重力多体系の自己組織化と天の川銀河探査

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Transcript 重力多体系の自己組織化と天の川銀河探査

ビーム物理研究会2010 2010.11.11
重力多体系の自己組織化と
天の川銀河探査
国立天文台JASMINE検討室
郷田直輝
1
目次
§1 宇宙の階層構造
§2 自己重力多体系の力学構造と基礎概念
~重力多体系の自己組織化とは?~
§3 基礎方程式と無衝突系、平衡解
§4 緩和と力学構造
~カオス的遍歴と“熱平衡”~
§5 JASMINE(赤外線位置天文観測衛星)計画で
探る天の川銀河
§6 天の川銀河の力学構造構築
2
§7 重力多体系とビーム物理学
§1.宇宙の階層構造
宇宙の階層構造:広大なスケールに渡り様々な天体
が存在
★物理ーーー>天体の構造形成、天体現象
★“宇宙”ーーー>物理学:地上の実験室系では
中々見られない現象
特に、自己重力多体系の物理: 緩和過程、力学
構造
3
典型的大きさ(~光年)
4
宇宙の階層構造
中性子星
大きさ(cm)
質量(太陽質量)
密度(g/cm3)
地球
太陽
銀河
銀河団
超銀河団
106
109
1011
1022
1025
1
10-6
1
1011
1014
1015
5
1.4
10-24
10-28
10-29
1015
1026
5
★自己相似性
階層構造毎の運動は、ほぼ相似的。
もちろん、厳密には全く異なる。
6
★階層構造の形成
◎重力不安定性
○広大なスケールに渡る:密度で44桁!
○自己相似的な運動
“自己重力がなせるわざ”
★重力
実際的に長距離力
スケールフリー
7
補足:自然界の構造
大きさvs密度の図を参照
★重力ーーー>縦系列を形成
cf. 星や銀河の典型的なサイズ
重力以外の物理過程(“力”)が関与
8
池内 了著「宇宙と自然界の成り立ちを探る」(サイエンス社)
9
§2.自己重力多体系の力学構造と基礎概念
個々の天体の力学構造と形成過程は?
*力学構造: “平衡状態”での重力ポテンシャルの形や
粒子の分布(密度、速度、エネルギー)
“単純な”系である自己重力系を考える
◎自己重力多体系
系の構成粒子(天体)が、お互いの万有引力によって運動
し、束縛されている系
これらの系での力学構造を中心に今後考える
((天文学的に)詳細な形成過程は考えない)
特に、緩和過程、(準)平衡状態とその安定性など
(単なる熱平衡化ではないもの)
==>重力多体系の“自己組織化”
10
★ 太陽系の力学構造
惑星運動
ニュートン力学
○2体問題: 解析的に解ける(ケプラー運動)
○実際の太陽系:“多体”問題
*しかし、太陽が惑星に比べて十分重い
摂動法
3体問題:ラプラス、ポアンカレ・・・幾何学的、測度論的
手法の確率
複雑な軌道を描く場合あり
“カオス”
“カオス研究へ”
11
太陽系:
・楕円軌道も実際には他の惑星からの重力を受け
て複雑に変化
・非常に高い確率で太陽系は壊れない
しかし、壊れる可能性はゼロではない
★では、銀河などの多体系は?
大自由度系
・球状星団・・・・・・105個の星
・銀河・・・・・・・・・・1011個の星+ダークマター
どうなっているか?
12
§4.基礎方程式
(ボルツマン方程式+ポアッソン方程式)
と無衝突系、平衡解
流体: 局所熱平衡<<力学的時間<<大局的平衡
*場所の関数のみで記述可能
恒星系:力学的時間<<局所熱平衡~大局的熱平衡
*場所と運動に独立に依存(6次元位相空間)
◎(確率)分布関数or位相密度関数で記述
 
f ( x, v , t )
*密度分布との関係

 
3
  x    d vf ( x , v )
13
★無衝突系:その系で、考えている時間尺度では、衝突項が効かない場合
位相空間のある点から別の点へジャンプはなく、スムーズに動い
て、位相空間での“流体”は質量保存する。
従って、分布関数は、“流れ”にそって保存する。
 
  
df f
 

  fw  0, w  x , v 
dt t w
d   



  x  0 
 * 流体:
dt t x


f  
 f

 v  f     0(CBE)
t
x
x v
ポアッソン方程式
 
2
3
 =4 G =4 G  d v f ( x , v )
 
