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直観主義フレーム上の古典論理 東京工業大学 数理計算科学専攻 岩波 克 [email protected] 目次 • 直観主義フレーム • 直観主義フレーム上の古典論理 • 補足・今後の課題 直観主義論理 • 古典論理から排中律を抜いた論理 – A∨¬A、¬¬A→A、(A→B)∨(B→A)は真にならな いことがある • プログラムの型理論と相性がいい – カリー・ハワード対応 • クリプキモデルやハイティング代数の意味論 が知られる 論理式 • 命題論理を考える – 命題変数:可算個p,q,r,…… – A,Bが論理式なら、A∧B、A∨B、¬A、A→Bも論理 式 クリプキフレーム • 反射推移性を持つ順序集合(W,R) 付値 • 直観主義のクリプキモデルは、クリプキフレー ム(W,R)と付値Vの組(W,R,V) • 各命題変数に対して、真となる世界の集合を 遺伝性 w∈V(p)⇒(∀w’ wRw’⇒w’∈V(p)) を持つように定める。 遺伝性 p:真 p:真 p:真 p:真 p:真 p:真 p:真 p:真 q:真 q:真 q:真 q:真 付値の拡張(∧、∨) • V(A∧B)=V(A)∩V(B) • V(A∨B)=V(A)∪V(B) A:真 B:真 A∧B:真 A∧B:真 C:偽 (A ∧B)∨C:真 付値の拡張(→) • V(A→B)={a∈W;∀b aRb⇒(b∈V(A)⇒b∈V(B))} A:真 A:偽 B:偽 A→B:真 A:真 B:真 B:真 A:真 A:偽 B:真 A:偽 B:偽 B:偽 A:偽 A:偽 B:真 B:真 A:真 A→B:偽 B:偽 付値の拡張(¬) • V(¬A)={a∈W;∀b aRb⇒b∉V(A)} A:偽 A:偽 ¬A:真 A:偽 A:偽 A:偽 付値の拡張 • • • • V(A∧B)=V(A)∩V(B) V(A∨B)=V(A)∪V(B) V(A→B)={a∈W;∀b aRb⇒(b∈V(A)⇒b∈V(B)))} V(¬A)={a∈W;∀b aRb⇒b∉V(A)} • このように定義すると、論理式に関する遺伝性 w∈V(A)⇒∀w’ (wRw’⇒w’∈V(A)) が成り立つ。 • (∀(W,R,V) V(A)=W)⇔論理式Aは直観主義で真 と定義する。 モデルの解釈の一例 • クリプキモデル(W,R,V)の世界w∈Wで論理式A が真ということを、「wで得ている知識(=命題 変数)でAが判明する」と解釈する。 – ¬Aは、「これ以後どのように知識が増えても、A とは分からない」と解釈する。 – 「時間が経てば知識は増える」というのが、命題 変数の遺伝性。「知識が増えれば分かることも増 えていく」というのが論理式の遺伝性。 – 特に、一点からなるクリプキモデル(=古典論理 のモデル)は知識が増えないモデルになる。 p∨¬p p p∨¬p p P∨¬p? p∨¬p p ¬p ¬p P∨¬p? ¬p ¬p ¬p ¬p ¬p ¬p p∨¬p p ¬p ¬p P∨¬p:偽 ¬p ¬p ¬p ¬p ¬p ¬p 直観主義フレーム上の古典論理 • では、直観主義クリプキフレームの立場から、 古典論理を見るとどのように見えるだろう か? • 直観主義フレームと命題変数に対する付値 は同じにして、 「 (∀(W,R,V) V(A)=W) ⇔Aは古典論理で真」 が成り立つようにVの解釈を定めたい。 極大点を見る • 極大点では、これ以上知識が増えることはな いので、古典論理のモデルと変わらない。 • よって、w∈Wの真偽を極大点(無限遠点)で の真偽と一致するようにすれば、古典論理の モデルになる。 – 直観主義の付値Vを用いて、 V’(A)={a∈W;∀b aRb⇒∃c (bRc∧c∈V(A))} とすればよい。 