(2)個人的倫理と社会的倫理

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(紹介)
スクリプト分析法
2008 深谷昌弘
fukaya-rg
1
■コトバを操りつつコトバに縛られる!
意味づけは辻褄合わせを指向した
記憶連鎖の引き込み合いによって
なされるので、コトバと結びついた
記憶連鎖に制約されている。
fukaya-rg
2
意味図式
一つの述語(典型的には動詞)と
名詞と助詞からなる
最小の事態構成の型のことです
fukaya-rg
3
そして
スクリプト
とは
あるモノ・コトに適用される
慣用的意味図式
のことです
fukaya-rg
4
■スクリプトとは
 あるモノ・コトに適用される慣用的意
味図式であり記憶連鎖に安定的に定
着しています
その集合が概念・常識などを明らかに
します
fukaya-rg
5
■スクリプト分析法とは
テクストデータの収集・解析・結果表示までを
自動的に行う分析システムを用い、その出力
結果に基づいて分析者が意味構造を解釈する
ことを支援する分析手法
 テクスト解析の基本単位=基礎意味チャンク
 スクリプト=慣用的意味図式

スクリプト集合を分析すると
隠れた意味構造が明らかになる
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6
■事例紹介
 「世間」概念のスクリプト分析
司馬遼太郎や阿部謹也が
指摘したように
日本人の社会生活を規定
している重要な概念
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7
■「世間」と「社会」の使用
 世間:「世間胸算用」「方丈記」に登場
– 元々は仏教用語
– 司馬や阿部がその重要性を指摘
 社会:Societyの訳語

(明治10年頃)
個人:Individualの訳語 (明治17年頃)
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8
でも、世間とは何でしょう?
誰もしかとは答えられません
なぜでしょうか?
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9
■「世間」とは?
にすぐに答えられない理由

人々の生活を規定している諸々の日常語の概念
や常識はたいていの場合人々が明確に定義して
使用しているわけではないから そこで・・・
人々のコトバの使用を集めて分析
人々の意味世界に埋め込まれ
ている概念・常識の隠された
意味構造が明らかになる
fukaya-rg
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では
人々にとって
「世間」
とは何でしょうか?
具体的に研究事例の内容を見てみましょう
fukaya-rg
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「世間」のスクリプト分析
ー手法の説明と分析結果ー
深谷研究会
2001年7月10日
fukaya-rg
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■プレゼンテーションの流れ:
1:データの説明
・データソース
・採取手順
・エクセルファイル
2:助詞(は・が・を・に・で)別
スクリプト集合の分析とその特徴
-「社会」との比較-
3:総括
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■データソース
朝日新聞の投書欄「声」 1998・4-2001・4
「世間」:577件・「社会」:414件
■採取手順
ターゲット語・件数・検索年を指定し、専用プログラム
を用い、下記のデータについて整理する。
・投書情報(氏名、年齢、性別、職業、投書年月日、等)
・投書文全体
・ターゲット語を含むセンテンス
・ターゲット語に関する意味図式
・ 「世間」:652個・「社会」:600個
n回以上登場の意味図式をスクリプトとして採用
(n=2に設定)
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■エクセルファイル
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助詞(は・が・を・に・で)別
スクリプト集合の分析による
概念特性の抽出
-「社会」との比較-
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世間・社会のスクリプト分析
助詞「は」「が」の場合
世間は
どんなことをする存在だろうか?
その見当をつける
■「世間は・が」 のスクリプト
動詞
個数
動詞
世間 許す
3 社会 なる
驚く
2
続く
見る
2
変わる
言う
2
騒ぐ
2
認める
2
不況だという
2
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個数
7
2
2
18
■「世間は・が」スクリプトの特徴
世間→他動詞を取ることが多い
社会→自動詞を取ることが多い
世間の動詞:人に対する働きかけの動詞
社会の動詞:変化の動詞
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■「世間は・が」 スクリプトの
特徴 (具体例)
世間 →
世間が許す
世間は騒ぐ
世間が認める
社会 →
社会は豊かになる
社会が明るくなる
社会が大きく変わる
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■「は」・「が」のスクリプトから見えてくる
『世間』についてのイメージ
世間
世間
→絶対的な存在
→人に対する判断・評価
社会
→変化・変貌
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世間・社会のスクリプト分析
助詞「を」の場合
人々は世間に
どんな直接的働きかけをするのだろう?
その見当をつける
■「を」のスクリプト
世間
動詞
個数
騒がせる
にぎわせる
驚かせる
33 社会
4
2
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動詞
個数
批判する
気にする
実現する
つくる
つくれる
選ぶ
覆う
変える
迎える
6
5
2
2
2
2
2
2
2
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■「世間」と「社会」の特徴
世間
社会
特徴①
感情・反応を呼び起こ
す使役動詞を使用
変化を引き起こす他動表
現を使用
特徴②
手が施せない
手を加えられる状態
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■「を」のスクリプトから見えてくる
『世間』についてのイメージ
世間
世間
→手を触れて働きかける
→絶対的な存在
ことが出来ない
社会
→手を触れて働きかける
ことが出来る
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世間・社会のスクリプト分析
助詞「に」の場合
世間とは
場所として・働きかけの宛て先として
どんな存在なのだろう?
その見当をつける
世間
動詞
数
動詞
数
ある
8
出る
8
知られる
6
なる
7
あふれる
4
できる
5
横行する
2
ある
3
与える
2
貢献する
3
迷惑をかける
2
存在する
2
顔向けができる
2
突きつける
2
認められる
2
認められる
2
知らせる
2
吹き荒れる
2
社会
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■「に」 のスクリプトの特徴 (具体例)
「場所」としての世間・社会
出る →
?世間に出る
○社会に出る
ある →
○世間に~という風潮がある
○社会に~という風潮がある
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■「に」 のスクリプトの特徴 (具体例)
「動作の宛て先」としての世間・社会
貢献する→ ?世間に貢献する
○社会に貢献する
知らせる→ ○世間に知らせる
○社会に知らせる
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■「世間」と「社会」の特徴
世間
社会
特徴①
場所
話者が参画出来ない
話者が参画出来る
特徴②
宛て先
具体的動作の宛て先
になれない
具体的動作の宛て先に
なれる
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■助詞「に」のスクリプトから見えてくる
『世間』についてのイメージ
世間
話者が参画する場所でもなければ、
具体的働きかけの宛て先でもない
社会
話者が参画する場所でもあり、
具体的働きかけの宛て先にもなる
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■世間・社会のスクリプト分析
助詞「で」の場合
世間とは物事の生起の舞台として
何かをするにあたっての前提として
どのように機能しているのだろうか?
その見当をつける
■世間「で」 vs 社会「で」
動詞
世間で
個数
言われる
11
言う
10
なる
6
ある
5
騒がれる
認められる
見られる
思う
起こる
3
3
2
2
2
動詞
社会で
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個数
する
2
暮らす
2
33
■場所を示す「で」
 問題・話題になる
 名前が出るようになる
 事件・事故が起こる
 いじめ・2000年問題が騒がれる
 仕事・才能・ルールが認められる
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■「で」の結論(1):世間とは
 出来事の舞台としての場所である
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■その他の「で」の使用
 世間で言う ○○
→世間で言うコギャル
 世間で ○○ と見られる
→世間で老人として見られる
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■「で」の結論(2)
 動作の主体が不特定
→世間は動作の主体に近い働きをするが、
明確な動作の主体は欠如している
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■世間
 出来事が起こる舞台としての場所
 動作主に限りなく近いが、真の行動の
主体は不特定
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■助詞別分析のまとめ
(浮上する二つの命題)
•世間は私達を裁く
•社会は変えられるが
世間は変えられない
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39
■世間=神?

