神的支援を行う
●暫定的な対応を提案する
・患者の意思が最大限尊重され、患者の益benefitsが最大になる手段を検討する(浅い鎮
静や間欠的鎮静など)。
Strategy:
●なぜ家族が鎮静を希望しないのかをきき、不安に対処する
「お話をうかがっていると、○○さんとご家族の希望に少し違いがあるように感じました。私たちは、で
きる限り、○○さんもご家族も納得のいく治療を行っていきたいと考えています。最初に、ご家族
が・・・をご希望される理由や心配事を教えていただけますか?なるほど・・・を心配されているので
すね。ご心配はとてもよく分かります。とてもおつらいと思います。(家族の悲嘆の表出を促進し、個
別の心配事に対処する)」
●患者の体験や意思を共有することをすすめる、暫定的な対応を提案する
「例えば、当面、次のことを提案したいのですが、いかがでしょうか。まず、○○さんがどう思われてい
るか、一緒にお部屋で過ごしていただいて、○○さんにきかれてはどうでしょうか。もし、直接おはな
しされるのがおつらいようでしたら、わたしたちがそれとなく話してみますので、そばで聞いていただ
いてもいいかと思います。その後で、またご家族みなさんで相談されてはいかがでしょうか」
「もし、相談されている間、○○さんがとても苦しい場合、例えば、その時間だけ休めるようにおくすり
を使ったり、あまり深くは眠らないように、効き目は弱いけれどもうとうとするくらいのおくすりを使って
様子を見ることもできます」 「もし、鎮痛薬で痛みが十分にやわらげられないときに、例えば、睡眠
薬などを使って何時間か眠って苦痛をやわらげたり、つらさを感じないようにすることもできます」
(3)開始前に・・
●鎮静方法を決定する
●相談して決めておく
・水分・栄養補給
・生命維持治療
・投与薬物
・患者・家族の気がかり
●薬物を投与する
鎮静方法を決定する:Rationale
耐えがたい苦痛のときに希望する治療(一般人口, n=457)
身体的苦痛
精神的苦痛
鎮静なし
2.6%
12%
浅い鎮静
27%
22%
間欠的鎮静
55%
45%
持続的深い鎮静
4.6%
7.2%
自殺幇助・安楽死
11%
14%
・浅い鎮静、間欠的鎮静を希望する人が多い
・希望する治療は個人によって異なる
Morita T. J Palliat Med 2002; 5: 375-385.
鎮静方法を決定する
●苦痛を緩和できる範囲で、意識水準や身体機能に与える影響が
最も少ない方法を優先する。すなわち、間欠的鎮静や浅い鎮静
を優先して行い、持続的深い鎮静は、間欠的鎮静や浅い鎮静に
よって十分な効果が得られない場合に行う
●患者の苦痛が強く、治療抵抗性が確実であり、死亡が数時間か
ら数日以内に生じることが確実で、かつ、患者の希望が明らかで
あり、間欠的鎮静や浅い鎮静によって苦痛が緩和されない可能
性が高いと判断される場合、持続的深い鎮静を最初に選択して
もよい。
(3)開始前に・・
●鎮静方法を決定する
●相談して決めておく
・水分・栄養補給
・生命維持治療
・投与薬物
・患者・家族の気がかり
●薬物を投与する
●人工的な水分・栄養の補給
・患者の意思、および、治療目的(苦痛緩和)からみた患者の益benefitsと害
harmsを総合的に評価する。
・水分・栄養補給による体液過剰兆候が苦痛を増悪させる場合、患者・家族の意
思を尊重したうえで、減量・中止を検討する。水分・栄養補給が患者の苦痛を
和らげている可能性がある場合、患者・家族の意思を尊重したうえで、継続す
る。
●苦痛緩和が目的ではない治療
・昇圧剤の投与、バイタルサインの精密な監視、定期的な採血、心肺蘇生など、
治療目的と一致しない治療や検査について、あらかじめ相談しておく
●鎮静開始前に用いられていた薬物
・苦痛緩和のために鎮静前から投与されていた薬物は、効果がないと判断され
る場合を除いて継続する。
・オピオイドは、過量投与の徴候(呼吸数の減少、ミオクローヌスなど)がみられな
ければ継続投与する。苦痛が緩和されており、過量投与の徴候が見られる場
合は、減量する。
●患者・家族の気がかり
・鎮静を受ける前にしておきたいこと(大切な人と会っておくこと、はなしをするこ
となど)について、患者と家族の気持ちを確認する
(3)開始前に・・
●鎮静方法を決定する
●相談して決めておく
・水分・栄養補給
・生命維持治療
・投与薬物
・患者・家族の気がかり
●薬物を投与する
鎮静の開始
●第1選択薬はmidazolamである。
0.2-1mg/時間で開始し、5-120mg/日まで。
●Midazolamが有効でない場合には、他の薬剤(flunitrazepam,
chlorpromazine, levomepromazine, barbiturates)を使用する。
●オピオイドは意識の低下をもたらす作用が弱く、かつ、蓄積により神経過敏性
を生じうるため、持続的深い鎮静に用いる主たる薬剤としては推奨しない。た
だし、疼痛、呼吸困難を緩和するためには有効であるため併用してよい
●Haloperidolは意識の低下をもたらす作用が弱いため、持続的深い鎮静に用
いる主たる薬剤としては推奨しない。ただし、せん妄を緩和するためには有効
であるため併用してよい
●鎮静のための薬物は、原則として、少量で緩徐に開始し、苦痛緩和が得られる
まで投与量を漸増する。苦痛緩和が得られるまで、必要に応じて追加投与を
行ってもよい。
●苦痛が強い場合には、十分な観察と調節のもとに、苦痛緩和に十分な鎮静薬
を投与し、苦痛が緩和された後に減量してもよい
鎮静に用いられる薬剤
ミダゾラム
開始量は0.2-1mg/時間で持続皮下・静注。
