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『マクロ金融特論』 (4) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論2015 1 講義内容 • • • • 為替相場制度の種類 各為替相場制度の長所・短所 通貨同盟(ユーロ) 最適通貨圏の理論 マクロ金融特論2015 2 世界各国の為替相場制度 • ブレトンウッズ体制 • 1971年8月、ニクソン・ショック(金ドル交換停 止) • 1973年、主要国が変動為替相場制度へ移行 • 1978年、キングストン合意(自由に為替相場 制度を選択) マクロ金融特論2015 3 国際金融のトリレンマ アメリカ ユーロ圏 マクロ金融特論2015 4 出典:小川英治「東アジアの通貨事情が見える「国際金融のトリレンマ」入門 」『プレジデント』2011.6.13号 為替相場制度の分類 自由変動 変 動 為 替 制 度 ソフト・ペッグ 管 理 フ ロ ー ト 制 度 B B C ル ー ル ハード・ペッグ 固定為替制度 バ ス ケ ッ ト ・ ペ ッ グ マクロ金融特論2015 ド ル ・ ペ ッ グ カ レ ン シ ー ・ ボ ー ド ド通 ル貨 化同 盟 5 両極の解 と 中間的為替制度 • 両極の解(two corner solutions):自由変動 為替相場制度(free float)または厳格な固 定為替相場制度(hard peg) • 中間的為替制度(soft peg) :伝統的な固 定為替相場制度、管理フロート制度 WilliamsonのBBC(Basket, Band, Crawling)ルール マクロ金融特論2015 6 図2:為替相場制度採用数の推移 マクロ金融特論2015 7 両極の為替制度 vs. 中間的為替制度 • 為替相場の変動性・固定性には、様々なメ リット・デメリットによるトレード・オフ関係が ある。最適な為替制度が両極(corner solution)にあるとは一概には言えない。 • どの為替制度が良いかは、ケース・バイ・ ケース。 • 中間的為替制度より両極の為替制度の方 が望ましいという理論的根拠はない。 マクロ金融特論2015 8 固定為替相場制度のメリット • 為替相場の安定性 • インフレ的金融政策の抑制 • 金融政策に対する信認 マクロ金融特論2015 9 為替相場の安定性(1) • 企業が為替リスクに直面している。 • 企業の利潤 SP Q C ( Q ) * S E S , S V S 1 2 : 利 潤 、 S : 為 替 相 場 、 P : 価 格 (外 国 通 貨 建 て ) 、 Q : 生 産 量 、 * C :生産費、 S :為替相場の 期待値、 s :為替相場の 標準偏差 マクロ金融特論2015 10 為替相場の安定性(2) 利潤の期待効用( E U ) E U E V 1 2 S P Q C ( Q ) S P Q * マクロ金融特論2015 * 11 為替相場の安定性(3) 利潤の期待効用最大化 S P C ( Q ) S P * * ⇒生産の限界費用に企業の危険負担費用 が上乗せされたものと価格が等しい生産 水準で最適化される。生産量が減少する。 マクロ金融特論2015 12 インフレ的金融政策の抑制 • 政府にインフレを発生させる誘引(通貨発 行利益、インフレ税)がある。 • 固定相場制度下において、金融政策の自 由度を失うことによってその誘引を抑制す る。 • インフレ抑制的な金融政策を行う外国の通 貨に自国通貨を固定することによって、自 国でインフレ抑制。 マクロ金融特論2015 13 図2:政府収入に占める通貨発行利益とインフレ率 図4-4:政府収入に占める通貨発行利益の比率とインフレ率 インフレ率 % 50 40 30 20 10 日本 アメリカ 0 0 5 10 15 20 25 % 30 政府収入に占める通貨発行利益の比率 (資料)Cukierman(1992)pp48-49. マクロ金融特論2015 14 金融政策に対する信認 • インフレ抑制的な金融政策スタンスをもつ 外国の通貨に自国通貨を固定することに よって、金融政策の自由度に縛りをかけ、 民間経済主体による金融政策に対する信 認を高める。(インフレ抑制の名声の輸入) マクロ金融特論2015 15 変動為替相場制度のメリット • 国際収支調整の費用 • 金融政策の自由度 • 安定的投機 マクロ金融特論2015 16 国際収支調整の費用 • 固定為替相場制度下における国際収支調 整の費用=赤字の場合には失業の増大 • 変動為替相場制度下における国際収支調 整の費用=為替相場の調整 マクロ金融特論2015 17 金融政策の自由度 • 変動相場制度下においては、金融政策の自由 度が高まる。 • 外国の金融引締めによって外国利子率が上昇 すると、資本が自国から外国へ流出する。自国 通貨に対して減価圧力が作用する。 • 変動相場制度下では、貨幣供給を管理可能。 • 固定相場制度下では、為替介入によって貨幣供 給が減少。自国でも金融引締め。 マクロ金融特論2015 18 安定的投機 • Friedman:投機の自然淘汰説 ファンダメンタルズを知らない投機家は市 場から排除される。 結果として、ファンダメンタルズを知ってい る投機家のみが市場に残る。 投機は為替相場をファンダメンタルズに向 かって安定化させるように作用する。 マクロ金融特論2015 19 投機は本当に安定的か? • バブルの発生 • 情報の不完全性⇒群衆行動 ①美人投票モデル ②名声モデル ③情報の段階的伝達(カスケード)モデル • 合理的予想を持つ投機家vs.ノイズ・トレーダ マクロ金融特論2015 20 固定為替相場制、カレンシー・ボード、ドル化、 通貨同盟 • より厳格な固定制のメリット ①制度の信認 ②金利のリスク・プレミアムの軽減 • より厳格な固定制のデメリット ①為替相場以外による調整 ②国内の中央銀行(最後の貸し手)の不在 マクロ金融特論2015 21 固定相場制vs.管理フロート制 • 制度の透明性とアカウンタビリティ • 信認⇒ハネムーン効果 • 介入の効果や制度の維持のための裁量と 曖昧さ マクロ金融特論2015 22 単一共通通貨ユーロの導入 • 1999年1月1日より経済通貨同盟(EMU: Economic and Monetary Union)の第3段階に入る。EU(発足当時11か国、現在、18か国) が金融取引においてユーロを導入。 • 2002年1月1日よりユーロ紙幣・硬貨が流通。 • ユーロ導入国: ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、オースト リア、フィンランド、ポルトガル、アイルランド、ルクセンブルグ、ギ リシア、スロベニア、 キプロス、マルタ、スロバキア、エストニア、 ラトビア 【未参加:イギリス、スウェーデン、デンマーク、新EU7か国[ポーラン ド、チェコ、ハンガリー、リトアニア、ルーマニア、ブルガリア、]は 未参加。その内、ERMⅡ国は、デンマーク、リトアニア】 マクロ金融特論2015 23 ユーロとその導入国 2015年1月1日より リトアニア Source: European Central Bank マクロ金融特論2015 24 表1:ユーロ圏と日・米の比較主要データ ユーロ圏 米国 日本 303 278 127 2,495 9,373 378 GDP** (10億ユーロ) 6,553 10,709 5,145 世界貿易に占 める割合 15.2% 20.3% 8.1% 人口* (100万人) 面積 (1,000 km2) マクロ金融特論2015 出典:欧州委員会 25 通貨同盟への道のり • 1979年に当時のEC加盟国が欧州通貨制度(EMS:European Monetary System)を導入し、為替相場メカニズム(ERM: Exchange Rate Mechanism)を採用。 EMS参加国通貨の加重平均値である欧州通貨単位(ECU: European Currency Unit)が導入。ECUを基準にグリッド方式 でEMS参加国通貨間の為替相場を±2.25%(一部の国、時期 には6%や15%)の許容変動幅(band)内に安定化。 • 1990年よりEMUの第1段階 • 1992年に欧州通貨危機が発生 • 1994年よりEMUの第2段階 • 1999年よりEMUの第3段階 • 2002年よりユーロ紙幣・硬貨が流通 マクロ金融特論2015 26 経済通貨同盟(EMU)の3段階アプロー チ 出所:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_eu/k_kankei/pdf/eu_j_0408.pdf#01 マクロ金融特論2015 27 欧州中央銀行制度 • 欧州中央銀行制度(ESCB: European System of Central Banks) 欧州中央銀行(ECB: European Central Bank)と各 国中央銀行(NCB: National Central Bank)によって 組織 • 欧州中央銀行が一元的な金融政策を運営。 • 欧州中央銀行が金融政策を決定し、各国中央銀行 が金融政策を遂行する。 • 欧州中央銀行の金融政策の目標は物価安定の維 持(消費者物価指数を中期的に2%を下回ること)。 