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平成18年度 衛生管理責任者等講習会
公衆衛生学概論
鹿児島大学教授 岡本嘉六
農学部獣医公衆衛生学
1. 食品を取り巻く世界と日本の情勢
2. 食品の品質・安全性向上のための社会システム
3. 食品の品質・安全性基準、管理記録、検証、認証
4. 食肉センターにおける衛生管理の進め方
生産から消費までのフードチェーンにおける全ての構成員
が協力することによって、初めて、食の安全が向上する。
1. 食品を取り巻く世界と日本の情勢
世界の動向
国際的食料事情: 国際連合「新世紀の発展目標に関する報告」
食料の国際取引における衛生基準: WTO体制とSPS協定、
Codex委員会と国際獣疫局(OIE)、
米国の政策
日本の動向
「食育基本法」、「食品安全基本法」、「食料・農業・農村基本法」、
「環境基本法」
「食品衛生法」、「と畜場法」、「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する
法律(食鳥検査法)」、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」
「家畜伝染病予防法」 、「牛海綿状脳症対策特別措置法」、
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」
● 国際的食料事情
新世紀の発展目標に関する報告 2005
国際連合
目標 1:
目標 2:
目標 3:
目標 4 :
目標 5 :
目標 6 :
目標 7 :
目標 8:
極度の貧困と飢餓の克服
一般的な初等教育の達成
男女平等の推進と女性への公的権限の付与
小児死亡率の低減
母体の健康増進
HIV/AIDS, マラリアおよびその他の疾病の克服
環境の持続性を確保
発展のための地球的規模での提携の推進
新世紀の発展目標に関する報告
2005 2005
国際連合
The Millennium
Development Goals Report
United Nations
サハラ以南のアフリカ
南アジア
目標
Goal1.1. 極度の貧困と飢餓の
Eradicate extreme
poverty
克服
& hunger
サハラ以南のアフリカ
南アジア
東南アジア
東アジア
ラテンアメリカとカリブ海沿岸
西アジア
北アフリカ
発展途上地域
2015年の目標
不十分な食事で生活し
ている人口の割合(%)
Global poverty rates are falling, led
世界の貧困率は低下しており、それは
東南アジア
by
Asia. But millions more people
アジアがもたらした。しかし、サハラ以南
have sunk deep into poverty in subのアフリカだけで100万人以上が貧困に
東アジア
Saharan Africa, where
the poor are
体重が足りない5歳以
喘いでおり、しかも貧困が更なる貧困を
getting poorer. 下の子供の割合(%)
西アジア
生んでいる。
Progress has been made against
飢餓対策は進展してきたが、農業生産
hunger,
but slow growth of agricultural
北アフリカ
output
and expanding populations
高の成長が遅く、ある地域では増大する
have led to setbacks in some regions.
人口が後戻りさせている。1990年以降、
ラテンアメリカとカリブ海沿岸
Since 1990, millions more people are
サハラ以南のアフリカと南アジアにおい
chronically hungry in sub-Saharan
て数100万人が恒常的な飢餓状態にあ
発展途上地域
Africa
and in Southern Asia, where
り、それらの地域では5歳以下の子供達
half the children under age 5 are
の半数が栄養失調に陥っている。
malnourished.