14
★衝突系
f  
 f  f 
v  f     
t
x
x x  t coll
 f 
  : 衝突項
 t  coll
衝突項による時間変化の項が、平均ポテンシャルに
よる時間変更の項より、十分小さい場合は、無衝突系
とみなすことができる。
15
★衝突系と無衝突系
(I)衝突系
重力散乱による2体緩和
2
テスト粒子が  V  になるタイム
スケール
0.04N
tr 
tc
lnN / 2
N:粒子数
t c :crossing
time
★2体散乱による効果が、考えている時間までに十分
効いている系のことを衝突系とよぶ
例:球状星団 tr  108 yrs  1010 yrs  宇宙年齢
衝突系
球状星団の力学進化:重力熱的カタストロフィー
“比熱”が負
16
(II)無衝突系
2体散乱の効果が、考えている時間までに十分に
効いていない系
例:銀河
tr  10 yrs  10 yrs  宇宙年齢
17
10
無衝突系
銀河は、星とダークマターからほとんど成る
無衝突自己重力多体系と見なせる
17
★CBEの解法
I.Dynamics
○directに解く数値計算
一般には、6次元+1次元(時間)の計算で困難(対称性
があり、変数が少数の場合は、可能)
位相分布を粗野化し、その代表を質点で近似
(N体近似): N体計算
○Jeans方程式(+仮定)に帰着し、解く
○平衡解の周りの摂動計算
II.平衡解(定常解)
Jeansの定理を用いる(後で解説)
18
★無衝突ボルツマン方程式の平衡解
★無衝突系の例: 楕円銀河
定常状態としたらどのような
状態か?(平衡解)
現在の力学構造
19
★平衡解:以下を満たす解
f
 0: t
かつ
 f
f
v        0
x
v

   4G  fd v (ポアッソン方程式)
3
(strong)Jeans定理を応用
20
★Jeans Theorem
○CBEの任意の定常解
運動の積分を通してのみ
位相空間座標に依存
○運動の積分の任意の関数
CBEの定常解
★Strong Jeans Theorem
ほとんどすべての軌道が、規則的(regular)であるとき、
定常状態の分布は、3つの独立な孤立積分の関数とし
てあらわされるだろう。
*ただし、3つの基本周期が、通約できない
(incommensurable)場合に限る
f ( I1 , I 2 , I 3 )
21
§4.緩和と力学構造
~カオス的遍歴と“熱平衡”~
例:楕円銀河
十分良い近似で自己重力多体系とみなす。
さらに、
tr  10 yrs  10 yrs  宇宙年齢
17
10
無衝突系
二体散乱による緩和は起こっていない!
22
しかし、・・・・
*楕円銀河:2体緩和していないが、楕円銀河には
いくつかの共通点がある
○密度分布は、ドゥボークルールの1/4則
○回転サポートではない
速度分散の
○ 3軸不等楕円体
非等方性
重力~速度分散による“圧力”
力学構造の詳細は分からないが、共通の特徴がある
ある種の“緩和”が起こっている

どういう緩和?
23
★楕円銀河の密度分布(光度分布)
◎ドゥボークルールの1/4則


I r   I e exp  7.67 r / re 
1/ 4

1
re : effectiveradius(theradius of theisophotoecontaining
1
half of the totalluminosity)  3h kpc
I e : surface brightnessat re 24
25
Surma,Seifert and Bender(1990)
★速度分散の非等方性(回転サポートではない)
巨大楕円銀河(L>2.5×1010L )は、ローテーション
サポートではなく、速度分散の非等方性により偏平
になっている。
26
◎以上のように、共通の特徴をもっていることから、
何らかの“緩和”を受けているようである
(しかし、2体散乱による緩和ではない)
“緩和”するメカニズムは?
また、その力学構造は?
27
★3軸不等楕円銀河の力学構造の構築
どんな力学構造をしているのだろうか?
◎3軸不等かつ速度分散が非等方
第3積分の存在!
28
もし、エルゴード的カ
 f E   v
2
オス(エネルギー以外 に積分なし)

 3
2 1 2
  v f E d v   v f  v   d v
2

2
3
 等方
従って、非等方
E以外の積分あり(2つ)
しかも、軸対称ではないので、角運動量ではない、
積分
◎積分量3つ
規則的軌道(regular orbit)で
構成されているはず
f ( I1 , I 2 , I 3 )
29
★まとめると、
三軸不等楕円体
ほとんど規則的な軌道で
構成されているはず
f  f ( I1 , I 2 , I 3 ) I1 , I 2 , I 3 : 積分量
if f  f ( E )  Vi   Vi f ( E )d V
2
2
3
E  E (V )
2
速度分散は等方に
なってしまう
regular orbitsで構成
Schwarzschild:regular orbitsによって、定常的
な三軸不等楕円ポテンシャルを
無矛盾に構築可能
30

