Transcript 「今、なにが起こっているのか-福祉用具と安全性-」(パワーポイント)
安全性確保のために、 利用者調査から見えること
9
月
23
日 福祉ジャーナリスト / 福祉用具国民会議運営委員 (国際医療福祉大学大学院博士課程)東畠弘子
今日、お話ししたいこと
1 )利用者調査から見える実態 2) 介護保険での福祉用具貸与事業のリスクマネ ジメントについて ①事故について-実態を把握できているのか、特に在 宅の事故・ひやりはっとについて 安全は担保できる仕組みなのか ②リスクマネジメントとての「個別援助計画」の必要性に ついて
背景
1) 介護保険、社会福祉基礎構造改革以後、リスクマネ ジメントへの関心が高まっている。
2)
介護保険の指定基準では、施設は身体拘束禁止が 定められた。また事故は在宅においても、対応とその 文書保管が義務付けられた。
3)
福祉用具は、介護保険施行以後、利用者が増加。在 宅サービスの中で訪問介護、通所介護
(
デイ
)
に次い で利用されており、利用者は
90
万人を超える。
制度から見ると、福祉用具は 障害と高齢分野に縦割り
補装具は身体障害者福祉法に明記され、戦 後の福祉用具の公的給付制度の核になった。 そこでは、判定・交付されその人に合わせたも のが給付され適合と調整が前提だった。 高齢者は、「老人日常生活用具給付等事業」 で実施され「日常の便宜を図る」のがねらい。 1990 年代に拡大したが、法律に位置付けられた のも 1990 年の老人福祉法改正と遅かった。
福祉用具の定義と分類
福 祉 用 具 介護保険対象 種目 ( 貸与 ) 補装具 ( 車 いす、 歩行器 、 歩行補助 つ え) ISO 老人日常生活 用具 ( 電磁調理 、 火災警報器 、 自動消火器 、 老人用電話 )
福祉用具利用の流れ
導入の判断 サービス担当者会議 ケアプラン決定 選定・ ( 利用計画作成 ) 利用へ
介護給付費実態調査 (
20
年
4
月分)
①貸与は介護給付
84
万
5000
人、 予防給付
9
万
7000
人。 ②
1
人あたり費用額は
1
万
5600
円(介護給付)、予防給 付は
6900
円。 見直し前と比べると利用者は
10
万人の減少、介護給付 の
1
人あたり費用額は見直し前とそれほど変わらない ものの、「予防給付」と合わせれば利用金額は減、総 額は減。
福祉用具の事故について
今年 2 月 15 日、「介護ベッド用手すりによる、重大製品 事故について」注意喚起の通知(事務連絡)を厚生労 働省は都道府県に流す。 昨年 5 月 14 日から「改正消費生活用安全製品法」が 施行され、重大事故は国に報告が義務付けられた。 施行後、電動ベッド用手すりに関する事故が、 5 件報 告された。うち 3 件が死亡事故。 通知はその後も事故件数の公表とともに、出されてい る。
介護ベッドで国会質問
(2008
年
3
月
17
日
)
経済産業省の対応、厚生労働省の情報把握、 施設への対応、過去
10
年間の医療機関、施設、 在宅での重大製品事故の件数、メーカー名など 、ベッドおよび手すりに関して質問主意書を提出
(
谷博之参議院議員
)
これに対して、事故報告は
6
件、任意で情報提 供製品起因によるかが不明なため事業者名を公 表していないのが
3
件ある、再発防止、注意喚起 を図り、施設での情報収集の仕組み構築につい て検討したい、と回答。
事故・ひやりはっと
1 件の重大事故の陰に、 29 件の軽微な事故 があり、その背後には 300 件の「ひやりはっ と」があるという(「ハインリッヒの法則」)。 福祉用具は、ADLの落ちている人が使う、使 用に熟知していない人が使う、介護者が操作 し、介護者は常に同じ人とは限らない-など の特性がある。 「ひやりはっと」は、車いすと電動ベッドに多い → 利用者が多い、移動・移乗に多い。
ハインリッヒの法則
1
件の重大事故
29
件の軽い事故
300
件の ひやりはっと
1.
先行調査
製品安全協会 ( 平成 13 年 ) が福祉用具利用時 のひやりはっとを調査 -352 件の有効回答。ひ やりはっとしたときの状況は、「移動」時が 38.1
%、移乗時が 16.1
%。用具別では「車い す」が最も多く、 38.6
% (136 件 ) 、ベッド・関連 用品が 14.8
% (52 件 ) 全社協の調査では、重症心身障害児施設に 次いで特別養護老人ホームに多かった。
2.
東畠の調査
52 件の「ひやりはっと」を平成 19 年 4 - 5 月に 収集 → 本に収録。 用具別では最も多いのが、車いすで 20 件。車 いすのひやりはっとで最も多かったのが、「ブ レーキのかけ忘れ」だった。 ベッドは 52 件中、 9 件だったが、そのうち 4 件は 脚座・キャスター・留め具のはずれだった。
ひやりはっと体験を誰かに話したか
5.8% 7.7% 5.8% 80.8% 話した 話さなかった 話したか忘れ た 不明
3.
