Transcript 第四回

思想と行為
第4回 アリストテレス
「『現実主義』の倫理学」
吉田寛
アリストテレス
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古代アテネ、マケドニア
プラトンの弟子(~28
歳)でアレキサンダー大
王の家庭教師
実践的研究者
形而上学、論理学、生
物学、倫理学、地質学、
などの学問の礎を築く
ラファエロ『アテネの学堂』
アリストテレス
プラトン
天を指すプラトンと地を指すアリストテレス
アリストテレスの人生-1
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ギリシャ東北部の町スタゲイラ生まれ(BC384年)
父親はアレキサンダー大王(マケドニア)の祖父の
侍医。
プラトンの著作を読み(?)、BC364年(ア:17歳)に、
プラトン(当時60歳)の「アカデメイア」に入学
プラトンの死(BC347年、ア:37歳)後、遍歴時代に。
– アッソスという現在はトルコ領の町で動物研究、結婚
– 40歳のころ、故郷のマケドニアに戻ってアレキサンダー大
王(当時13歳)の家庭教師
アレキサンダーの大遠征
http://www.uraken.net/rekishi/reki-eu07.html より
アリストテレスの人生ー2
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大王即位後(ア:48歳)、アテネに戻って、自分の学
校(リュケイオン)を開校。
– ペリパトス派(逍遥学派)
– 教育と学問研究
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大王の病死(ア:51歳)後、アテネの反マケドニア感
情の中で告発される
– アテネを脱出「アテネ人たちに、哲学に対する二度目の罪
をおかさせないように」
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翌年、母の生地カルキスという町で病没(63歳)
アリストテレスの仕事
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膨大な研究業績 多くは大学のテキスト(講義)
– 『形而上学』(「人は誰でも生まれつき知ることを求める」
愛知の学としての哲学、「形相」「可能性」「実体」「神」など
の現代でも使われる基本的哲学的概念)
– 『命題論』『分析論』(フレーゲ以前の形式論理学)
– 『自然学』(ニュートン以前の物理学)
– 『天体論』(コペルニクス-ガリレオ以前の天文学)
– 『動物学』『動物誌』『動物発生論』(ダーウィン、パスツー
ル以前の生物学 ナマズ研究、ウナギ研究、分類)
– 『魂論』(心理学以前の心理学)
– 『詩学』『弁論術』(レトリック クリティカル・シンキング?)
– 『政治学』(政治学? 都市論?)
– 『二コマコス倫理学』(「徳倫理」の倫理学、教育論)
プラトンの「イデア論」批判
 「イデア論」(byプラトン)
=美しい人、美しい花、などなどの「個
物」に共通する「美」というイデアがまず
存在する。
 批判
– 「イデア」よりも個々のもの「個物」が基本的
で、イデアも個物を離れては存在できない。
– 「イデア」は事物の固定的な姿を説明する
としても、運動や成長を説明しない。
個物、本性、そして経験の哲学
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個物にある本性がじわじわと実現(=成長)し
ていく、というダイナミックな世界観
– 個物の外の「イデア」でなく、個物の中の「本性
nature」が万物を作っている
– それを経験によって認識(たくさんのサンプルか
ら共通項を探り出す)することで、それと判別する
ことができる。
– たくさんのコップを見ることで「コップ性」を把握す
る。たくさんの美しいものを経験することで「美」を
理解する。
– 観察と経験が大切(医者、動物学者として)⇔プ
ラトン(経験よりも精神の思考が大切)
アリストテレスの考え方
本質は、「イデア」として外部にあるの
ではなく、本性として内部に埋め込ま
れている。
本性
種子
本性の発揮・実現
自然
アリストテレスの倫理学
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本性(人間=理性的動物)を発揮する生が幸
福
– 魂=思慮、身体=健康、などなど
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「徳」(人間的本性の発揮力)に則した生が善
い生である
– 性格的徳:正義、勇気、節度、寛大、適法性(正
義)
– 知性的徳:思慮
徳の教育
徳に即した生が「善き生」である≒ソクラテス
 「徳」をよく生きるために習得すべき
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– もろもろの「技術」に似ている
– そのように習慣づける教育が大切
(「建築することによって大工となり、琴を弾ずるこ
とによって琴弾となる。同じように、もろもろの正し
い行為をなすことによって正しい人となる。」『ニ
倫』二巻一章)
– プラトン:「習慣づけ」でなく、理性的な「対話」によ
る「イデア」の把握が大切
アリストテレスの現実主義
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プラトンの理想主義
– 「イデア」は、事物の外の純粋な存在
– 「イデア」の理性的把握が「善く生きる」ために大切
– 倫理は、「善のイデア」という理想に対話によってアプロー
チする
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アリストテレスの現実主義
– 「本性」は、事物の中にある潜在的な力
– 「本性」をよく発揮すること=「徳」に則した生が、「善き生」
– 「徳」の習得は、経験による習慣づけである
倫理・道徳教育について
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安倍内閣「教育再生会議 」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/index.html
– 「21世紀の日本にふさわしい教育体制を構築し、
教育の再生を図っていくため、教育の基本にさか
のぼった改革を推進する必要がある。このため、
内閣に「教育再生会議」を設置する。」
– 専門教育のほか、規範・倫理教育の必要性が指
摘されている(第一回会議)
倫理の教育とは?
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理論から入るべきか、実践から入るべきか
– 理論からのアプローチ≒プラトンの「イデア」倫理
– 実践からのアプローチ≒アリストテレス的「徳」の
倫理
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問題
– 対話による「善」概念の把握は、実際の「善い行
為」に結びつくのか?
– 実践による「徳」の習慣化は、社会の固定的な観
念への洗脳とは違うのか?
参考文献
 『二コマコス倫理学(上/下)』岩波文庫、
アリストテレス (著), 高田三郎(翻訳)
アリストテレスの著作の中では一番読み
やすいもの。
 『アリストテレス入門』ちくま新書、山口義
久 (著)
平易な語り口で、アリストテレスの広大
な哲学を紹介する入門書