サポチル10周年記念子どもの心理療法

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サポチル10周年記念子どもの心理療法研究会 シンポジウム
「子どもたちの成長に携わる“私たち”が持っておきたい視点」
子どもの精神分析的心理療法の挑戦
---サポチル10年の歩みと課題から
NPO法人子どもの心理療法支援会
平井正三
1、サポチル活動の使命
<子どもの精神分析的心理療
法実践の普及を目指すこと>
子どもを育むことの重要性
*社会=人で成り立っている。社会の活力は「人」の活力の総和。
と考えると…
*子ども=次世代を担う人材=社会にとって最も重要な資源
つまり…
*子ども=社会の活力源そのもの
*子どもを育むこと=社会にとってもっと重要な資源開発
子どもの心のケアの重要性
身体的成長、知的成長だけではなく、情緒の健やかな成長の重要性
子どもの心のケアの大切さ
なぜ子どもの精神分析的心理療法が重要な
のか?
*精神分析的心理療法の特徴
①子どもの情緒発達を促進すること、特に自分や人に
ついて考える力、気持を表現する力、人と関わる力の
促進に焦点づけられたアプローチ
②子どもの情緒発達を阻害する要因に関する知見が蓄
積されており、そうした問題に対応できる方法論を
持ったアプローチ
①子どもの情緒発達を促進すること、特に自分
や人について考える力、気持を表現する力、人
と関わる力の促進に焦点づけられたアプローチ
*精神分析的心理療法(遊戯療法):子どもが言葉や遊び
を通じて表現している情緒や内面を、セラピストが受け止
め、それについて考えていく。
セラピストは、じっくりと子どもの気持ちに関心を向け続け、
考え続ける。
こうしたセラピストとのやりとりの経験を通じて、子どもは、
自分の気持について考え、それを大人に伝えることができるよ
うになる。
子どもの内省能力とコミュニケーション能力の成長=情緒的
発達の中核
②子どもの情緒発達を阻害する要因に関する知
見が蓄積されており、そうした問題に対応でき
る方法論を持ったアプローチ
*一般的な「プレイセラピー」:「<子どもと遊ぶ>ことで子どもの自己治
癒力が発揮され、「治癒」「成長」に至る」という考え。
*上記のようなタイプでは、今日の子どもの臨床で問題になっている、発達
障害を持つ子どもや虐待を受けた子どもの情緒的問題に十分に対処できない。
*複雑で困難な心理学的問題に対処できる、きっちりとした方法論、そして
知識による裏打ちがないと、子どもの役に立つ実践は難しい。
*精神分析的心理療法では、<子どもと遊ぶ>というよりも、子どもが自分
の内面を表現しやすく、かつその表現やコミュニケーションを理解しやすく
なるような治療場面の設定を行う。
*またこうした方法論のおかげで、治療経験から子どもの心の病理や困難な
面の理解が進みやすく、それらは知識として共有され蓄積されやすい。
(例)サポチル訳・ホーン&ラニャード編『児童青年心理療法ハンドブッ
ク』(創元社)
子どもの精神分析的心理療法の意義
*個人心理療法実践
1回50分、毎週1回50分長期にわたり一人の子どもにじっくりと向き合い、その子ど
もの心の世界を深く知っていくこと。
社会や大人に対する、その子どもの内面の代弁者の側面も
そして・・・
*個人心理療法実践を基盤に、一人一人の子どもの内面
を大切にする実践を治療集団、養育集団、教育集団に普
及することに貢献すること。
2、サポチルの源流
私の英国留学経験:英国の子ども
のケアの実情に触れる。
*福祉国家の理念:「困っている
人を助ける」ではなく、「助け合
い(協働)」社会の理念を実現し
ようとする運動。
*「子どもは社会が育てていくも
の」という考え。
英国の中央政府歳出(2009-10年)社会的保護は橙、保健
は赤、教育は灰、個人サービスは水色。英国歳出の3分の
2は社会的支出である。
*「子どもを育てること」を中核
的価値とする社会観。
英国の子どものメンタルヘルスと
子どもの精神分析的心理療法
*国営医療サービス=無料での治療
*子どものメンタルヘルスに潤沢な人的資源を投入
*高度な専門性の治療文化
*多職種協働の考え
・児童精神科医、ソーシャルワーカー、臨床心理士、
教育心理士、言語療法士、音楽療法士などとともに、
児童青年心理療法士
*児童青年心理療法士=精神分析に基づいた心理療
法の訓練を受けた専門家。
タビストック・クリニックと
子どもの心理療法
<タビストック・クリニック(ロンドン)の実践>
*無料で週1回から週3回までの心理療法を受ける
ことができる。
・手厚い社会福祉:送迎の人、タクシーなどのサ
ポート。
*対象は、恵まれない家庭の子どもが大半。
・虐待を受けた重篤な病理を持つ子どもの心理療法
・自閉症スペクトラム障害を持つ子どもへの心理療
法
*児童青年心理療法士養成訓練
*子どもと関連する領域で働く専門家の研修
社会への貢献と専門知識の発展という好循環
社会的貢献
恵まれない家庭の子どもなど
の心の成長を手助けすること
精神分析の研修を受けた専門家
(医師、教員、ソーシャルワーカ、
保育士など)への活動によりより
多くの子どもに恩恵
専門的知識の
蓄積
子どもの心理療法実践の知識
の蓄積、専門的技量の発展
臨床実践で培ったノウハウ
を子どもと関わる専門家に
還元(研修活動)
英国の実践から学べること
*福祉国家の理念に基づき、潤沢な公的資金が
子どものケアに投入されることで、良質の子ど
ものケアを展開
*社会が「専門家」を尊重し、支持しているの
で、専門家は自律的にその専門性を発展させる
ことができる。
*高度な専門性の発展=子どもの精神分析的心
理療法社会への還元!
