Transcript 資料No3

人工知能特論2007
No.3
東京工科大学大学院
担当教員:亀田弘之
命題論理(Propositional Logic)
命題論理では、自然言語の文を単純化・形
式化し、その枠組みで推理等を整理・体系
化することを目指す。
 例(推理の例):

泳げば、濡れる。(If P, then R.)
 シャワーをかかれば濡れる。(If Q, then R.)
→ 泳ぐかシャワーをかかれば濡れる。
(If P or Q, then R.)

命題論理の体系(概要)
1.
syntax(文法)


2.
記号の並びに関する規約(well-formed)
論理式とはどんな形式のものなのか。
Semantics


Well-formed な論理式相互の関係
真・偽
Syntax
どのような形式言語にもシンタックスがある。
 例:

プログラミング言語(Java, C, Prolog etc.)
 XML (eXtensible Markup Language)
 UML (Unified Modeling Language)
 UNL (Universal Networking Language) etc.

定義3.1

命題論理の字母は以下の記号からなる。
1.
2.
3.
アトム記号(atom)の集合A(非空集合)
A ={ P, Q, R, … , P1, P2, … Q1, Q2, …}
結合子(connectives):
~, ∧, ∨, →, ↔
補助記号(右括弧と左括弧): (, )
定義3.1のコメント
命題論理はすでに述べたように、形式化さ
れた文に対して定義される。対象となる分
は何らかの記号の列であり、その記号を字
母(alphabet)として定義している。
 字母として
{あ, い, う, …, あ1, あ2, あ3,…, い1,…,
not, and, or, then, eq, [, ] }
を採用してもよい。表現には自由度がある
が論理体系としては同一である。

定義3.2 (well-formedな)論理式

1.
2.
3.
(Well-formedな)論理式(formula)とは
以下のようなものである。
アトムは論理式。
( if P ∈ A , then P is formula.)
Φが論理式ならば、~φは論理式。
Φとψが論理式ならば、
(φ∧ψ), (φ∨ψ), (φ→ψ), (φ↔ψ)
は論理式。
定義3.2のコメント
アトムPは論理式(原始式ともいう)
 アトムではない論理式、例えば、~Pや
(P→Q)は複合論理式ともいう。
 Pがアトムのとき、Pと~Pをリテラル(literal)
と呼ぶ。特に、Pを正リテラル(positive
literal)、~Pを負リテラル(negative literal)と
呼ぶ。

論理式の例
P
 (P∧Q)
 ~((P3∧P8)∨~Q2)
 ((P∨Q)→R)
 (P→(P→P))
 (~P↔(~(Q∧P)))

問題:論理式でない例を3つ挙げよ。
定義3.3 命題論理言語

命題論理言語(propositional language)と
は、所与の字母から構成される論理式全体
の集合のことをいう。
定義3.3のコメント
定義3.1と定義3.2から得られる記号列
全体のこと。
 この場合、「記号列=論理式」である。
 論理式は「形式文」ともみなせるので、命題
論理言語という言い方をする。

Semantics
文=論理式には意味を考えることができる。
 論理学ではまずは「真と偽」を考える。
(「真・偽」以外は後日考察する。)
 今の段階では、∧や~は単なる記号であり、
論理積や論理否定の意味はまだ導入され
ていない。これからそれらを導入する。

定義3.4 解釈Intp

命題論理言語Lに対し、Lのアトムの集合を
Aとする。このとき、Lの解釈Intpとは、Aから
{T, F}への写像のことをいう。ここで、TとF
を真理値という。
解釈Intp: A → { T, F }
定義3.5 解釈の表現法

解釈IntpはアトムAの集合の部分集合とし
て記述することとする。
つまり、
Intp = { x | Intp(x) = T, x∈A }
解釈の例

A = { P, Q, R }において、
Intp(P)=T, Intp(Q)=T, Intp(R)=F
のとき、これを
Intp = { P, Q }
と書く。また。
Intp(P)=T, Intp(Q)=F, Intp(R)=F
のときは、
Intp = { P }
と書く。
定義3.6 結合子の意味の定義
表.結合子の定義表
P Q ~P (P∧Q)
(P∨Q) (P→Q) (P↔Q
)
T
T
T
T T
F
T
T F
F
F
T
F
F
F T
T
F
T
T
F
F F
T
F
F
T
T
これは真理値表
である。
定義3.7