司馬遼太郎曰く
「世間とは西洋社会における神の様な存在である」

世間に「許す」、「認められる」
私達の側からの動作は受けつけず、それでいて私
達には干渉してくる存在

「神」にしては情動的な反応が多い
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40
■世間は変えられない
世間「は・が」「を」「に」などの分析結果から
導かれる
世間は交渉相手にならない
 行為・コミュニケーションいずれにおいても相
互作用の相手となりえない
 個人は社会の一員ではあるが、世間の一員
ではない
 「~世間」のバリエーションが少ない
→変化の可能性が低い
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41

■阿部や司馬の指摘

日本における公共性や民主主義の在り方を
考える上で「世間とは何か?」を見据えるこ
とがきわめて重要
⇒しかし「人々にとって世間とは何か」を明らかに
する方法はこれまで存在しなかった

スクリプト分析法は人々の意味世界を
析出するための方法を開拓した
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■「世間」の概念スクリプト分析
手順
(1)意味図式(解析の基本単位)の抽出
(2)反復使用される意味図式をスクリプトとする
(3)スクリプト集合の比較分析
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■「世間」の概念スクリプト分析から
明示的に語り難い日常的な意味世界の諸概念
日常語の多くは明示的に定義されているわけ
ではない
 恣意的な意味解釈より「人々にとっての意味」
こそが重要

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スクリプト分析法
は
①人々のモノ・コトについての
意味知識や概念・常識を析出します
②時系列分析によって意味の社会的
ダイナミズムを明らかにするでしょう
③拘束的固定観念を明示することで
意味の創造的再編成を支援するでしょう
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■スクリプト分析と発展への展望
 意味の揺れを縮減
 意味図式(解析の基本単位)の抽出
 シナリオ(スクリプト※が立体化・複合化
された物語の骨格構造)の抽出
※スクリプト:安定的に定着している意味図式
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■スクリプト分析の近年における発展
 意味図式スクリプトから
意味内容スクリプトへ
 カルチュラルセマンティクス
(文化意味論)への志向
(参考文献)
桝田晶子・深谷昌弘、「カルチュラルセマンティクス:文化意味論の試み」、
『ソシオセマンティクスを創る』(第9章として所収)、慶応義塾大学出版会、2008
西田由紀子、『栄える夫婦・錆れる夫婦』、文藝社、2007
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■参考文献など

意味づけ論そのものについて
・田中茂範・深谷昌弘、『意味づけ論の展開』、紀伊国屋書店、1998
・深谷昌弘・田中茂範、『コトバの意味づけ論』、紀伊国屋書店、1996

スクリプト分析について
・深谷研究会、『意味空間分析マニュアル:
・『世間」の概念スクリプト分析』、深谷研究会

その他
・深谷昌弘のホームページ
(http://www.sfc.keio.ac.jp/~fukaya/index.html)
・SFC個人のホームページ()
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