特許明細書の書き方(1)

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Transcript 特許明細書の書き方(1)

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人格権は国立大学法人大阪大学に、著作財産権は特許庁に帰属しています。
本資料は、著作権法上認められる利用のほか、非営利目的に限り、改変・引用・
複製・頒布を行うことができますが、これらの行為及びその内容に関する責任は利
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含んでいる可能性があります。
本資料を利用したことから生じるあらゆる損害・損失について、国立大学法人大阪
大学及び特許庁は、一切の責任を負いません。
営利目的での利用、翻訳の希望その他、不明な点がありましたら、以下へご連絡く
ださい。
特許庁 企画調査課 活用企画班 03-3581-1101 (内線)2165
第10時限
特許明細書の書き方(1)
2
第10時限 目次
3
10-1
10-2
10-3
10-4
概要
特許出願の準備
特許請求の範囲の作成
明細書の作成
3
10-1
概要:特許の申請(「出願」)をするには
【書類名】図面
【書類名】特許請求 【書類名】要約書
の範囲
発明全体のポイント 発明の内容理解に役
発明の内容等
【書類名】特許願
を簡素に記載
立つ図面を記載
権利を求める
(課題、従来技術等)
(必要な場合)
発明の範囲の内容
を記載
発明者や出願人等
(公開特許公報への
を特定して記載
を記載
掲載のみを目的)
特許
印紙
【書類名】明細書
(審査対象としてではなく
インデックスとしての
役割)
書面による出願
電子化手数料が必要(
1,200円+1枚700円)
電子出願
特許庁
インターネット経由の出願が可能
(専用ソフトを使用する)
(現在では大半が電子出願である)
4
10-1
概要:特許出願書類の階層構造
特許法36条2,3項
特許法施行規則
特許願
技術分野
特許請求の範囲
発明の名称
明細書
要約書
背景技術
発明の詳細な説明
発明が解決しようとする課題
図面の簡単な説明
課題を解決するための手段
発明の効果
図面
発明の実施形態、実施例
5
10-1
概要:特許出願書類の内容と明細書の構成
特
許
出
願
書
類
明
細
書
の
構
成
必
要
な
書
類
願書
発明者や出願人の氏名などを記載して、発明者や出願人を特定する。
特許請求の範囲
発明を特定する事項。権利範囲となる。
明細書
発明の内容を明確かつ十分に詳細に説明する
要約書
発明の内容理解に役立つ図面を添付する。
発明の内容によっては不要であり、その場合は添付しない。
図面
簡潔に発明全体のポイントを表示する
【書類名】
【発明の名称】
【技術分野】
【背景技術】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【課題を解決するための手段】
【発明の効果】
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【産業上の利用可能性】
【図面の簡単な説明】
【図1~・・・】
【符号の説明】
6
10-1
概要:明細書等の構成
発明の名称
明
細
書
発
明
の
詳
細
な
説
明
発
明
の
概
要
◎発明の内容を簡明に表現
技術分野
◎発明の関連分野(産業上の利用分野)
背景技術
◎改良の基礎となる最新の従来技術
先行技術文献
◎特許文献、非特許文献
発明が解決しようとする課題
◎従来技術の問題点。新たなニーズ
課題を解決するための手段
◎どのような手段で解決するのか
発明の効果
◎従来技術より有利な点
図面の簡単な説明
◎図ごとの説明。符号の説明
発明を実施するための形態、実施例
◎実際行った実験、試作の例。それらの論理的説明。理論か
らの推測で実施可能な発明をどのようにして産業上利用できる
のか
産業上の利用可能性
◎産業上の利用方法
簡
単
・
明
瞭
な
文
言
で
明
確
、
簡
潔
に
記
載
す
る
符号の説明等
特許請求の範囲
◎特許を受けようとする技術的範囲
要約書
◎発明全体のポイント(公開公報に掲載)
(必要な)図面
◎明細書の表現の理解を助ける
※明細書は発明内容に最も詳しい研究者が作成することが望ましい
7
10-1
概要:明細書等の構成
研究レポートに例えると
発明の名称
研究の名称
◎発明の内容を簡明に表現
研究の分野
技術分野
◎発明の関連分野(産業上の利用分野)
従来技術レベル、研究の背景
背景技術
◎改良の基礎となる最新の従来技術
先行技術文献
◎特許文献、非特許文献