★まとめと問題提起
★緩和
位相空間のミキシング
カオス
★3体問題:カオス
大自由度系は
もっと複雑?!
★三軸不等楕円体
規則的軌道で構成
矛盾??
この二面性はどう説明されるのだろうか?
実は、ハミルトン系のカオス、エルゴード性とも
関連
31
★安定カオス
◎大きく分けて2種類のカオス
・ergodic chaos
・stable chaos

カオスであっても長時間、あたかも
“regular”のようにみえる
*ある場合は、位相空間での残存トーラスの
複雑な自己相似構造に起因
32
トーラスのフラクタル構造
33
★安定カオスの例
◎Stagnant motion Y.Aizawa etal.(1989)
Stagnant layer
KAM(or cantor)トーラスの周りを
KAM
長時間まとわりつく
エルゴード
*カオスであってもあたかも
領域
“regular”のようにみえる
◎残存トーラスのフラクタル構造
stagnant layer
・pausing time T:
P(T )  T

(0    2)
long time tail correlation!
34
★問題提起
一種の“安定カオス”ではないか?
★ “安定カオス”
・長期的にトーラス付近に
まとわりつく
・状態の遷移
・滞在時間の分布
ベキ分布
トーラスのフラクタル構造
自己重力多体系でもみられないだろうか?
*楕円銀河の力学構造の二面性を説明可能か!?
カオスであり、かつregularになっている
35
★ 大自由度系での緩和とmixing(混合性)
カオス:少数自由度でも複雑な運動
熱平衡化

大自由度系:自由度を増やす
ノイズを加える
熱平衡化しやすいと期待
系のサイズN
∞ の時に、KAMトーラスの
体積は0になるのか?
◎大自由度系の保存系は熱平衡になるしかないか?
◎カオスとregular領域の混在する系での緩和、
熱平衡化に関しては未開拓
36
★1次元重力シート多体系による解析
------- Sheet Systems------N identical plane-parallel mass sheets, each of which has uniform mass
density and infinite in extent in the vertical direction of the moving
★Advantages

m N 2
Hamiltonia n : H   vi  (2 Gm2 ) x j  xi
2 i 1
i j

○phase space is compact, which makes the system tractable in considering
ergodicity
○the evolution of the system can be followed numerically with a good
accuracy.
○we can study the properties induced by long range forces even in the 1-D
systems.
37
◎緩和過程とカオス的遍歴
Complicated approach to “thermalization”
Initial state
(virial equilibrium:ビリアル平衡,τ~tc )
Microscopic relaxation: energy equipartition (エネルギー等分配)
“quasi-equilibrium state(QE)(準平衡状態)” τ~Ntc
Macroscopic relaxation: transit state(TS)
e.g. τ~104Ntc
QE
TS
QE
(遷移状態)
---------
thermal equilibrium(long time average=ensemble average)
microcanonical distribution(ミクロカノニカル分布)
38
τ~106Ntc (tc: crossing time, the typical time in which a sheet crosses the system
)
★初期条件
例えば、
Water Bagと等温分布(Isothermal)
Tsuchiya etal. Physical Review E 50,2607(1994)
39
★Chaotic Itinerancy(カオス的遍歴)
1
(t )   01 
N
1 t










lim

t

lim

t
d
t
 o t  i

i
t  t 0


1/ 2
N



e.g.
  (t )  
:degree of deviation from equipartition
2
i 1
i
0
(if fluctuation behaves in the same manner as thermal noise---> (t )  t
N=64
1/ 2
N=32
averaged
in time
over the
interval
t  2103
t  2105
40
★Remarks
1. Complicated relaxation process
Chaotic Itinerancy :
Probability distribution of the life-time of TS:
(QE: P( )  
0.5
P( )   2
)
Fractal structures of the barriers
in Γspace
2.Time scale of relaxation
 th   KS  1 / hKS , Lyap  1 / max 
( micro  1 / min )
What determines the time scale?
Size of the largest barrier?
41
★時間尺度の違い
 rel  10 Nt dyn
6
1
KS
h
4

5
 N t dyn
1
5

 N t dyn

 N t dyn
1
max
1
min
42
N
∞ , Chaos
Regular(≠Normal Gas)
Lyapunov exponent(リアプノフ指数):
  N 1/ 5 (for N  1)


   lim 1 ln d(t) 
d ( 0 )  0 ,t   t


d(0)


λ> 0
chaos
d (t )  d (0)e 
t
N=2:regular, N=3:chaos ===> N~20===> N
∞
most complex
regular
“Close encounter” (correlation of 2-body) vs.
Mean force
Chaos
Regular
(integrable system:可積分系)
N:smaller
effective
vs.
N:larger
effective
43
★カオス的遍歴について
ーー>秩序状態ーー>乱れた状態ーー>秩序状態
ーーー>
例: 乱流
非平衡神経回路モデル
GCM(Globaly Coupled Map)
xn1 (i)  (1   ) f xn i  
例 :ロジスティック