Dietary
Energy Consumption (2000
(2000 -- 2002)
2002)
1日当りカロリー摂取量
サハラ以南のアフリカにおける栄養不足人口(100万人)
1969-71 1979-81
92.8
127.0
1990-92
169.0
1995-97 2001-3
196.6
206.2
Undernourished
Population (2000
(2000 -- 2002)
2002)
栄養不足の人口割合
穀類
インド
砂糖類
中国
芋・豆・野菜
エジプト
肉類
日本
卵類
乳製品
イギリス
魚介類
ドイツ
その他
フランス
米国
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
1人1日当たりKcal
カロリー供給量の食品別割合の比較 (2002年)
(総務省統計局)
食品1kgを生産するた
めに必要な穀物量
(農水省試算)
牛肉
11 kg
豚肉
7 kg
鶏肉
4 kg
鶏卵
3 kg
大豆油
5 kg
菜種油
2 kg
食肉については、可食部の
生産に必要なとうもろこし量。
油については、各原料の量。
飼料要求率=
飼料摂取量
増体量
鶏肉の飼料要求率=約2
100
90
80
70
60
億 50
人 40
30
20
10
0
世界
発展途上国
先進国
世界人口の推移と予測
(総務省統計局)
食事内容が改善され、動物性蛋白や油脂の摂取
量が増えると、そのまま食べる穀物量は相対的に
少なくなる。かつては穀物輸出国であった中国が
輸入国に転じた理由は、経済的発展による食事内
容の改善であった(日本も同様)。
肉(kg)、伸び率(%)
60
乳(kg)
600
Live stock to 2020
The Next Food Revolution
50
500
1999, FAO
40
400
30
300
20
200
10
100
0
0
-5
先進国 途上国
先進国 途上国
先進国 途上国
先進国 途上国
牛肉
豚肉
鶏肉
乳
一人当たり年間摂取量の予測
:1993年、
:2020年(推定)、
:伸び率=2020年/1993年
ECOSYSTEMS
AND HUMAN WELL-BEING
: Health Synthesis
生態系と人類の福祉:
健康の創生
A Report of新世紀の生態系アセスメント報告
the Millennium Ecosystem Assessment
World Health
Organization
2005
WHO
2005
死亡率の低い先進国では、食事と関連するリスクは主に栄養過剰と
運動不足によるものですが、病気に罹る10分の1から3分の1に及んで
おり、それらは、主として高血圧、冠状動脈性心臓病ならびに糖尿病
のような健康状態に起因する。
5歳未満死亡率
(2003年推定)
170~318
110~170
55~110
25~55
3~25
データなし
1000名の新生児の中で、5歳までの死亡数
WHO 2005
◆ 健康と食事の関係 ◆
閾値がない
化学物質
▲
栄養素
▲
健
康
へ
の
悪
影
響
▲
閾値がある
化学物質
●
●
●
NOAEL
●
無有害作用
濃度
●
●
●
●
●
●
●
化学物質の用量・反応関係
LOAEL
最小有害作用
濃度
用量(摂取量)
WHO: Hazardous chemicals in human and environmental health - A resource
book for school, college and university students. 2000
主要国の食料自給率の推移
(農水省)
35
大豆
30
25
割
合 20
(
%
) 15
10
5
33.8%
肉類
24.8%
とうもろこし
10.2 %
5.8%
0.7%
3.1%
農産物合計
小麦
人口 2%
0
世界の人口と農産物輸入額に占める日本の割合
海外食料需給レポート2002(農水省)より
食の権利
Hunger
is both a violation of human dignity and an obstacle to social,
飢餓は、人間としての尊厳への侵害であり、また、社会的、政治的、ならびに経
political
and economic progress. International law recognizes that
済的発展への障害となっている。国際法では、何人も飢餓から解放される基本的
everyone has the fundamental right to be free from hunger, and 22
権利を有するとしており、22カ国が「食の権利」を憲法において定めている。一国
countries have enshrined food rights in their constitutions. National
の政府は、国民が健康で活気に満ちた生活を過ごすために、十分量の、安全で、
governments must do everything possible to ensure that people have
栄養価の高い食品を物理的および経済的に手にすることができることを保証する
the physical and economic access to enough safe, nutritious food to
上で可能なあらゆる方策を実施しなければならない。
lead healthy and active lives.
食の権利は、無制限の食料ではない
The right to food, not free food
A common misunderstanding is that the right to food requires the State
一般的に広まっている誤解は、食の権利は人々を養うことを国連に求めることで
to feed its people. This is not necessarily the case. Rather, the State must
あるという見解である。これは必ずしも正しくはない。むしろ、個人が自ら食べる権利
respect and protect the rights of individuals to feed themselves. Direct
を国連は尊重し保護すべきである。直接的な食料援助は、主として、自然災害や戦
food assistance is mainly called for in emergencies, such as natural
争のような緊急事態に要請されることである。国家が自らの資源でこの要請に応え
disasters or war. When a country cannot meet this need through its own
ることができない時に、国連は国際的支援を要請しなければならない。
resources, the State must request international assistance.
◆ 食料の国際取引における衛生基準
WTO体制とSPS協定
世界貿易機関(WTO)
ヒトの入国、動物、植物および
食品の輸入時に、「検疫」が実
施されるが、その基準は?