V’(p∨¬p)=W V’(A)={a∈W;∀b aRb⇒∃c (bRc∧c∈V(A))} p V’(p∨¬p)=W V’(A)={a∈W;∀b aRb⇒∃c (bRc∧c∈V(A))} p ¬p ¬p ¬p ¬p ¬p ¬p ¬p ¬p V’(p∨¬p)=W V’(A)={a∈W;∀b aRb⇒∃c (bRc∧c∈V(A))} P∨¬p P∨¬p P∨¬p ¬p P∨¬p P∨¬p ¬p ¬p P∨¬p V’(p∨¬p)=W V’(A)={a∈W;∀b aRb⇒∃c (bRc∧c∈V(A))} p ¬p ¬p ¬p ¬p P∨¬p ¬p ¬p ¬p ¬p V’の意味 • 極大元で成り立つ論理式の共通部分が全体 で成り立つ。 p:真 P:偽 V’の意味 • 極大元で成り立つ論理式の共通部分が全体 で成り立つ。 Pが真の古典論理の付 値で真となる論理式 Pが真な付値でも偽な付値でも 真となる論理式 Pが偽の古典論理の付 値で真となる論理式 V’の意味 • V’(A)=V(¬¬A)なので、 「(∀(W,R,V) V’(A)=W)⇔Aが古典論理で真」 は、グリベンコの定理 「 ¬¬Aが直観主義で真⇔ Aが古典論理で真」 を意味している。 直観主義フレーム上の古典論理2 • 次のように(W,R)上の付値V’’を定める。 – 命題変数については、Vと同様、遺伝性を持つよ うに定める。 – 次のように論理式全体へ拡張する。 • • • • V’’(A∧B)=V’’(A)∩V’’(B) V’’(¬A)={a∈W;∀b aRb⇒b∉V’’(A)} V’’(A∨B)={a∈W;∀b aRb⇒(∃c bRc∧(c∈V’’(A)またはc∈V’’(B)))} V’’(A→B)=V’’(¬A∨B) V’’(p∨¬p)=W p ¬p ¬p ¬p ¬p P∨¬p ¬p ¬p ¬p ¬p 補題 V(A)⊂V’’(A)⊂V’(A) • 任意の、フレーム(W,R)と命題変数の割り当てVに対 して、V(A)⊂V’’(A)⊂V’(A)が成り立つ。 • Aの構成に関する帰納法で示せる。 – V(B)⊂V’’(B)⊂V’(B)、V(C)⊂V’’(C)⊂V’(C)のとき、 V’’(A)は以下の通り。 A=B∧C V’’(B) V’’(C) V’’(A) V V V その他 不明(V⊂V’’⊂V’) V’ V’ V’ A=¬B 全て 全て V=V’’=V’ A=B∨C 全て 全て V’ V’’は古典論理 • (∀(W,R,V) V’’(A)=W)⇔Aは古典論理で真 を示す。 – ⇒は一点からなるクリプキモデルを考えれば成立。 ⇐を示す。Aが古典論理で真のとき、 • ∀(W,R,V) (V’’(A)=W ⇐ V’(A)=W) を言えば良い。 – Aの構成に関する帰納法 • Aが変数のときは条件を満たすものはない。 • A=B∨C、¬Bのときは補題の証明より成立 • A=B∧Cのとき ∀(W,R,V) V’(B∧C)=W ⇔ ∀(W,R,V) (V’(B)=WかつV’(C)=W) ⇔ ∀(W,R,V) (V’’(B)=WかつV’’(C)=W)(IHより) ⇔ ∀(W,R,V) (V’’(B∧C)=W) 以上より示せた。 動機 • ∧と¬の断片では直観主義論理と古典論理 が一致することが、このモデルを使うと一目で 分かる。 – V゜(A∨B)={a∈W;∃b aRb∧(b∈V’’(A)またはb∈V’’(B))} では論理式の遺伝性が成り立たず、古典論理にならない。 p (p∨⊥)∧(¬p∨⊥) ¬P MP • (W,R,V’’)では意味論よりMPが成り立つことが すぐには分からない。 B B B A→B,A B B 今後の課題 • この性質を利用して面白い論理は作れない か? – 例えば、 V’’’(A∨B)=V(A∨B) V’’’(A→B)=V’’(A→B) とすると、MPが成り立たないが、公理化できるか? (この例ではできない模様) • 他の論理への拡張(直観主義二階命題論理 など)