研究テーマ、目標
研究手段、手法
実験結果、研究成果
実験例、実験データ等
明
細
書
発
発 発明が解決しようとする課題
明 明
の の 課題を解決するための手段
詳 概
発明の効果
細 要
図面の簡単な説明
な
説
発明を実施するための形態、
明
実施例
産業上の利用可能性
◎従来技術の問題点。新たなニーズ
◎どのような手段で解決するのか
◎従来技術より有利な点
◎図ごとの説明。符号の説明
◎実際行った実験、試作の例。それらの論
理的説明。理論からの推測で実施可能な発
明をどのようにして産業上利用できるのか
簡
単
・
明
瞭
な
文
言
で
明
確
、
簡
潔
に
記
載
す
る
◎産業上の利用方法
符号の説明等
装置図、フロー図等
特許請求の範囲
◎特許を受けようとする技術的範囲
要約書
◎発明全体のポイント(公開公報に掲載)
(必要な)図面
◎明細書の表現の理解を助ける
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第10時限 目次
9
10-1
10-2
10-3
10-4
概要
特許出願の準備
特許請求の範囲の作成
明細書の作成
9
10-2
特許出願の準備:明細書を書く前に
技術等の文書化
技術等の原理、
基本的な仕組み(図面化)
技術等が解決しよう
とする課題は何か
技術等の具体的方法、
手段(必要な機械や資材)
技術等の効果を裏付ける
データ(有効性の認識に必要)
10
10-2
特許出願の準備:明細書を書く前に
(1)発明の把握
何が本質なのか明確化
(2)従来技術の把握
従来技術を知って自己の発明の評価をした後に出願する
(3)出願の要否
技術面、経済面、権利面で評価
→5段階評価表を使用しての評価
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
11
10-2
特許出願の準備:(1)発明の把握
最大限の権利とするために発明の本質を見極める
この発明による技術の進歩とは
 発明の中心機能、課題は何か
✓発明の中心機能(本質)の分析
✓発明を(図面)に書き表してみる
 機能を発揮する最低限の要素は何か
 どの範囲まで適用できるか
✓機能を他の手段に置き換えてみる
✓他の技術分野の技術シーズを適用してみる
✓他の技術分野への用途を探す
 企業秘密とすべき発明か

特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
12
10-2
特許出願の準備:(2)従来技術の把握①
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
アイデアの発生
従来技術の選定
構造が全く同一か
YES
NO
解決課題や作用・
効果が新しいか
NO
YES
YES
それは予測可能か
発明を狭くで
きるか
NO
NO
更に大きな発明に
広げられるか
YES
NO
YES
出願断念
把握完了
狭くする
大きい発明に変
更
出願準備
13
10-2 特許出願の準備:(2)従来技術の把握②
~適切な権利取得のために
従来技術
・ポリエチレン樹脂材料
進
歩
性
あり↑
【請求項1】分子量が○○~
××の低密度ポリエチレンで被
覆した電線
【請求項1】低密度ポリエチレン
で被覆した電線
出願
出願
進歩性あり
権利範囲→小さい
進歩性あり
権利範囲→適正
過剰な差異づけ
なし↓
出願
【請求項1】合成樹脂で被覆した
電線
3
従来技術の水準を高
く認識している場合
進歩性なし
公知
の従
来技
術
公知の従来技術の差
異付けが不足
2
1
従来技術の水準を適切に認識している場合
従来技術の水準を低く誤認している場合
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
※適切な権利取得を目指す
14
10-2
特許出願の準備:(3)出願の要否
想定される特許審査の例
新規性・進歩性について
権利範囲
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
拒絶理由通知書
当初の請求の範囲
「素材Pを用いた
アンテナ」
出
願
人
請
を求
補の
正範
囲
補正後の請求の範囲
「素材p”を用いた
アンテナ」
素材P
素材
p’
素材
p”
狭権
く利
な範
る囲
先行技術文献
に
「素材p’を用いたアンテナ」が記
載されており、新規性無し
意見書・補正書
権利範囲
素材
p”
素材p”は先行技術に記載されておらず、
専門家でも素材p”は思いつかないので、
本発明は進歩性有り
審
査
官
・独創性のある発明
→広い権利を取りやすい
・従来技術の小改良の発明
→広い権利は取れない
