天候デリバティブ

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天候デリバティブ
2009年9月7日
06f1036 辻 浩史
はじめに
• 近年、地球温暖化やヒートアイランド現象の進
展により、ゲリラ豪雨や暖冬(または今年の夏
季のように冷夏)などの異常気象が以前にも増
して発生している。これらの異常気象は、7~8
割の企業に対して、売上や生産活動の面にお
いて影響を与えていると言う。
• そこで今回、私は企業が抱えているこのような
問題や悩みに対応した、【天候デリバティブ】と
いう商品について調査をした。
目次
Ⅰ 天候デリバティブとは
Ⅱ 天候デリバティブの登場と市場の拡大
Ⅲ 天候デリバティブの今後
Ⅰ 天候デリバティブとは
その前に
• デリバティブとは・・・株式や債券、為替など、従来の金融取引から
派生して出来た金融商品のこと。将来の相場変動によるリスクを
回避するなどの目的で利用される。
【天候デリバティブ】次ページで説明。
【雷デリバティブ】企業が雷によって受ける収益減少リスクを回避し
たり軽減したりする。
【地震デリバティブ】巨大地震の発生で、操業不能・流通ストップな
どによる収益減少や事業継続に関わる費用増加などのリスクを回
避する。
【クレジットデリバティブ】対象企業の信用リスクを売買する取引。
【コモディティデリバティブ】原油・非金属・農作物等の将来の価格上
昇リスクを回避する手段 。
天候デリバティブとは
• 予想外の異常気象や天候不順により、企業が被る売り上げ減少
などのリスクをヘッジ(回避)、または低減することができる、保険
と金融が融合した金融派生商品。
例
え
ば
• レジャー(テーマパーク、ゴルフ場、スキー場、ホテル、旅館)
降雨、台風、降雪、少雪などにより収益が減少するリスクをヘッジ。
• 小売・飲食店
降雨、台風、降雪などにより収益が減少するリスクをヘッジ。
• 飲料(ビールなど)、アパレル、冷暖房機器、灯油、LPガス
冷夏や暖冬などにより収益が減少するリスクをヘッジ。
天候デリバティブは天候によるリスクを軽減し,
企業の収入を安定させるために生まれた商品。
取引(契約・支払い)の簡単な流れ
①観測期間や観測地点などの諸条件を決定し、損害保険
会社と契約。
②一定のプレミアム(保険料と思ってもらえれば良い)を損
害保険会社に支払う。
③観測期間中の平均気温や降雨日数、積雪量などの天
候データを集計する。
④定められている水準に達した場合、その想定したデータ
を上回った(あるいは下回った)度合いに応じて、損害保
険会社から企業へ補償額を支払う。
取引(契約・支払い)の仕組み
(例)
プレミアム(50万円)
天候デリバティブ取引契約
損害保険会社
(B社)
補償金(300万円)
法人企業
(レジャーランドを
経営するA社)
≪抱える天候リスク≫雨天による収益の減少(入場者数の減少)
≪観測期間≫5月~8月までの土曜日、日曜日及び祝日(38日間)
≪観測地点≫宇都宮地方気象台 ≪プレミアム≫50万円
≪ストライク値≫日降水量が1mm以上となる日が13日
≪単位価額≫1日あたり50万円 ≪支払限度額≫ 1250万円
仮に観測期間中に1mm以上の降水日数が20日の場合、
(20-13)日×50万円=350万円(決済額)
契約時に支払ったプレミアム50万円を差し引いても、A社は
ることが出来る。
を受け取
損害保険との比較
・ベーシスリスクなし。
・指数化された気象データに
(実際に生じた損害に応じて、 応じて、迅速に支払われる。
(査定なし)
保険金が支払われる)
・間接的な損害もカバー。
(後に説明します)
・保険金支払いまでの査定に
時間がかかる。
(事故と損害との因果関係を
調査し、損害額を見積もるた
め)
・ベーシスリスクあり。
(損害が起きても、異常気象
の度合いや発生した時期が
外れていれば、支払いがゼロ
のことも・・・)
取引形態
HDD?
CDD?
◆①上場物(取引上で取引)◆
オプション?
⇒数量、価格、決済方法などの取引条件が標準化されている。
スワップ?
