大気物質輸送I(対流圏の物質輸送)

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Transcript 大気物質輸送I(対流圏の物質輸送)

大気海洋物質科学 I
大気物質輸送過程
序:
主成分の窒素、酸素については、気象学ではよく混
ざっているとして1つの流体として、輸送に関わる
運動(風)を議論
水蒸気;気象学のメインテーマであろう
化学物質は幾つもあって、また観測結果も多くあっ
て、、、ですが:
大気組成
ここでは、全球スケールの輸送(運動)を主に
高度
ppmv
流体粒子や放射性物質が輸送の確認として使われる
CO2
温暖化物質として重要である、寿命の長いCH4
比較的寿命の長い物質であるCO
最後に大気汚染の代表としてのオゾンを例示する
CH4
輸送(1)では対流圏の物質輸送の問題をあつかう
輸送(2)では成層圏オゾンに関わる物質輸送
10-6
大気微量成分の平均的な高度分布
1:対流圏の物質輸送
1−1:輸送方程式
夏季の海面気圧場(hPa)を示す、高気圧や
低気圧が場として表現
気象の、運動にからむ基礎方程式を述べることにしま
す。詳しくはHolton の
An Introduction to
Dynamic Meteorology 等を参照。式だけ書いておき
ます.連続体近似として、流体力学の方程式によって
流体の運動を議論する。
ー>大気を連続媒体と見なして場の変化の方程式を作
る。そこでは,大気の運動を表す流体の速度が必要で
ある。これは v = v ( x, y, z, t ) と表され、場の関数
である。さらに2つの熱力学量が必要とある。例えば
圧力 p = p ( x, y, z, t ) と密度 ρ = ρ( x, y, z, t ) が必要
であり、この5つの量で流体の状態は完全に決定され
ると書いてある。そこで例えば温度 T = T ( x, y, z, t )
は状態方程式から決まる。
2002年9月
25日の全
オゾン分
布
高度100km程度までは窒素、酸素はよくまざっていて、
1つの密度であらわす。
ー>オゾンなどは別にあらわす
大気化学成分の1つであるオゾンなども場の関
数として現すと見やすいかも
2002年の変動パターン->次回に少し詳しく
方程式:
輸送(運動)にからむ:
オゾンなどの化学成分の輸送としては、成分の連続の式が増えていく
連続の方程式(大気全体)

 t
 div (  v )  0
2003年9月11日のオゾンホ
ール(全オゾンの分布)
運動方程式(東西、南北、鉛直方向)は、いくつかの近似をして
du
dt
dv
dt

uv

a
u
2
a
tan   
1 p
tan   
dw
dt
 2  v sin   Fx
 x

1 p
 2  u sin   Fy
 y
1 p
 z
 g  Fz
全球をあつかう、これまでの大気大循環モデル(GCM)では静力学平衡になっている
p
z
 
g
理想気体(大気)の状態方程式、 R = 287 J / kg / K
熱力学の方程式:
cpは定圧比熱 ( = 1004 J / kg / K )
cp
断熱運動では温位が保存される。
変形して->
水蒸気の式(混合比の保存)は
cp
d ln T
dt
dT
p   RT 

dp
  T (
p0
dt
 R
dq
dt

dt
d ln p
dt

d' Q
dt
)
R / cp
p
 cp
 source
d ln 
dt

 sink
d'Q
Tdt
RT

1−2:化学物質輸送
個々の大気中物質(例えばオゾン)の体積混合比  について、例えば、Muller and Brasseur(1995, JGR)は
D

 v   0
t
 0
Dt
流体粒子に伴って、混合比が保存するように運動している式となる(分子拡散は無視してある)
この式に、右辺に生成/消滅の項を付け加えることで、物質循環を議論すればいいであろう。
生成/消滅は流体粒子内の化学反応、
大気へのソース・シンクとしての、地表からのemissionや地表へのdeposition
輸送問題におけるモデルでの方法:
表現できるスケールの運動とそれからのずれの運動が、分離されて議論される(例えば、通常のGCMでは、対流、
乱流は直接表現されない)。
     '
のような形を仮定して、表現できるスケールの運動とずれに分ける。上式に代入して、表現でき
るスケールの変動の式を導くと(連続の式  u   v   w  0 が使われて)、
x
y
z
 



r
  v    
' u' 
'v' 
' w '

t
x
y
z
のような式が導かれる。この右辺のずれの積の項をどのように評価するか? が問題ごとに考慮される;
一番簡単な例は分子拡散をまねて、乱流による輸送を拡散の形に仮定するものがある。

