人口減少下での年金制度

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Transcript 人口減少下での年金制度

公的年金純債務から考
える年金制度改革の方
向性
財務省財務総合政策研究所
総括主任研究官
麻生良文
構成
人口の動向
 制度改革の考え方

 年金制度の通時的予算制約式
 年金純債務
 保険料の租税としての機能

その他の問題
年金制度改革の一般的な論点

年金財政の維持可能性
人口高齢化
 世代間格差
 安定的な財源  消費税?


国民年金の未納


積立方式への移行,民営化






税方式?
様々なバリエーション
賦課方式の年金制度 資本蓄積阻害効果,租税として保険料
個人勘定化
NDC(Notional Defined Contribution)
給付建て(DB)か拠出建て(DC)か
論点がバラバラ
年金制度の経済効果

年金純債務の存在

国債の負担と同じ議論



賦課方式か積立方式か年金純債務の議論に帰着
年金制度の通時的な予算制約式


資本のクラウドアウト,GDP・賃金の低下
年金制度改革のゼロサム的性質(効率性への影響を無視した場合)
保険料の租税としての機能

どの部分が租税か



拠出と給付の対応関係
マクロ的には積立方式でも保険料が所得比例,給付の全額が定額なら保険料の
全額は租税
賦課方式でも個人勘定化で租税の部分は最小化される
賃金税と消費税の等価性
賃金税から消費税への移行
 税方式,消費税の目的税化の意味



給付建てか拠出建てか

リスクを誰に負担させるかという問題(租税・移転を用いてリスクの転嫁可能)
この論文での基本的論点

年金制度の通時的予算制約式のインプリケーション






保険料の租税としての効果


個人勘定化が租税の死重損失を最小化する
制度改革の考え方




世代間所得移転のゼロサム的性質(効率性への影響を無視した場合)
賦課方式と同等な所得移転政策
年金純債務をどの世代に負担させるかが本質的問題
年金純債務は非常に巨額
年金純債務の効果国債の負担と同じ
ゼロサム的性質
効率性への影響
世代間公平性,効率性への配慮
高齢化の進展は年金の問題を深刻化させたが,高齢化が進展しなくても
同様の問題は生じた
人口の動向
高齢化の度合
 出生率の引き上げの効果