特許査定・拒絶査定
素材p”に進歩性が認められれば
特許査定
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10-2
特許出願の準備:(3)出願の要否の判断
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 から引用
評価の観点
技
術
面
評価の指標(評価点)
<完成度・実施難易度>
他の技術課題が残っていないか(コスト、製造技
術、量産性、信頼性)
全く課題なし
<市場の動向>
市場の要求に一致しているか
全く一致
<特異性>
商品に持たせる独自性はどの程度か
極めて大きい
5
5
5
経
済
面
権
利
面
4
4
4
極めて大きい
<ライフサイクル>
この発明が実施されなくなるのはいつ頃か
10年以上
<実施規模>
発明が適用可能な商品はどの程度あるか
極めて多い
<回避難易度>
この発明を実施しなくとも、代替品、代替方法で
同様の効果が得られるか
極めて困難
5
5
5
大きい課題あり
3
2
1
全く不一致
<技術的効果・経済的効果>
従来技術からの改善はどの程度か(性能向上、
コスト低減等)
5
評価点
4
3
2
1
極めて小さい
3
2
1
極めて小さい
3
2
1
3年以下
4
3
2
1
極めて少ない
4
3
2
1
極めて容易
4
3
2
1
16
10-3
特許請求の範囲の読み方
○特許請求の範囲の記載には発明のポイントが凝縮されている
(1)発明のカテゴリを把握しよう。
→「もの」、「方法」、「製造方法」あるいは複数のカテゴリ
(2)発明のポイントを把握しよう。
→例えば、請求項中の記載で「~において、」「~であって、」という記載がある場合には、そ
れ以降の部分に特徴がある。(ジェプソンタイプクレームという。「改良発明」に多い。)
(3)抽象的な用語が何を意味するか把握しよう。
→例えば、請求項には「入力装置」と記載がある場合、明細書などを参照して「マウス」、
「キーボード」などと把握できる。
(4)目に見える発明であれば、請求項の記載から発明された事項を図示してみよう。
(一旦、明細書を読んでから、特許請求の範囲を読むと理解が容易になる場合が多い。
また、要約書の記載と同じような記載が多い。)
17
10-3
特許請求の範囲:(事例:「~おいて」の記載がある事例)
ここは従来技術
ここがポイント
特開平09-030193
ここは従来技術
ここがポイント
特開平09-124994
18
10-3
特許請求の範囲:特許請求の範囲から絵を描いてみよう。
(仮想事例1)
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
【請求項1】
飲用食器セットであって、飲料を入れる容器部と、小容器部と、容器部と小容器部
とを収納する台部とかならなる飲用食器セットにおいて、台部には容器部の下方を
環状に支持する支持部と、この支持部の下方に台座部と、この台座部に設けられ
た小容器部を載置する凹部とを備えた、飲用食器セット。
19
10-3
特許請求の範囲:特許請求の範囲から絵を描いてみよう。
(仮想事例2)
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
【請求項1】
植木鉢本体の底部に4本のスリット穴(=溝のような切れ込み)を放射状に設け、
各スリット穴を植木鉢側部の下から1/5~1/3の高さ程度としたことを特徴とする植
木鉢。
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第10時限 目次
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10-1
10-2
10-3
10-4
概要
特許出願の準備
特許請求の範囲の作成
明細書の作成
21
10-3
特許請求の範囲の作成
特許請求の範囲:発明を特定する事項。権利範囲となる。
特許請求の範囲の作成時の注意点
●明確であること(あいまいでないこと)
●技術概念、技術思想が明確に把握できるように記載
●願望的な記載表現は不明確となる
特許請求の範囲の記載において注意すべき表現の例
(不明確となり、36条の記載不備として指摘されるおそれが高い表現)
・技術的でない表現 (商品名(技術的事項が定まらない))
・比較の基準、程度があいまい (やや・・・、およそ・・・)
・任意的な付加、例示 (必要により・・・、例えば・・・)
・否定的な表現 (・・・でない~、・・・を除く~)
(他に表現方法がなく、権利が明確であれば許容されることもある)
・上限または下限だけの表現 (~以上)、
「特許ワークブック 書いてみよう特許明細書
