先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と

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Transcript 先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と

先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセス
メント)手法の開発と社会への定着
2007年12月15日~16日
RISTEX代表者合宿
東京大学公共政策大学院 客員教授
(財)電力中央研究所 研究参事(兼務)
鈴木達治郎
[email protected]
1
背景
 先進技術の社会影響評価(TA)に対するニーズ
の高まり
 (例)ナノテクノロジー、生命工学、ロボット
 海外
 米国ではOTAが廃止されたが、再びTAの必要性が議
論されている
 欧州では様々な手法が開発されている.
 国内
 イノベーション25を強力に推進中。
 第三期科学技術基本計画でもELSI(*)の研究の必要
性が明記
(*)ELSI=Ethical, Legal, and Social Issues(倫理・法・社会的課題)
2
研究の必要性
 TAの手法自体の問題点
 「安全面環境面からのリスク評価」といった限定的評価が主流
 「リスク」「便益」両方のバランスが保てないと技術の適正な社会導入
は困難。
 不連続的な技術発展に対応できない。
 包括的TAが政策支援手法として制度化されることも無かった。
 行政府や国会の意思決定プロセスに組み込まれてこなかった。
 特定の価値観に左右されないTAを担保する仕組の不在
 組織全体としての独立性の必要性
 同時に、各ステークホルダーの関与も必要
新たな包括的TA手法の開発と制度化のための分析・研究が必要。
3
目的
 21世紀型の先進技術に適した新しいTAの手法を開発
する.
 研究開発段階からのTA手法
 技術の革新的発展に起因する社会影響の不確実性に対応
できるTA(不連続な影響と幅広い社会影響)
 社会の価値観の多様化に対応できるTA手法
 それを社会に定着させるための制度論的提言を行う.
 縦割りの既存の規制や行政システムへの接続を考える.
 企業、業界等、民間レベルでも利用可能なTAを構築する.
 国際的連携のもとにTAを進める.
4
構想
(1)我が国に於ける技術
に関する断片的評価の実
態に関する歴史的分析
我が国に包括的TAが
根付くために制度に課
される条件の提供
(2)新しいTA
枠組みの構築
実践のための
枠組提供
(3)ナノテクノロ
ジーを対象とした
TAの実践
(2)の枠組を実装する
際の留意点の抽出
(4)包括的TAの制度構築や
運用に関わる具体的提言
(1)~(3)は対応する各グループが、(4)は全グループが研究を遂行する。
5
項目(1)
技術の断片的評価の実態に関する歴史的分析
 (1)ある技術に関する対立しあう諸価値を断片的に扱った結果、どのような
不利益が生じてきたのか?



例1:原子力 (安全、エネルギー安全保障、温暖化対策、地元経済)
例2:遺伝子組み換え作物 (安全、食糧生産性の向上、自然志向性(有機
農業))
例3:先進医療 (プライバシー、EBM)
 (2)我が国では欧米と比較してなぜ包括的なTAが政策決定過程の中に根付
かなかったのか?


70年代:包括的TA
90年代:議会TA
 (3)海外調査


包括的TAがどの様なかたちで関係する諸制度(リスク評価、研究開発支援)
と連関してきたのか?
民間では、TAやその一部の活動がどの程度担われているか?
 (4)(1)~(3)を踏まえて、日本にTAを根付かせるための条件は何かを解明。
6
項目(2)
新しいTA枠組の構築
 21世紀型のTAに求められる課題
 価値観の多様化への対処
 多様な応用分野における革新的な技術の不確実な社会影響
の把握
 問題構造化アプローチのTAへの適用
 技術の専門家から一般市民に至る多様なアクターを対象にし
て、段階的かつ柔軟に対応できる。
 各アクターの認識を出発点にして、全体としての問題定式化
を形式的に行うことで、多様な価値観や不確実な社会影響を
把握できる.
 認識の可視化により、アクター間のコミュニケーション(専門
家vs.市民、専門家vs.専門家…)や連携を促進する有用な
ツールとなる。
 海外の最新TA手法と日本への適用可能性の検討
 シナリオアプローチ、市民参加手法、Artistic TA etc.
7
項目(3)ナノテクを対象としたTAの実践
(1)対象技術を選定
 対象分野