Φを論理式、Intpを1つの解釈とする。この
とき、もしφの真理値がIntpのもとで T であ
れば、「φはIntpのもとで真である」といい、
また、「Intpはφを満たす(満足する)」ともい
う。
例
φ=~(P∧Q), Intp={P} のとき、
 Φの真理値はTとなるので、φはIntpのもと
で真であり、Intpはφを満足する。

定義3.8 モデル

Φを論理式、Intpを解釈とする。このとき、
Intpがφを満足するならば、「Intpはφのモデ
ルである」という。また、「φはIntpをモデルと
してもつ」ともいう。
例
φ=((P∧Q)↔(R→Q))
 Intp = { P, R }
 このとき、Intpはφのモデルである。
(各自確認せよ。)

定義3.9 モデル(その2)

論理式の集合をΣ、Intpを解釈とする。この
とき、Σに属するどの論理式に対してもIntp
がそのモデルになっているとき、「IntpはΣの
モデルである」という。
例
Σ= { P, (Q∨R), (Q→R) }
 Intp1 = { P, R }
 Intp2 = { P, Q, R }
 Intp3 = { P, Q }
このとき、Intp1とIntp2はΣのモデルである
が、Intp3はΣのもでるではない。
(各自確認せよ。)

定義3.10 論理的帰結
Σ:論理式の集合
 Φ:論理式
このとき、Σのどのモデルもまたφのモデル
になっているとき、「φはΣの論理的帰結
(logical consequence)である」といい、
Σ |= φ
と書く。また、「Σは論理的にφを含意する」
などともいう。

定義3.11 論理的帰結(その2)

Σ,Γ:論理式の集合
このとき、Σのどのモデルも論理式φ∈Γのも
でるとなっているとき、「ΣはΓのモデルであ
る」といい、Σ |= Γ とかき、また、「ΣはΓを論
理的に含意する」という。
例
P = “私は外にいる”
 Q = “雨が降っている”
 R = “私は濡れる”
このとき、
( (P∧Q) → R ) かつ Q
から
(P→R)
が結論付けられる。

つまり
( (P∧Q) → R ) , Q |= ( P → R )
(この証明は次の通り)
解釈1
解釈2
解釈3
解釈4
解釈5
解釈6
解釈7
解釈8
P
T
T
T
T
F
F
F
F
Q R ((P∧Q)→R)
T T
T
T F
F
F T
T
F F
T
T T
T
T F
T
F T
T
F F
T
(P→R)
T
F
T
F
T
T
T
T
つまり
( (P∧Q) → R ) , Q |= ( P → R )
これのモデルは、解釈
2以外の解釈。
これのモ
デルは、
1,2,5,
6の4つ。
解釈1,5,6は
これのモデル
でもある。
これらに共通のモデルは、1,5,6
の3つ。
(この証明は次の通り)
練習問題

Σ={(P∧Q), (P→R)} は Γ= {P,Q,R} を含
意する、すなわち、Σ|=Γ であることを示せ。
定理3.1 演繹定理

Σ|=(φ→ψ) のとき、またそのときに限り、
Σ∪{φ} |= ψ である。
証明

Σ∪{φ} |= ψ
 Σ∪{φ} のどのモデルもψのモデル
 Σのどのモデルも~φかψのモデル
 Σのどのモデルの(φ→ψ)のモデル
 Σ |= (φ→ψ)
定義3.12 論理的に等価(⇔)

論理式φとψは、
φ |= ψ
と
ψ |= φ
とがともに成り立つとき、「φとψは論理的に
等価である」といい、「φ⇔ψ」と書く。
定義3.13 論理的に等価(その2)

論理式の集合ΣとΓが論理的に等価である
とは、以下の条件が成り立つことを言い、
Σ⇔Γ と書く。
Σ |= Γ かつ Γ |=Σ
例

Σ = { P, ~Q, (P∨R)} ,
Γ = { (R∨P), (~R∨~Q), P, (P→~Q)}
のとき、
Σ⇔Γである。
(各自証明せよ。)
定義3.14.1

Φのどの解釈もφのモデルになっているとき、
φは妥当(valid)であるといい、また、φは恒
真式(tautology)であるという。
このとき、 |= φ と書く。
定義3.14.2

Φの解釈の中にモデルが存在するとき、φ
は充足可能(satisfiable)である、あるいは、
無矛盾(consistent)であるという。
定義3.14.3

Φの解釈の中に1つもモデルが存在しない
とき、φは充足不可能(unsatisfiable)である、
あるいは、矛盾(inconsistent)であるという。
定義3.14.4

