先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と
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先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)
手法の開発と社会への定着
(I2TA)(www.i2ta.org)
: 平成19年度活動報告
2008年5 月12日
科学技術と社会の相互作用
第1回領域全体会議
東京大学公共政策大学院 客員教授
(財)電力中央研究所 研究参事(兼務)
鈴木達治郎
[email protected]
目的
• 21世紀型の先進技術に適した新しいTAの手法を開発
する.
– 研究開発段階からのTA手法
– 技術の革新的発展に起因する社会影響の不確実性に対応できるT
A(不連続な影響と幅広い社会影響)
– 社会の価値観の多様化に対応できるTA手法
• それを社会に定着させるための制度論的提言を行う.
– 縦割りの既存の規制や行政システムへの接続を考える.
– 企業、業界等、民間レベルでも利用可能なTAを構築する.
– 国際的連携のもとにTAを進める.
構想
(1)我が国に於ける技術
に関する断片的評価の実
態に関する歴史的分析
我が国に包括的TAが
根付くために制度に課
される条件の提供
(2)新しいTA
枠組みの構築
実践のための
枠組提供
(3)ナノテクノロ
ジーを対象とした
TAの実践
(2)の枠組を実装す
る際の留意点の抽出
(4)包括的TAの制度構築や
運用に関わる具体的提言
(1)~(3)は対応する各グループが、(4)は全グループが研究を遂行する。
代表・エネルギー法制度
城山英明
研究組織
体制
医療法制度
畑中綾子
食品法制度
松尾真紀子
行政法制度設計
山本隆司
海外TA調査
吉澤剛
環境法制度・環境影響評価制度との比較
増沢陽子
助
言
海外アドバイザ
リー・ボード
Michael Rogers,
Arie Rip,
Christopher Hill,
Philip Vergragt
代表・科学技術政策
鈴木達治郎
助
言
合意形成
松浦正浩
技術の多元
的影響分析
湊隆幸
市民
上田昌文
代表
鈴木達治郎
技術経済
鎗目雅
事務局
中川善典
法制度
城山英明
相互に
情報提供
(1)法・制度
グループ
リスク評価
黒田光太郎
倫理
神里彩子
適宜参画
技術経営
青島矢一
技術倫理
黒田光太郎・
神里彩子
問題構造化
中川善典・
城山英明
(2)TA手法開
発グループ
(0)多領域プロジェクト
グループ
適宜参画
ナノテク技術担当
竹村誠洋
(3)ナノテクのTA
実践グループ
コミュニケーション
土屋智子
INSNをはじめとする
ナノテクTAに関する
海外組織
情報提供
代表
竹村誠洋
医療診断技術
宮原裕二・馬場嘉信・内田義之
エネルギー貯蔵・転換技術
鈴木達治郎・宮坂講治
市民・消費者
上田昌文(代表)、吉澤剛、大石美奈子
食品加工・生産技術
立川雅司・高橋祐一郎
パネル運営
中川善典・松浦正浩
リスク
市原学
年次計画
H19.4
H20.4
H21.4 H22.4
(1)TAの歴史分析
24ヶ月
(2)TA枠組の構築
24ヶ月
(3)ナノテクTA実践
H23.4
H24.4
36ヶ月
(4)制度論的提言
18ヶ月
★
国際WS(歴史
分析とTA理論
枠組みの議論)
★
国際WS(ナノテ
クのTAと制度化
のあり方の議論)
☆
国際シンポ(成果の
取りまとめと提言)
1年目の活動報告
(1)TA概念の整理と欧州出張報告(2008年3月16日~22日)
(2)日本におけるTAの制度化歴史分析
TAの概念整理と欧州出張報告
吉澤 剛
2008年5月12日
先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)
手法の開発と社会への定着
TAの定義
• テクノロジーアセスメント(TA)とは、従来の研究
開発・イノベーションシステムや法制度に準拠する
ことが困難な新興技術(先進技術)に対し、その技
術発展の早い段階で将来の様々な社会的影響を予期
することで、技術や社会のあり方についての問題提
起や意思決定を支援する制度や活動を指す。
専門性重視
技術発展の早い段階から関係
者間の積極的な対話や連携を
図り、将来の技術や社会の
様々なあり方を描くこと
討議指向
意思決定や問題解決に必要な
情報を提供するため、専門的な
知識に基づき将来技術の社会
影響を予測すること
決定指向
幅広い関係者や市民による社
会的学習を促進しながら、将来
の技術や社会における問題を
定義すること
社会性重視