 人口減少・高齢化は避けられない
 人口減少を前提にした制度の構築の必要性

高齢化にどう対処するか
 負担の平準化(あらかじめ備えておく)
公的年金
受給者数,被保険者数の見通し
公的年金の被保険者数・受給者
80
70
60
50
40
30
20
10
0
2000
2020
基礎:被保険者
2040
厚生:被保険者
2060
2080
基礎:受給者
2100
厚生:受給者
年金受給者数の見通し
40
20
18
35
16
30
25
12
20
10
厚生
基礎
14
8
15
6
10
4
基礎:受給者
2100
2095
2090
2085
2080
2075
2070
2065
2060
2055
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
0
2015
0
2010
2
2005
5
厚生:受給者
2015年頃まで,厚生年金受給者数が急増。2040年頃に再び急増
被保険者一人当たりの受給者数
受給者数/被保険者数
0.900
0.800
0.700
0.600
0.500
基礎
厚生
0.400
0.300
2020年までと2040年頃に被
保険者一人あたりの受給者
数が急増
0.200
0.100
0.000
2000
2020
2040
2060
2080
2100
将来推計人口
『日本の将来推計人口 平成18年12月推計』 国立社会保障・人口問題研究所
将来推計人口(死亡:中位,出生:中位)
140,000
120,000
100,000
65歳以上
15~64歳
0~14歳
80,000
60,000
40,000
20,000
20
0
20 5
1
20 0
1
20 5
2
20 0
2
20 5
3
20 0
3
20 5
4
20 0
4
20 5
5
20 0
5
20 5
6
20 0
6
20 5
7
20 0
7
20 5
8
20 0
8
20 5
9
20 0
9
21 5
0
21 0
05
0
2056年以降は参考推計。生残率,出生
率等は2056年以降,一定
人口減少のスピード
2005年の総人口を1としたときの人口
出生率の仮定の違い(死亡は中位)
中位
高位
低位
2055
0.704
0.765
0.658
2105
0.349
0.481
0.270
日本の将来推計人口 平成18年12月推計
中位
2005年からの人口成長率
(年率に換算した値)
高位
低位
2055 -0.70% -0.53% -0.83%
2105 -1.05% -0.73% -1.30%
老年人口(65歳以上)の推移
生産年齢人口(15-64歳)との比
65歳以上人口/生産年齢人口
1.20
出生率の仮定
(死亡は中位)
1.00
0.80
中位
高位
低位
0.60
0.40
0.20
高齢化は21世紀後半,さらに進行
0.00
2000
2020
2040
2060
資料:日本の将来推計人口 平成18年12月推計
2080
2100
2120
年少人口(0-14歳人口)の推移
生産年齢人口(15-64歳)との比
出生率の仮定
(死亡は中位)
年少人口/生産年齢人口
0.25
0.20
0.15
中位
高位
低位
0.10
0.05
0.00
2000
2020
2040
2060
資料:日本の将来推計人口 平成18年12月推計
2080
2100
2120
出生率が高いと
年少人口を扶養
するためのコスト
が高まる
従属人口(=年少人口+高齢人口)
生産年齢人口との比
従属人口/生産年齢人口
1.40
出生率の仮定
(死亡は中位)
1.20
1.00
中位
高位
低位
0.80
0.60
0.40
従属人口も21世紀後半,さらに高まる
0.20
出生率が高いと2040年頃まで従属人口
の比率が高まる
0.00
2000
2020
2040
2060
資料:日本の将来推計人口 平成18年12月推計
2080
2100
2120
2055年までの従属人口
従属人口/生産年齢人口
1.000
0.900
出生率の仮定
(死亡は中位)
0.800
中位
高位
低位
0.700
0.600
0.500
0.400
2000
2010
2020
2030
2040
2050
2060
従属人口の生産年齢人口に対する比は,出生率の上昇によってかえって増
加少子化対策は21世紀前半の従属人口比率を増加させる
将来の人口構成

人口構成
 慣性の存在

少子化対策
 労働力人口に影響が及ぶのはかなり先(20-30年),高齢
者人口に影響が及ぶのはさらにその先
 出生数の増加は,短期的には従属人口比率を増やす

出生数=母親の人口×出生率
 出生率が劇的に回復しても,母親の人口が減少していれ
ば,出生数は回復しない
 出生率だけに着目するのはミスリーディング
合計特殊出生率の推移
合計特殊出生率
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
1970年代前半までTFRは2.0を超えていた
2010
出生数の推移
1940年ー2006年
出生数の推移
3,000,000
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
出生数をみると1950年から減少のトレンド
2010
図2 65歳以上人口/20-64歳人口
0.9
0.8
0.7
低位
中位
高位
超高位
0.6
0.5
0.4
19
95
20
05
20
15
20
25
20
35
20
45
20
55
20
65
20
75
20
85
20
95
21
05
21
15
0.3
麻生(1997) 5年を1期間とするモデル。男女の区別は無い。生残確率
は1995年の生命表より。年齢別出生率を与えて1995年から出生数を計
算。超高位はコホート完結出生率が2.0
人口動向
21世紀後半にはさらに高齢化が進展
 出生率の回復策

 人口構成に影響を与えるまでの長いラグ
 出生率が2.0を回復しても出生数は減少し続ける

母親の年齢の女性人口が減少
 費用対効果

人口減少を前提にした制度改革の議論
年金純債務

純債務の大きさ


純債務




少なくともGDPの140%
将来の資産超過で相殺しなければならない
賦課方式財政は維持可能(present value borrowing constraint
は満たされている)
しかし,将来世代の負担は過重
公的年金バランスシートをめぐる議論