取引相手の信用リスクを考慮する必要がない。(格付がない会社や格付けが低い会社で
も、一定の証拠金を積むことにより取引に参加可能)
1999年9月、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)にHDD,CDDのオプション、及びスワップ
取引が上場。
2001年11月、LIFFE(ロンドン国際金融先物オプション取引所)にスワップ取引が上場。
◆②店頭物(店頭での相対取引。OTC(Over the Counter)とも言う)◆
⇒証券取引所、商品取引所など取引所を介さずに当事者で直接行われる取引。
数量、価格、決済方法など双方が合意すれば、自由に決められる。
しかし、取引相手が債務不履行となる、信用リスクが伴う。ちなみに日本は店頭物のみ。
LIFFE
CME
欧州市場
日本市場
北米市場
取引形態
①オプション取引
※図はコールオプション
→日本で最も一般的な形態。観測期間開始前に企業がプレミアム
を損害保険会社に支払い、観測期間中の気象データが設定した
水準を超えた場合、補償額(決済額)を受け取ることができる。
受取金額
最大受取額(+)
ストライク
0
プレミアム(-)
平均気温
取引形態
②スワップ取引
→観測期間開始前にプレミアムのような初期コストを支払う必要が無
く、収益の平準化に効果的。
観測期間中の気象データが
自社の収益にプラスの状況⇒損害保険会社に資金を支払う。
自社の収益にマイナスの状況⇒損害保険会社から資金を受け取る。
受取金額
最大受取額(+)
0
最大支払額(-)
平均気温
ストライク(平年並みの水準)
取引形態
③カラー取引
→スワップ取引の変形。スワップ取引と異なる点は、観測期間中の
気象条件が「平年並み」の水準から一定の範囲内(例えば、8月の
月平均気温が27℃から上下1℃以内)であれば、観測期間後にも
相互の資金の移動がない。
受取金額
最大受取額(+)
ストライク
0
最大支払額(-)
平均気温
平年並みの水準 ストライク
取引形態
【受け取れる条件、受取金額の決定方法による分類】
①「日数カウント型」オプション取引
→日本で最も一般的なタイプ。
先程のレジャーランドを経営するA社と損害保険会社B社との取引例
での式は・・・(20-13)日×50万円=350万円(決済額)
つ
ま
り
受取金額=(指数-ストライク)×単位支払額
※まだ契約時に支払ったプレミアムは差し引いてはいない。
取引形態
海外では以下の計算方式が採用されている。
②度数累積型
HDD (Heating Degree Days 1日の暖房必要度)
=基準温度{華氏65度(摂氏18.33度)}-1日の平均気温
1日の平均気温が低ければ低いほど、HDDが高くなる。
→冬の寒さが厳しく、暖房が必要。
CDD (Cooling Degree Days 1日の冷房必要度)
=1日の平均気温-基準温度{華氏65度(摂氏18.33度)}
1日の平均気温が高ければ高いほど、CDDが高くなる。
→夏の暑さが厳しく、冷房が必要。
※華氏65度が基準温度の理由・・・冷暖房ともに不要な快適な温度であると、一般
的に考えられているため。
※1日の平均気温=(1日の最高気温+1日の最低気温)÷2
取引形態
③期間平均型
→度数累積型の変形。度数累積型と比較して、期間平均型の方が
直感的に理解しやすい。
=1日の平均気温の合計値(観測期間中)÷観測期間の日数
(例)
度数累積型:1日の平均気温の合計(8月)が775℃
期間平均型:1日の平均気温の平均(8月)が25℃(775℃÷31日)
この平均値(25℃)がストライクを上回る→1度につき、一定の金額を
AからBに支払う。
この平均値(25℃)がストライクを下回る→1度につき、一定の金額を
AがBから受け取る。
Ⅱ 天候デリバティブの登場