(A)医療診断技術
(B)エネルギー貯蔵・転換技術
(C)食品加工・生産技術
(2)対象技術の諸専門家を選定
(3)対象技術の諸専門家各々の認知マップを作成
(文献調査、インタビュー調査)
 選定理由



社会的ニーズがあり(Global
Sustainability等の観点で)、
社会に普及する可能性が高い。
応用分野が比較的明瞭。
比較的近い将来に商品化。
(4)対象技術の諸専門家パネルを実施
(相互認識の把握と変容の促進)
(5)対象技術の諸専門家の諸認知マップを整理
(類似点・相違点を分析、諸マップを類型化)
 特徴

様々なアクターの関与するパネ
ルを設置した実践的活動。
(6)対象技術専門家・社会科学等専門家・市民・各種アクターのパネルを実施
(多様な視点の追加、潜在的課題とオプションの創出、課題優先度の議論)
 アウトプット

制度化に向け留意点を抽出
(7)対象技術
に関する提言
(8)各アクターの連
携のあり方を検討
(9)市民中心のパネル実施
(本プロジェクトの対象外、他プロジェ
クトとの連携?)
(10) (項目4)の研究への知見提供
8
認知マップの例
(バイオチップの社会影響に関する、ある専門家の認知マップ)
(12) 再生医療の
可能性の増大
(14) 極少数しか
活動していない
細胞中の分子
の計測が可能に
(11) 細胞増殖の
足場としての利用
(13) カンチレ
バーによる1
分子計測が
可能に
(16) 1分子解析
装置の開発
(17) 1分子DNA解
析システムの開発
(18) 個々人のゲノム
情報に基づいた高
精度診断の実現
(2) DNA検
出用CCD
チップの開
(1) ナノ構造製
発
作技術開発
(15) DNA
ハンドリン
グデバイス
の開発
(5) μTASにより少量の血液からの各種遺伝
子・蛋白質・糖鎖の高速検出が可能に
(6) μTASによる安価・高速・高精度の遺
伝子・蛋白質・糖鎖の診断が可能に
(7) 遺伝性疾患の原因遺
伝子の安価・高速・簡易・
正確な検出が可能に
(19) 遺伝子検
査の普及
(20) 予防医
療にも保険
適用される
ような制度
変更
(21) 遺伝子
異常保持者
への告知問
(23) 予期される
題の発生 (22) 本人の意 病気の予防を講
図しない形で じる人の増加
の情報利用の
発生
(24) 遺伝
子差別の
発生
(3) マイクロチャ (4) 遺伝子用
ンネルアレイ形 PCRマイクロ
成技術の開発 チャンバーや蛍
光による蛋白質
の高感度計測
技術開発
(25) プライバ
シーの侵害の
発生
(8) 遺伝子情報
をもとに患者毎
に効果的薬品を
選択的投与する
ことが普及
(26) 製薬会
社の売り上げ
減少
(9) 遺伝子情
報をもとに患者
毎に副作用を
避けた薬品を
投与すること
が普及
(31) 健康寿命の
延長
(32) 少子高齢化時
代における労働力不
足の緩和への貢献
(45) 援助の実施
(48) 途上国
の疾病軽減
への寄与
(44) 低コストで途上国
の疾病予防に大きな効
果を得ることが可能に
(40) 病院から在
宅患者の健康状
態把握が可能に
(10) 各種バイオマー
カー(疾病原因遺伝子
の異変/蛋白質/糖)
を安価・高速・高性能で
調べることが可能に
(41) 在宅診
断の進展
(27) 製薬会社に
とって副作用の責
任を回避するメ
リット
(28) 国民の福
祉水準の向上
(29) 予防医療
の普及
(47) 温暖化による日
本への新たな病原体
流入時の対処準備
(46) 国際的なコスト
負担の制度枠組み
(38) 病気の早期
発見が可能に
(43) チップ情
報の通信シス
テム整備
(42) 個々人の
病気に対する
注意が喚起
(39) 頻繁な
診断受診の
普及
(30) 病人の減少
(34) 医療費減
少への貢献
(33) 医療費増
加への寄与
(49) 途上国
の貧困削減
への寄与
(35) 国家財政健
全化への貢献
(36) 差し引きで
医療費の増大
(37) 国家財政
悪化への寄与
9
項目(4)
社会に定着させるための提言
 項目(1)~(3)を踏まえ、新しいTA枠組を、既存の技術関係法制度に
組み込むための提言を行う。より具体的には、
 (ア)社会意思決定に組み込むための提言
 「政府による包括的TA」を「個別の政府のリスク規制や研究開発支援評
価制度等」にどのように接続するか?その際、対象技術をどう選ぶか?
 「政府によるTA」と「技術者あるいは専門家による自主的TA」の分業・
相互関係をどう設計するか?