誤った議論が横行



二重の負担
年金制度は破綻状態
賦課方式の年金制度ではそもそも問題ない
この例では580兆円(=740-160)が純債務
将来の税金投
入は資産では
ない
厚生労働省『厚生年金・国民年金 平成16年度財政再計算計算結果』
将来の税
金投入は
資産では
ない
この例では110兆円(=120-10)が純債務
厚生年金と国民年金の純債務の合計=690兆円
(GDPの140%)
公的年金制度の予算制約式
Ft+1=(1+r)Ft + Tt – Bt
(1)
Ft: 時点tの(期首)の公的年金積立金
Tt: 時点tにおける保険料および税収*の合計
Bt: 時点tの給付の合計
r : 利子率
*:税収は年金財政に投入される部分

1時点の財政だけをみていてはいけない。通時
的な予算制約を考える必要がある。
通時的な予算制約式
先ほどの(1)式を繰り返し適用すると
Ft  k  (1  r ) Ft  k 1  Tt  k 1  Bt  k 1
 (1  r )(1  r ) Ft  k  2  Tt  k  2  Bt  k  2   Tt  k 1  Bt  k 1
k 1

Tt i  Bt i 
k
 (1  r )  Ft  
i 1 
(
1

r
)
i

0


これから次が導かれる
k 1
k 1
Bt i
Ft  k
Tt i

 Ft  

i 1
k
i 1
(
1

r
)
(
1

r
)
(
1

r
)
i 0
i 0
(2)
この式は,現在から将来にかけての給付の割引価値の合計(+将来の積立金
の割引価値)は,現時点の積立金と現在から将来にかけての保険料および税
収の割引価値の合計で賄わなければならないという関係を示している
通時的な予算制約式(2)

(2)式でk∞のときに,Ft+k/(1+r)k0なら*,(2)式の将来の給
付は2つの部分に分解できる
BP+BF = F +T





BP:過去の保険料拠出に関連する部分の合計(過去債務)
BF:将来の保険料拠出に関連する部分の合計
F: 現時点の積立金
T:将来の保険料(税収)の合計
すべて割引価値で評価(無限の将来までの和)
---------------------------------------------------------------------------------*) lim k→∞Ft+k/(1+r)k >0 : 無駄に積立金を貯めこむ
lim k→∞ Ft+k/(1+r)k <0 : 財政が破綻
*)の条件は,上のどちらのケースも成立しないための条件
(3)
通時的な予算制約式(3)
(3)式から次の式が導かれる
BPーF =TーBF



(4)
左辺: 年金純債務
右辺: 将来の資産超過
(4)式の意味現時点の年金純債務は,将来の負担超過で
賄われなければならない



財政が破綻しない場合
所得移転のゼロサム的性質 ( (BP-F)+(BF-T)=0 )
純債務の大きさが将来の負担の大きさを決める


現時点で積立不足だからといって財政が破綻するわけではない
年金給付の削減債務削減の一つの方法
(4)式のインプリケーション

年金財政の運営方式に関わらず,(4)式は成立
 積立方式


賦課方式


現時点での純債務=0  将来の負担超過は存在しない
純債務の存在将来の負担超過
利子率,経済成長率が一定であれば,現時点の純債務は確定
 制度改革は将来の負担超過(T-BF)の世代間配分を変えるだけ
 賦課方式を維持しようが,積立方式に移行しようが(4)式が成り立つ
 給付の削減純債務の負担の一つの方法

BPの削減ではなく,Tの増加(高齢者に負担)と考えるとわかりやすい
純債務の負担は,積立方式へ移行する場合だけに問題になるわけで
はない
「二重の負担」の議論の誤り
 各世代の負担の大きさは移行期間に依存
 ただし,純債務の存在資本蓄積への悪影響,資源配分に対する撹
乱の存在



世代間公平と効率性のトレードオフ
(4)式のインプリケーション 続き

国民年金の未納の問題


(4)式に与える影響は無視できるほどの大きさ
将来の保険料未納 BF,Tの減少
 もちろん,無年金者の老後を生活保護で賄う場合の財源の問題
あり

保険料方式か税方式か



現時点での年金純債務は不変
消費税か賃金税(現行)かで,どの世代の負担になるかが変化
税方式 賦課方式?



