Transcript 炭疽・破傷風
炭疽(anthrax) 人獣共通 原因菌: 牛、水牛、しか、馬、めん羊、山羊、 豚、いのしし 原因菌: 炭疽菌(Bacillus anthracis)は グラム陽性の大桿菌で、運動性がない。芽胞 を形成して、熱、乾燥、消毒薬などに強い抵抗 性を有する。土壌中で40年生残。 臨床: 反芻獣は感受性が高く、 1~5日の潜伏期の後、急性敗血 症を呈し急死する。馬はこれに次ぐが、豚は比較的抵抗性の強く慢 性的な経過をたどる場合が多い。犬や猫は抵抗性。皮下の浮腫、口 腔、鼻腔や肛門等の天然孔から凝固不良で暗赤色タール様の出血、 脾臓の腫大等がある。 予防・治療: 牛および馬用の予防生菌ワクチンがある。同居家畜 に対して緊急予防的に抗生物質を注射することがあるが、敗血症が 進行した患畜には効果は期待できない。 反芻獣 甚急性: 突然死 急性:振戦、呼吸困難、天然口からの出 血、タール様血便 ウマ科 急性: 発熱、拒食 症、疝痛、出血性下 痢、呼吸困難、窒息 により1~3日で死亡 食肉センター作業員の手首 毛皮職人の髭剃り傷 皮膚炭疽が全症例の9割以上を占める。開放傷から侵入し、2~3 日で発赤、水泡、痂疲へと進み、無治療の重症例では致命率10%。 肺炭疽:皮や毛も芽胞で汚染されており、毛皮取扱い者、皮革加工 業者、毛筆製造業者などが罹患した。呼吸器の炎症、血痰、胸膜炎 などで2~3病日で死亡。未治療では致命率80%以上。 腸炭疽:感染した家畜の乳や肉を摂取することで発病。吐血、血性 下痢、腹膜炎で死亡。未治療では致命率25~70% 300 ウシ 250 200 症 例 150 数 100 50 ウマ 火山灰土壌の鹿児島では作物の育ち が悪かったが、骨粉の菜種への施肥効 果が判り1830年に獣骨取扱所が設置さ れた。明治の開国で朝鮮や中国から多 量に輸入された獣骨が炭疽菌芽胞に汚 染していたことで、鹿児島が全国発生数 の半分以上を占める流行になった。 ヒト 0 20世紀前半における炭疽の発生数(鹿児島県) 60 50 40 左:肥大して暗赤色を示 す脾臓。血液は暗赤色で 凝固し難い。 下:暗赤色を示す粘調 下痢便。腸出血が激しい。 発 症 30 頭 数 20 10 0 20世紀後半における牛炭疽の発生状況(全国) 急性鼓張症は第一胃の発酵異常によるもので、自家用と殺で食用可 皮膚炭疽7例、腸炭疽 9例を出したが、抗生 物質投与により死亡例 はなかった。誤診が招 いた重大事例として記 憶しなければならな い。 敗戦後引揚者による開拓集落は酪 農で生計を立てていた。牛舎の消毒 後未発症の牛も感染の疑いが晴れる まで搾乳して捨てる作業を続けた。 当時は未だバルクーらーもなく、 35kg入りの集乳缶が使われていた。 10 年 間 の 累 積 患 者 数 米国においても1950年頃まではヒト の感染も多かったが、その後は散発的 発生に留まっています。スライドに示し たテキサス州は、比較的発生が多かっ た地方である。 2001年の9.11同時多発テロの直後、 炭疽芽胞入り郵便物が出回り、 22名 が感染し、内5名が肺炭疽で死亡した。 鬱病の米国人科学者の仕業だった。 1935 年から 2001年の間にテキサス州で発生した ヒトの炭疽75症例の10年間隔での集計 400 350 300 250 死 亡 200 確 認 150 数 100 北米大陸では様々な野生動物の間 で炭疽が流行しており、その制御を難 しくしています。カナダのアルバータ州 北部国立アメリカ・バッファロー公園で は、現在も年間100頭程度のバイソン が炭疽で死亡しており、2001年には公 園内のクマの斃死例も確認されてい る。 50 0 カナダにおける炭疽によるバイソンの死亡確認数 :情報なし :これまで報告なし :この期間に報告なし :疑い :感染を確認 :臨床例あり :複数個所で発生 2011/7-12 2012/1-6 全世界で発生 している。常在 地では家畜の 予防接種が行 われている。 芽胞が土壌中 で数10年も生残 するので、病畜 の埋却・消毒・ 採掘禁止を徹 底する。汚染を 広げないため、 解剖を最小限に 留め、畜舎消毒 を徹底する。 破傷風(tetanus) 人獣共通・届出伝染病 原因菌: 牛、水牛、しか、馬 原因菌: 破傷風菌(Clostridium tetani) による。本菌は、土壌、水中など環境中に広く 分布し、偏性嫌気性、グラム陽性有芽胞菌。 臨床: 神経毒(テタノスパスミン)に より、全身の筋肉の強直性痙攣を起こ し、呼吸困難により死に至る。家畜で は馬が最も感受性が高いが、牛、めん 羊、山羊、豚にもみられる。主に分娩、 去勢、断尾などの後に発生する。 予防・治療: 土壌にいるので根絶 は無理。過去に発生経験を持つ農場 や汚染地帯では破傷風トキソイドの接 種により予防効果が期待できる。 強直性痙攣が特徴で、四 肢を突っ張り、耳や尻尾を 持上げ、呼吸困難に陥る。 1889 北里柴三郎 培養成功 1890 北里柴三郎ら 抗毒素療 法開発 1927 トキソイドによる免疫 戦争で重傷を負った兵士が多 数発症した。第二次世界大戦で 米軍は全兵士に予防接種た。農 作業で深い傷をした時はトキソ イドを打つ必要がある。 不潔な場所で出産した際、臍 帯切断により感染する新生児破 傷風は、日本でも1947年に972 名も発生した。家庭出産が激減 し病院での出産になってから発 生はない。発展途上国では現在 も大きな問題。