包括的TAを関係者間の連携のマネジメントにいかに繋げていけるのか?
 (イ)TA制度の枠組みと、それを支える社会基盤整備への提言
 TAの実施主体は誰か?(企業、NPO、専門家団体迄の広がりの中で)
 財源や人材育成はどうするのか?
 連携を維持しながらTAの独立性を保つために何が必要か?
10
期待される成果と
社会へのフィードバック

社会貢献1:我が国の政策決定過程の中での本手法の活用
 我が国においても開発機関とは独立した評価機能・体制が構築した際に、
そこにおいて本プロジェクトで構築するTA手法が実際に導入・定着されるこ
とが最大の社会貢献
 第3・4年度目に、パネル会議の結果等を踏まえた、制度化設計のための
ワークショップを開催する。ここには政府関係者も集め、提言の現実性を高
めるための知見を得る。

社会貢献2:様々な民間主体による本手法の活用
 本プロジェクトではTA対象者として、技術専門家・社会科学者のほか、産
業界・メディア・市民グループの代表者までを想定している。将来的な展開
としては、これらの民間主体を中心としたパネルを設定することが考えられ
る。
 パネル会議・ワークショップ・シンポジウムを始めとする多くの場面において、
産業界関係者やNGOなどの民間主体と連携を行う中で、TAの実践を促進。
11
研究組織
体制
代表・エネルギー法制度
城山英明
医療法制度
畑中綾子
行政法制度設計
山本隆司
食品法制度
松尾真紀子
海外TA調査
吉澤剛
環境法制度・環境影響評価制度との比較
増沢陽子
助
言
海外アドバイザ
リー・ボード
Michael Rogers,
Arie Rip,
Christopher Hill,
Philip Vergragt
代表・科学技術政策
鈴木達治郎
助
言
合意形成
松浦正浩
技術の多元
的影響分析
湊隆幸
市民
上田昌文
代表
鈴木達治郎
技術経済
鎗目雅
事務局
中川善典
法制度
城山英明
相互に
情報提供
(1)法・制度
グループ
リスク評価
黒田光太郎
倫理
神里彩子
適宜参画
ナノテク技術担当
竹村誠洋
INSNをはじめとする
ナノテクTAに関する
海外組織
技術倫理
黒田光太郎・
神里彩子
問題構造化
中川善典・
城山英明
(2)TA手法開
発グループ
(0)多領域プロジェクト
グループ
コミュニケーション
土屋智子
技術経営
青島矢一
適宜参画
(3)ナノテクのTA
実践グループ
情報提供
代表
竹村誠洋
医療診断技術
宮原裕二・馬場嘉信・内田義之
エネルギー貯蔵・転換技術
鈴木達治郎・宮坂講治
市民・消費者
上田昌文(代表)、吉澤剛、辰巳菊子
食品加工・生産技術
立川雅司・高橋祐一郎
パネル運営
中川善典・松浦正浩
リスク
12
市原学
研究組織体制とメンバー

グループ(0)は全体の指揮を担う。



グループ(1)は科学技術と法に造詣が深い専門家集団。









鈴木(代表):TAを専門。東京大学公共政策大学院に「科学技術科学技術と公共政策研究ユニット」を立ち上げた。ここはInternational
Nanotechnology and Society Network のわが国唯一の窓口。
中川・城山:交通政策を題材に独自の問題構造化手法を開発してきた。
松浦:合意形成手法を実践している。
上田:市民の意向をTA手法構築に反映させる役割。
神里:倫理が専門。
青島:MOTが専門。民間企業が自主的に行うことを視野に入れたTA手法構築に必要な知見の提供。
グループ(3)はナノテクに特化した専門家・現場の実践者で構成。



城山(代表):安全法、リスクガバナンスを研究。
吉沢(海外調査を担当)、山本(行政法理論専門家)、増沢(環境影響評価、アスベスト)
城山(エネルギー)、畑中(医療)、松尾(食品)と、各方面の専門家をバランスよく配置。これらはグループ(3)にも参画。
グループ(2)は新しいTA手法開発に必要な知識・経験を有する専門家。


