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A-13
超磁歪アクチュエータ駆動による
キャビテーションの発生と殺菌への適用
Generation of Cavitation by Driving Giant Magnetostrictive
Actuator and Application to Sterilization
金沢大学大学院 自然科学研究科
電子情報工学専攻
鈴木 峻
発表の流れ
1. はじめに
研究背景・研究目的
キャビテーション・ラジカル
2. キャビテーション発生装置
超磁歪アクチュエータ
3. キャビテーション発生装置の殺菌への適用
ウイルス不活性化の評価
装置の連続的な駆動 (ウイルス・大腸菌の適用)
4. まとめ
1. はじめに
~研究背景~
 生命維持に欠かせない水が汚染にさらされることは,我々人類にとって
深刻な問題になり得る
水質汚染の原因
 家庭や工業排水の流入による有機物・無機物による汚染
 水系に生息するウイルス・細菌類の増殖による汚染
重大な健康被害を及ぼすウイルス・細菌
高濃度の塩素による殺菌が推奨
されている
50 nm
ノロウイルス
塩素は人体に対し有害であり
殺菌過程で発がん性を伴う物質
を発生するため有効な殺菌法
とはいえない
1 mm
レジオネラ菌
薬剤を用いず有害な二次生成物を生じない効果的な殺菌方法が望まれる
研究目的
光触媒二酸化チタンを添加した水媒質に超音波を照射したとき
高濃度のラジカルが生成する現象が発見された
微小空間の断熱膨張によるキャビテーションの発生が
二酸化チタン励起を促した
キャビテーション・二酸化チタンを有効に利用できれば
薬剤を用いず有害な二次生成物を発生させない効果的な殺菌が可能
超磁歪アクチュエータを搭載したキャビテーション発生装置を考案し
キャビテーション・二酸化チタンを用いた殺菌装置としての適用を考える
キャビテーション
 液体の圧力が飽和蒸気圧以下になることにより,
無数の気泡が発生する現象
 気泡崩壊時には周囲に1 GPaを超える圧力衝撃波が生じ,
平均温度エネルギーは7000~20000 Kに達する
 超音波洗浄,細菌の殺菌などに有効利用されている
Pressure
Liquid
P
Boiling
Solid
Pv
Gas
Cavitation
Temperature
キャビテーションから見た状態図
気泡が成長する様子
光触媒二酸化チタンの励起
二酸化チタンにバンドギャップ3.2 eV以上の
エネルギーが与えられると
伝導帯電子・価電子帯正孔が生じる
Superoxide anion radical : ・O2

O2 + eCB → ・O2
UV or Cavtation
二酸化チタン周囲の水・酸素と正孔・電子が
結びつき2種のラジカルが生成
 ラジカルは強力な酸化力を示し,反応性が
高いため即座に周囲の物質を分解
 細菌の殺菌をはじめ,農薬などの難分解
性化学物質などの分解にも役立てられる
 反応に寄与しなかった電子・正孔は再び
結合するため,反応過程において二次生
成物は発生しない
Conduction band
TiO2 Band gap : 3.2 eV
Valence band

hVB
+ H2O → H+ + ・OH
Hydroxyl radical : ・OH
二酸化チタンの励起
2. キャビテーション発生装置
~超磁歪アクチュエータの適用~
密閉空間に封入した水媒質に対し,機械的に圧力変化を起こさせ
キャビテーションを発生させることが可能ではないか
キャビテーション発生のためのアクチュエータの適用
 水の体積はほぼ圧縮・膨張しないため,変位は小さくてよい
 密閉空間に封入した水に対し,十分な圧力変化を起こさせるには,
極めて大きな発生力が必要
高発生力・小変位の超磁歪アクチュエータが最適
超磁歪素子Terfenol-D超磁歪アクチュエータ
 超磁歪アクチュエータは,磁歪素子Terfenol-Dの伸長によって変位を
得る装置
 大きな発生力を生み出し,励磁電流周波数の2倍の周波数で振動
Terfenol-D
Exciting coil
Piston
超磁歪アクチュエータ外観
超磁歪アクチュエータの諸特性
Parameters
Values etc.