多様なアクターの参画による開
かれた場で討議を行い、明示的
なプロセスに従って実用的な技
術戦略を形成すること
欧州出張 - 2008年3月
• 欧州TA機関
– 英国議会科学技術室(POST)
– 欧州議会科学技術オプション評価局(STOA)
– フランダース技術評価研究所(viWTA)
– ラテナウ研究所(Rathenau Institute)
• TA研究組織、研究者
– 欧州委員会研究常任理事会(DG Research)
– アムステルダム大学
– リエージュ大学
– ユトレヒト大学
欧州における議会TA
• 議会法制度の貧弱さや、議会に対し科学的諮問ができる
者が少ないこと、OTAの目的や手法の不透明さへの批判
から欧州でのTA活動は低調だった
• 1980年代に入り、科学技術による社会や環境への影響が
強まり、また不況を脱する方策としての技術への期待か
ら、欧州で議会TA機関の設立が相次ぐ
• OTAに比べて少ない予算・スタッフが特徴的であり、意
思決定の直接的な支援よりも、問題認識やアジェンダ
セッティングを目的とし、市民など幅広い関係者とのコ
ミュニケーションやネットワークを重視する
英国議会科学技術室(POST)
• 1989年、ウェルカム・トラストからの寄附によりスタートし、
徐々に安定的な地位を確立
• 専門の研究者は6名だが、博士課程の学生など外部人材を4〜5名活
用している
• 議員理事会は10名の下院、4名の上院議員、4名の非議員からなる。
調査課題は理事会が決める場合もあるが、POSTから提案すること
もある
• 調査研究は政府省庁やNGOなど利害関係者に話を聞き、バランス
のとれた4ページの報告書にまとめる。ここではジャーナリスト
的な能力が重要
• 議会の特別委員会に対して助言を行うほか、議員に対するセミ
ナーも開催している
欧州議会科学技術オプション評価局(STOA)
• 1987年、議会の研究総局に設立
• 2004年のSTOA改革に伴い、現在は域内政策総局(DG Internal
Policy)のDGA(経済・科学政策)にある
• 活動は、STOAの予算によるプロジェクト、欧州委員会との協同に
よるプロジェクト、それ以外の活動からなる
• スタッフは正規・契約職員、加盟国からの派遣職員等々を含めて5-8
人
• 議会における科学的アドバイス
– STOAが行う(委員会を通じて依頼)
– 政策局と各委員会の事務局の研究部門が連携して行う
– 各委員会の事務局が行う+議員自らがTAを企画することもある
ラテナウ研究所(Rathenau Institute)
• 1986年、オランダ王立科学アカデミーに設置
• 財源は教育研究省だが、クライアントはオランダ議会お
よび欧州議会
• 目的:政治家への情報提供、社会の意見形成への働きか
け
→政策サイクルの中で問題認識と政策形成の部分に重点
を置いている
• コミュニケーション部局、TA部局、科学システム部局、
事務局からなる
• スタッフは現在40-50名であり、近年急増している。多く
が複数のバックグラウンドを持つ
• 議論のファシリテーターになることと、独立性と自由度
を保つことに注意を払う
フランダース技術評価研究所(viWTA)
• 2000年、ベルギー・フランダース地方の議会に設置、社
会的議論や独立した専門家の必要性を背景とする
• 運営理事会は政治家8名、科学者8名で構成
• スタッフは7-8名、予算は年間2億円
• 理事会の構成によって政治的均衡、政治-科学の均衡を保
ち、意思決定に近い立場を可能にする
• 政府の活動や政策を評価するわけではないので、敵対視
されなくて済むという側面も
• 使命:短期的には議会や社会に対する提言や助言、長期
的には課題の探索、人々の関心の喚起や社会的議論の構
造化 → 参加型プロセス
• 議会に情報を提供することで議会の議論の質を高める狙
い
• 年間10-12本の報告書を出版
訪問TA機関の一覧(まとめ)
STOA
設立
1987年
場所
組織
1986年にNOTAとして設立.92年
UK POST
viWTA
1989年
2000
初期の段階は,議会外.その
議会内に設置.独立機関
に改名
年
設置
ラテナウ
現在域内政策総局(DG Internal
王立科学アカデミー内
Policy)のDGA(経済・科学政策)
後,96年に議会内に設置され
る
①政治的意思決定は,「STOAパネ
現在のボード:7名(KNAW),
議会のボード(下院10名,上院
ボード(議員8名と,科学者8名)
ル」15名の議員から構成.パネルの
Advisory Council of Government
4名の計14名)がPOSTの監督
は,議会の総会で決定される.