充足可能な論理式のうち、恒真式(ト-トロ
ジ)でないものをcontigentという。
論理式の分類
Tautology
常に真
Contigent
真のこともおあれば
偽のこともある
充足可能
矛盾
常に偽
充足不可能
例(トートロジの例)
(P∨~P)
 ( ( P∧(P→Q) ) → Q )
(各自で例を考えよ。)

命題3.1

Σ |= φ iff Σ∪{~φ} が充足不可能。
ただし、
Σ:論理式の集合
φ:論理式
(注) iff とはif and only if の略記法で、A iff
B とは、AとBが同値であることを意味する。
証明
Σ |=φ iff
 ΦはΣのどのモデルに対しても真 iff
 Σ∪{~φ} はモデルを持たない iff
 Σ∪{~φ} は充足不可能

ここまでは前回の復習
論理式の標準形(Normal Form)

論理積標準形
conjunctive normal form (CNF)

論理和標準形
disjunctive normal form (DNF)
定義3.15 論理和/積標準形

Aijをリテラルとするとき、
∨∧Aij
の形の論理式を論理和標準形といい、
∧∨Aij
の形の論理式を論理積標準形という。
例(論理和標準形)

(P∧Q ∧ R)∨(~P ∧ Q ∧ R) ∨
(P ∧ Q ∧ ~R)
(注)論理回路のときには、
P・Q・R + ~P・Q・R + P・Q・~R
などと書いていた。
例(論理積標準形)

(P∨~Q)∧(P∨~R)
 (P + ~Q)・(P + ~R)
定理3.2 標準形の存在

任意の論理式φに対して、それと等価なCN
FとDNFが存在する。
(証明は各自に任せます。)
これ以降、論理式はCNFで考える。
 そこで、例えば論理式(P∨~Q)∧(P∨~R)
を { {P, ~Q}, {P, ~R} } などと書くことにする。

(P∨~Q)∧(P∨~R) の別表記法として
{ {P, ~Q}, {P, ~R} } を導入する。
定義3.16 節と節集合
節とは、ゼロ個以上のリテラルの並びのこ
と。{ P, Q, R } などと標記する。
 節集合とは、節の集合のこと。

例

節:
{P, ~Q}
 { } (空節)
 {P1, Q3, R}


節集合:

{ {P, ~Q}, { }, {P1, Q3, R} }
Horn節とHorn節集合
高々1つの正リテラルしか持たない節のことを
Horn節という。
 Horn節からなる節集合をHorn節集合と呼ぶ。


例:
F=(P∨~Q)∧(~R∨~P∨S)∧(~P∨~Q)
∧S∧~U
F={ {P,~Q}, {~R,~P,S}, {~P,~Q},
{S}, {~U} }
例:

G=(P∨~Q)∧(R∨~P∨S)
G={ {P,~Q}, {R,~P,S} }
(これはHorn節集合ではない)
導出原理(Resolution法)
定義 リテラルの相補性

リテラルAとBが相補的であるとは、
A=~B であるか B=~A であることである。
また、Aと相補的なリテラルをA*と書く。
定義 導出節(resolvent)

2つの節C1とC2に対して、C1に属する1
つのリテラルAの相補的リテラルA*がC2に
属しているとする。
このとき、
節(C1ー{A})∪(C2ー{A*})
をC1とC2からの導出節(resolvent)と呼ぶ。
定義 導出原理
2つの節から導出節を作り出すことを導出
原理という。
 また、この操作による推論法をresolution法
と呼ぶこととする。

導出原理の意味

{~P, Q}, {P} から {Q} を作り出す(導く)の
が導出原理法であり、これは、いわゆる三
段論法(modus ponens)に相当するもので
ある。
練習問題

導出節をすべて求めよ。
{ {A,~B,E}, {A,B,C}, {~A,~D,E},{A,~C} }
(注)アトムとしてA,B,C,D,Eという記号を
用いた。今後は適宜さまざまな記号を
用いることとする。
答え(後日掲載します)
Lemma

K1とK2が節集合Fの要素(節)であるとする。
このとき、もしRがK1とK2の導出節ならば、
F∪{R} はFと論理的に同値である。
すなわち、
F∪{R}  F
証明は各自で挑戦してみてください。
定義 Res(F)
Res(F) = F∪{ R | R はFからの導出節}
 Res0(F) = F
 Resn+1(F) = Res(Resn(F)) for n≧0
 Res*(F) = ∪Resn(F)

練習問題

Resn(F) (n=0,1,2) をそれぞれ求めよ。
ただし、
F = { {A,~B,C}, {B,C}, {~A,C},
{B,~C}, {~C} }
Resolution定理