N
f x  j 

N
j 1
n

マップ f ( x)  1  ax2 個々の変数のカオス性と平均場による
引き込みとの競合
44
Localな
乱雑性
GCM
ロジスティック
マップ
カオス
vs
平均場
平均項
1次元重力シート
平均場の振動
or
離散性による
平均場からのずれ
平均重力場
regular
45
★議論
1. Chaos vs. Regular N: finite
2. “Equilibrium state”
relaxed normal gas
sheet system after “relaxation”
Maxwell-Boltzmann distribution
This system can be divided into
the independent subsytems
Chaotic itinerancy
Transformation!!
This system cannot be divided into
the independent subsytems
---> “ensemble average”
3. Other systems governed by long range
forces

e.g. Potential:
x j  xi (  1, 1 .5, 4.5)
(Ref.L.Milanovic et al. phys.Rev.E57,2763(1998))
-----> slow relaxation is similar.
46
★集団運動の規則性
◎通常の気体など
粒子数大(大自由度)
軌道はカオス(予測不可能)
しかし、 大自由度が幸いして、緩和後の巨視的な
系の状態を予測可能(統計力学の勝利)
◎1次元重力系
○大自由度になればなるほど、カオス性は薄れる:
・緩和時間が長くなる
・有限の自由度では、カオスと規則性との競合により
複雑な遷移現象を起こす
○エルゴード性が成立し、長時間平均=位相平均が
成り立っても、系全体の分布は熱平衡分布には
47
留まらない
★ 集団運動の規則性
*1次元自己重力系での巨視的な状態の変化を
“集団運動”と呼ぶことにする
◎Chaotic Itinerancy
(Transformation)
◎Time scale of relaxation
(Probability distribution
of QS and TS life time)
prediction
Hamiltonian
prediction

重力多体系における集団運動の規則性を何らかの法則で
48
予測できないか?
★集団運動を予測する法則は何か?
位相空間での幾何学的、測度論的な解析が
必要では?!
新しい“統計力学”の必要性
49
★3次元自己重力系(楕円銀河など)は
どうなのか?
○長距離という性質は同等: N
大で平均場が効く
*位相空間でのmixingは完全ではない(無衝突系なので
当然)
部分的な緩和ではないか?!
(ある特徴のみ共通)
○1次元系とのポテンシャルの形の違い
どう反映するか?
*少数の粒子が遠方に移動し(ハローを形成)、
他の大多数はコアを形成する
○銀河:準平衡状態ではないか。
regular orbitや安定カオス軌道がdominateかも。
本当の力学構造を知りたい
アストロメトリ観測
50
★今後の発展