有限均衡方式(直近の制度改革)



税方式移行後の年金純債務の大きさに影響する
完全積立方式への移行,個人勘定化を難しくする
積立金を給付の1年分までの規模に縮小
将来時点(100年先)の年金純債務が拡大その先の将来世代
の負担増
年金制度改革を考える視点

所得移転のゼロサム的性質(4)式 & 効率性・公平性
2100
2095
厚生年金の積立度合
2090
2085
2080
2075
2070
2065
2060
2055
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
厚生年金の積立金
積立金は21世紀中ごろ
から取り崩される
有限均衡方式の導入
6
5
4
3
2
2040年ころ
まで積立度
合は上昇
する
1
0
賦課方式年金の世代間所得移転
世代別にみた生涯負担
 賦課方式の年金制度の所得移転の特徴

 ゼロサム的性質が基本的には成立
 年金純債務と各世代の負担の関係
 賦課方式と同等な所得移転制度
 賦課方式の年金制度

制度発足時の高齢者世代への負担+積立方式
基本モデル

2期間世代重複モデル
第1期:労働期間,
 第2期:引退後の期間
 人口成長率,賃金成長率,利子率は一定





人口 Lt = (1+n) Lt-1
賃金 wt =(1+g) wt-1
利子率 r
年金給付の所得代替率: b


給付水準の,現役労働者の賃金との比
保険料率
給付水準を固定して保険料率が内生的に決まるモデルを考える
積立方式(funded system)の場合
: tF
 賦課方式(pay as you go system)の場合 : tP



各世代の生涯の負担がどうなるかを調べる
保険料率の決定





保険料(一人当たり)
時点t+1の一人当たり給付
労働力人口
賃金成長率
賦課方式の条件

各時点において
twt (t=tP or tF)
bwt+1
Lt+1 = (1+n)Lt
wt+1 = (1+g)wt
保険料収入の合計=給付の合計
tPwt+1Lt+1 = bwt+1Lt

積立方式の条件

各世代 保険料負担=給付の割引価値
tFwtLt = bwt+1Lt/(1+r)
保険料率の比較
bwt 1
b(1  g )
t 

(1  r ) wt
(1  r )
積立方式保険料
bwt Lt 1
b
t 

wt Lt
1 n
賦課方式保険料
F
P
1 r
t 
tF
(1  n)(1  g )
P
最後の式は,1+r > (1+n)(1+g),すなわち,利子率>経済成長率の場
合に賦課方式の保険料率が高くなる(給付水準は積立方式と同一で)
ことを表している。
積立方式の年金収益率は利子率に等しく,賦課方式の年金収益率は
経済成長率に等しいので,利子率>経済成長率が成り立つ場合には,
積立方式の方が有利であると言われる場合がある
賦課方式の世代間所得移転
ゼロサム的性質
bw0
0
1 r
bwt
DWt 
 t P wt  t F  t P wt  wt  0
1 r

DWt Lt
DW1 L1 (1  r )  
0
t
t  0 (1  r )
DW1 


所得移転のゼロサム的性質を表す
DWt :世代 t の生涯所得の変化額(時点 t で評価)
年金制度が積立方式で運営されている場合には,給付の割引価値=保険料負担
が成立するので,どの世代の生涯所得も変化しない
ここまでのまとめ
賦課方式の年金制度の導入によって世代-1は得をする。その利益の合
計は,その後の世代の負担の合計にちょうど等しい。
-1
0
世代 -1
1
2
時点

