Transcript に殴られた
日語文法研究
(大学院)
5月7日(木)~
担当 神作晋一
第7章 ヴォイス1――受け身
ねらい:
ある事態をどのように捉えて伝えるか
は、話し手の視点に依存します。
日本語の受け身文の特徴を理解し、
スルとサレルが表す話し手の事態の
捉え方の違いを考えます。
第7章 ヴォイス1――受け身
キーワード:
能動文、受動文、受け身、主観、視点、共
感
第7章 ヴォイス1――受け身
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
§2 間接受け身と受影性
§3 「持ち主の受け身」
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
話し手の立場・視点
「太郎が次郎を殴った。」
「次郎が太郎に殴られた。」
事態を引き起こした方からの描写
事態を受ける方からの描写
出来事の捉え方 ヴォイスvoice態
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
能動文と受動文
「AがBを殴った」
能動文 視点は殴った側(A)
「BがAに殴られた」
受動文 影響を受けた方(B)の視点
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
受け身形の作り方
(1)
子音動詞 語幹 +
母音動詞 語幹 +
不規則動詞 suru →
kuru →
are-(ru) 五段動詞
rare-(ru) 一段動詞
sare-(ru)
korare-(ru)
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
直接受身文
(2)能動文
(3)受動文
Aガ Bヲ 他動詞
Aの視点から
Bガ Aニ 他動詞の受け身文
Bの視点から
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
共感empathy:話し手が出来事の登場人
物の中の誰かに親近感をもつ。
→視点:通常は主語(ガ格)
例:「弟が知らない人を殴った」
不適切:「#知らない人が弟を殴った」
例:「弟が知らない人に殴られた」
不適切:「#知らない人が弟に殴られた」
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
話し手の視点と共感度
序列
話し手自身が出来事に参与
例:私がバイクにぶつけられた
話し手
自身
(私)
話し手
の親族
や友人
第3者
無生物
§1 能動文と受動文
直接受け身と話し手の視点
影響の与え手を明示しない場合
(4)現在、日本語は世界各地で教えられている。
→「Aニ」を言語化しない
→教師?機関?誰?
(5)そのミュージカルは日本でも上演された。
この場合、誰がしたのかは興味がない
→人や団体に焦点を当てることはある。
例:劇団四季 ライオンキング
§2 間接受け身と受影性
§2 間接受け身と受影性
間接受け身の例文・事態
(6)せっかくの旅行が、雨に降られて散々だった。
(7)夕べ子どもに泣かれて眠れなかった。
(8)ペットに死なれて元気がない。
(9)レストランで隣の客にタバコを吸われて食事がまず
くなった。 「吸う」(他動詞)
→(6)降る、(7)泣く、(8)死ぬは自動詞 これも受け身
文
§2 間接受け身と受影性
間接受け身の例文・事態 __は出来事
(6’)旅行中に雨が降ったことから誰かが影響をこう
むった。
(7’)子どもが泣いたことが影響して誰かが眠れなかっ
た。
(8’)ペットが死んだことが精神的に影響して誰かが元
気をなくした。
(9’)レストランで隣に居合わせた客がタバコを吸ったこ
とが影響して誰かが食事を楽しめなかった。
§2 間接受け身と受影性
間接受け身の例文・事態
(10)間接受身文:[被害者←影響ー[出来事]]
受影性
→迷惑の受身
被害者は出来事の外側にいる
被害者の視点から描く
§2 間接受け身と受影性
間接受け身の特徴
「A出来事に登場する要素+B出来事の外の
要素」
A雨が 降った。→B太郎が A雨に 降られた。
→補語が一つ増える
共通点
相違点
直接受身文 影響をこうむった 出来事の当事者(内側)
側からの描写 第三者が主語(外側)
間接受身文
§3 「持ち主の受け身」
§3 「持ち主の受け身」
持ち主の受身(所有者受身)
例:「#私の財布が盗まれました」
⇒「財布を盗まれました」
例:「#私の足が踏まれました」
⇒「足を踏まれました」
§3 「持ち主の受け身」
持ち主の受身(所有者受身) 例文
(11)満員電車でだれかに足を踏まれて背中
を押された。
(12)兄がだれかに財布を盗まれた。
(13)妹がだれかに車を壊された。
(14)太郎が通りすがりの男に頭を殴られた。
(15)山田が子供を誘拐された。
§3 「持ち主の受け身」
他動詞文との比較
例文を「能動文」に変換
(11’)満員電車でだれかが私の足を踏み、私
の背中を押した。
(12’)だれかが兄の財布を盗んだ。
(13’)だれかが妹の車を壊した。
(14’)通りすがりの男が太郎の頭を殴った。
(15’)だれかが山田の子供を誘拐した。
⇒[Aガ[BのC]ヲ他動詞]
§3 「持ち主の受け身」
[Aガ[BのC]ヲ他動詞]の他動詞文
[BとCの関係]
足、背中、頭など誰かの身体の一部分
⇒分離不可能 ①
車、財布など持ち主と持ち物
⇒分離可能 ②
§3 「持ち主の受け身」
[Aガ[BのC]ヲ他動詞]の他動詞文
車、財布など持ち主と持ち物⇒分離可能
「兄の財布が盗まれた」
「妹の車が壊された」
「山田の子供が誘拐された」
足、背中、頭など体の一部⇒分離不可能
「#私の足が踏まれた」
直接受身文と
違うところ
「#太郎の頭が殴られた」
§3 「持ち主の受け身」
直接受身文との比較 能動文
直接受身文の場合⇒ガ格表示
「兄の財布が盗まれた」「誰かが兄の財布を盗んだ」
「妹の車が壊された」「誰かが妹の車を壊した」
「山田の子供が誘拐された」「誰かが~を誘拐した」
持ち主の受身⇒ヲ格表示
「(~が)財布を盗まれた」
「(~が)車を壊された」
「(~が)足を踏まれた」「 (~が)子供を誘拐された」
§3 「持ち主の受け身」
間接受身文との比較(文の要素の増減)
間接受身文
A雨が 降った。
→B太郎が A雨に 降られた。 」
⇒補語Bがひとつ増える
持ち主の受身文
A男が B太郎のC頭を 殴った。
→B太郎は A男に C頭を 殴られた 」
⇒補語(文の要素)は増えない(同じ)
§3 「持ち主の受け身」
間接受身文との比較
直接受け身分と間接受身文との中間に位置
例:太郎は男に頭を殴られた
出来事から影響をこうむった部分が出来事の中
(頭)
それ以外(太郎の体、「頭」以外)は出来事の外
太郎
の体
頭
出来事
§3 「持ち主の受け身」
間接受身文との比較
例:太郎は男に頭を殴られた(持ち主受身)
太郎
の体
頭
出来事
例:太郎は雨に降られた。(間接受身文)
太郎の体
出来事
§3 「持ち主の受け身」
持ち主受身文の構造
[Aガ[BのC]ヲ他動詞]⇒
例:A男が B太郎のC頭を 殴った 」
⇒「太郎が 男に 頭を 殴られた」
話し手が持ち主のBに共感し、事態をBの視点か
ら捉える。
BがCを通して直接的・間接的にこうむった影響
まとめ
日本語の受身文
(直接受身文・間接受身文・持ち主の受身文)
話し手がある出来事から直接・間接に影響
をこうむったものに共感
その者の視点から出来事を捉え描写
話し手の主観的な事態の捉え方の表れ。