ストラクチャード・ファイナンスSF格付

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Transcript ストラクチャード・ファイナンスSF格付

・米国投資銀行リーマン・ブラザーズの
破綻と格付け
• リーマン・ブラザーズの格付け:S&P
– 2008年6月:A+ → A
– 9月9日:A → A(クレジット・ウォッチ)
– 9月15日:リーマン・ブラザーズ破産法適用申請
• かなりの高格付けからいきなりデフォルト
– Aの格付けは、現在の日産(BBB+)より上
– 格付会社に対する批判
• 格付会社S&Pの反論
– 経営の基本的状態(ファンダメンタルズ)は債務履行に問
題が生じうる程には悪化しておらず、金融危機が収束す
れば収益性は回復可能だった。
– 破綻の原因は市場心理の極端な悪化による信用の喪失
– 市場心理の急激な悪化といった事態は、基礎的な信用分
析では予見できない
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・米国投資銀行ベアー・スターンズの破綻2008年3月
・200億ドル弱の流動性が3日間で枯渇
・破綻時のベア・スターンズの流動性保有量の推移
Bank of England, Financial Stability Review,
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○ストラクチャード・ファイナンスSF格付
• 従来の格付対象:事業会社、金融機関、公的機関
• 1980年代の証券化の発展に伴い証券化を対象と
する格付(SF格付)が始まる
– 金融危機直前、世界の主要格付会社の収益の5割以上
がSF格付によるもの
• SF格付の特徴
– 証券化の対象資産のキャッシュフローの分析
• 公社債格付に比べて数理モデル・計量分析に大きく依存
– 特別目的会社SPC・サービサー等の証券化の仕組の安
定性の分析
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4
○証券化の仕組
サービサー
債権譲渡
住宅
ローン
借入証書
オリジ
ネーター
住
宅
ロ
ー
ン
負
債
資
本
・
債(
不
務足
者主
体
)
銀行・ノン
バンク
ローン元利金
の回収・管理
住
宅
ロ
ー
ン
(
資
産
担
保
証
券
SPC(特別 )
目的会社)
・Special Purpose Company
・Asset Backed Security
A
B
S
証
券
市
場
投(
資余
家剰
主
体
)
5
○格付会社の収入
○格付会社:純粋民間会社
• 19世紀中頃米国で格付け始まる~1960年代:
– 投資家からの情報提供料の受け取り(投資家側の
ニーズから格付会社が登場)
• 米国:1960年代末~:
– 投資家への情報提供料プラス
– 背景:格付けの普及
→格付けを取得しないと投資家が債券を買ってくれ
ない。高い格付けを取得すれば低金利で債券の発
行が可能。
→発行体にとって格付け取得が必要
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○格付けの信頼性
–
–
–
–
格付け対象の企業との癒着?、中立性?
格付けの品質を保証する制度が存在するか?
⇒存在しない
信頼確保のメカニズム(
)
• 甘い格付け
→格付けが高い企業でもデフォルトが多発
→投資家がその格付会社の格付けを信用しない(その格付会社
の評判が悪くなる)
→その格付会社から高い格付けを取得しても低い金利で債券が
発行できない
→債券発行企業がその格付会社に格付けを依頼しなくなる
– 投資家は格付会社のこれまでの実績から、その格付け
の信頼性を判断する
• 危機後の金融規制強化の中で、格付会社の情報開示を強化
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○サブプライム金融危機と格付の信頼性
・ABSCDO(再証券化商品)の格下げ状況
・民間RMBSの格下げ状況
09.08.07現在
発行当初AAA(05-07):
格下げ率:63%
BB以下への格下げ:52%
IMF, Global Financial Stability Report,
Oct.2009, p.93,88
・すべての証券化商品で大量・大幅な格下げが生じた訳ではない:格下率(Moody’s)
米国
ABSCDO
米国サブプライ
ムRMBS
米国クレジッ
トカードABS
米国CMBS
米国証券化
全体
日本
2007年
20%
18.5
0
0.8
8.1
0.3
2008年
90.8
54.3
4.5
4.3
38
1.8
RMBS:住宅ローン担保証券、CMBS:商業不動産ローン担保証券
8
• サブプライムRMBSの格付の問題点
• 当初の推定損失率が低過ぎた←データに基づく
– サブプライムローンの推定損失率の度重なる改定(S&P)→大
量の大幅格下げ
» 当初(06年):6~7% → 12 ~14%(07年7月) →
19% (08年1月)
• データの信頼性
– サブプライム住宅ローンは新しい商品であるため、データ期間
が短い
– データの期間は住宅価格上昇の時期であり、損失率が小さい
– 2006~07年には虚偽の情報に基づく貸出(オリジネーターの
モラルハザード)が横行
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• 格付会社と証券化商品格付け
– 世界の大手格付会社の収入の5割以上は証券
化商品の格付けからであった
– 証券化商品格付け(SF格付け)では、格付依頼が
少数の大手の金融機関からに限定
• 企業格付けでは外部から債務償還能力を評価
– 証券化商品が投資家に売却できる形で、何とか
案件を成立させようという誘因が格付会社に働く
(
)
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• 格付会社への規制の導入
– 米国:2006年格付機関改革法(SECによる監督)、
日本:2009年金融商品取引法改正(金融庁による監督)、
EU:2009年格付機関規制法
– 登録制導入、情報公開
• 金融危機後の規制強化:米国の例
– 利益相反の防止:顧客対応部門と格付付与部門との分離の
徹底、格付会社によるアレンジャーへの提案行為禁止
– 格付手続き・手法の情報開示:原資産情報の検証やオリジ
ネーターの質の評価についての情報開示
– 証券化格付上利用された情報の他の格付会社への提供
• 格付会社による自主的改善策
– 格付ランク以外の情報の提供
• 変動性スコア:格付が大幅に変動する可能性のランク付け
• 損失感応度:損失予想変化に対して格付がどれだけ変化するか
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• 第2章参考文献
• 格付投資情報センター『格付けQ&A』日経新聞社.
第2章 2001年
• 黒沢義孝『格付けの経済学』PHP新書 1999年
• 江川由紀雄『サブプライム問題の教訓:証券化と格付
けの精神』商事法務 2007年
• 江川由紀雄「証券化商品の大量格下げが示した統計
モデルの限界」『金融財政事情』08年2月25日号
• 福田徹「証券化商品に対する格付けを考える」『証券
レビュー』48巻1号08年1月
• 小立敬「日米欧の新たな格付機関規制の方向性」
『野村資本市場クォータリー』2009 Winter
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