DW1 L1 (1  r )  
t 0
世代0
世代1
世代
賦課方式の所得移転の特徴
DWt Lt
0
t
(1  r )
賦課方式の特徴

賦課方式の年金制度の引き起こす所得移転




制度発足時の高齢者への移転を後の世代が負担
ある時点の純債務を後の世代(無限の将来世代まで)が負担
世代間のリスクシェアリングとは異なる
同等の移転政策を明示的な国債発行によって行っ
た場合との比較



賦課方式の年金制度の特徴
純債務の償還,負担
年金制度改革の効果
賦課方式と同等な移転政策(1)

時点0に高齢者1人あたりbw0の減税を行う



財源は国債発行で賄う
時点0以降の若年者に1人あたり wt= (tP - tF)wt の増税を行
うことで,国債残高の発散を防ぐ
時点0における国債発行額は bw0L-1
これは賦課方式の年金制度での DW-1L-1(1+r)に等しい
 その後の世代の一人当たり負担が wt

ここでも次の式が重要
DWt Lt
DW1 L1 (1  r )  
0
t
t 0 (1  r )

同等な移転政策(2)

この場合の政府債務残高の経路
Dt 1  (1  r )Dt  Tt 


Tt  wt Lt  t P  t F wt Lt
 移転政策のもとでの時点tの期首における国債残高
は,時点tの給付総額(=年金債務)に等しい
 国債残高の成長率は経済成長率に等しい


国債残高・GDP比率は一定にとどまる(財政の維持可能
性)
国債の負担  国民貯蓄の低下 資本の減
少 GDPの減少
移転政策と積立方式の組み合わせ
税
保険料
支払計
受取
純移転
(A)
賦課方式
0
t Pwt
tPwt
bwt+1/(1+r)
-wt
(B)
移転政策
wt
0
wt
0
-wt
(A)+(B)
組合せ
wt
tFwt
tPwt
bwt+1/(1+r)
-wt
3つの政策の比較

各世代の生涯所得全て等しい


資本蓄積に与える影響も同じ


消費行動に与える影響は等しい
(B)の移転政策では民間貯蓄が多いが,その分は国債に吸収される
国民貯蓄は同じ
3つの政策は同等

賦課方式の年金保険料の一部

年金純債務を発散させないための税負担

実は最小限の負担

賦課方式 = 純債務に対する(暗黙)の負担+積立方式

ある時点で積立方式の年金制度を設立してもそれだけでは積
立方式への移行ではない
積立方式への移行とは

年金純債務の完全な償還
 過去債務に手をつけないで積立方式の年金制度を創設
しても,積立方式への移行ではない
 過去債務を発散させない程度の最小限の負担を各世代
に負わせる債務の完全な償還は永遠に先送り賦課
方式の維持と同じ
 2階部分の民営化案




1回部分は賦課方式(税方式),2階部分は新たに創設
この制度の効果は?
Orszag and Stiglitz (2001) 民営化は国民貯蓄を増やさない
過去債務を完全に償還しなくても,債務の明示化は
重要
 債務負担についての合理的議論が可能になる
積立方式への移行

本質的な意味での移行
 年金純債務を,ある有限の期間内に完全に償還する

みせかけの移行
 ある時点の年金純債務を国債を発行して清算
 ただし,国債の完全な償還を永遠に先送りする
 新たに積立方式の年金制度を導入
 先ほどの(A)+(B)の政策
 賦課方式の維持と同じ
 ただし,過去債務の処理が意識されること自体は非常に重要
移行期間と負担の関係(1)
この場合も,次の方程式が重要
生涯純移転
DWt Lt
DW1 L1 (1  r )  
0
t
t  0 (1  r )

b/(1+r)
0
積立方式へ移行
 t
賦課方式を維持
 t
-1
0
1
T
世代
注:一人あたり賃金成長率は0として図は描かれている。
移行期間が短いほど移行期世代の負担は重くなる
移行期間と負担の関係(2)
T期の初めに年金債務が0になるように一時的な増税を求
める。移行期中の税率は一定で,その税率をTとすると
次の方程式が成り立たなければならない
T 1
T wt Lt
 (1  r )
t 0
t
所得移転のゼロサム的性質
 bw0 L1
  (1  g )(1  n) 
T   1  