3拍子
理論:カオス、複雑系、新たな統計力学
他の様々な長距離力系のモデル
実験:数値シミュレーション
(スパコン、専用マシン)
観測:天の川銀河のハロー、バルジ
構造
高精度アストロメトリ観測
欧米の計画:GAIA(ESA):すべて可視光
日本独自の計画
(赤外線スペースアストロメトリ(JASMINE)計画、VERA計画)
http://www.jasmine-galaxy.org/index-j.html
51
§5 JASMINE(赤外線位置天文観測衛星)
計画シリーズで探る天の川銀河
一連の赤外線位置天文観測衛星計画
超小型(主鏡口径5cm)
Nano-JASMINE
小型(主鏡口径30cm級)
小型JASMINE
中型(主鏡口径80cm級)
JASMINE
52
1.位置天文学とは? ~その重要性~
位置天文学:星の天球面上の位置とその時間変化を測定する天文学
星の位置の時間変化
目的:
星の天球面上の位置とその時間変化を測定することで、位置、年周視差、
固有運動を導出。観測終了後カタログを作成。
53
ー
年周視差とは
ー
年周視差:
地球の太陽まわりの公転から星
は天球上を楕円運動する。その
楕円の長半径を年周視差という。
年周視差の大きさから距離が分
かる。
三角測量の原理
54
ー
固有運動とは
ー
固有運動:
星は独自に運動し、天球上を
直線運動する。この天球面上
の運動を固有運動という。
55
★天体までの距離が重要な理由
1.天体の地図=>分布、構造が分かる
星団や銀河系内の星などの分布、構造
銀河の分布、宇宙の大構造
2.みかけの量(相対量)を真の量(絶対量)に
変換可能
例1:星の明るさはみかけのもの。
本当は明るくても非常に遠くにあれば、暗く見える。逆に本当は暗
くても近ければみかけは明るい。
例2:星が天球上を動く速さもみかけのもの
56
実際は速度が速くても遠ければ、天球上をあまり速く動かない。
★宇宙の距離はしご
遠くの天体までの距離をどうやって測っているのか?
近傍の天体までの距離測定結果を用いて、さらに遠
方までの距離を導出していく。
近傍から遠方へと手法をつないでいく方法を用いる。
57
57
年周視差測定は
距離はしごの土台
58
位置天文学の重要性の例
見えないものを“見る”!!!
ダークマター等の分布、軌道
銀河の構造、形成史、力学構造の物理などへも影響
重力場
(観測できる)星の分布や運動
星の位置天文観測
(天球上の位置、距離、接線速度)
+視線速度観測
位置天文学:星の天球面上の位置とその時間変化を
測定する天文学
星の天球面上の位置とその時間変化を測定すること
で、位置、年周視差、
固有運動を導出。観測終了後カタログを作成。
59
59
ー 位置天文観測で分かる事(まとめ) ー
距離
固有運動+距離
星の立体分布
星の本当の明るさ、放出している本当のエネルギー
星の接線速度(視線速度に垂直方向)
星やダークマターの分布や運動
星の形成や進化
以上より
銀河の構造や形成史
その他いろいろ(系外惑星探査、重力レンズ、
一般相対論の検証など)
60
2.位置天文学の歴史と現状
★位置天文観測の精度の変遷
測定精度
紀元前150年:ヒッパルコス(天文学者)
1000秒角
(1秒角=1/3600 度)
1838年:ベッセル (年周視差の発見!!)
~0.1秒角
*地動説の直接証拠
1988年:FK5 (Fifth Fundamental Catalogue)
~0.03秒角
*地上観測では、大気ゆらぎ等の影響で観測精度に限界。
スペースへ(ヒッパルコス衛星(ESA) :1989年打ち上げ)
1997年:ヒッパルコスカタログ
*1ミリ秒角
~0.001秒角
注意:以上は、可視光での観測。
電波観測は、VERAが精度を上げて、10万分の1秒角程度を
達成(ただし、星自体ではなく、メーザー源とよばれる星の
周りのガスを見ている)
61
位置天文観測の位置測定の歴史(現状)
1997年:ヒッパルコスカタログ~0.001秒角(1ミリ秒角)
*測定は1991年
ヒッパルコスの測定から20年:位置天文カタログは時間とともに精度悪化
ヒッパルコスと同程度の精度でも新しいカタログが必要
将来の10マイクロ秒角レベルの位置天文観測(GAIA,JASMINE)への架け橋
2011年:Nano-JASMINE
62
2011年の場所
が正確に決まる
と固有運動が正
確に定まる
63
63
★ナノ・ジャスミン衛星について
Nano-JASMINEはどんなもの?
衛星の仕様
衛星外形
50×50×50cm
質量
約35kg
打ち上げ
2011年8月
観測期間
2年
観測精度
~3ミリ秒角
観測等級
zwで8等級より明るい星
観測波長
zw-band(中心波長λ~0.8μm(ミクロン))
Nano-JASMINEの概観図
64
Nano-JASMINEはどんなもの?
Nano-JASMINE概観図(外観)
Nano-JASMINEの概観図(内部)
65
Nano-JASMINEはどこで開発?
開発体制
国立天文台JASMINE検討室:
衛星全体の仕様決定、観測装置(ミッション部)の開発
データ配信、データ解析(文部科学省宇宙利用促進調整委託費を利用)
東京大学工学部中須賀研究室:
衛星システム(無線機、姿勢制御、電源など)全般の開発
データ受信システム(宇宙利用促進調整委託費を利用)
京都大学理学部天体核研究室:
軌道上でのデータ処理関連(星像の切り出しなど)
データの受信・解析システムの構築(宇宙利用促進調整委託費を利用)
開発期間が比較的短い:一連の開発を経験できる:
学生の教育や若手研究者の育成、
衛星未経験者の衛星計画参入への敷居を下げる
開発の主体は学生(のべ36名(現在:18名))や若手研究者
66
Nano-JASMINEはどう観測するの?
軌道:地球周回軌道
(高度700km太陽同期軌道)
衛星スピン周期:100分
スピン軸方向: 太陽から45度
歳差周期:2ヶ月
*同じ星を年間6回以上観測
99.5度離れた2方向同時観測
運用期間: 約2年間
67
打ち上げが正式決定!!
Nano-JASMINEがウクライナのサイクロンー4
ロケットを用いて2011年8月にブラジルアルカ
ンタラ発射場から打上げ予定であるが、その契約
が2010 年2月26日に締結された。
打ち上げ契約成立!
68
サイクロンー4ロケット
© SDO Yuzhnoye
今までサイクロン-3型までの打ち上げ実績がある。
サイクロン-4型は、サイクロン-3型より打ち上げ
能力を上げたもので、今回の打ち上げが初号機
となる。低軌道で5300kg、静止軌道で1600kgま
で打ち上げ可能。
ユジノエ社(ウクライナ) サイクロン-4型
ロケット
4m
3m
打ち上げ契約成立!
40m
ACS提供
打ち上げのオペレーション:アルカンタラサイクロンスペース社
ウクライナとブラジルの合弁会社
アルカンタラ射場より打ち上げられる。
組立場
管制棟
射場
69
ACS社提供
★衛星自体の開発、試験は、ミッション部、バス部とも順調
に進んでいる。地上通信局の準備も着実に進んでいる。
予定通り、FMは組み立ては完了し、種々の評価試験を行い22年度
末には完成を予定している。
衛星のFM外観
太陽電池接着作業風景
望遠鏡のFM
70
Nano-JASMINEは何がすごいの?
超小型化への技術革新
●検出器の性能向上、高精度姿勢制御装置の小型化など
●低コスト。
●小さいながらヒッパルコス衛星と同程度の観測を行う!
*~3ミリ秒角
ESA提供
ヒッパルコス衛星 重量1.4トン
71
71
Nano-JASMINE衛星 重量35kg
今後のスケジュール
2011年3月 フライトモデル完成予定
*フライトモデル:実際に打ち上げる衛星
打ち上げロケットとの調整、試験、審査
2011年6月 フライトモデルを射場へ運搬
2011年8月 打ち上げ@アルカンタラ(ブラジル)
2013年
観測終了
2014年
Nano-JASMINEカタログ完成
*文部科学省宇宙利用促進調整委託費により、独自のデータ受信・配信システムを
構築し、国立天文台(位置天文データ)、東大(衛星システムデータ)からのデータ
配信を行う予定。
*Nano-JASMINEのデータ解析については、山田氏(京大理)を中心として、Gaiaのデータ
解析チームとの協力が順調に進んでいる。Gaiaの解析ソフトをNano-JASMINE用
に転換したりヒッパルコスカタログと結びつける仕事でD論をとる予定の学生も
いる(@Spain, ESA)
72
★JASMINE計画シリーズ
一連の赤外線位置天文観測衛星計画
超小型(主鏡口径5cm)
小型(主鏡口径30cm級)
中型衛星(主鏡口径80cm級)
Nano-JASMINEはシリーズにおける最初の人工衛星
73
天の川銀河の概要
★恒星が約2000億個集まった集団。
★銀河面(ディスク)、バルジ、ハローの成分に分かれる。
74
次世代位置天文観測衛星計画
10マイクロ秒角の位置天文観測
(Gaia, JASMINE)
10マイクロ秒角の測定で正確
に距離測定ができる領域
ヒッパルコス衛星、ナノ・
ジャスミンで正確に測定
できる領域
2万6千光年
データ解析チームと連携(国際協力)
2012年:Gaia(ガイア(ESA):ヨーロッパの全天可視光位置天文観測衛星)
2016年頃:小型JASMINE(赤外線観測:バルジの方向の一部)
75
75
2020年代:JASMINE (赤外線観測:バルジ全域)
76
76
§6 天の川銀河(銀河系)の力学構造構築
★銀河系の力学構造の構築方法
高精度アストロメトリ観測
銀河系の力学構造
密度分布
重力ポテンシャル
mean streaming
速度分散
分布関数
f (x, v)
・
・
77
★ダークマター+星=collisionless matters
collisionless Boltzmann eq + Poisson eq.
f
t
v
f
x
 