WTO組織図
閣僚会議
貿易政策検討機関
一般理事会
紛争解決機関
様々な物資が国際流通しており、そ
れらの国際取引上のトラブルを解消
するための組織
上級委員会
小委員会[パネル]
危
害
因
子
に
つ
い
て
の
国
の
衛
生
基
準
B国
A国
非関税障壁
(WTO訴訟)
E国
C国
国
際
基
準
D国
自由貿易の枠組み(WTO)と衛生基準の関係概念図
衛生および食物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)
貿易の技術的障壁に関する協定(TBT協定)
1930年代の世界不況
自国の産業保護
関税引き上げ
貿易数量制限
為替制限
1944年 ブレトン・ウッズ会議(米国)
世界戦争の回避策
1947年 第1回関税交渉妥結 → ガット採択
第二次世界大戦
国際復興開発銀行( IBRD ;1945)
国際通貨基金( IMF ;1947)
ガット体制(GATT; 1948 )
「関税及び貿易に関する一般協定」
経済紛争の元となる貿易障壁をなくし、自由貿易を確保する基本原則
(i)貿易制限措置の削減
(ii)貿易の無差別待遇(最恵国待遇、内国民待遇)
GATT 第20条 一般的例外: 動植物防疫に係る検疫等の措置
「衛生植物検疫措置の適用に関する(SPS)協定」
ケネディ・ラウンド(1967) 、東京ラウンド(1979 )妥結
ウルグアイ・ラウンド(1986 ~1994)妥結: 農産物貿易の原則自由化
1995年 世界貿易機関( WTO ) ← ガット体制
「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称:WTO設立協定)」
「農業に関する協定」
食料の輸出入における安全性確保と関わる国際的枠組み
コーデックス委員会
( FAO/WHO 合同食品規格委員会)
( ):部会数、 〔 〕:休会中
事務局
執行委員会
一般問題部会(9)
個別食品部会(11)
一般原則
食品衛生
食品表示
分析・サンプリング
食品輸出入検査証明制度
食品添加物・汚染物質
栄養・特殊用途食品
残留農薬部会
残留動物用医薬品
専門家会議
食品添加物(JECFA)
残留農薬(JMPR)
乳及び乳製品
食肉・食鳥肉衛生
魚類・水産製品
生鮮果実・野菜
加工果実・野菜
油脂
〔ココア製品・チョコレート〕
〔糖類〕
〔穀物・豆類〕
〔植物タンパク質〕
〔ナチュラル・ミネラル・ウォーター〕
特別部会(2)
果実・野菜ジュース
動物用飼料
地域調整部会(6)
アジア
アフリカ
ヨーロッパ
ラテンアメリカ・カリブ海
近東
北アメリカ・南西太平洋
コーデックス委員会の組織図
リスク・アセスメント
リスク管理
Risk Assessment
Risk Management
危害の特定
危険性の評価
Hazard Identification
Risk Evaluation
危害の特性解明
管理措置の査定
Hazard Characteristics
Management Option Assessment
暴露査定
管理措置の実行
Exposure Assessment
Option Implementation
危険性の特性解明
監視と再吟味
Risk Characterization
Monitoring and Review
リスクの情報交換
Risk Communication
リスク・アナリシスの構図
Structure of Risk Analysis.
Risk Management and Food Safety. FAO, Rome, 1997
危害(Hazard)とリスク(Risk)
「危害とは、ヒトに障害を起す可能性のある食品の、生物
学的、化学的、あるいは物理学的因子、もしくは状態をいう。
他方、リスクとは、食品中の危害の結果として起こる、暴
露集団の健康に対する悪影響の発生確率と重篤度の推
定値である。」
「危害を減らすこととリスクを減らすことの関係を理解す
ることは、適切な食品の安全性制御を発展させる上でとく
に重要である。 不幸なことに、食品について『ゼロ・リス
ク』のような事態はありえない(その他の何についても言え
ることだが)。」
「食品の品質と安全性システム」
FAO: Food Quality and Safety Systems - A Training Manual on Food Hygiene
and the Hazard Analysis and Critical Control Point (HACCP) System. 1998
一日摂取許容量(ADI )=
無有害作用濃度
100
食品中の残留許容濃度
生
