心理検査の持ち帰り実施が結果に及ぼす影響について

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心理検査の持ち帰り実施が
結果に及ぼす影響について
丹治光浩(花園大学)
目的
心理検査に対する一定の構えが結果にさま
ざまな影響を与えることはいうまでもない。一
方、心理検査の実施にあたっては、時として被
検者に心理検査を自宅に持ち帰って実施しても
らうことがある。
そこで、実施状況(実施場所、時間、心理
状態など)が結果にどのような影響を与えるか
を検討することを目的として本研究を行った。
方法
被検者は大学生106名(男性50名、女性56
名)で、平均年齢は19.2歳±2.0歳であった
。調査期間は2011年5月~6月で、臨床心理学
の授業を利用して、半数の学生(A群:男性25名
、女性28名)にはYG性格検査(一般用)を、残
り半数の学生(B群:男性25名、女性28名)に
はP‐Fスタディ(成人用)を実施した。
検査終了後、A群の学生にはP‐Fスタディを持ち
帰り、自宅で実施するよう教示し、B群の学生には
YG性格検査を自宅に持ち帰り、実施するよう教示
した。持ち帰った検査については、1週間後の同じ
時間に回収した。
結果1
分析の対象は、欠席による未提出者4名を
除いた102名(男性49名、女性53名)で、
平均年齢は19.1歳±2.0歳である。両群の
男女比、および平均年齢に有意な差はなかった。
表1はYG性格検査の両群の比較で、表2はP‐
Fスタディの両群の比較である。いずれの検査に
おいても両群の結果に有意な差は認められなかっ
た。
表1.YG性格検査における両群比較
(
A群(授業中)
D(抑うつ性)
B群(持ち帰り)
11.5(4.8)
12.1(5.0)
C(回帰性)
9.7(4.7)
9.3(5.0)
I(劣等感)
9.5(4.5)
8.7(4.6)
N(神経質)
12.8(4.5)
12.0(4.1)
O(客観性)
8.9(4.1)
9.6(5.0)
Co(協調性)
10.4(4.5)
10.4(4.0)
Ag(攻撃性)
8.8(3.9)
8.4(4.0)
G(一般的活動性)
11.3(3.9)
10.3(4.0)
R(のんきさ)
11.1(4.9)
11.7(4.3)
T(思考的外向)
10.7(5.1)
11.6(4.9)
A(支配性)
11.6(4.5)
11.6(4.6)
S(社会的外向)
12.5(5.1)
12.1(5.4)
)内はSD
有意差
n.s.
表2 P-Fスタディにおける両群比較
(
B群(授業中)
A群(持ち帰り)
E’(他責逡巡反応)
2.8(1.7)
2.9(1.8)
E (他罰反応)
3.7(2.4)
4.2(2.6)
1.7(1.3)
1.8(1.4)
E-A(他責反応)
8.2(3.2)
9.0(3.3)
I’(自責逡巡反応)
1.9(1.0)
2.0(1.1)
I (自罰反応)
3.6(1.4)
3.2(1.2)
2.1(1.4)
2.1(1.5)
I-A (自責反応)
7.5(1.9)
7.4(2.0)
M’(無責逡巡反応)
0.5(0.6)
0.5(0.7)
M (無罰反応)
5.6(1.6)
5.3(1.6)
2.1(1.2)
1.9(1.2)
M-A (無責反応)
8.2(2.0)
7.6(2.3)
O-D (障害優位型)
5.2(2.0)
5.5(2.4)
E-D(自我防衛型)
12.7(2.2)
12.6(2.1)
N-P(要求固執型)
5.8(2.0)
5.8(2.5)
e (他責固執反応)
i (自責固執反応)
m (無責固執反応)
)内はSD
n.s.
結果2
心理検査を持ち帰った場合の実施場所は
、「自室」が61名(60%)と最も多く、次
に「居間」が22名(22%)、「大学内」が
8名(8%)の順となっていた(図1)。
また、実施時の環境は「テレビを見な
がら」が35名(34%)と最も多く、次に「
静かな環境」が25名(25%)、「音楽を聴
きながら」が20名
(20%)となった(図2)。
表3.持ち帰り心理検査の実施場所
( )内は%
場
所
P-F
YG
計
自室
29(28)
32(31)
61(60)
居間
12(12)
10(10)
22(22)
学内の教室
5( 5)
3( 3)
8( 8)
その他
1( 1)
3( 3)
4( 4)
無回答
3( 3)
4( 4)
7( 7)
計
50(49)
52(51)
102(100)
無回答
自室
その他
4
学校の教室
7
自室
8
居間
学内の教
22
60
室
その他
無回答
居間
図1
持ち帰り心理検査の実施
表4 持ち帰り心理検査の実施環境
( )内は%
環境
P-F
YG
計
テレビを見ながら
20(20)
15(15)
35(34)
静かな環境
10(10)
15(15)
25(25)
12(12)
8( 8)
20(20)
その他
4( 4)
8( 8)
12(12)
無回答
4( 4)
6( 6)
10(10)
50(49)
52(51)
102(100)
音楽を聞きながら
計
無回答
テレビを見なが
10
その他
テレビを見ながら
12
35
静かな環境
音楽を聴きながら
20
その他
無回答
25
音楽を聴きなが
静かな環境
図2
持ち帰り心理検査の実施環境
結果3
授業中に心理検査を実施した場合と持ち
帰って実施した場合の差については、42名
(41%)が「(両者に)差がなかった」、
31名(30%)が「差があった」と答え
た。また、「差があった」と答えた31名の
うち21名(68%)が「持ち帰って実施し
た方が集中して取り組めた」と答え、10名
(32%)が「授業中の方が集中して取り組
めた」と答えた。
明らかに差があっ
全く差がなかった
やや差があった
1
明らかに差があっ
た
27
やや差があった
どちらともいえな
い
2
あまり差はなかっ
た
全く差がなかった
2
あまり差はなかっ
図3
どちらともいえ
実施場所による検査時の気持ち
授業中の方が集中できた
持ち帰りの方が集中でき
32
68
図4
実施状況により集中の差
考察1
一般に、心理検査を自宅に持ち帰って実施する場
合、検査時の被験者の状況が観察できないだけでな
く、自我の検閲が働きやすくなり、ありのままの考
えを表現しにくくなることが予想されるが、今回の
調査の結果を見る限りにおいて、そのような傾向は
ほとんどないことが示唆された。
ただし、今回の比較条件が一対一の個別実施では
なく、授業中という集団での実施状況であったこと
、ほとんどの被験者(学生)が積極的に検査に臨ん
だことを考えると、必ずしも臨床場面での検査状況
を反映していないかもしれない。この点については
、今後の研究課題としたい。
考察2
心理検査を持ち帰った場合、多くの被検者は自室
でテレビを見たり音楽を聴きながら実施することが多
かったが、気分的には授業中に実施する場合とそれほ
ど変わらず、先にも述べたように基本的に心理検査の
結果にほとんど影響を与えないことが示唆された。
以上の結果は、決して実施時の被検者の様子を把
握する必要がないことを示しているわけではないが、
実施時の状況を聴取することで影響を推測できること
は可能であるし、持ち帰り実施が結果に与える影響に
ついてそれほど気にする必要はないのかもしれない。