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型パイロクロア酸化物超伝導体
KOs2O6 の熱伝導率測定
b型パイロクロア酸化物 超伝導体AOs2O6(A = Cs、Rb、K)の結晶構造
O( ) → 八面体を形成 (中心にOs)
A(
) 、Os
→ 各々正四面体を形成し、それらが頂点を
共有しながら繋がる
パイロクロア格子
特徴
A原子がOsO6八面体ネットワーク内
でふらつく (ラットリング)
Cs
Aイオン半径
格子定数
A原子変位
大
小
Rb
K
小
大
A原子の大きさが小さい方が変位大きい
電気抵抗
A = Cs ・・・・ 3.3K
Rb ・・・・ 6.3K
Tc
K ・・・・ 9.6K
A原子が小さくなるにつれ、Tc上昇
KOs2O6のみ上に凸の温度依存性
比熱
Rb、Cs ・・・・ γ=20mJ/K2molOs
ΔCe / γTc < 1.43 (BCS s波)
フォノンの寄与 ・・・・ ∝ T5 として差し引き
ラットリングフォノンによるもの?
T (K)
広井善二:固体物理 40(2) 43-50 (2005)
比熱
Tc以下でもう一つのピーク ( TP)
構造相転移 (ラットリングの停止)?
(K、単結晶試料でのみ現れる)
ΔC / Tc = 92.7mJ/K2 mol Os
γ = 34 mJ/K2 mol Os
ΔC / γTc = 2.72
Tp
Zenji Hiroi et al. JPSJ 74 1982 (2005)
Tcに比べ、ほとんど磁場依存性なし
(わずかに磁場増加で上昇)
低温の温度依存性
Cs ・・・・ exponential or T4.2
Rb、K ・・・・ 判断難しい
s波 or ポイントノード(∝T3)
しかし明らかにT2(ラインノード)ではない
NMR
Rb ・・・・
Tcで小さなコヒーレンスピーク
∝ T 4.3
s波 or ポイントノード(∝ T5 )
Knight shift
Tc以下で減少
singletに特徴的
K.Magishi et al. PRB 71 024524 (2005)
K ・・・・
コヒーレンスピークなし
∝ T 3.6
ラインノード(∝ T3 ) or ポイントノード(∝ T5 )
K.Arai et al. PhysicaB 74 1982 (2005)
いずれの結果からも異方的なギャップの存在が示唆される
目的
熱伝導率測定から超伝導ギャップの異方性を確かめる
超伝導状態における唯一の輸送係数
(クーパー対を組んでいない準粒子のみが熱を運ぶ)
kn =
E.Boaknin et al. PRL 71 237001 (2001)
L0 T / r
(Wiedemann – Franz
則)
L0 = 2.44×10-8 WW / K2 (ローレンツ数)
kの磁場依存性
異方的超伝導体
s波SC ・・・・ 低磁場付近緩やかに上昇し、
H = Hc2 近傍で急激に増加
低磁場で準粒子は渦糸コア内にトラップされている
s波超伝導体
異方的SC ・・・・ 低磁場付近から急激に増加
遮蔽電流による準粒子のエネルギーシフト(E-Es)
+
ノードの存在(Δ<Es)によりフェルミ面上に有限のDOS
磁場増加で準粒子のDOS増加
金属の熱伝導率 k について
k el
k = k el + k ph
・・・・ 電子の寄与
= 1/3 Ce vF le
弾性散乱のみ考えた場合、Wiedemann – Franz則に従う (kel = L0 T / r)
低温で
k ph
Ce = γT
vF ~ 一定
le ~ 一定
k el
・・・・ フォノンの寄与
低温で
Cp = βT3
vs ~ 一定
lp ~ 一定
k = k el + k ph
C : 比熱
v : 速度
l : mean free path
∝ T
k
= 1/3 Cp vs lp
k ph
∝
k el
k ph
T3
T
= AT + BT3
k/T
= A + BT2
(C / T = γ + βT2)
サンプル
KOs2O6
端子付け :
熱浴
低温側温度計
単結晶 (物性研廣井研から)
スポットウィルダー
+ 銀ペースト
接触抵抗下げる為(1Ω以下)
高温側温度計
ヒーター
測定方法
試料の片側でヒーターを焚き、試料両端の温度差(ΔT)を測定
(同時に4端子法で電気抵抗も測定)
k=
l
q
A ΔT
l : 端子間距離 (= 0.675mm )
q : ヒーター熱量 (=
I×V)
A : 試料断面積 (= 0.3mm × 0.37mm )
ΔT = ΔT2(ヒーター焚いた後)-ΔT1(ヒーター焚く前)