結果的に、ある場所の物質の変化の式は
  
  
  

 
 
 



  t advection
  t eddy
  t chemistry
t
オイラー的時間変化 =
輸送の詳細
+ 化学過程
前ページの方法を、全球的な物質輸送の問題に適用すると、以下のようになるであろうか。
(小規模現象の輸送を扱う時は対流まで陽に表現で、乱流による輸送をパラメータ化で表現)
オイラー的なその場所の物質変化=輸送+化学過程で、
輸送としてはスケールで分けて ー> 大循環 + スケール小の対流など + 乱流輸送
大循環による輸送はたとえば、大循環モデル結果の風を用いたり、
ECMWFデータのように、モデルに観測データを同化して求めたものでいいであろう。
例:我々のところで物質循環に用いている
大気大循環モデルは
T42(全球的な波の数)
2.8x2.8度程度の分解能の粗いモデルである。 ( 約250km )
移動性低気圧などは、分解可能であろう; 数千kmだから直接表現
惑星波動
これもいい
〜10000km
上記の運動は表現可能 大循環モデルで explicit にもとめるー>その風でモノが流れる、
しかしメソ現象は表現が出来ていない
T106では約100kmの分解能になる メソα現象が表現される 化学気候モデルにはほとんど未使用、
ECMWFデータのような風を用いた輸送モデルでは、T106くらいが使われるようになった
対流輸送
ー>あらいモデルでどのように表現するかという問題
乱流輸送
乱流理論を使いパラメータ表現する
1ー3:大循環のおおよその様子
7月
大循環のようすを説明するのが大気
大循環論(熱輸送、角運動量輸送、
水の輸送を含めて)だろう
それぞれがconsistentなように決ま
る
1月
保存則があって
(エネルギー、角運動量、水)
<ーすべてはお互いに、例えば速
度場などを通じて関係している。
ー> その中で:赤道域と中高緯度
の運動の振舞いが異なるよう。
赤道域は水平収束的なものが特色の
よう ー>対流
月平均された地表面気圧と地表風の概要 ー>物質輸送
h=9300m
1月平均、上
層300hPaの高
度場、ほぼ地
衡風バランス
 2  sin  v   g
中高緯度は水平的な渦が特色のよう
2  sin  u   g

x

y
h
h
東西に平均した子午面循環と擾乱
中
緯
度
高
低
気
圧
の
様
子
熱帯域で上昇流(場所は季節で移動)、
30度あたりは下降流なるHadley循環
中緯度は傾圧波動が卓越するRossby循環
南半球
北半球
北半球冬の子午面循環
流体粒子のラグランジュ的な流れでみると:
360
0
等温位
経度
赤道域の東西循環、色は高度偏差
対流、等温位線、流体粒子の流れのSchematic図
水の循環
低緯度の水蒸気が極域方向へ移流される
水対流が重要ー>あらいモデルでの表現の問題
降雨、蒸発、水蒸気輸送の緯度変化
北半球冬の全球の降雨のようす
<ー6pの地表付近の流れとの対応
東西に平均した水蒸気の南北高度分布(g/kg)
結果としての、温度場の様子
東西平均した温度の緯度・高度断面図:93年の1月の
平均
実線が温位θを、点線が温度である。
  T(
p0
)
圏界面
 / cp
p
 緯度で異なる対流圏の高さ
d

図から想像できるように、 dz
は成層圏で大
きい(より安定)、熱力学の式に関わる N  g  ln 
z
は浮力振動数2である
2

対流圏/成層圏のSchematic図
ー>成層圏での輸送については輸送(2)
で
熱帯域と中高緯度とは力学過程が異なる
物理的には温位の方が力学的に断熱で保存則を
みたす点で重要か
ー> 力学を考えると
Holton et al. (1995, Rev. Geophys.)から
断熱運動のとき、 d  / dt  0
とすれば流体
は等温位面を動くだろう
図 ー>中緯度で対流圏と成層圏がcrossしてい
る。

d
 Q
熱帯対流圏では
が重要であろう
dt
1−4:手法(オイラーとラグランジュ)
Emanuel and Pierrehumbert,1996, NASA ASI : 315K
と330Kの等温位面上の水平的流体粒子の動き、初期
条件:3月1日から、10日たったあと、
大きなスケールの運動による輸送はたとえば、大循
環モデルを用いた風や、ECMWFデータの風で表現
オイラー的な方法では
315K
 