運営は「STOA bureau」.実務運営を
Policy,文部科学省が任命.①コ
職員は,ディレクター,科学ス
行うのは,STOAチーム
ミュニケーション部局, ②TA部局,
タッフ(scientific staff)6名と事務
③科学システム部局,④事務局
(administration)1人
職員
5-8名
予算
515,000ユーロ??
目的
現在約45名
9名(研究員6名)
8名
5000,000ユーロ
350,000ポンド
1500,000ユーロ
①議会の委員会に独立で質の高い科
①政治家への情報提供②社会の
議会の委員会に科学技術に関
議会に対して科学技術に関する
学的に中立な研究と情報,選択肢の
意見形成への働きかけ,主要な
する助言を行う.
助言を行う.ディレクターは,議
提供.②議論の場の企画
二つの任務①TAと,②Science
会に対して発言権を持ち,関連
System Assessment(SciSA)
する文書を議会の職員から入手
出来る
TAの適用される政策フェーズおよび目的
専門性重視
• 政策分析
• 科学的評価
• アジェンダセッティング
• 新しい政策
• 新しい研究開発政策の
導入
アジェンダ
セッティング
政策形成
論争志向
• 社会的マッピング
決定志向
政策実施
• 新しい意思決定プロセス
• 調停
政治的膠着状態
• 政治的論争の再構築
社会性重視
Source: Adapted from Bütschi et al. (2004)
TAの機能
専門性重視
• 戦略形成
(問題の発見やフレーミング)
• 予測
(探索的/規範的)
• 意思決定支援
(資源配分、政策選択)
論争志向
決定志向
• エンゲージメント
(アクターの機能的・認識的連携)
• マネジメント
(妥当性・効率性・有効性の監視)
• 学習
(インパクトや価値規範の学習)
• アカウンタビリティ
(科学的・財政的・行政的・民主的)
社会性重視
TAのフレームワークおよび制度・事例
専門性重視
• 戦略的TA
(後期OTA、OPECST)
• 技術官僚的TA
(POST、TAB、STOA、viWTA)
論争志向
• 構築的TA
• 非公式TA
(組み換えDNA論争)
• 公共的TA
(ラテナウ)
• 古典的TA
(初期OTA)
• 対話的TA
(INRA)
• 参加型TA
(DBT、Meeting of Minds)
社会性重視
決定志向
TA機関として重要な条件
アカウンタビリティ
→信頼性
実現可能性
政策志向性
→権威
独立性
組織的自律性、政治的中立性
品質
学際性、科学的信頼性、社会的
公平性、プロセスの公平性・透明性、議論の質
コミュニケーション能
口頭・文書プレゼンテーション能力、
メディア対応、モデレーター能力
適正規模
支出の抑制、政治的リスクの回避、柔軟性、即応性
ネットワーク
情報収集、現実認識、結果の普及、個人的信用、外
資源の活用
時宜性
政策決定者のニーズへの対応、
社会的なニュースへの対応
政策決定への
リンク
組織的または制度的
Source: Adapted from Bütschi et al. (2004), Suzuki (2008)
日本におけるTAの制度化歴史的分析
中川義典
高知工科大学
•
収集した文献
計52件
– 70年代(40件)、80年代(9件)
– 90年代(2件)、00年代(1件)
•
話題
– (1)海外のTA活動
– (2)日本のTA活動
• 導入の経緯
• 活動の実態
• 定着の条件(と当時考えられていた事柄)
• 衰退の原因(現時点から振り返って)
• 果たした役割(現時点から振り返って)
– (3)特定の技術を題材としたTA実践報告
– (4)TAの様々な手法紹介