・0(零)を含む範囲限定(・・・を0~5%添加した~)
出してみよう特許出願 特許庁 独立行政法人
・図面等の記載による代用
工業所有権情報・研修館発行 2011年」
(化学構造、遺伝子配列を示す図は認められる例がある。) を元に作成
22
10-3
特許請求の範囲の作成
チェックポイント
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁 独立行
政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
(1)広い権利となっているか(但し、広いクレームには、実施例のサポートが必要である)
(a)技術的に広い概念になっているか
・実施例に限定されていないか
・競業者の実施を想定してみたか
(b)上位概念の用語を吟味したか
・一般に通用する用語か
・もっと広い表現はできないか
(2)多面的な権利範囲であるか
(a)カテゴリーは適切か
(b)実施ステップを網羅しているか
(方法の場合)
・物は、方法は、装置は・・・
・異なる表現のクレームはないか(記録媒体、プログラム)
(3)強い特許であるか
(a)審査で拒絶されにくいか
・従来技術の把握は適切か
・補正時に適切な対応がとれるか
(b)権利行使は容易か
・用語は、疑義を生じにくいか
・技術の進歩を予想したクレームか
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10-3
特許請求の範囲の作成
広い権利の取得のために
(1)構成要件は少なく
A+B+C+D+E → A+B+C
(2)用語は上位概念(広義)のものを使用
ポリエチレン樹脂 → 合成樹脂
鉛筆
→ 筆記具
(3)多面的なクレーム
物のカテゴリ、方法のカテゴリでの記載
異なる表現のクレーム 例:記録媒体、プログラムなど
また、いろいろなバリエーション(実施例に対応するものなど)を含むように
請求項1: A+B+C
請求項2: A+B+C+D
請求項3: A+B+C+E
請求項4: A+B+C+D+E
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願
特許庁 独立行政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
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第10時限 目次
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10-1
10-2
10-3
10-4
概要
特許出願の準備
特許請求の範囲の作成
明細書の作成
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10-4
明細書全体及び図面の作成
●実施の形態(実施例)はしっかり具体的に記載する。
●種々の変形例、用途例を記載する
●発明を裏付ける実証的なデータを付ける
「特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出し
てみよう特許出願 特許庁 独立行政法人 工業
所有権情報・研修館発行 2011年」を元に作成
1.明細書全体の書き方
・用語を統一的に使用する
(同じ事項を異なる用語で表現することは避ける。異なる事項を同一の用語で表現しない。)
・用語は学術用語を使用する。学術用語にない場合は定義説明をしっかり書く。
2.図面の書き方
・原則、図面を添付してわかりやすく説明する。
・製図法にしたがって記載する。
・中心線や寸法は原則不要。
・黒色の線で書く
(色彩図面は認められていない。写真は金属組織図などでは認められている。)
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10-4
明細書及び図面の作成:発明の詳細な説明
※発明を実施可能な程度に具体的に開示する必要がある。
<補正に備える>
拒絶理由で先行技術が示され新規性、進歩性ないと指摘されたときには、この
拒絶理由を明細書(特許請求の範囲)の補正で回避できるようにしておく。
→出願当初の明細書または図面に記載されていなかった事項(新規事項)の追
加は認められない。「補正の制限」
<アイデアだけの記載>
→第三者が実施できる程度に記載されていないと判断される。
特許ワークブック 書いてみよう特許明細書出してみよう特許出願 特許庁
独立行政法人 工業所有権情報・研修館発行 2011年 を元に作成
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