利用者調査から
テクノエイド協会の助成を得て実施。 2008 年 2 ~ 3 月にかけて北海道から鹿児島ま で 27 都道府県の貸与利用者 698 人から回答。 介護保険での利用の仕組みの認知度や、利 用して困ったことなど実態を尋ねた。
利用開始時の操作や取り扱いの説明 利用開始時における操作や取扱の説明 してくれない 1.3% 無回答 0.4% してくれた 98.3%
利用していて困ったこと
(
東畠調査
)
使い方・操作がわからなくて困った 使い方・操作を忘れて困った 体に合わなくて困った 使いにくくて困った 故障して困った 使っていて、事故になりそうで、困った 使っていて、壊れて困った 説明書がわからなくて困った その他 困ったことはなかった 無回答 回答総数 27 68 45 37 49 15 18 12 2.6% 1.7% 29 364 115 4.2% 52.1% 16.5% 698 100.0% 3.9% 9.7% 6.4% 5.3% 7.0% 2.1%
図・利用していて困ったこと
(
東畠
)
60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 3.9% 9.7% 6.4% 使 ら な い 方 く て 困 ・ 操 作 っ た が わ か 使 い 方 て 困 ・ 操 っ た 作 を 忘 れ 体 に 合 わ た な く て 困 っ 5.3% 使 い に く く て 困 っ た 7.0% 故 障 し て 困 っ た 2.1% 2.6% 1.7% な 使 り そ う で っ て い て 、 困 、 事 っ た 故 に 使 っ て 困 っ た い て 、 壊 れ て 説 明 て 困 書 が わ っ た か ら な く 4.2% そ の 他 52.1% 困 っ た こ た と は な か っ
困ったときに、誰に連絡したか
50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 32.9% ケ ア 絡 マ ネ し た ジ ャ ー に 連 33.3% 貸 与 事 業 た 者 に 連 絡 し 9.6% 7.3% 連 ケ と き 絡 ・ 訪 に 話 問 し た が あ っ た ア マ ネ ジ ャ ー か ら き に 話 し た 絡 ・ 訪 貸 与 問 が あ と 事 業 者 っ た か ら 連 n=219 1.8% 連 貸 絡 与 事 も し な か っ た 業 者 に も 話 も ケ ア マ ネ ジ ャ ー に も 5.0% そ の 他
その福祉用具をどうしたのか
50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 30.1% た ・ 使 い 続 ま 使 け て そ の ま い 続 い る け n=219 14.6% 調 整 し た 8.7% 修 理 し た 36.1% 交 換 ・ 返 品 し た 5.9% そ の 他
利用者調査から見えること
1 )困ったことがあると回答した人は 219 人と 3 割。 過半数は「困ったことない」と回答している。 2 )しかし、困ったことで最も多いのは「使い方・操作を忘 れて困った」( 68 人)。これは放置すれば、誤操作の 危険がある。「事故になりそうで困った」と回答も 15 人 いる。また「困ったとき」に誰にも連絡しなかったという 人もいる。これらの困りごとを解消することで事故防 止につながる。 3 )事故を防ぐためには、専門相談員は貸与後も訪問し 利用確認、説明が要るといえる。
「福祉用具専門相談員」という資格
「福祉用具専門相談員」という資格 無回答 0.3% 知っている 30.4% 知らない 69.3%
事故・ひやりはっと
①介護保険下での福祉用具は、使う人が福祉用具を 「初めて知り、初めて使う人」が多い。つまり、福祉用 具に触れたことのない人が使う。 ②操作する人が、利用者とは限らない。介護家族、ヘル パー、施設職員ら複数の人が操作することある。 ③事故は「製品の瑕疵」と「ヒューマンエラー」に分かれ、 これまで、誤操作などはヒューマンエラーとして見過 ごされてきた。しかし、柵があればそれにつかまるの は当たり前、利用者の当たり前の動作に合わせた製 品づくりをして欲しい。
福祉用具のひやりはっと・事例
1
①夜中、四点杖をついてトイレに行こうとして、 ふらつき転倒し、柱に頭をうちつけた。脳震盪 をおこし、救急車で運ばれたが大事には至ら なかった。 ②利用者は日頃から「ふらつき」の強い人だった ようで、家族はしょっちゅうだからと驚かなかっ た。しかし、貸与事業者にはその情報は入っ ていなかった。「事前に知っていたら」と思った 四点杖には体重をかけたようで曲がっていた。 杖は引き取った。
福祉用具のひやりはっと・事例
2
①認知症高齢者が夜、ベッドの柵を乗り越えて 転落した。家族は朝になって気がついた。幸 い大事には至らなかった。 ②専門相談員は認知症と知っていたが、「徘徊」 のことまで知らなかった。知っていたら、福祉 用具の選定をもっと検討したという。