  v   
t
の式を直接積分することになる。
例:GCMで再現された6月での水蒸気fluxと降雨
(水蒸気は v で流されている。オイラーの式を解
いた結果、降雨の方は対流のパラメータが導入され
ている)、Kawatani and Takahashi, 2003, J. M.
S. J.
別の方法:ラベルをつけて空気粒子をながす、
Lagrange的な方法がある。
初期の色
付け
320K
等温位面:成層
圏-->対流圏に
350
320
傾圧波動にともなう流体粒子の3次元的動きをみてみ
よう:木田, 1977, J. M. S. J. (水過程は入ってい
ない)
10日後
30日後
200mb
10日後
60
200mb高度の、様々な緯度にモノをおいた例:
20
全体的には下降している(重心の運動)
20日後
また45-60度あたりのは南北に大きく広がっ
ている、これは傾圧波動による移流のせいである。
ほぼ等温位面をうごいているが、傾きは小さい
どこから来たかを求める:backward trajectory
下図は、太平洋のCOの濃度分布、右図はどこから
きたかの起源の場所を決めるため、流体粒子の動
きをLagrange的に時間をさかのぼる
高度別
Blake et al., 1999, JGR
CO
〜9.2km
〜4.2km
〜1.5km
COが多い
Aircraftによる観測、96年、8月ー10月の観測、
PEM-Tropics A
10日前まで;高度ごとにいろいろな所から来
ている、中層はアフリカから
補足:GCM中の対流による輸送について
対流は細かいスケールでおこっている。その対流は
水のみでなく、微量成分の鉛直輸送でも重要である。
M  
Mass flux を
と定義する。
質量flux だから M≡ -ω/g〜ρw
Yanai et al.,1973, JAS
これを2つにわける(雲によるものと周りの平
均)
˜
M  Mc  M
図は2次元の対流が表現可能なモデルによる、DMS
(硫化ジメチル、(CH3)2S)の鉛直分布を示す。上
層の多いところは対流により輸送されている。
Wang and Prinn, 1998, JGR
熱帯域太平洋の状況
は積雲によるMass flux である。
まわり(環境)のMass fluxである。
Mc
M˜
は
風を変えている
 はエントレインメント率、
率として、
˜ 
(   ) 
一方、水平分解能のあらいモデルでは対流の
効果をパラメータとして扱っている。
はデトレインメント

M c c  0
p
 

˜)   M

M c (  c  
t
p
物質バランスの式
c

˜

p
平均的な物質変化が普通のGCMでは表現できない雲対流
によるMass fluxによる移流に依存する

平均的な流れによるものに加えて、圧力座標
では、
 
t
 

p
パラメータ例:
' '
の右辺を評価する。
問題は雲対流のMass fluxを如何にきめるかであるが
(対流のパラメータ化とからむ)、
>例えばArakawa and Schubert,1974, JASなど
−>パラメータを用いたCO輸送の例を後で
1−5:輸送の確認
東西輸送:
東西平均東西風の様子
<ー温度風との関係で
中緯度東西1周の時間スケール
3x107m/20m/s =1.5x106s=17日程度
上層の西風により物質が東に流されてい
る様子、7月平均、38N における 222Rn
(e-folding timeは5.5日)分布、ソース
は土壌、1=6.6x10-22 mixing ratio
北半球
JJA(夏)の、東西平均東西風の緯度高度図
Jacob and Prather, 1990, Tellus、気
象場はGISS-GCMが使われている
夏のアメリカ西大陸上dry convection
が大事と書いてある
JJA、200hPaでの東西風分布
ー>観測されたある場所の鉛直分布など
で確認される
南北両半球の交換について
850hPa
1月平均
地表面気圧と対応した流れ
1月に東西一様な仮想的物質を分布させ、南北勾配を与え、
その後、流れによってどのように物質分布が変動するかをみ
たもの、1月中の変化、Taguchi, 1993, JMSJ
その後、6月 と12 月でどんなふうに変化する
かをみたもの、勾配の大きいところが移動、半
球交換時間は1年と評価されている。
南北輸送と鉛直輸送
Muller and Brasseur, 1995, JGR
大規模場による輸送(ECMWFデータから)および
水平拡散 ー> 南北輸送の確認
南北輸送の時間は
3000 km
6
程度か
T  L /v 
 3  10  1 month
鉛直輸送の確認:鉛直拡散と対流輸送(パラ
メータ化は異なる方法)の効果が入っている。
1m / s