Actuator diameter
103 mm
Actuator height
193 mm
Magnetostrictive material
Terfenol-D
Size of material
f20×120 L mm
Exciting coil
1,200 turns
Magneto motive force rated 6,000 AT
Maximum stroke
120 mm
Maximum force
8,300 N
超磁歪アクチュエータの電流-変位特性
 励磁電流値5 Aの印加で最大変位120 mmが得られている
 電源にはインバータを用い,実験時には周波数を0.5~120 Hzの範囲で
随時変化させることが可能
140
Displacement[μm]
120
Current decrease
100
80
60
Current increase
40
20
0
0,0
1,0
2,0
3,0
4,0
5,0
6,0
Exciting current [A]
超磁歪アクチュエータの励磁電流-変位特性
7,0
キャビテーション発生装置
Giant magnetostrictive actuator
 超磁歪アクチュエータとピストン・
Magnetostrictive material
シリンダー機構により構成
(Terfenol-D)
 交流磁界の印加により超磁歪
Exciting coil
アクチュエータの振動が直結した
ピストンを通じて水槽部に伝わる Piston-cylinder mechanism
 水槽内の圧力が減圧され断熱膨張
することによりキャビテーションが
発生
 水槽内に二酸化チタンを添加すれ
ば,崩壊エネルギーによって励起し
ラジカルが発生
103
Unit:mm
193
160
キャビテーション・ラジカル発生領域
キャビテーション発生装置の減圧能
密閉環境下での水槽内の圧力変動 P (t ) は,
P (t )  P 
Unit:mm
f
S
P :大気圧 f :アクチュエータの発生力 S :ピストン断面積
キャビテーション発生条件は, P(t )  Pv であるから
f
P  Pv 
S
超磁歪アクチュエータの最大発生力8,300 N,
ピストン径160 mmfより減圧能は
f MAX
 4.1105 Pa = 4.1 atm
S
160
f
P (t )  P 
f
S
水槽内の圧力変化
P-Pv≒1.00×105 Paであるから,キャビテーション発生条件を満足
3. キャビテーション発生装置の殺菌への適用
本研究の評価実験
 キャビテーション発生装置の駆動によりウイルスを不活性化させることが
できるか
 装置の振動周波数,二酸化チタンの粒子径を変えることによって
ウイルスの不活性化効率を向上させることができるか
実用的な殺菌装置の構築・殺菌性能評価
 殺菌対象液が多量にわたる場合にキャビテーション発生装置を適用可能か
 ウイルス・大腸菌の不活性化・殺菌評価
ウイルスの不活性化への適用
水系に生息するウイルスのモデルを用いて
キャビテーション発生装置の駆動による不活性化を目的とした評価実験を行った
 実験対象としてウイルスの中でも
特に簡単な構造であるMS2ファージを
用いて検証を行った
 MS2ファージは大腸菌を宿主として
感染,寄生し,核酸とタンパク質のみで
構成されている
 直径26~27 nmの球型ウイルスである
 ノロウイルスと大きさ・形は同じであり
同属のウイルスに分類されている
100 nm
MS2ファージ外観
透析膜を用いた検証方法
 ウイルスをキャビテーション発生装置内に封入する際に,透析膜を使用
 透析膜は筒状であり,中にウイルス溶液を注入することが可能
 分画分子量14,000,孔径5 nmより細菌類,ウイルス(26 nm)は通れず,
水分子(分子量18)は通過可能
 キャビテーション発生装置内の水槽部に投入すれば,
透析膜内にキャビテーションが発生し,二酸化チタン粒子の添加により
ラジカルが生成
Dialysis film
MS2
MS2
TiO2 Particles
Dialysis film
MS2
MS2
H2O
H2O
MS2
H2O
H2O
Bacillus
ウイルス不活性化の評価方法
評価対称
二酸化チタン粒子
Control 1(C1)
添加せず
Control 2(C2)
2 mmf, 0.2 g
Exposure 1(E1)
ラジカルの発生を狙った
Exposure 2(E2)
添加せず
2 mmf, 0.2 g
振動
印加せず
キャビテーションを暴露
印加する
 振動印加を与えるE1,E2のウイルスは装置の水槽内に水と共に封入
 C1,C2のウイルスは水中にて暗所保管
 ウイルスの存在数をプラークアッセイ法により直接計測
振動印加
(交流励磁電流5 A)
透析膜を水槽内に封入
透析膜を取り出し
培地上に播種
プラークアッセイ法
Plaque
ウイルス不活性化の評価結果
Relative titter of virus
~装置駆動時間による依存性~
1.2
C2
C1
1
E1,E2のウイルスの
存在数に差が見られない
0.8
E2
0.6
E1
C1: Virus only
C2: Virus + TiO2 particles
E1 : Virus + Actuator driving