3、サポチル活動
---その背景となる考え
<日本の「専門家」、特に「心理療法の専門家」の現状>
*現在、子どもの心理的ケア(心理療法など)は、公的機関(児童相談所、
地方公共団体の教育センターなど)、医療機関(病院、クリニックなど)、
教育機関(スクールカウンセラー、大学の付属の相談機関など)で主に行わ
れている。
*社会の「心理の専門家」への認識や意識が低く、また子どもへの心理的ケ
アへの意識も高くはない。
*専門家が「子どものケアにはこれが必要!」ということを存分にやれる場
合が少なく、それぞれの「職場の論理」に適合したものしか提供できない場
合が多い。
*上記の現状の中で、次第にそれぞれの専門家個人の専門的技量の研鑽の動
機も弱まり、結果的に全体として子どものケアの専門的技量の発展が起こら
ず、その質は高まらない⁉
専門家が自律的に活動できる独立した組織
づくりの必要性!
<専門家が自由に子どものケアのために最善と思える専門的サービス
を提供できる枠組みづくりを目指すこと>
*社会からの寄付金などの資金を得て、自分たちの手で、子ど
ものケアにとって最善と思えるサービス=精神分析的心理療法
実践を、自律的に行える枠組みをつくりだすこと。
①実践の経済補助<子どもの心理療法基金>として機能すること。
②人財育成・供給
サポチルの活動の2本柱
①子どもの心理療法実践及び
関連活動の支援
②子どもの心理療法(精神分
析)の研修活動
<子どもの心理療法実践の支援>
1)発達障害の子どもへの心理療法及び保護者へのコンサルテーショ
ンの支援
*発達障害の生得的な要因による認知の障害と捉えられていますが、
こうした子どもも情緒発達をめぐる問題を抱えています。むしろ、脆
弱群なので情緒面でのケアを含む発達促進的な考えに基づく心理療法
=精神分析的心理療法は有効です。
*親へのサポートも大切です。
*以上の活動をサポチルは、50分のセッション1回あたり3000円補
助しますーー>利用者負担=2000円
2)児童福祉領域の子どもへの心理療法及び養育者へのコ
ンサルテーションの支援
*虐待や不適切・不十分な養育を受けた子ども、恵まれない家庭に育った子ども
の心理療法は、こうした子どもが情緒的に健全に成長していく大きな助けになり
えます。
*養育者へのコンサルテーションも行います。
*児童養護施設など、施設に入所している子ども
*母子自立支援施設に入所している子ども
*里子から特別養子縁組に移行した母子の心理的援助
*50分のセッション1回につき5000円補助ーー>利用者負担は
無料!
<その他の活動の支援>
*キンダーカウンセラー活動の支援
*児童養護施設職員への研修活動
・施設職員研修会開催
・コンサルタント派遣事業
ンなど
ワークディスカッショ
②子どもの心理療法(精神分析)の
研修活動
*「京都精神分析・臨床セミナー」年6回開催。100人近く
のセミナー。
・より多く専門家に広く精神分析について知っていただき勉強
の機会を提供する活動
*「研修プログラム」年間10回以上。5人~10数人の少人
数でじっくりと学ぶ。体験型学習・参加型学習が主。
*サポチル認定「子どもの心理療法士」資格制度。
4、サポチルの現状と
今後の課題
認定NPOを目指して
会員数の推移
350
300
250
200
専門会員
150
ボランティア会員
賛助会員
100
50
0
合計
1、心理療法支援
*御池心理療法センター(京都)に加
えて、大阪心理臨床研究所(京橋)と
支援契約。二つの機関での子どもの心
理療法実践を支援することに。
心理療法支援ケース数の推移
30
25
20
15
児童福祉領域の対象となる子どもの心理療法支援
児童福祉領域の・・アセスメント
発達障害児の心理療法支援
10
5
0
発達相談サービス
合計
心理療法支援金額の推移
2500000
2000000
1500000
児童福祉領域のケース
1000000
発達障害児のケース
合計
500000
0
心理療法及び関連活動支援金総額の推移
2500000
2000000
1500000
児童福祉領域の心理療法支援事業
発達障害児の心理療法支援事業
1000000
コンサルテーション事業
その他(ボランティア活動費など)
合計
500000
0
2、研修活動
*サポチル認定「子どもの心理療法士」
2013年に1名、2014年に2名認定。2015年
には3名が資格認定審査中。
研修プログラム参加人数
140
120
100
80
60
40
20
0
延べ人数
サポチルの現状
*資金面での余裕
*支援ケース数が十分に伸びていない
*子どもの心理療法の担い手が十分ま
だ育っていない
今後の課題
<支援ケース数の増加という課題>
*必要としている人とつながっていく努
力、枠組みへの取り組み!
*広報活動の充実!
*「子どもの心理療法士」の増加を目指
す
ご支援・ご協力をよろしくお願いいたしま
す!
*特に、児童福祉領域の子どもの心理療法支援は、公的機関と
の連携なしには困難。
・児童相談所、児童養護施設、その他入所施設の先生方、連携
関係を深めていきませんか?
*発達障害を持つ子どもの心理療法
・小児科、児童相談所の先生方、発達障害を持つお子さん、特
に軽度の発達障害を持つお子さんに心理療法による援助が有効
な場合が多いです。発達相談サービスに、ご紹介をお願いしま
す!