特定の技術を題材としたTA実践報告
分散技術
を対象
技術の社会
影響を評価
技術自体
を評価
巨大技術
を対象
プ自社安自金安性
ラ尊会心然銭全能
イ心福 環的性・
バ 祉 境コ 効
果
シ
のス
ー
負ト
荷
•
プラスチック
合成紙
自動車輸送
革新的機能繊維
農薬
溶剤染色技術
防錆技術
硫黄塗装技術
海洋牧場
メタノールの大規模利用
石炭転換用圧力容器の溶接
原子力製鉄
超大型海洋構造物
超音速旅客機
技術の性能や安全性に特化した評価をTAと称
しているケースも散見。
•
想定される負の効果への対応策はかなり陳腐
なものが多い。
我が国におけるTA衰退の原因(1)
• 岸田純之助(2000)「TA制度の再建に期待する」
• 衰退の経緯
– 米国でのTA正式発足の頃になって、日本でのTAへの関
心は急速にしぼんでいく。
• 衰退の原因
– (1)環境問題への関心の時期と重なり、経済団体・産業
界を中心とする環境関連法整備への強い抵抗の存在。
– (2)科技庁で最も力を持っていた原子力局が、計画局の
活動に我慢できなかった。
我が国におけるTA衰退の原因(2)
• NISTEP「1970年代における科学技術庁を中心としたテク
ノロジー・アセスメント施策の分析」
• 衰退の経緯
– TAが衰退期に入ったのは1977年度以降
– 科技庁では1979年度で活動修了
– 通産省では1980年代前半まで活動
• 衰退の原因
– (1)技術推進者からの反発
– (2)手法への依存と手法開発の困難さ
– (3)負担の大きさとメリットの不明確さ
– (4)開発者が自主的に行うTAの限界
– (5)公害問題の沈静化
– (6)石油ショックによる意欲低下
日本で制度としてTAが根付かなかった理由
「もんじゅ」
の事故
原子力船「むつ」
の失敗
一部の国会議員
によるTA機関の
必要性認識
科学技術会議で原子力・海
洋・宇宙技術等の研究開発
基本計画の立案・研究費配
分における技術評価の活用
科学技術会議
の生命倫理委
員会での活動
科技庁は他省庁の管
轄技術を題材とした
TAの実施に難色
環境影響評価
法の成立
?
我が国でTAは行わ
れているという認識
の普及
科技庁内のTA局
設置が実現せず
行政改革
「科学技術評価会議」(仮)
を国会に置こうとする議員連盟
「科学技術と政策の会」の設立
会の
解散
?
? 公害問題の沈静化
80年代の動き
90年代の動き
我が国では公害
対策手段としてTA
が期待された
ステークホルダーの
利害調整機能の欠如
原子力局から
計画局への圧力
環境関連法整備への
抵抗勢力の存在
TA専門機関が
設置されず
一部政治家の「TA=科技庁の
仕事」という認識
70年代の動き
行政機構の
縦割り
TAは民間が
行うものだと
いう認識
TAの目的や顧客
の曖昧さ
TA自体の
TA結果を国の意思
必要性が認識されず
決定に反映させる
ニーズが無かった
各省庁での実験的TAが
政策に結びつかず
定量的手法の不在
試験的TAによる顕著
な成果の欠如
多領域専門家の関与の欠如
他省庁との
連携の不足
27
仮説(海外調査と文献調査から)
• 「TA機関として重要な条件」と「我が国におけるTA衰退の原因」とに多数
の共通要素がある。
– 「省庁横断性の障害」⇔「ネットワーク」
– 「多領域専門家の関与の欠如」⇔「学際性」
– 「技術開発推進当局からの圧力」⇔「独立性」
– 「TA結果を政策決定へ反映させるニーズの欠如」⇔「政策志向性」
• これらは、我が国において今後TAを制度化してゆくために特に重要な要素
である。
• TA制度化を目指す場合、これらは制度設計の中で担保すると同時に、TA手
法の問題としても考えることが有効だと考えられる。