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統計学者がテストをやって
学んだこと
-統計検定の実施と結果分析-
岩崎 学(成蹊大学)
中西寛子(成蹊大学)
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統計検定とは
• Japan Statistical Society Certificate = JSSC
• (一社)日本統計学会が中心となり,関係諸機関と協力のうえ,
2011年11月に開始
• 実施主体:(一財)統計質保証推進協会の統計検定センター
• 統計関連学会の多くの統計研究者などの協力により運営
• 統計検定の目的(ホームページより):
• 統計に関する知識や活用力を評価する全国統一試験です。
• データに基づいて客観的に判断し、科学的に問題を解決する能力は、
仕事や研究をするための21世紀型スキルとして国際社会で広く認めら
れています。
• 日本統計学会は、中高生・大学生・職業人を対象に、各レベルに応じて
体系的に国際通用性のある統計活用能力評価システムを研究開発し、
統計検定として資格認定します。
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試験種目
• 統計検定 1 級:統計学(大学専門分野) 120分,記述式
• 統計検定 2 級:統計学基礎(大学基礎科目)90分,択一式
• 統計検定 3 級:データの分析
•
•
•
•
90分,択一式
統計検定 4 級:資料の活用
60分,択一式
統計調査士:公的統計に関する基本的知識と利活用 60分,
択一式
専門統計調査士:調査全般に関わる高度な専門的知識と利活
用手法
90分,択一式
RSS/JSS:英国王立統計学会 (RSS) との共同認定
• Higher Certificate(全8モジュール)1モジュールあたり 90分,記述式
• Graduate Diploma(全5モジュール)1モジュールあたり 180分,記述式
• 2,3,4級は年2回(6月,11月),それ以外は年1回(11月)
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統計検定実施組織
• 統計検定センター長:中西寛子
• 質保証委員会:竹村彰通(委員長),岩崎 学(副委員長),
伊藤彰彦,今泉 忠,田栗正章,田村義保,舟岡史雄,
山本 拓,渡辺美智子
• 基準委員会:田栗正章(委員長)
• 運営委員会:竹村彰通(委員長),岩崎 学(副委員長)、
• 問題策定委員会 (委員長,副委員長のみ公表)
• 統計検定 1 級:広津千尋,岩崎 学
• 統計検定 2 級:山本義郎,今泉 忠,酒折文武
• 統計検定 3 級:下川敏雄,竹内光悦,藤井良宜
• 統計検定 4 級:牧下英世,青山和裕,川上 貴
• 統計調査士:勝浦正樹,福井武弘
• 専門統計調査士:大竹延幸,鈴木督久
• RSS/JSS試験:汪 金芳,下平英寿
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2013年試験の受験者数と合格率
検定種別
申込者数
受験者数
合格者数
1級
402
227
32
14.10 %
2級
2087
1510
635
42.05 %
3級
1445
1217
737
60.56 %
4級
243
195
146
74.87 %
統計調査士
462
403
170
42.18 %
専門統計調査士
256
229
93
40.61 %
統計調査士
170
専門統計調査士
80
合格率
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合格率の推移
試験種目
1級
2級
3級
4級
統計調査士
専門統計調査士
RSS/JSS
2011
41.30%
63.50%
69.60%
58.40%
79.80%
合格率
2012 2013
15.80% 14.10%
38.00% 42.10%
59.20% 60.60%
69.40% 74.90%
49.30% 42.20%
52.20% 40.60%
6名
12名
2014.6
47.90%
67.70%
76.40%
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受験者の年齢内訳
年 齢
人 数
19 歳未満
54 人
19 歳以上-25 歳未満
1192 人
25 歳以上-30 歳未満
638 人
30 歳以上-40 歳未満
1003 人
40 歳以上-50 歳未満
785 人
50 歳以上-60 歳未満
280 人
60 歳以上
48 人
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2級問題例(2014年6月試験)
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3級問題例(2014年6月試験)
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1級問題例(2013年11月試験)
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試験結果の分析
• 試験結果のデータを分析するのは統計家の義務
• 貴重なデータを有効活用するため,試験結果分析プロジェクト
を発足
• データに興味を持ち実際に分析したい人を公募
• 応募者には,守秘義務を課すため誓約書
• 被験者の個人情報が分からないように加工したうえで,データ
を提供
• これまでにいくつかの分析結果が公表されている
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2級(2011年試験)の結果分析-1
受験者数
合格者数
合格率
平均
標準偏差
年
歪度
齢
最大値
最小値
平均
正 標準偏差
答 歪度
数 最大値
最小値
男
女
計
269
77
346
131
12
143
48.7% 15.6% 41.3%
29.431 22.987 27.997
9.990 4.906 9.489
1.121 1.822 1.337
65
42
65
18
19
18
18.803 15.818 18.139
5.807 4.064 0.301
-0.043 0.585 0.150
32
30
32
3
8
3
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結果分析-2