f
v
0
   4 G
 

力学構造の解明
3
f (x, v)d v
(1)
(2)
(3)
この解が分かること
78
観測データ
どうやって、 何が分かるのか?
*位置と速度だけでは、 ポテンシャルは直接分からない
*観測は、 一部の星のみ。 本当はすべての重力物質の情報
が必要
良いデータが出てくればくるほど、 きちんと考えておかなく
てはいけない
79
★解析方法
モデルを仮定
template
観測データ
統計的解析
様々なモデルを試行
観測からどうやって分かるか?
もし、 sample数が無限なら言うことはなし
sample数は“ 有限”
それを反映する( 背後にある) 力学構造
( 分布関数、 重力ポテンシャル) は何か?
統計的解析方法の検討
80
★モデル
★定常
★非定常
重力多体系の緩和
長距離力系の
統計物理
部分的緩和 “ 準平衡状態”
初期条件依存性
銀河系の
形成・ 進化過程
先ずは、 定常モデルから考えていく
81
★定常
f (x, v)  f (I1, I2, I3)
定常モデル
( 強い) ジーンズ定理
例
球対称
f  f (E)
軸対称
3軸不等
Ii :
o r
積分量
f  f (E, L )
2
f  f (E, Lz )
f  f (I1, I2, I3)
※regular orbitsでほとんど構成されている
82
★解析方法
各構造の要素毎に、定常ポテンシャル   を仮定