1.25-2.5mgの追加投与を行ってもよい
フルニトラゼパム
0.5-2mgを0.5-1時間で緩徐に点滴静注
クロルプロマジン
5-12.5mgを0.5-1時間で緩徐に点滴静注、
または、5-12.5mgを筋肉内注射。
レボメプロマジン
5-12.5mg/日を持続皮下注、
または、5-12.5mgを筋肉内注射。
フェノバルビツール 4-30mg/時間を持続皮下注で開始し、適切な鎮静が得
られた後に減量する。
投与開始時に50-200mgの追加投与を行ってもよい。
Midazolamを第一選択とする:Rationale
Systematic
review
(n=221,
7 case series)
前向き多施設
観察的研究
(n=102, 21
PCUs)
投与量
初期投与量
最大投与量
1.5 (0.25-20) mg/hr
35 (10-480) mg/日 36 (1.8-330) mg/日
有効率
98%
深い鎮静まで
83%
遺族調査
(n=280, 7PCUs)
全く・ほとんどなし 60%
ときに
28%
しばしば・ずっと 11%
60分(<2時間:
78%)
・少量のbenzodiazepineによって十分な苦痛緩和が得られる
Cowan JD. Support Care Cancer 2001; 9: 403-407.
Morita T. J Pain Symptom Manage 2005; 30: 320-328.
Morita T. J Pain Symptom Manage 2004; 28: 557-565.
Midazolamを第一選択とする:Rationale
Midazolamの耐性
Midazolamの使用量は、
・年齢、肝不全、鎮静期間、事前の使用歴と相関
・年齢、使用期間と相関
↓
長期使用で耐性を生じる可能性がある
Morita T. J Pain Symptom Manage 2005; 30: 320-328.
Morita T. J Pain Symptom Manage 2003; 25: 369-375.
(4)鎮静開始後のケア
●定期的評価
苦痛・鎮静水準・有害事象
鎮静以外の手段・病態
(患者)家族の希望
●家族へのケア
●スタッフへのケア
家族のケア:Rationale
鎮静受けた患者の遺族の満足度・負担感を決定する要因
満足*1
苦痛が緩和されなかった
-0.38
説明頻度が不十分だった
-0.58
寿命が短くなったと思った
-0.22
緩和する他の方法があると思った
-0.23
負担感 *2
0.26
決める責任を負うことが重荷だった
0.16
気持ちをくみ取ってもらえなかった
0.25
気持ちがついていかなかった
0.19
・7緩和ケア病棟の遺族280名を対象とした質問紙調査(回収率73%)
・満足度と負担感を目的変数とした多変量解析の回帰係数を示す
*1: R2=30%; *2:R2= 36%
Morita T. J Pain Symptom Manage 2004; 28: 557-565.
家族のケア:Rationale
家族の気持ち
患者さまの希望を優先して考えた
75
話しができなくなることがつらかった
49
病状の変化に気持ちがついていかなかった
38
25
決める責任を負うことが重荷だった
自分にまだできることがあると思った
25
寿命が短くなったと思った
21
一番よいことをしている自信が持てなかった
家族全員で話し合う機会がほしかった
21
15
意識がなく寝ている状態には尊厳がない
14
医師や看護婦に気持ちをくみとってほしかった
14
そばにいることに意味を見出すのが難しかった
11
苦痛をやわらげる他の方法があると思った
10
眠ることを無理強いされている気がした
死の過程が長引いていると思った
3
法律的な問題が心配だった
2
3
そう思う/とてもそう思う (%)
家族に対するケア
●以下のケアを行う
1)家族の心配や不安を傾聴し、悲嘆や精神的負担を支援する
2)身体的負担を軽減する
3)家族が患者のためにできること(そばにいる、声をかける、手足
にやさしくふれる、好きだった音楽を流すなど)をともに考える
4)経過にしたがって必要とされる情報(患者の状態、苦痛の程度、
予測される変化など)を十分に提供する。とくに、他の手段につい
て十分に検討し施行したが有効ではないこと、鎮静によって生命
が短縮する可能性は一般的に少ないこと、鎮静を浅くする(中止す
る)ことも可能であることを保証する。
Strategy:
●家族がどんな気持ちでいるのかをきく
「すやすやとやすまれているようです。付き添われていて、何かご心
配なことやこうしてあげられたらと思われていることはありますか」
(4)鎮静開始後のケア
●定期的評価
苦痛・鎮静水準・有害事象
鎮静以外の手段・病態
(患者)家族の希望
●家族へのケア
●スタッフへのケア
スタッフのケア:Rationale
持続的深い鎮静にかかわる看護師の負担感
鎮静にかかわるストレスのために仕事をやめたくなる(n=2607)
時々 26% よく・いつも 4.4%
鎮静にかかわることは負担だ
12%
鎮静をするときには無力感を感じる
12%
鎮静をするときには今までしてきたことに意味がなかった
気持ちになる
4.1%
看護師の負担感に関する要因
・臨床経験が少ない
・患者ケアに当てられる時間が少ない
・医師と看護師で意見が違う。カンファレンスできない
・患者と家族で意見が違う
・緩和困難か判断できない、生命を短縮すると思う、安楽死だと思う
・自分の感情に対応できない、自分の価値観で受け入れられない
Morita T. J Pain Symptom Manage 2003; 25: 357-362.