節集合Fに対して、Fが充足不可能であるこ
とと、□∈Res*(F) であることとは同値であ
る。
F is unsatisfiable  □∈Res*(F) .
推論とは

推論(inference)とは、いくつかの命題(論理
式)からなる前提(premise)、1つの命題(論
理式)を結論(conclusion)として導き出す課
程のこと。例えば、

彼はギリシア人かインド人である。
彼がギリシア人ならば彼はギリシア語を話せる。
彼はギリシア語を話せない。
したがって、
彼はインド人である。
前提
結論
分析
P = 彼はギリシア人である
 Q = 彼はインド人である
 R = 彼はギリシア語を話せる
とすると、
(P∨Q)∧(P→R)∧~R
故に、Q

(P∨Q) (P→R) ~R
---------------------------------Q

この推論の正しさを示すためには、前提が
すべて真のとき結論も真であることを示せ
ばよい。つまり、
(P∨Q)∧(P→R)∧~R |= Q
が成り立つことを示せばよい。
そこでまずは、…

Resolution法の妥当性
をまずは確認しよう!
{~P, Q}, {P} |= Q
 (~P∨Q)∧P |= Q
P
T
T
F
F
Q
T
F
T
F
(~P∨Q)∧P
T
F
F
F
Resolution法を用いた証明方法

Σ |= φ を証明するには、
Σ∪{~φ} |= □ を示せばよい。
(演繹定理とResolution定理より。)

つまり、前提であるΣに証明したいφの否定
を追加すると矛盾が生じることを示せばよ
い。(いわゆる“背理法”。)
証明: (P∨Q)∧(P→R)∧~R |= Q
(P∨Q)∧(P→R)∧~R∧~Q がモデルを持た
ないことを示す。
 節集合の形で書くと、
{ {P,Q}, {~P,R}, {~R}, {~Q} }
 これにresolution法を適用する。
(次のスライド参照)


{ {P,Q}, {~P,R}, {~R}, {~Q} }
{P,Q}
{~P,R}
{P}
{~R}
{~P}
□
{~Q}
問題:次の推論は正しいか?





山田か田中が参加できれば、この企画は成功する。
海外に出張中であれば、山田はこの企画に参加で
きない。
田中も忙しければ、この企画に参加できない。
山田は海外に出張中であるが、田中は忙しくない。
故に、この企画は成功する。
P=山田はこの会議に参加できる
 Q=田中はこの会議に参加できる
 R=この会議は成功する
 S=山田は海外出張中である
 T=田中は忙しい

(P∨Q)→R, S→~P, T→~Q, S∧~T |= R
(P∨Q)→R, S→~P, T→~Q, S∧~T |= R
 ((P∨Q)→R)∧(S→~P)∧(T→~Q)∧ ∧
(S∧~T) |= R
 (~(P∨Q)∨R)∧(~S∨~P)∧(~T∨~Q)
∧S∧~T |= R
 ((~P∧~Q)∨R)∧(~S∨~P)∧(~T∨~Q)
∧S∧~T |= R

((~P∨R)∧(~Q∨R))∧(~S∨~P)∧
(~T∨~Q)∧S∧~T |= R
 (~P∨R)∧(~Q∨R)∧(~S∨~P)∧(~T∨~Q)
∧S∧~T |= R
したがって、
 (~P∨R)∧(~Q∨R)∧(~S∨~P)∧(~T∨~Q)
∧S∧~T ∧ ~R
が矛盾していることを示せばよい。

(~P∨R)∧(~Q∨R)∧(~S∨~P)∧(~T∨~Q)
∧S∧~T ∧ ~R
 {~P,R} {~Q,R} {~S,~P} {~T,~Q} {S}{~T}{~R}
 これから、 Res*(F) を求めるとこの中には□が
含まれない。
 ということは、この推論は誤っている。
(真理値表を書いて確認せよ。)

練習問題

次の論理式はトートロジであることを示せ。
F=(~B∧~C∧D)∨(~B∧~D)
∨(C∧D)∨B
練習問題

F = A∧B∧C が次の論理式の帰結であるこ
とを示せ。( G |= F )
G={{~A,B},{~B,C},{A,~C},{A,B,C}}
推論の完全性・健全性
次週の予告

述語論理の導入
述語論理のシンタックス
 述語論理のセマンティックス
 標準形(冠頭標準形)

ユニフィケーション
 述語論理における導出原理 など