1 r

 
T



1
ただし,賃金成長率,利子率,人口成長率は一定の場合
移行期間と税率
パラメータ
A:n=0.01,g=0.02
移行期間と税率
16.0%
B:n=0.01,g=0.01
14.0%
C:n=0.02,g=0.02
12.0%
10.0%
A
B
C
8.0%
6.0%
全てのケースで
r=0.05
b=0.2(給付代替
率)
4.0%
2.0%
0.0%
1
2
3
4
5
6
7 8 9 10 11 12 13 14 15 inf
移行完了期
年率換算値
2期間モデルを想定しているので,1期間は30年に相当
移行期間と税+保険料
税+積立保険料
25.0%
20.0%
15.0%
A
B
C
10.0%
5.0%
5期間程度
(150年)で
賦課方式維
持の場合と
ほとんどか
わらなくなる
0.0%
1
2
3
4
5
6
7 8 9 10 11 12 13 14 15 inf
移行完了期
ここまでの議論は,積立方式への移行が長期的に効率性を回
復するものであることを考慮していない。ゼロサム的世界。
国債残高の償還とプライマリー黒字
の関係(多期間モデル)
t  g  (r  n)d
d:国債残高・GDP比率,t:税収・GDP比率,
g:政府支出・GDP比率,r:利子率,n:経済
成長率
一定のgを保つために必要なプライマリー黒
字の大きさ

1
D
t  g  (r  n)d t 1 

j
 (1   )  1 d t 
D:国債残高の削減幅(GDP比率),dt:現在の国債残高・GDP比率
1+g = (1+r) /(1+n), j: j時点先までに国債残高をDだけ減らすために必要なプ
ライマリー黒字
プライマリー黒字の大きさ
0.100
0.090
0.080
GDP比
0.070
D=0.1
D=0.5
D=0.8
D=1.0
D=1.5
0.060
0.050
0.040
0.030
0.020
0.010
0.000
0
20
40
60
80
100
120
140
d=1.5,r=0.02, n=0.01としてj年先に公債・GDP比率をDだけ減少させる
ために必要なプライマリー黒字の大きさ(GDP比)
資本蓄積に与える影響

年金純債務の削減
 資本ストックの増加
 GDPの増加(同時に賃金や利子率にも影響)
 理論的には,この経済が動学的に効率な経済か否かが
重要
 以下では動学的に効率な経済であるとして議論

移行期世代に過重な負担
 可処分所得の減少効用の低下
 ただし,資本蓄積の回復にともなって賃金の上昇が見込
まれるので,ある程度の期間経過後には,保険料率(税
率)の増加を打ち消す賃金増加がみられるはず
動学的効率性と移行過程

動学的効率性(dynamic efficiency)




ある世代の効用を増加させようとすると必ず他の世代の効用が犠牲
になるような状況
Pareto改善の余地の無い状況
各時点の総消費で定義する場合もある
不確実性の存在




状態(state of nature)
動学的に効率的な経済では,Ponzi gameは不可能(Ball, Elmendorf
and Mankiw(1998))
安全利子率と経済成長率の大小関係での判断は不適切
動学的に効率な経済において,賦課方式から積立方式に移
行する場合には,移行期世代が犠牲になる