これに対して、 f J '
の関数形を仮定。
 

J'

をgiven
  
Torus Construction法and/or
Torus Fitting法で、
 
 
 
 
J ' ,  J,  q, p  f q, p
が求まる。
J,θは、あるToy Hamiltonianの作用、角変数
 

f
q
* 分 布 関 数  , p の形は、重み因子計算法で求
める。
あるJ'をもつ”粒子”の運動(軌道)の重み因子
f  J'
:これは、確率分布関数でもある。
比較
観測データ
最も合う、関数形、重力ポテンシャルを
見つけていく。
83
★現実の問題
I.観測による選択効果:
観測された星は、ある特徴で選別された有限の
サンプル(ディスクやバルジといった構造要素毎に異なる)
星の初期質量関数、形成史
現在の星の明るさ、色
実際の確率分布関数=

( 構造要素)
(選択確率×力学的
な位相分布関数)
力学構造や形成史
観測データ
84
◎“ 定常モデル”
( I) 一般的
f (I1, I2 , I3 )
※バルジの取り扱いには必要
(i)Orbit based method:
Self-consistent model
Schwarzschild(1979)
密度を仮定
   4 G
   imp
f
t
 v
 

f
x
 
f
v
 0
多くの粒子( 1つの位相
密度を代表) の軌道を計算
f (x, v)d3v
軌道から密度を構成:
 imp   resp
と、 できるか?

r
e
s
p
(ii)Integral based method
Torus Construction
85
§
2. Torus Construction
(McBill & Binnet 1990, Binnet & Kumar 1993, Kasalainen & Biney 1994)
をみつける。
f (J1, J2, J3)
★方法

  x
1.定常な重力ポテンシャルを仮定:

  を用意
2.積分可能なハミルトニアン H0 J
 
q, p  J,
 

の変換が解析的に解けるもの
3.仮定した定常ポテンシャルに対応をする
ハミルトニアンを
★

H  H(J ' )
H
とする。

となる J ' を見つける
86
 
. J,
 
  J', '
となる変換の母関数を
とする
 
 


S , J '   ・ J ' i Sn J 'exp(in )


n 0
 



J    S , J '  J '  nSn J 'exp(in )


 


 '   J ' S  , J '
87
5.以下のように、 S を求める
n
 
(i)各  , J ' について、trialの

対応する J を求める。


J,  
(ii)


q, p
Sn
を用いて、
を計算して、
 
H(q, p) を計算する。


(iii)同一の J ' に対して、  を変化させた
Np 個のサンプルに対して、

2

 J' 
S
n
2


H

H
,H 

1
Np

 
を最小にする Sn J '
 

を各
 
6.
以上より、J ',   J,

1
Np

H
J ' ごとに求める。
が求まる。
88
★Torus Fitting法
○Torus Construction法の問題点
target torusの構造が、toy torusとかなり違っている場合、
正確な構築は、エネルギー条件だけでは非常に困難な場合もある。
1次元に比べて、2次元、3次元になるとトーラス構造がより
複雑になるため、困難性が増す。

 
( x, v )  ( J ' , )
の変換性だけみつかれば十分
Torus Fitting法
89
Torus Fitting法の手法
1.Target ハミルトニアンのもとで、いくつかの軌道を実際に計算。
=>
J '  pdq

2. Toy ハミルトニアンをgiven(ハミルトニアンの中にパラメータが
含まれている).
1で解いた軌道が、このToy ハミルトニアンの ( J ,  ) に対してとる
値を計算する。
3. 2で求めた作用、角変数の組に対して、作用変数の平均値が、
J’と一致するように、Toyハミルトニアンのパラメータを順次
変化させる。
 

 

4.3の手順で一致すれば、 J   S  , J '  J ' nSn J ' exp(in )
より、変換の母関数を求める。
 

 
90
★重み因子法
Syer&Tremaine, M.N. 282,223(1996)
1. ポテンシャルをgiven
2. Observables:
(密度分布など)