体
反
応
の
強
度
閾
値
致死量
無
有
害
作
用
濃
度
中毒量
閾値がある
化学物質
薬効
用量
一日摂取許容量と残留許容濃度(一般毒性)
(μg/ Kg/ day)
1
カビ毒
AFB1
アフラトキシン
ニトロソアミン
癌 1O
原
性
の
強 1O 2
さ
(
動
物 1O 3
に
癌
を
4
作 1O
る
用
量 1O 5
)
STRC
(魚の二級アミン + 野菜の硝酸塩)
4NQO
BP
BNU
DMBA
MNU
DBNA
3MCA
魚の焼け焦げ
Trp-P2
TOX
DBA
Trp-P1
AF2
DAN
1O 6~
TCE
~
~
~
-3
10
-2
-1
2
3
4
5
10
10
1
10
10
10
10
10
Ames法による突然変異原性の強さ(変異コロニー数/μg)
生活環境中物質の発癌性と突然変異原性
10
6
日常的に暴露されているリスク、避けることのできないリスクより
十分に低いことをもって安全とする。
一生の間に100万人に1人以下でしか起きない確率
発
癌
率
閾値がない
化学物質
10-6
低濃度直線性
実質的安全量
用量
DNA 障害性物質の安全性基準
1.0
最
少
発
症
菌
数
0.8
発 0.6
症
率 0.4
汚
染
限
度
0.2
一般健康成人
● おおよそ100万個の菌を摂取
しないと発症しない
● 最少発症菌数以下で発症し
ても軽度の症状で収まる
0
10-0
発
症
率
(
対
数
)
ハイリスク集団
(健康弱者)
10-1
10-2
● 摂取菌数が減ると発症率が低くなるだ
けで、最少発症菌数は設定できない
● 健康状態によって重篤度は左右され、
抵抗力が低下した状態では致命的になる
10-3
10-4
10-5
100
101
102
104
105
106 107 108
109 1010 1011
摂取菌数
食中毒菌摂取菌数と発症確率に関する近年の知見
国際食品微生物規格委員会(ICMSF)による
食品の微生物学的危害因子
危害因子
危害特性
食品例
A
乳幼児、高齢者、虚弱者または免疫力
の低下したヒトのために作られた製品
B
微生物の増殖を支持する成分を含む
生の魚介類や食肉
C
製造過程に管理された殺菌工程がない
調理パン、ケーキ、
惣菜
D
加工後包装までに再汚染される可能性
がある
弁当、カットハム、
カット野菜
E
輸送や消費者の誤った取り扱いで増殖 生の魚介類、食肉、
する可能性がある
卵。調理パン、惣菜
F
包装以降、最終消費の際に加熱工程が
生の魚介類や食肉
ない
国際食品微生物規格委員会(ICMSF)による
食品の微生物学的危険度分類
カテゴリー 食品の性状と危害特性
食品例
Ⅵ
危害因子 A
乳児食、老人食、特定の病人食
Ⅴ
B~Fの危害因子を 5個
刺身、幕の内弁当、洋菓子、
生野菜サラダ
Ⅳ
B~Fの危害因子を 4個
握り飯、ポテトサラダ、惣菜
Ⅲ
B~Fの危害因子を 3個
ハム、ソーセージ、無包装蒲鉾
Ⅱ
B~Fの危害因子を 2個
スライスハム、調理パン、
Ⅰ
B~Fの危害因子を 1個
食パン、包装蒲鉾、乾燥麺
日本においても、ハイリスク集団(健康弱者)に関する
インスタントコーヒー、煎餅、
危害発生の恐れがない
0
法的根拠を設けることが重要である。
乾し海苔、調味料
国際食品微生物規格委員会による ロット検査法
食品の微生物学的汚染の分布状況
空港の手荷物検査ではX線装
置を通過した品物は引き続き
使用できる。他方、食品では
検査時に磨り潰してしまう(破
壊検査)ため、全てを検査す
ることは不可能である。
汚
染
菌
数
m
汚染菌数
n: 1ロット当りのサンプル数
M
ロット: 同一工場の、
製造過程が等しく、
同じ日に作られた製品
3階級法: M以上のサンプルがあれば不可。m~Mの間のサンプル
数が c 個以上あれば不可。汚染指標細菌に主に適用。
2階級法: m以上のサンプルがあれば不可。病原細菌に適用。
ロット毎のサンプリングおよび判定方式と菌数の基準
判定方法
階級 n c
菌数/g
m
M
食品の種類
検査項目
乾燥卵製品
一般生菌数
大腸菌群数
サルモネラ
3
3
2
5
5
10
2
2
0
104
10
0
106
103
ー
乾燥乳
一般生菌数
大腸菌群数
ブドウ球菌
3
3
3
5
5
5
2
2
1
5X104
<3
105
102
10
102
一般生菌数
サルモネラ
3
2
5
5
3
0
106
0
107
ー
一般生菌数
大腸菌群数
サルモネラ
3
3
2
5
5
60
2
1
0
103
<3
0
104
20
ー
冷凍生肉
乳児用乾燥食品
n: サンプル数、C: mとMの間のサンプル数、2階級法ではc=0