と市場の拡大
世界初!天候デリバティブの登場
【1997年9月】
• 米国の最大手エネルギー会社、エンロン社(2000年暮れに突然破綻)が天候デ
リバティブを開発。
• そのエンロン社は、大手エネルギー会社、コーク社との間で世界第1号の天候
デリバティブ契約(HDDカラー取引)を結び、収益変動のリスクをヘッジした。
(背景)電力自由化の進展+エルニーニョ現象の影響により暖冬が予想されていた。
※大手エネルギー会社、アクイラ社が電力取引に組み込んだ気温オプション取引
が第1号であるとの説もある。
これを皮切りに、
北米・欧州を中心に急速に取引規模が拡大し、
一大市場が形成された。
日本での最初の取引
【1999年6月25日】
• 三井海上(現 三井住友海上火災保険)と株式会社ヒマラヤ(スキー・スノー
ボードを中心とした総合スポーツ専門量販店大手)との間で行われた。(オプ
ション取引)
間接的な損害のカバー
シーズン前
の積雪量
が少ない
スキー場利用
客が例年に
比べて減少
スキー関連用品の
売上減少、及び会社収益
の減少リスクをヘッジ
結局、雪が降ったため、㈱ヒマラヤに決済額は支払われず、プレミアム料1,000万
円が掛け捨てとなった。
⇒しかし、日本初の天候デリバティブ契約として、新聞等で㈱ヒマラヤの名前が大
きく報道された為、広告効果という付随的な効果を得るに至った。
(こうしたリスクヘッジに対する姿勢が投資家、アナリスト、株主から
評価され、株価は上昇)
大手エネルギー会社同士の取引(日本)
【2001年~】
東京電力と東京ガスによる気温のカラー取引。(保険会社や銀行を
介さずに、直接の気温リスク交換)
電力会社⇒冷夏⇒電力使用量(クーラーの利用)や収益の減少
ガス会社⇒猛暑⇒お湯の使用量減少による、ガス消費量や収益の
減少
≪夏の気温リスク≫
≪冬の気温リスク≫
冷夏リスク
東京電力
暖冬リスク
暖冬リスク
東京ガス
東京電力
猛暑リスク
東京ガス
地方銀行の仲介による販売方式
(媒介者)
①収益源の獲得(仲介手数料)
②低コストでの新規事業参入
③顧客ニーズへの対応(融資以外で顧客の経営をサポート)
④イメージアップ
①販路の拡大(地銀は強固な営業基盤を持っているため)
②地銀との関係強化
(媒介委託者)
地方銀行
天候デリバティブの提案
仲介手数料
仲介
地銀の顧客
損害保険会社
天候デリバティブ契約
小口定型商品の登場
従来、損害保険会社は個々の顧客のリスクヘッジのニーズに最も適
した、オーダーメイド型の商品設計をしていた。
地銀の媒介による販売件数の増加。
小口定型商品の販売。(気象要素や観測期間などの条件や、契約
料の定型化、小口化)
商品設計の際にかかったコストの削減により、オーダーメイド型では
100万円だった最低プレミアムが、小口定型商品では30万円に。
中堅・中小企業も利用しやすい品揃えから、取引件数が急拡大。
主な天候デリバティブ商品
会社名
商品名
概要
雨天結構
かんかんデリ
台風デリバティブ
行楽日和
梅雨・夏休み時期の多雨に対応
夏期の猛暑に対応
夏・秋にかけての台風に対応
秋の多雨に対応、旅行・観光業向け
雷デリバティブ
台風用心
落雷による収益減少をヘッジ
台風に対応、契約料も30万円から
日本晴れ
紅街道
暖冬デリバティブ
ゴールデン・ウィークの降雨に対応
紅葉時期の降雨に対応
暖冬リスクに対応
ジューンブライド
WARM BIZ
6月の降雨に対応、結婚業界向け
ウォームビズ商品の売上減に対応
夏のソナエ
冬のソナエ
冷夏・猛暑・多雨のプランを用意
暖冬・多雨・積雪のプランを用意
リスクの主な引受け手
一般事業法人
仲介
エネルギー会社
直販
地方銀行
ブローカー等
スワップ取引
(カラー取引)
大手銀行等
エネルギー会社
ヘッジ受け
損害保険会社
なぜ?