事例の考察
事業者自身が「事前に知っていたら」と あるように、事業者の専門相談員が「利 用者の状態像を」を正しく把握する事が、 事故・ひやりはっとを防ぐことに繋がる。 定期的な訪問で未然に防いだ例もみら れる。電動ベッド(特殊寝台)の事例。
認知症の福祉用具利用者の事故・ ひやりはっとの有無
N=5 0 6 ( %) 50. 0 40. 0 30. 0 20. 0 10. 0 0. 0 2. 8 事 故 が あ る 42. 9 ひ が や り あ は る っ と 3. 8 は 事 が っ 故 と と あ の ひ る 両 や 方 り 30. 8 ど ち ら も な い 18. 4 わ か ら な い 1. 4 無 回 答
事故・ひやりはっとした福祉用具
0 ベッド・付属品 車いす・電動車いす 歩行器 徘徊感知機器 杖 床ずれ予防マットレス 手すり ポータブルトイレ 昇降座いす 1 1 1 2 3 4 10 20 18 26 30 40 50 60 70 80 78 90 件
事故・ひやりはっとの内容・件数
0 転倒 転落 打ちつけ・挟み込み 誤操作 立上り・飛跳ね その他 2 10 9 20 22 24 30 40 37 40 50 件
専門相談員の対応
1) 機種変更、家族への見守り促し、の 2 つに分 かれる。 2) 柵の挟み込み・乗り降りに関しては、隙間をふ さぐ、隙間を広げる、ベッドの高さを低くする、 に分かれた。 3) 数はごく少ないが、身体拘束も止むを得ない のではないか、拘束との兼ね合いに悩むとい う、ものもみられた。
貸与サービスの質について
介護保険制度では、ケアマネジャーの連携先 として個々の事業者があり、ケアプランを具体 化するために「個別援助計画」がある。しかし、 福祉用具貸与には、作成義務がない。 従って、何のためにその福祉用具を利用する のか機種選定の目的が明確化できない。第 三者にわからない。 これでは、継続性の判断の前提が立てられな い。
貸与サービスの質について
質を規定するものが現状ではない。そのため、 福祉用具利用は「自立促進」とも、「自立阻 害」とも、それぞれが勝手に言っている段階。 この背景には、ケアマネジャーの考えるサー ビスの質と「貸与事業者」の考える質に、差異 があるのではないか。 例・ケアマネのモニタリングは利用者の生活全 体を見るのに対して、貸与は用具のメンテナ ンス(利用者の確認をしているのか)
「福祉用具における保険給付の在り方に 関する検討会」での東畠の発言
福祉用具は 単にモノだけではない人のものも含め てというお話だったと思いますが、何のために使うの かそして目的と品目の選定というところは現状では必 要性の判断はありますけれども、その後他のサービ スのような個別援助計画は貸与にはないのです。 導入しました、ではその後どういう種目を何のために するのか。レンタルというのは必要なものを必要な期 間、そして状態に応じて借り換えができるわけですけ れど、そもそもの目的とこの人に合った援助計画がな い中でモニタリングがあっても、専門相談員がどう機 能するのか。制度の中でそういう仕組みがあってもい いと思います。
(07
年
9
月
3
日「あり方検討会」議事録より
)
個別援助計画書(例) 記載するもの 利用者情報(身体・住環境・疾病 ・要介護度 ) 短期目標(ケアプランの目標を明記) 長期目標(ケアプランの目標を明記) 利用意向 総合方針 選定理由 (専門相談員としての視点 が問われる)
「個別援助計画」( 利用計画)
福祉用具導入の目的を明確にする 「期限」を、考えることが出来る 事業者の専門相談員と、ケアマネジャーとの 連携のツールになる。サービス担当者会議と の目標合意がやりやすい。 アセスメントシートなどで一部、取り入れてい る事業者も。 コストがかかると、慎重意見もある。
サービス担当者会議出席の頻度 毎回出席 49 31.8% だいたい出席 声がかかれば出席 ほとんど出席していない その他 無回答 総計 回答総数 35 62 4 3 3 154 156 22.7% 40.3% 2.6% 1.9% 1.9% 100.0%
サービス担当者会議は、共通理解 と目標の合意 ケアマネジャー 家族 かかりつけ医 デイ職員 利用者 貸与・ 専門相談員 理学療法士ら 訪問介護・ホーム ヘルパー
ひやりはっと防止に重要な役割を 果たすと思われる人(
19
年
4
~
5
月回答) 1 福祉用具専門相談員 2 利用 する 本人 3 家族 4ケアマネジャ ー 5 理学療法士 6メ ー カ ー 7 行政 8その 他 総数 1 1 1 2 28 8 4 2 47 人
利用者の
9
割が満足!
(698
人から回答・東畠調査
)
利用して満足しているか どちらともいえ ない 4.6% 無回答 0.7% 満足していない 2.3% 満足している 92.4% ご清聴ありがとうございました。東畠