(1)~(3)の有機的連携が可能な組織体制(鈴木・城山・竹村.黒田らが組織間の橋渡し)。
技術政策、法制度、倫理、コミュニケーション、技術経済、リスク評価の各専門家から成る.
竹村(代表):ナノテクにかかわる数多くのプロジェクト、ワークショップ、国際会議の運営に携わってきた。
3テーマそれぞれの専門家を配置。
海外アドバイザリーボードは欧米の科学技術政策・TAの主導者で構成。

(1)~(3)全般への助言。二年度、三年度末に開催の国際ワークショップへ招聘する。
13
メンバーの過去の研究・活動実績

平成18年度・振興調整費「ナノテクノロジー影響の多領域専門家パネル」(鈴木、城山、黒
田、中川)




国際連携のためのネットワーク構築


第二回責任あるナノテクノロジー研究開発に関する国際対話(内閣府・AIST・NIMS、2006年6
月)(竹村・鈴木・中川)
ナノテクノロジーの健康・環境・社会影響に関する合同ワークショップ(日本学術会議・英国王立
協会、2005年7月、2006年2月)(竹村・鈴木・城山)
International Nanotechnology and Society Networkの日本窓口(鈴木、城山、中川)

東京大学公共政策大学院に「科学技術科学技術と公共政策研究ユニット」を立ち上げた。



TAの研究組織の立ち上げ(鈴木、城山)
エネルギー技術の社会意思決定プロセス研究(鈴木、城山)


TF4「ナノテクノロジーの技術アセスメントとコミュニケーションの検討」を担当。
対象をカーボンナノ材料に限定し、問題構造化手法を用いたTAの初期段階のみを実施した。
今回の題材選定には、その知見も一部踏まえている。また、今回はTAの全プロセスを設計・実行
する。
主として地方自治体におけるエネルギー技術導入プロセスの事例研究
安全法研究(城山、鈴木)

リスクの側面に着目した法制度の分野間・国際比較研究
14
年次計画
H19.4
H20.4
H21.4 H22.4
(1)TAの歴史分析
24ヶ月
(2)TA枠組の構築
24ヶ月
(3)ナノテクTA実践
H23.4
H24.4
36ヶ月
(4)制度論的提言
18ヶ月
★
国際WS(歴史
分析とTA理論
枠組みの議論)
★
国際WS(ナノテ
クのTAと制度化
のあり方の議論)
☆
国際シンポ(成果の
取りまとめと提言)
15
付録:海外におけるTAの現状



80年代(下表),90年代にはEU諸国の大半とスイス,チェコ、オーストリア等が技
術評価機関を設置。
議会又は行政府に属する。
EUROPTA, EPTA, TAMIなどのネットワーク組織も発足。
名称/国
設立
予算(1997年[$])
スタッ
フ
OPECST(フランス)
1983
11
90万
TEKNOLOGIRÅDET(デンマー
ク)
1986
7
160万
RATHENAU研究所(オランダ)
1986
11
190万
STOA(EU)
1987
6
80万
POST(イギリス)
1989
4
40万
TAB(ドイツ)
1989
9
200万
16
付録 問題構造化のTAへの適用

問題構造化とは
 主に、公共政策学やSoft ORにて言及される概念。
 一つの問題状況に関して「何を問題とするか」についての認識が、アクターにより
全く異なりうるという前提に立ち、
 アクター間の多様な問題定式化の共通点や相違点を明らかにした上で、
 アクター相互に認識の変容を促しつつ、全体としての問題定式化を追求してゆく、
持続的な行為。

問題構造化はTAと高い適合性があるにも関わらず過去に適用例がない。
 TAが扱う問題状況(不確実性等に伴い、異なる事実認識が混在)には最適なア
プローチ。
 人により関心のある観点が違うNanotechnologies分野を扱うには最適なアプ
ローチ。

本研究チームメンバーには、独自の問題構造化手法を開発してきた実績。


加藤・城山・中川(2006)関係主体間の相互関係に着目した広域交通計画における
シナリオ分析手法の提案、社会技術研究論文集Vol4
加藤・城山・中川(2005)広域交通政策における問題把握と課題抽出手法―関東圏
交通政策を事例とした分析、社会技術研究論文集Vol3
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