各問
6
7
15
2
13
1
3
8
24
29
32
21
31
23
33
5
17
4
25
12
30
19
9
11
10
14
16
22
28
18
27
26
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分野
分布の特性値
分布の特性値
確率計算
分布の記述
確率計算
分布の記述
分布の記述
分布の特性値
2変量データ
2変量データ
統計的推測
統計的推測
統計的推測
統計的推測
統計的推測
分布の記述
確率分布
分布の記述
2変量データ
確率計算
2変量データ
確率分布
分布の特性値
2変量データ
2変量データ
確率分布
確率計算
統計的推測
統計的推測
確率分布
統計的推測
統計的推測
標本調査
項目
平均
標準化得点
同時確率
四分位数
幾何分布
ヒストグラム
パーセント点
標準化得点
クロス集計
回帰直線
分散分析
信頼区間
分散分析
z 検定
分散分析
平均と中央値
ポアソン分布
分布の形状
カイ二乗検定
二項分布
回帰直線
和の分布
変動係数
相関係数
相関係数
確率密度関数
条件付き確率
信頼区間
信頼区間
正規分布
信頼区間
平均への回帰
単純無作為抽出
正答率
96.2%
88.4%
87.3%
86.7%
86.4%
81.2%
80.9%
72.5%
72.5%
66.5%
65.3%
63.6%
62.4%
59.2%
59.2%
57.5%
52.3%
51.2%
50.3%
48.3%
47.4%
44.8%
44.2%
42.5%
37.3%
36.7%
36.7%
33.2%
30.1%
26.6%
22.3%
13.0%
11.0%
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検定の実施
• 検定の実施には,試験会場の準備から採点作業,結果の公
•
•
•
•
表に至るまで,多くの事務作業が発生
統計の研究者に加え,事務作業に携わられた人たちの貢献
は大
(公財)統計情報研究開発センターの全面的な協力
事業を実施するためには資金が必要
当座の運転資金としての日本統計学会の協力,および無償で
様々な業務をこなした人たちの努力
• 現在 (2014.7) では,何回かの検定試験の結果,ある程度の資金面で
の余裕が生まれたことから,学会への資金の返済などが可能となって
いる.
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問題作成-1
• 検定試験で最も重要な点は,よい問題の出題
• 実際,ここに膨大な時間とエネルギーが注がれてきた.
• 特に,統計検定3級および4級は,入学試験や各種試験の際
に出題される問題の手本となるべきものと想定
• ことさらに良問の出題のプレッシャー
• 統計検定の主たるターゲットは2級
• さらに今後大学教育の質保証に有用なものになるとの想定
• 1級,統計調査士,専門統計調査士の問題の出題についても,
間違いは許されないため,実際の出題までに非常に多くの時
間がかけられた.
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問題作成-2
• 2級,3級,4級,統計調査士,専門統計調査士の問題は多肢選択式
• 採点は機械でもできるが,問題の作成,誤答選択肢の作成が難しい
• 曖昧であってはならず,とはいえ明らかな間違いでもいけない.
• 統計検定1級は記述式
• 採点の場での対応も可能で,多肢選択式ほどのプレッシャーはない
• 「統計数理」に加え,「統計応用」では,「人文」,「社会」,「理工」,「医
薬」の4カテゴリー
• これらすべてに対して一定以上の識見を持つ人はT先生以外見当た
らない
• RSS/JSS試験では,RSS試験問題を翻訳したが,100%正確な翻訳
のためには膨大な時間と手間
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問題作成の問題点-1
• 感想:統計は難しい.計算問題は簡単だが,解釈は難しい
• 下の表において,男子で数学好きの人の比率はいくらか.
• 独立性のカイ2乗検定を行うとP値は 0.003 であった.男子の
ほうが数学が好きといえるか.(YES, NO)
どちらの教科が好き?
度数
数学
国語
計
男子
30
20
50
女子
15
35
50
計
45
55
100
• 下の表で,「薬剤A」かつ「有効」の比率はいくらか.
どちらの薬が効く?
度数
有効
無効
計
薬剤A
30
20
50
薬剤B
15
35
50
計
45
55
100
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問題作成の問題点-2
• 下の表で,事故総数は二輪車の事故の何倍か.
• 全体の20%が二輪車の事故である.(YES, NO)
交通事故件数
自転車 オートバイ 自動車 トラック
10
10
60
20
計
100
• 勉強時間 (x 時間) とテストの点数 (y 点) に関する回帰式を
y = a + bx とする.
• x と y の共分散が 100 で,x の分散が 25 のとき,回帰係数
b はいくらか
• 勉強時間が多い人ほどテストの点数が高い (YES, NO)
• 勉強時間を2時間増やすとテストの点数は何点上がるか
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おわりに
• 統計検定の第1回目の実施は2011年11月20日
• 2013年は国際統計年 (International year of Statistics) で
•
•
•
•
あったが,それに呼応するかのように,日本でもある種「統計
ブーム」が巻き起こった
2014年でもまだ続いている(と確信している).
統計ブームに便乗して統計検定が始められたのではなく,統
計ブームを先取りする形で統計検定が開始されていた
統計検定は,まだ開始から日が浅く,手探り状態である部分
も少なからずある.
今後この取り組みを継続かつ発展させていく必要を強く感じて
いる.
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統計検定 (2014)
• 2014年11月30日(日)
• 1級,2級,3級,4級,専門統計調査士,統計調査士
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