勾配大
Kr85(寿命15年)の 表面での緯度分布(dashが
大西洋観測、実線がモデル結果(30W))
夏の大陸上のRadon222(半減期3.2日)の鉛
直分布
1−6:化学物質の分布
対流圏中での全球的輸送では
対流を伴うHadley循環や傾圧波動なるものが働いており、
それに化学過程などが絡み -> 物がどのように存在
観測結果 <ー> モデルによる説明研究
物質はいっぱいあって、、、
ここでは比較的多い物質を議論したい
ー>
1:メタンについて
CH4は0.5 W/m2の放射強制力
CO2は1.5
Hydrocarbon=0.5
対流圏オゾンは0.5W/m2
ー>ここでは物質分布について
メタンの反応例(NOxが多い):Crutzen and Zimmermann, Tellus, 1991
CH4 + OH
-> CH3 + H2O
CH3 + O2 + M -> CH3O2 + M
CH3O2 メチルぺルオキシド
CH3O2 + NO
-> CH3O + NO2
CH3O
メトキシ
CH3O + O2
-> HCHO + HO2
CH2O ホルムアルデヒド
NO + HO2
-> NO2 + OH
NO2 + hv
-> O + NO
x2
O + O2 + M
-> O3 + M
x2
---------CH4 + 4O2 + hv -> 2O3 + HCHO + H2O
CH4寿命は10年程度
対流圏微量成分
衛星観測との比較
Schneising et al., ACP, 2009
衛星観測で得られた、
カラム平均の2003年
のCH4分布
モデル(ECMWF気象
データ)で評価された
CH4分布
だいたいあっているようです。差は、emission、輸送、解離と
関わるOHの差と思われる。
補足: OHについて
OHは少ない量ではあるが、化学反応で非常に重要な物質であるので、見ておこう。
(ただし、観測はほとんどなく、モデルの結果である)
東西平均したモデルOH分布、7月
O3 + hν(310nm以下)-> O(1D) + O2
H2O + O(1D) -> 2OH
H2Oがメインのソースであり、日のあたり具合でおお
よそ決まっているよう。
モデル結果:地表のOH、7月3日、6GMT
2:COについて
CO emission分布: Brasseur et al., 1998
COの化学的寿命は
CO + OH -> CO2 + H :(k=10-13 ) x106 =10-7(1/s) 100
日程度
上層のCO:
〜11km
Park et al., 2009, JGR
2005年6月
の215hPa
でのCO
衛星観測
モデルは大体再現している
圏界面
モデル(気象はNCEPデータ)の、COの緯度高度分布図、6月平均で、67.5E(左)と112.5Eの経度
対流輸送が重要な役割を果たしている:
Park et al.
上層の高気圧性循環の外と内
OLR; 対流の様子
平均的鉛直分布
モデルでのemission分布、
1000hPaでの流れ
模式図
1−7:オゾンについて
Sudo et al., 2002, JGR
成層圏か
らの流入
対流圏オゾン化学の略図
7月の地表オゾンの結果例:主に化
学反応により決まる
オゾン生成の1例(前出):
CH4 + OH
-> CH3 + H2O
CH3 + O2 + M -> CH3O2 + M
CH3O2 + NO
-> CH3O + NO2
CH3O + O2
-> HCHO + HO2
NO + HO2
-> NO2 + OH
NO2 + hv
-> O + NO
x2
O + O2 + M
-> O3 + M
x2
---------CH4 + 4O2 + hv -> 2O3 + HCHO + H2O
1月の地表オゾン
中緯度でのオゾン移流の例
衛星画像、線は対流圏オゾン
中緯度高低気圧の様子
モデル結果として、成層圏から流入しているよう
にみえる(7月で、東西平均したもの)
対流圏オゾン量(DU単位)の分布図, 線は
850hPaの流線、Fishman and Balok, 1999,
JGR
成層圏から対流圏への流入量の見積もり:
CHASER:成層圏から593Tg/y、化学=397Tg/y
MOZART:成層圏から391Tg/y、化学=507Tg/y
補:ENSOにともなうオゾン偏差の分布:
Sudo and Takahashi, 2001, GRL
対流圏オゾンの気候値
オゾン偏差の経度高度図と、下図の色がmass
fluxのanomaly(差)、一方、矢羽根は大規模場
の流れ偏差、 NOX, COなどもインドネシア域で
増加
1997年、ENSO時におけるオゾンの偏差(’96から
の差)、上は衛星データから、下は化学モデルの
結果、ただし、モデルでの微量成分の放出は96,97
は同じものを使っている。
大気変化の効果により、インドネシア域のオゾ
ン増加の半分くらいは説明できるよう。残りは
バイオマスバーニングの変化であろう
個々に、問題はいっぱいあるが、、、、