マクロ金融特論2015 28 図3:ECBと各国中央銀行 欧州中央銀行制度 ECB 各 国 中 央 銀 行 理事会 各 国 中 央 銀 行 マクロ金融特論2015 【政策決定】 各 国 中 央 銀 行 各 国 中 央 銀 行 【政策運営】 29 通貨同盟参加のための経済収斂条件 (マーストリヒト基準) • (1) (2) (3) (4) EMUに参加して、ユーロを導入するためには、以下の経済収 斂条件(マーストリヒト基準)を満たす必要がある。 物価:過去1年間、消費者物価上昇率が、消費者物価上昇率 の最も低い3か国の平均値を+1.5%より多く上回らないこと。 財政: GDPに対して財政赤字が3%以下であり、GDPに対して 政府債務が60%以下であること。 為替相場:少なくとも2年間、独自に切下げを行わずに、深刻 な緊張状態を与えることなく、欧州通貨制度EMSの為替相場 メカニズム(ERM)の許容変動幅内にあること(ERMⅡの許容 変動幅は15%) 金利:過去1年間、消費者物価上昇率が最も低い3か国の長 期金利の平均値を2%より多く上回らないこと マクロ金融特論2015 30 表2:ユーロ導入直前(1998年)の経済収斂条件 調整消費者物価 長期金利(%) 指 数 上 昇 率( % ) Data: ECB 一般政府財政収 一般政府債務残 支 の 対 名 目 高 の 対 名 目 GDP 比( %) GDP 比( %) 基準値 2 .7 7 .8 -3 .0 6 0 .0 ベルギー 1 .4 5 .7 -1 .7 11 8 .1 デンマーク 1 .9 6 .2 1 .1 5 9 .5 ドイツ 1 .4 5 .6 -2 .5 6 1 .2 ギリシア 5 .2 9 .8 -2 .2 1 0 7 .7 スペイン 1 .8 6 .3 -2 .2 6 7 .4 フランス 1 .2 5 .5 -2 .9 5 8 .1 アイルランド 1 .2 6 .2 1 .1 5 9 .5 イタリア 1 .8 6 .7 -2 .5 11 8 .1 ルクセンブルグ 1 .4 5 .6 1 .0 7 .1 オランダ 1 .8 5 .5 -1 .6 7 0 .0 オーストリア 1 .1 5 .6 -2 .3 6 4 .7 ポルトガル 1 .8 6 .2 -2 .2 6 0 .0 フィンランド 1 .3 5 .9 0 .3 5 3 .6 スウェーデン 1 .9 6 .5 0 .5 7 4 .1 イギリス 1 .8 -0 .6 5 2 .3 マクロ金融特論2015 7 .0 31 図4a:ユーロ圏諸国のインフレ率 図 1:ユ ー ロ 圏 諸 国 の H C P Iイ ン フ レ 率 9.0% 8.0% 7.0% ベルギー ドイツ 6.0% ギリシア スペイン フランス 5.0% アイルランド イタリア 4.0% ル クセ ンブ ルグ オランダ オ ー ス トリア 3.0% ポ ル トガ ル フ ィン ラ ン ド 2.0% 1.0% 0.0% 1994 Data: ECB 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 マクロ金融特論2015 2002 2003 2004 32 図4b:ユーロ圏諸国の長期金利 図 2:ユ ー ロ 圏 諸 国 の 長 期 金 利 (10年 物 国 債 ) 25 20 ベルギー ドイツ ギ リシ ア 15 スペイン フランス アイルランド イ タリア オランダ 10 オ ーストリア ポ ル トガ ル フィンランド 5 0 1993 Data: ECB 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 マクロ金融特論2015 2001 2002 2003 2004 33 図4c:ユーロ圏諸国の財政赤字 図 3:ユ ー ロ 圏 諸 国 の 財 政 赤 字 (対 G D P 比 ) 10 5 ベルギー ドイツ ギリシア 0 スペイン フランス アイルランド イタリア ル クセ ンブ ルグ -5 オランダ オ ー ス トリア ポ ル トガ ル フ ィン ラ ン ド -10 -15 1993 Data: ECB 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 マクロ金融特論2015 2001 2002 2003 2004 34 図4d:ユーロ圏諸国の政府債務 図 4:ユ ー ロ 圏 諸 国 の 政 府 債 務 (対 G D P 比 ) % 160 140 120 ベルギー ドイツ ギリシア 100 スペイン フランス アイルランド 80 イタリア ル クセ ンブ ルグ オランダ 60 オ ー ス トリア ポ ル トガ ル フ ィン ラ ン ド 40 20 0 1993 Data: ECB 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 マクロ金融特論2015 2001 2002 2003 2004 35 未参加国のユーロ導入とERMⅡ • ERM(Exchange Rate Mechanism)Ⅱ ・ユーロ導入の1999年1月1日から実施 ・通貨同盟未参加国のユーロ導入の準備段階 ・当該国通貨とユーロの為替相場を一定の変 動幅で連動させる。 ・ERMⅡ国:デンマーク、リトアニア マクロ金融特論2015 36 通貨統合の理論:最適通貨圏 • 最適通貨圏とは、通貨同盟に参加して、共 通通貨を利用することが適している地域。 • 各国間で非対称的ショックが発生したとき に、通貨統合後は、為替相場以外の手段 で非対称的ショックによって生じる各国経 済間の不均衡を調整する必要がある。 マクロ金融特論2015 37 非対称的ショックに対する対応 A国 好況 為替相場による調整 労働の移動 A国通貨増価 貿易 B国通貨減価 財政移転 労働者不足 B国 不況 失業 マクロ金融特論2015 38 最適通貨圏の基準 • • • • ショックの対称性 労働の移動性 貿易面における経済の開放度 財政移転 マクロ金融特論2015 39 ショックの対称性 • 非対称的な供給ショック(石油ショック、生 産性ショック) 為替相場以外の調整が必要となる。 • 非対称的な需要ショック(消費者の選好 ショック、投資や輸出に与えるショック) 自然失業率仮説から言えば、各国におけ る物価による調整によって、長期的な非対 称的な需要ショックは消失する。 マクロ金融特論2015 40 表2:総供給ショックの相関(1969~89年) ドイツ フラン オラン ベルギ デンマ オース ス ダ ー ーク トリア スイス イタリ イギリ スペイ ポルト アイル スウェ ノルウ フィン ア ス ン ガル ランド デーン ェー ランド ドイツ 1 .0 0 フランス 0 .5 2 1 .0 0 オランダ 0 .5 4 0 .3 6 1 .0 0 ベルギー 0 .6 2 0 .4 0 0 .5 6 1 .0 0 デンマーク 0 .6 8 0 .5 4 0 .5 6 0 .3 7 1 .0 0 オーストリア 0 .4 1 0 .2 8 0 .3 8 0 .4 7 0 .4 9 1 .0 0 スイス 0 .3 8 0 .2 5 0 .5 8 0 .4 7 0 .3 6 0 .3 9 1 .0 0 イタリア 0 .2 1 0 .2 8 0 .3 9 0 .0 0 0 .1 5 0 .0 6 -0 .0 4 1 .0 0 イギリス 0 .1 2 0 .1 2 0 .1 3 0 .1 2 -0 .0 5 -0 .2 5 0 .1 6 0 .2 8 1 .0 0 スペイン 0 .3 3 0 .2 1 0 .1 7 0 .2 3 0 .2 2 0 .2 5 0 .0 7 0 .2 0 0 .0 1 1 .0 0 ポルトガル 0 .2 1 0 .3 3 0 .11 0 .4 0 -0 .0 4 -0 .0 3 0 .1 3 0 .2 2 0 .2 7 0 .5 1 1 .0 0 アイルランド 0 .0 0 -0 .2 1 0 .11 -0 .0 2 -0 .3 2 0 .0 8 0 .0 8 0 .1 4 0 .0 5 -0 .1 5 0 .0 1 1 .0 0 スウェデーン 0 .3 1 0 .3 0 0 .4 3 0 .0 6 0 .3 5 0 .0 1 0 .4 4 0 .4 6 0 .4 1 0 .2 0 0 .3 9 0 .1 0 1 .0 0 ノルウェー -0 .2 7 -0 .11 -0 .3 9 -0 .2 6 -0 .3 7 -0 .2 1 -0 .1 8 0 .0 1 0 .2 7 -0 .0 9 0 .2 6 0 .0 8 0 .1 0 1 .0 0 フィンランド 0 .2 2 0 .1 2 -0 .2 5 0 .0 6 0 .3 0 0 .11 0 .0 6 -0 .3 2 -0 .0 4 0 .0 7 -0 .1 3 -0 .2 3 -0 .1 0 -0 .0 8 マクロ金融特論2015 41 1 .0 0 労働の移動性 • 非対称的な供給ショックに対して、労働の 移動性によって対応可能。 B国 不況 A国 好況 労働者不足 労働者移動 賃金上昇 失業 賃金低下 マクロ金融特論2015 42 貿易面における経済の開放度 • 需要増大ショック←輸入増で対応 • 需要減少ショック←輸出増で対応 • 貿易面において経済が開放されていない と、需要ショックを国内で吸収。GDPや物 価水準が変動。 マクロ金融特論2015 43 財政移転 • 好況の国で得られた租税を不況の国に補 助金として支払う。 • 国際的な財政移転が可能となるためには、 財政政策における国際政策協調や各国の 財政主権の統合が必要。 マクロ金融特論2015 44