定常状態はより良い状況
価値判断
他の歪みがあればPareto改善的な移行もありうる
移行過程のシミュレーション分析

2期間モデル

効用関数と生産関数の想定
U t  ln cty   ln cto1
Yt  K t L1t 

資本ストックの経路
Kt+1= st Lt – Dt+1




人口成長率は一定
賃金率,利子率は限界生産力によって決まる
完全予見モデル,政府の予算制約移行期間中の利子率,賃金率に
依存
パラメータ:
資本分配率 0.3; 時間選好率 (1.02)30-1;
人口成長率 (1.01)30-1 ;給付代替率 0.2
麻生(2005a)
シミュレーション結果:資本労働比率
0.090
資本労働比率
0.085
0.080
0.075
1期間
2期間
3期間
4期間
5期間
10期間
0.070
0.065
0.060
0.055
0
5
10
期
15
麻生(2005a)
シミュレーション結果:生涯所得
0.34
生涯所得
0.32
0.30
1期間
2期間
3期間
4期間
5期間
10期間
0.28
0.26
0.24
0
5
10
世代
15
麻生(2005a)
シミュレーション結果:保険料率
0.22
1期間
2期間
3期間
4期間
5期間
10期間
0.20
保険料率
0.18
0.16
0.14
0.12
0.10
0.08
0.06
0
5
10
期
15
麻生(2005a)
シミュレーション分析 まとめ
1期間で移行
世代1に過重な負担
2期間で移行
かなり緩和
3期間で移行
世代1のほんのわずかな負担で将来世代の得る利益は大きくなる
「常識」的な価値判断ではある程度の時間をかけて積立
方式に移行すべき
2期間(60年),3期間(90年)
年金保険料の租税としての機能

租税の効果




生涯での同等性
労働供給に与える影響
賃金税から消費税への移行
保険料のどの部分が租税か



給付と保険料の関係に依存
個人勘定化
生涯での再分配の程度

マクロ的には年金純債務がゼロでも,例えば給付が定額で過去の保険
料負担と全く無関係なら,保険料の全額は租税として機能し,資源配分
の撹乱をもたらす
消費課税と賃金税の同等性
賃金税率tの場合の予算制約式
C2
(1  t )W2
C1 
 (1  t )W1 
1 r
1 r
(1)
上の式を(1-t)で割り,1/(1-t)=1+とおくと次の
式が得られる
(1   )C2
W2
(1   )C1 
 W1 
1 r
1 r
(1)で実行可能な消費の組合わせは(2)でも実行可能。逆も
成立 賃金税と消費課税は(生涯で)同等
(2)
消費課税と賃金税の同等性(2)



税負担のタイミングは異なる
しかし,生涯で見れば等しい税負担
賃金税は消費課税の前払いという
性格を持つ
税負担
賃金税の税負担
消費課税の税負担
賃金税 第1期にSだけ課税ベース
大きい
 第2期には(1+r)Sだけ課税ベー
ス小さい

期
1期
2期
賃金税の「前払い部分」
生涯の税負担の等しい賃金税と消費税を比較
各期の消費は等しいと仮定
労働所得税の効果


支払賃金(w/p)=受取賃金
(w(1-t)/p)+租税
企業に課されるか,労働者本
人に課されるかは関係ない


消費税も雇用に対して賃金税
と同じ効果


公的年金保険料雇用主負担分
企業の支払った実質賃金(w/p)と
労働者の直面する実質賃金
(w/(1+)p)の乖離
労働者の受取賃金(実質)
S
企業の負担
t
G
課税前の均衡点
E 労働者の負担
F
D
労働供給曲線
所得効果が無視できない
 この図で資源配分の効率性の議
論をするのは適当ではない
D’

h0
労働時間
賃金税から消費税への移行
t-1
t
t+1
t+2
時点
世代t-1
世代t
世代t+1
賃金税のもとでの税負担
世代
賃金税から消費税への移行(2)
t-1
t
t+1
世代t-1
t+2
時点
世代t-1は老後にさらに消費税
を負担することになる
世代t
世代t+1
賃金税のもとでの税負担
世代
消費税のもとでの税負担
時点tに賃金税から消費税に移
行。この際,「税収中立」的な改
革が行われた
賃金税から消費税への移行(3)

