Transcript 豊田 貴史
がんについて 理学部応用理学科 B113K156U 豊田 貴史 紹介する問題 1. がんは遺伝子の病気ですが,病気自体は基本的に親から 子へは遺伝しません。つまり,いわゆる“遺伝病”ではあり ません。なぜか説明してください。 2. がん遺伝子と原がん遺伝子の違いを説明してください。 3. がん抑制遺伝子とはどのような遺伝子ですか?簡単に説 明してください。 「がん」は遺伝病ではない? • 「がん」のほとんどは遺伝子突然変異の積み重ねによるもの • 先天的なものは2割に対して、後天的なものは8割を占める • がん発症リスクを高める要因 ① 性別 ② 年齢 ③ 環境要因 • ヒトの体には、細胞や遺伝子のがん化を感知して、取り除く機 構がある • その機能が失われると、発症するのが「がん」である • よって「がん」は遺伝病ではない 日本人と日系アメリカ人での がん発症リスクの比較 発症リスク 胃がん 日本人 高い 日系アメリカ人 低い 3世 乳がん・前立腺がん 低い 高い • 遺伝による発症とは考えにくい • 生活習慣の違いによる差 がん遺伝子と原がん遺伝子 • がん遺伝子 ガンの原因となる異常な遺伝子 増殖のスピードがコントロールされていない細胞の合成 例.v - src遺伝子 • 原がん遺伝子 がん遺伝子のもととなる正常な遺伝子 増殖のスピードがコントロールされた細胞の合成 例. c - src遺伝子 v-Src と c-Src の構造上の違い 画像出典 : 深見泰夫(2011)『分子生物学』,p.207. がん抑制遺伝子 • がん抑制遺伝子:がん発現にブレーキをかける遺伝子 例.p53 遺伝子:DNAの傷を認識する転写因子 異常なDNAの合成停止 異常な細胞をアポトーシスして取り除く • 突然変異で機能が喪失すると、がん細胞を取り除くことができなく なる • 他にも、Rb遺伝子、APC遺伝子がある 参考資料 Life Science Laboratoryがん関連遺伝子:増殖と抑制のバランスが崩れると× http://www.ueharazaidan.com/genotype.html (参照 2015-01-24) 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター 家族性腫瘍の説明 3.家族性大 腸腺腫症 http://www.shikoku-cc.go.jp/hospital/guide/kranke/outpatient/support/geneticfamilial/fap/ (参照 2015-01-28) 財団法人 環境科学技術研究所 ミニ百科 がん遺伝子とは http://www.ies.or.jp/publicity_j/mini/2006-09.pdf/ (参照 2015-01-28) 役に立つ薬の情報~専門薬学 がん抑制遺伝子、免疫機構 http://kusuri-jouhou.com/creature2/yokusei.html (参照 2015-01-28) 深見泰夫. “分子生物学” 化学同人. 2011, p.205-209 跡見祐. “がん治療update” 日本医師会. 2009, p.28-30 質問その1 • Q.性別と年齢はがん発症にどうして関係しているのか? • A. 性別:はっきりしていない部分が多いですが、男性ホルモンと女 性ホルモンが原因ではないかと考えられます。例えば、乳がん の場合、女性ホルモンの過剰分泌が影響していると言われて おり、男性でもごく一部で発症した事例がありますが、圧倒的に 女性の方が発症率が高いです。 年齢:年老いた組織は若い組織と比べて、突然変異を起こした 遺伝子を多く蓄積する傾向があります。そのため、若い組織と 比較すると、がん遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の機能不 全が起こりやすい傾向があります。 質問その2 • Q.胃がんと乳がん、前立腺がんは何が原因で発症するのか? • A. 胃がん:禁煙、塩や高塩分食品のとり過ぎ、野菜、果物不足による 胃の粘膜の遺伝子の損傷が原因とされています。 乳がん:因果関係はまだはっきりしていませんが、動物性脂肪の 摂取量の増加や、遅い出産などによる女性ホルモンの過剰分泌 が関係していると言われています。 前立腺がん: :因果関係はまだはっきりしていませんが、動物性脂 肪の摂取量の増加による男性ホルモンの過剰分泌が原因とされ ています。 質問その3 • 嗜好品や環境がどのようにがん発症に影響を与えているの か? • A.結局は嗜好品や環境が遺伝子を傷つけやすい物であれ ば、がん発症のリスクを高めやすいのです。例えば、タバコは 肺がんを誘発しやすいと言われていますが、これはタバコの 煙に200以上の有害物質が含まれ、これが肺の組織の遺伝 子を損傷させる可能性が高いため、有害な嗜好品や環境は がん発症のリスクを上げやすいのです。 質問その4 • Q.スライド6のチロシン残基について、欠失するとどうして細 胞ががん化するのか? • A.チロシン残基には細胞のリン酸化、脱リン酸化を制御する 働きがあります。リン酸化はキナーゼと呼ばれる酵素によって ATPのγ位のリン酸がチロシン残基に付加されることでタンパ ク質の活性をONにします。脱リン酸化は逆の働きをします。こ のc ‐Srcにはチロシン残基があり、細胞増殖が制御されてい ますが、v ‐Srcでは欠失しているため、常に活性化された状態 になり、異常な細胞が増殖する原因になっていると考えられま す。 質問その5 • Q.がん発症の8割が遺伝子によることが分かったが、残りの 2割の原因は? • A.この質問に関しては、私が間違った説明をしていました。こ れは、がんの8割近くが後天的なもの(生活習慣、環境)で、残 りの2割が先天的なもの(生まれながら受け継いだもの)が正 しいです。つまりはどちらとも正常な遺伝子の変異が原因であ ります。 質問その6 • Q.環境によってがん発症のリスクが上がるのはなぜか? • A.周りの環境が遺伝子にとって悪影響なものであればある ほど、突然変異を起こす可能性が高くなり、がん発症のリスク が上がるからです。例えば、オーストラリアに住む人は、北半 球に住む人と比べて、皮膚がんの発症率が高いです。これは 近年、南極付近のオゾンホールの破壊によって、有害な紫外 線は高い傾向にあります。そのため、オーストラリアで生活す ると有害な紫外線を浴びる可能性が増大するため、皮膚がん 発症リスクが高いのです。 質問7 • がん遺伝子は親から子へ受け継がれる遺伝病ではない。そ の理由は? • この質問に関しては、私が一部勘違いをしていました。遺伝病 とは親で起こった遺伝子の突然変異が子供に受け継がれるこ とです。ほとんどのがんは親から子に遺伝しません。それは 大部分のがんが年齢を重ねるにつれて遺伝子が傷つくという、 後天的な突然変異によるものだからです。生まれながらにし て遺伝子に変異があり、これが親から遺伝したものである場 合に限り、遺伝病と言えます。