E2 : Virus + TiO2 particles + Actuator driving
0.4
0.2
0
0
10
20
30
40
ラジカルによる
酸化分解作用の影響が
見られなかった
50
Actuator driving time [min]
 ウイルス不活性化の装置駆動時間による依存性を評価(振動周波数120 Hz)
 装置の駆動時間に依存してウイルスが不活性化
 45分間の駆動で95 %以上のウイルスを不活性化できた
ウイルス不活性化の評価結果
Relative titter of virus
~装置振動周波数による依存性~
1.2
C1
1
E1,E2のウイルスの
存在数に差が見られない
C2
0.8
E2
0.6
C1 : Virus only
E1
C2 : Virus + TiO2 particles
E1 : Virus + Actuator driving
E2 : Virus + TiO2 particles + Actuator driving
0.4
0.2
ラジカルによる
酸化分解作用の影響が
見られなかった
0
0
50
100
150
200
250
300
Actuator driving frequency [Hz]
 ウイルス不活性化の装置振動周波数による依存性を評価(駆動時間20分)
 装置の振動周波数に依存してウイルスが不活性化
 振動周波数240 Hzの駆動で120 Hz時よりも不活性化効率を25 %増強できた
ウイルス不活性化のTiO2粒子径による依存性の評価
 二酸化チタンの粒子径を小さくすれば,粒子の
総表面積が増加するため触媒効率が上昇する
 粒子径の異なる二酸化チタンを透析膜に
それぞれ添加し,ウイルス不活性化の粒子径
による依存性を評価した
 キャビテーション発生装置は
振動周波数240 Hz,20分間の駆動を行った
二酸化チタン粒子(200 mmf,2 g)
評価対称
二酸化チタン粒子
粒子総表面積
Exposure 1(E1)
添加せず
0
510 mmf,2 g
490
280 mmf,2 g 同量
910
200 mmf,2 g
1280
Exposure 2(E2)
大
Exposure 3(E3) 粒子径
Exposure 4(E4)
小
振動
印加する
ウイルス不活性化の評価結果
~二酸化チタン粒子径による依存性~
Relative titter of virus
1.2
ラジカルの酸化分解作用による
影響が顕著に出ている
E1
1
E2
0.8
E1のウイルスの存在数を
1とした相対比で表した
E3
0.6
E4
E1 : Virus + Driving
E2 : Virus + TiO2 (510 mm, 2 g) + Driving
E3 : Virus + TiO2 (280 mm, 2 g) + Driving
E4 : Virus + TiO2 (200 mm, 2 g) + Driving
0.4
0.2
0
0
500
1000
横軸には粒子の
総表面積の値をとった
1500
Total surface area [mm 2]
 ウイルス不活性化の二酸化チタン粒子径による依存性を評価
(振動周波数240 Hz,駆動時間20分)
 二酸化チタンの総表面積の大きさに依存してウイルスが不活性化
 200 mmfの二酸化チタン粒子を添加すると(E4),二酸化チタンを添加しない
場合(E1)と比べて,ウイルスの不活性化効率を46 %増強できた
連続的なキャビテーション発生装置の駆動
 キャビテーション発生装置の水槽容量に制限があったため,水を循環させる
機構を連結して連続的な殺菌が可能な装置構成を考案した
 予備水槽を開放状態にできるため,殺菌の対象となる液体量に制限はない
 逆止弁(check valve)を接続することにより,減圧時に水槽内が密閉状態となる
ようにした
Cavitation generator
Sub water tank
Check valve 2
Water flow
0.7 l
Pump
Check valve 1
TiO2 particles
水循環機構を連結したキャビテーション発生装置
超磁歪アクチュエータが水槽内を加圧するとき
 逆止弁1(check valve 1):閉,逆止弁2 (check valve 2):開
 水槽内は大気圧となる
超磁歪アクチュエータが水槽内を減圧するとき
 逆止弁1(check valve 1):開,逆止弁2 (check valve 2):閉
 逆止弁1が開くが,逆止弁1側はポンプと
接続されているため,密閉状態となり
Cavitation generator
水槽内は減圧される
Sub water tank
キャビテーション・ラジカルが
水槽内に発生
Check valve 2
Water flow
0.7 l
Pump
Check valve 1
TiO2 particles
連続的なキャビテーション発生装置の駆動
~ウイルス不活性化への適用~
 ウイルス溶液を機構内に充填して装置駆動を行い,ウイルスを不活性化
できるか評価を行った
ウイルス溶液量:2.5 l
振動周波数:120 Hz
Cavitation generator
Plaque assay method
Sampling at each 60 min.