Morita T. Palliat Med 2004; 18: 550-557.
(4)鎮静開始後のケア
●定期的評価
苦痛・鎮静水準・有害事象
鎮静以外の手段・病態
(患者)家族の希望
●家族へのケア
●スタッフへのケア
定期的評価
定期的な評価をしない持続的鎮静は許されない
●目標とする鎮静が達成されていない状態では20分間に1回以上
目標とする鎮静が達成されている状態では1日に3回以上、定期的に評価
●苦痛が緩和され、かつ、意識の低下、有害事象がもっとも少なくなるように
投与量を漸増、漸減する
●評価項目
・苦痛の程度(苦痛の言語的訴え、表情、体動)
・意識水準(日常的な看護ケアの範囲内での刺激に対する反応)
・有害事象
・呼吸抑制(呼吸数、呼吸パターンの変化など)、舌根沈下、循環抑制
・誤嚥
・精神症状(せん妄など)
・鎮静以外の苦痛緩和の手段、病態、家族の希望の変化
●看護ケア
・鎮静開始前と同じように、誠実に、患者の尊厳に配慮して、声掛けや環境整備
などのケアを行う。
(4)鎮静開始後のケア
●定期的評価
苦痛・鎮静水準・有害事象
鎮静以外の手段・病態
(患者)家族の希望
●家族へのケア
●スタッフへのケア
内
容
Ⅰ. 背景
・歴史的経緯
・頻度
・鎮静に対する態度に関する医師の要因
Ⅱ. 概念
・定義
・安楽死との違い
・鎮静を妥当とする倫理原則
Ⅲ. ガイドライン
・作成経緯
・使用上の注意
・持続的深い鎮静に関する推奨と委員会合意
Ⅳ. まとめ
Ⅳ.まとめ
今後の検討課題
1.対象・方法
・ 緩和ケア病棟、緩和ケアチーム以外における適用可能性
・ ガイドラインを使用する医療者に求められる条件(研修、教育、専門性など)
・ 日本語、英語以外の言語圏での文献の検討
・ 費用対効用比の検討
・ 推奨の程度の明記
・ 持続的深い鎮静以外の選択肢(間欠的鎮静、浅い鎮静を含む)についての詳しい検討
2.定義
・ 生命の質、死の過程/死の質(quality of life, dying and death)の定義
・ 1次的鎮静、副次的鎮静の定義
・ 家族の定義の妥当性
3.臨床的・医学的項目
・ 鎮静により苦痛が緩和されている根拠の明示
・ せん妄が患者に苦痛になるかの明示
・ 鎮静を行う前に行うべき治療についてのより詳細な検討
・ 耐えがたい苦痛の妥当性(患者評価に加えて、社会一般に納得できるものであることが必要か)
・ 鎮静の決定をするのに必要十分な意思決定能力の明示
・ 文書同意の必要性
・ 家族の同意の必要性
・ 情報提供を行う臨床上の判断基準、倫理的根拠についてのより詳細な検討
・ 鎮静の適応となる生命予後の妥当性
・ 鎮静の適応となる身体条件としての「原疾患の増悪」の妥当性
・ 薬物投与アルゴリズムのより詳細な検討(投与量の漸増方法など)
・ Propofolやketamineの鎮静薬としての妥当性
・ 各鎮静薬が鎮静を経ずに苦痛緩和作用を有しているかの検討
・ 鎮静を受けた患者の遺族ケアのあり方
・ ガイドラインの実効性の検討
4.倫理的・法学的項目
・ 2重効果の原則の役割
・ 複数の専門家による法学的見解の妥当性
Ⅳ.まとめ
・鎮静は緩和困難な苦痛に対する専門的治療のひとつで
あり、高度な医学的・倫理学的判断が求められる。
・緩和治療専門医は、鎮静に関する医療行為の
rationaleを分かりやすい形で提示し、実践し、明らかに
なっていない課題を研究していく責務がある。