Y j   d z K j ( z ) f  z ; ( j  1,2,  , J )
6
Kj:Kernel
*Observableは、大抵の場合、密度場。

 6
Kernel
(3) 
 3
K j ( z )d z   x  x j d xd v
3
3.Orbit libraryを作成: Z i (t )
91
Self-Consistentなモデルの構築
Self-consistentとは?
N


y j (t )   wi K j zi (t )として、
Y j  y j (t ) となる場合
i 1
◎重み因子を、正しい答えに収束するように、時間的に変化させる。


1 dwi (t )
 F y j (t )
, Yj 
wi dt
Likelihood function: F


F y j (t ), Y j   
   2 


,


2  wi 
J
y j (t )
1
2
2
 wi     j ;  j 
1
J j 1
Yj
92
結局、

K j zi (t ' )
dwi (t )
 wi (t )
 j (t ' );   0
dt
Yj
j 1
J
この解は、形式的に、以下のように書ける。

J K  z (t ' ) 
 t

j
wi (t )  wi (0) exp   dt'
 j (t ' )
Yj
 0 j 1

基本的には、Orbit libraryをもとに、この式を計算すれば、
重み因子、つまり、あるトーラス(1つの軌道に1つ対応)の
位相分布が求まる。
93
§7.自己重力系とビーム物理学
~むすびにかえて~
重力多体系非中性プラズマビーム
古典ハミルトン多体系、長距離力系
共通の基礎方程式(ボルツマン+ポアッソン方程式系)
自己組織化の物理等:統一的に扱える!
94
例:
★解析手法の相互適用
○平衡状態の構築(Torus fitting法+重み因子法)
○平衡解の安定性の解析
電磁ポテンシャルや外場
○緩和過程の解析
入りの系にも適用可能
★現象の統一的理解
非線形集団運動、カオス、長距離力系の統計力学など
基礎科学の発展へ
さらに、これらを基盤として、
応用科学の進展へ
(次世代加速器など)
95
図3:古典多体系研究ネットワーク
96
★科研費新学術領域(研究領域提案型)への申請
課題名:古典ハミルトン多体系の自己組織化と制御・応用に関する
統一的アプローチ
領域代表:岡本宏己(広島大)
計画研究
A01:クーロン多体系の
自己組織化と制御・応用
(代表:岡本宏己(広大))
A02:重力多体系の
自己組織化
(代表:郷田直輝(国立天文台))
A03:ビーム・加速器の
高度化
(代表:野田耕司(放医研))
研究分担者は、
総勢12名
97
分野を超えた相互協力を!
今後ともご支援、ご協力を
よろしくお願いします。
98
ありがとうございました
Jasmine
99
参考文献
References on our work
1. T.Tsuchiya , T.Konishi and N.Gouda,
Physical Review E, 50, 2607(1994).
2. T.Tsuchiya, N.Gouda and T.Konishi,
Physical Review E, 53, 2210(1996).
3.T.Tsuchiya, N.Gouda and T.Konishi,
Astrophysics and Space Science, 257, 319(1998).
4. T.Tsuchiya and N.Gouda,
Physical Review E, 61, 948(2000).
5. 土屋俊夫、小西哲朗、郷田直輝
「重力シート多体系の緩和過程とカオス的遍歴」、
日本物理学会誌 1997年10月号 783頁
6. 郷田直輝
「自己重力多体系の物理」、数理科学2000年3月号76頁(サイエンス社)
100
★参考書
基礎的なもの
○Binney&Tremaine: Galactic Dynamics, Princeton
(○Binney&Merrifield: Galactic Astronomy, Princeton)
○Saslaw: Gravitational Physics of Stellar and
Gravitational System, Cambridge
○加藤正二:天体物理学基礎論、後藤書房
101
その他(各トピックス)
○重力熱的破局、宇宙の進化とエントロピー
杉本大一郎:「宇宙の終焉」、ブルーバックス、講談社
○宇宙の進化とエントロピーについて
杉本大一郎:「いまさらエントロピー?」、丸善
○銀河について
家 正則:「銀河が語る宇宙の進化」、培風館(1992)
○力学系に関して
丹羽敏雄:「力学系」、紀伊国屋書店(1981)
丹羽敏雄:「数学は世界を解明できるか」、中公新書(1999)
○ハミルトン系のカオスに関して
相沢洋二・原山卓久:「カオスを視る」、別冊・数理科学 1998年10月号
小西哲朗:「大自由度ハミルトン系」、数理科学 1999年8月号
A.J.Lichtenberg&M.A.Lieberman: Regular and Stochastic Motion
Springer-Verlag(1983)
○エルゴード性、KSエントロピーについて
中野藤生・服部眞澄:「エルゴード性とは何か」、パリティ物理学コース、
丸善(1994)
○カオス的遍歴に関して
金子邦彦・津田一郎:「複雑系のカオス的シナリオ」、朝倉書店(1996)
102