一時点での「税収中立」的な改革通時的な予算制約を考えると


改革時の高齢者の負担増=その後の全ての世代の負担減の合計
消費・貯蓄に与える影響

消費税移行時に総消費が減少



一般に,消費課税への移行は資本蓄積を促進させると主張される


上のような世代間所得移転が原因
移行時の高齢者の負担増をもたらさない改革(国債発行が必要)


高齢者の消費の減少が若年者の消費の増加を上回る
総貯蓄の増加資本蓄積にプラスの効果
賃金税と消費税の効果は全く同等
高齢化社会において,高齢者も負担をする消費税が望ましいという議論


素朴な誤解生涯の負担を考えるべき
ただし,課税ベースとして「所得」が望ましいか「消費」が望ましいかについて
は,多くの経済学者は「消費」が望ましいという立場
年金保険料のどの部分が「租税」か

保険料拠出と給付が関連付けられている


保険料拠出と給付に全く関連が無い


貯蓄と同等の部分が存在
保険料は全額が税,給付は移転所得
賦課方式の年金(2期間モデルでの例)
tPwt 保険料,bwt+1給付
給付が過去の保険料拠出に完全に比例していても
bwt+1/(1+r) –tPwt= (tF- tP)wtの部分は賃金税
賦課方式のもとで個人勘定化(NDC)租税の部分は最小化される
再分配機能租税の部分が大きくなる(定額給付)

積立方式



完全な個人勘定化保険料は貯蓄と同等
マクロ的には積立方式(年金債務に見合う積立金存在),しかし給付は過去
の拠出と関係が無い保険料は全額が租税
マクロ的には積立方式でも再分配機能を強化すれば,租税としての部分大
きくなる
まとめ

賃金税の効果を最小にするには



個人勘定化
再分配的色彩を強めるほど租税の部分が大きくなる
厚生年金保険料と賃金税の違い

カバーレッジの違い



大企業,正規雇用者のみ
企業の労働需要に歪みをもたらす
未納問題への対処



徴収を強化する
保険料を所得比例にする
基礎年金部分の税方式化


賦課方式の色彩,租税の効果
個人勘定化,積立方式への移行が難しくなる?
まとめ(2)

年金目的消費税の導入


厚生年金保険料の一部は賃金税としての性格を持つ大きな意味は
無い
雇用に与える影響は基本的には賃金税や現行の厚生年金保険料と
同じ



パート労働者や非正規雇用労働者,国民年金加入者への課税という程
度の意味
導入時の高齢者の負担増(ただし,給付に完全な物価スライドが適用
されれば,高齢者の負担増は生じないかもしれない)。
基礎年金の税方式化


租税の効果を強める(社会保険や個人勘定に比べ)
賦課方式を志向した改革

ただし,「有限均衡方式」へ移行を前提に考えるとあまり大きな意味は無
い
その他の問題

リスク

利子率変化による年金債務の価値の変動(給付建て)

ALMの必要性
人口(平均余命の予期しない伸び)
 政治的リスク


給付建て vs.拠出建て
リスクを誰が負担するかという問題
 拠出建てであっても,受給者を給付水準の変動リスクから守るために世代間
移転政策を行うことが可能
 重要な論点ではない


世代間リスクシェアリング



賦課方式の年金制度は世代間リスク・シェアリングを行える
積立方式に世代間移転政策を組合わせればよい
NDC


基本的には賦課方式
資本のクラウドアウト効果,給付水準のリスク
全体のまとめ

年金純債務は非常に巨額
 年金純債務の効果は,理論的には国債の負担と同じ

年金純債務=将来の負担超過
 所得移転のゼロサム的性質
 現在の年金純債務は誰かが負担しなければならない
 「二重の負担」の議論の誤り
 年金制度改革の考え方
 世代間公平,資源配分の効率性(資本蓄積,労働供給)
 積立方式への段階的移行

理論的でない議論が横行
文献
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