Non return valve
0.7 l
1.8 l
Sub water tank
Pump
流速:2.5 l/min
TiO2 particles
2 mmf, 500 g
ウイルス不活性化実験結果
Relative titter of virus
1.2
1
Actuator : off
0.8
0.6
Actuator : on
0.4
装置駆動開始時間(0分)の
ウイルス存在数を1とした
相対比で示した
0.2
0
0
60
120
180
Actuator driving time [min]
 振動印加時と否印加時でウイルスの存在数を計測した
 振動印加を与えた場合に,駆動時間に依存してウイルスが不活性化
 駆動時間180分後には87 %のウイルスが不活性化した
連続的なキャビテーション発生装置の駆動
~大腸菌殺菌への適用~
 水系に生息する細菌のモデルとして大腸菌XL1-Blueを機構に添加し,
大腸菌の殺菌評価を行った
 大腸菌XL1-Blueは大腸菌E. coli (Escherichia coli)の遺伝子を操作した
変異体であるが,姿形は同じである
 E.coliはおよそ2 mm長,直径0.5 mmfの棒状菌であり,環境中に存在す
る主要なもののひとつ
 サルモネア菌・赤痢菌などの水系感染性細菌と似た特徴を持ち,
日本の水道法では検出されてはならない菌に指定
大腸菌は自身で増殖することが可能で
外膜がウイルスよりも厚い
2 mm
大腸菌E. coli (Escherichia coli)
連続的なキャビテーション発生装置の駆動
~大腸菌殺菌への適用~
 大腸菌液を機構内に充填して装置駆動を行い,大腸菌を殺菌できるか
評価を行った
振動周波数:240 Hz
大腸菌液量:2.5 l
Cavitation generator
Colony
Colony assay method
Sampling at each 60 min.
コロニーアッセイ法
Non return valve
0.7 l
1.8 l
Sub water tank
Pump
流速:2.5 l/min
TiO2 particles
1 mmf, 750 g
連続的なキャビテーション発生装置の駆動
E. coli existence ratio
~大腸菌殺菌への適用~
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
Actuator : off
装置駆動開始時間(0分)の
大腸菌の存在数を1とした
相対比で示した
Actuator : on
0
60
120
180
Actuator driving time [min]




振動印加時と否印加時で大腸菌の存在数を計測した
否印加時に大腸菌数が増えているのは自身が増殖しているものと考えられる
振動印加を与えた場合に,駆動時間に依存して大腸菌が殺菌された
駆動時間180分後には40 %の大腸菌が殺菌された
まとめ
超磁歪アクチュエータ
振動エネルギー
ピストン・シリンダー機構
水媒質
キャビテーション
TiO2 励起
ラジカル生成
(・OH ・O2 )
酸化分解
+
大腸菌殺菌
圧力衝撃波
ウイルス不活性化
結論
 殺菌対象液が増大したとしてもキャビテーション発生装置を適用でき,
ウイルス・大腸菌を不活性化・殺菌可能
 キャビテーション発生装置を殺菌装置として適用できる可能性が高まった