①従来、保険で風水害など自然災害のリスクを引き受けていたため。
②取引市場が整備されてなく、簡単に売買できない商品の価格(プレミアム)算出
は、保険料算出のために統計的手法を用いている保険会社の得意分野である
ため。
価格算出方法
①オプション取引の場合・・・支払いはプレミアムのみ。
プレミアム=期待値+リスクプレミアム+マージン
経費+利益
数学の「確率」という分野での リスクに応じて、
投資家が期待する
平均値のこと。
上乗せ分の収益。
つまり、過去の一定期間、
毎年同条件で契約して
いた場合の支払額の平均値。
②スワップ取引の場合・・・ゼロコスト。(プレミアムは発生しない)
⇒価格を決定付けるのはストライク(概ね過去の気象データの平均
値)の値。
Ⅲ 天候デリバティブの今後
問題点の克服
取引量の不足
【理由】日本での取引は中小企業が中心。⇒取引規模が米国と比べ
小さい。
• 取引上での取引(上場物)が行われていない。(市場参加者が少
なければ上場しても取引は盛り上がらず、適正な値段・流動性が
得られなければ実際に使って貰うことはできない)
• 実際に、東京金融先物取引所は気温先物の上場を検討していた
が、市場の流動性を確保できないと判断して上場を見送り。
【理由】価格付けの問題。(天候リスクが企業収益に与える影響が
十分に分かっていないため、現在の天候デリバティブのプレミア
ムは明らかに高く設定されている)
◆今後、企業の収益と天候との相関関係を、より具体的
な数値で示すことが必要◆
個人への広がり
天候デリバティブを活用し、太陽光発電に「お天気補償」サービス
現在、天候デリバティブは企業のリスクヘッジ、収益の安定化のため
(東証一部上場の専門商社・高島によるサービス)
のみ利用。
2005年7月から、太陽光発電システムを購入した
⇒個人投資家は利用できない。(賭博罪との関係や消費者契約法の
全ての顧客に対して、日照減少リスク(曇りや雨天時)に対応した
問題から)
「お天気補償」を損保ジャパンと共同で開始。
天候リスクを抱えている個人も、普段の生活で天候デリバティブのメ
顧客は天候デリバティブの契約料(プレミアム)を負担することなく、
リットを間接的に受けることはできるのか!?
条件がそろえば最大で年間5万円の補償が受けられる。
このように、個人への間接的な利用の広がりも予想できる。
国際間取引の拡大
三井住友海上は、米国大手の天候デリバティブ専門会社、ギャランティードウェ
ザーを買収。(社名:MSIギャランティードウェザーに変更)
日本国内だけで天候デリバティブを引き受けるとリスクが膨大に。
⇒欧米の天候デリバティブ市場に参入し、世界各地で取引することで、気候変動リ
スクの「分散効果」が得られる。
⇒国土が比較的狭い日本だけで事業を行うよりも、安定した商品を顧客に提供す
ることができ、今後も大きなリスク引き受けのニーズに応えられるようになる。
欧州市場
欧州の提携先(再保険会社)
日本・
アジア
市場
三
井
住
友
海
上
天
候日
リ本
スの
ク
天
候欧
リ州
スの
ク
天
候北
リ米
スの
ク
各地域の天候リスク
グローバルに分散さ
れた天候リスク
MSI
GW社
北米
(欧州も)
市場
2009年8月29日の記事から抜粋
⇒しかし、損害保険会社にとってチャンスである一方で、想定を超え
た支払い(補償金)の増加は経営を圧迫するため、警戒感も強
まっている。
【天候デリバティブの見積もりの申し込みや問い合わせ】
損保ジャパン、三井住友海上⇒昨年同期比、3割増。
日本興亜⇒昨年同期比、倍増。
多数の死者、行方不明者を出した九州・山口の水害や台風9号だけで、大手損保
6社の保険金支払額は概算で計100億円に上る。
例年よりも災害が少なかった昨年は、大手6社中5社で年間の支払実績が24億
~64億円だっただけに、「災害の多い9月以降の天候が気掛かり」な状態。
⇒損保業界も環境の変化に伴うリスク管理の難しさに直面している。
おわりに
• 今後も地球温暖化の進展によって異常気象の
発生する頻度が高くなり、天候リスクに対応す
る手段として天候デリバティブのニーズが高く
なることが考えられる。
• そのためにも、米国のように天候デリバティブ
が上場(取引所での取引)されれば、より身近
な金融商品となり、透明性や流動性も高まっ
て、より使い勝手が良くなると思う。
参考文献
• 『解る!使える!天候デリバティブ』
著者 小野 雅博
• 『天候デリバティブ(金融職人技シリーズ)』
著者 土方 薫
• 『ビジネスゼミナール 経営財務入門』
著者 井手 正介、高橋文朗
• 各銀行、損害保険会社のHP
• All About用語集
• Quick money life
•
HomaiWEBニュース
•
Fujisankei business1