測定装置
Heliox : 室温 ~ 0.27K
14Tマグネット : q // H
実験結果
電気抵抗
Tc = 9.69K
多結晶サンプルと同様、上に凸の温度依存性
熱伝導率
L(Tc) / L0 = 1.36
( L = kr / T )
Tp 以下緩やかに上昇し7K付近でピーク
低温2K以下でも小さな異常
( k / T で見るとピークを持つ)
Tp
Tc
磁場中電気抵抗
Tp
Tp
Tc
Tc(H=0T)
Tc(H=13T)
Tp以下でρの温度依存性変化
Tp、Tcでそれぞれ異常見られる
磁場中熱伝導率
高温 k
高温 k/T
低温
k
低温 k/T
ゼロ磁場
Tc 以下でk 減少
Tp以下と低温2K付近でk増大
( k / T で2段のピークが見える)
高磁場域
Tcをピークに、以下k 減少
2段のピーク、磁場で抑制される
フォノンの寄与
フォノンのmean free pathが伸び、フォノンの寄与
kph増大するが、磁場中においてボルテックスによ
る散乱が生じるためkphは減少する
Tp
Tc
mean free path 伸びる原因
超伝導転移(Tc) or
構造相転移(Tp)
熱伝導率磁場依存性
何を知りたいか
異方的超伝導体
ギャップ構造(ノードの有無)
k 急激に立ち上がる
= 異方的超伝導体
s波超伝導体
k / kn vs H / Hc2 プロット
kn = L0T / r
r ・・・・ H=13Tの値から
-2
3.24
6K以下 → r ( mWcm ) = 3.08 + 1.46 × 10 ×T
r0 = 3.08 mWcm
Hc2 = 33T
高磁場電気抵抗測定の結果から (後述)
k (H) = k el (H) + k ph (H)
k
kel ⇒ 磁場により増加
kph ⇒ 磁場により減少
H
低温域
最低温 T=0.33Kではkph比較的小さいため
kelによる増大が確認できる
高温域
H → Hc2 で常伝導状態の値に回復
T → Tc で磁場変化フラットになる
他の超伝導体との比較
Nbと同様、低磁場域でフラットに見える
s波超伝導体 (full gap)?
kel のみの磁場依存性を知りたい
E.Boaknin et al. PRL 71 237001 (2001)
LuNi2B2C
KOs2O6
k/T
= A + BT2 から見積もれない
kphの磁場依存性を最大限見積もる
kel (H=0) = 0
kel (H=7T) = k
異方的超伝導体との
区別難しい
さらに低温まで測定する必要がある
( kphの寄与を無視できる領域)
Hc2
今回の電気抵抗測定
+ パルス磁場での実験結果
(電気抵抗、トンネルダイオード)
Hc2(0) = 33T
対破壊
WHH
リニアに上昇する
軌道効果
Hp
Hc2orb
パウリ常磁性効果
Hp
実際のHc2はHc2orb と Hpの兼ね合いで決まる
Hp ~ 1.84Tc (Δ=1.77 kBTc BCS弱結合)
= 18T
得られたHc2よりはるかに小さい
WHH理論(Tc付近の傾きからHc2(0)を求める)
Hc2(0) = 21.4T
広井善二:固体物理
40(2) 43-50 (2005)
他のb型パイロクロア超伝導体でも
同様のHc2温度依存性
WHH理論とのズレ
低温までリニアに上昇し続ける
フェルミ面の効果を考慮してHc2orb計算
J.Kunes et al. PRB 70
174510 (2004)
H//111で実験結果とよく合う
Hc2 ( = 33T ) >> Hp ( ~1.84Tc = 18T )
1/2χe Hp2 = Hc2 / 8π
測定値を代入してHp求めてみる
(dHc(T) / dT)2 = 4πΔCe / Tc
(= 92.7mJ/mol Os)
Hc(0) = Hc(T) / (1-(T/Tc)2 ) = 261.3mT
χe= 2.475×10-3 emu/mol
(RbOs2O6の値)
Hp = 41.544 T
フェルミ面を考慮したHc2orb
+
測定値から求められるHp
でHc2の振る舞い説明できる
まとめ
KOs2O6 熱伝導率測定
温度依存性
Tc、Tpで小さな異常
Tp
Tc、Tpより低温で2段のピークを確認
磁場印加で消える
Tc
フォノンの mean free path 増大によるもの
磁場依存性
s波超伝導体的な振る舞い(低磁場付近緩やかに上昇)を確認
しかしフォノンの寄与も含まれているためノードの有無の判断は困難
Hc2
T → 0 で Hc2 リニアに上昇
Hpをはるかに上回る
フェルミ面の効果を考慮
実際の測定値から求めたHp