Transcript 杉浦ー提供体制の戦略
新生児集中治療 提供体制の改善の戦略 〜人材確保を中心に〜 杉浦正俊 「周産期母子医療センターネットワーク」研究班平成20年度全体班会議 2009年1月23日、メディカ出版1階ホール 母体搬送受け入れ困難の主因はNICU満床 周産期医療ネットワーク及びNICUの後方支援に関する実態調査の結果について (厚生労働省母子保健課2007.10) ついには札幌市における搬送困難例の発生 厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業) 「周産期母子医療センターネットワーク」による医療の質 の評価と、 フォローアップ・介入による改善・向上に関する研究 NICUの必要病床数の算定に関する研究 主任研究者 藤村正哲、分担研究者 楠田 聡、 研究協力者 杉浦正俊、多田 裕、網塚貴介、内山 温、大木 茂、和田和子 • 年間およそ36,000例がNICUにおける治療を必要 • 現時点でのNICU必要数は約3床/1000出生 (平成6年に比べて約50%増加) • 長期入院症例が占める比率は3.85% • いわゆる“待機病床”は8.1% • 緊急的にはNICU病床を2.5床/1000出生、 すなわち200~500床の増床が必須 新生児病床を増床する意志はありますか? 制約がないとして新生児病床を 増やしたいとお考えですか? 新生児病床増床に対する地域 や行政からの要望 ない 80 56 その他 60 (%) 40 76 20 10 19 0 マスコミ 増やしたい 12 行政 100 15 医師会などから (%) 9 0 10 20 検討した事がない 病院管理者や設置者は増床に理 解はあるでしょうか? 21 周産期医療協議会 現状で良い 1 30 (%) 40 50 50 79 60 0 あり 22 26 なし 検討した事がない 新生児病床を拡充する上での障害は? (複数回答) その他(総病床数制限など) 21 看護師の確保 75 医師の確保 79 運営費-診療上の収益 % % 25 建設費 53 0 10 20 30 % 40 50 60 70 80 必要な新生児科医師数の試算(例) • 算出方法により大きな幅が存在 • 様々な仮定を前提に算出すると →およそ1500〜2300名必要 • 新生児専任医師数の現状 948名(小児科学会2006) 925名(新生児医療連絡会2003) 現在の1.5〜2倍以上の人員が必要となる (予備人員を含むとさらに1.3〜1.5倍) NICU病床整備に必要な新生児医師数の 算定根拠(詳細) 出生1000人あたり3床のNIICUを整備するために必要な医師数 総合周産期母子医療センターに必要な医師数 仮定1:3次医療圏(人口100万)あたり1箇所整備するとして100ヶ所 仮定2:専任医師による1人当直 7名/施設 仮定3:当直1名で管理可能な病床数12床/施設とすると →1200床、医師700名 地域周産期母子医療センターに必要な医師数(計算例1) 仮定1:残り1800床をすべて9床のNICUで整備(医療圏のサイズを無視) 仮定2:小児科学会地域小児科センター病院基準案 (4名/NICU9+GCU18床)で配置 →1800床、医師800名、ただし医療圏のサイズは考慮されていない 地域周産期母子医療センターに必要な医師数(計算例2) 仮定1:小児科医療圏396ヶ所(実数) 仮定2:1ヶ所あたり4名 →1800床、医師1600名 産科婦人科学会の取り組み マスコミへのキャンペーン アクションプラン作成 行政への対策依頼 →周産期センターの経営改善と労働条件改善 産婦人科入局者増加策 医療訴訟対策 女性医師対策 行政への働きかけ 平成19年7月9日 平成19年9月7日 平成19年11月14日 日本産科婦人科学会HPより 平成19年12月15日声明における例示 2自治体の取り組みを例示 平成20年1月28日47都道府県知事に要望書 日本産科婦人科学会HPより 救急・産科医師確保対策 行政から得られた成果 診療報酬改訂 妊産婦緊急搬送入院加算、ハイリスク妊娠管理加算新設 ハイリスク分娩管理加算改訂等 産科医療保障制度(総額300億円、1月より実施) 分娩一時給付金増額(35万→38万→42万円、10月より) 妊婦健診補助券増加(5枚→14枚) 産科医学生支援奨学金(各自治体、西日本SHDパートナーズ倶楽部) 都立病院における勤務医待遇改善 産婦人科入局者増加策 サマースクール開催 対象:医学生、初期臨床研修医、実施2年目 リクルートDVD作成 対象:医学生、初期臨床研修医、作成配布済み 産婦人科医育成奨学金制度 対象:後期臨床研修医、実施4年目 若手産婦人科医による学術講演会企画 対象:若手産婦人科専門医、本年実施 産科婦人科学会新入会員数推移 450 400 350 初期臨床研修制度開始 300 男 女 全体 250 200 150 100 50 0 2003 2004 2005 2006 2007 2008* *11月まで 医療訴訟対策 学会ガイドラインの作成 周産期編2008年発行 無過失保障制度の設立 産科医療保障制度1月より開始 国民への啓蒙活動 女性の健康週間、実施4年目 分娩リスクの啓蒙、検討中 ドクターフィー構想? 桝添大臣懇談会における議論:於、安心と希望の医療確保ビジョン(小児科・麻酔科以外) 於、同 具体化検討委員会(小児科以外) 於、周産期医療と救急医療の連携に関する懇談会 〜外科、産婦人科、他と同歩調 ハイリスク分娩管理料:平成20年診療報酬改定 還元率調査→医師への還元要望→地方自治体における実施 新生児医療提供体制の戦略(1) • NICU必要病床を確保するために 1) 都道府県における整備計画 2) 診療報酬の増額(NICU管理料2、など) 3) 長期入院対策 • 新生児科医を確保するために 1) 待遇改善 2) 教育体制(国立大学NICU、研修プログラム) 3) 学会などの広報活動・人材育成と配備 4) 休職医師の就業支援 新生児医療提供体制の戦略(2) • スキルミックスの検討 1) 医療秘書の導入 2) 搬送コーディネーターの導入 3) Nurse Practitionerの導入 →本日は省略 Step1:標榜科を確保する 地域周産期医療センター 産科1次医療機関 (診療所、病院、 助産所など) 産科2次医療機関 総合周産期医療センター 産科3次医療機関 産婦人科 周産期 救急 新生児 2次医療機関 小児科1次医療機関 (診療所、病院など) 小児科2次医療機関 新生児 3次医療機関 小児科3次医療機関 新生児 科 (小児科) 小児科 小児 救急 標榜科の必要性 • 小児科のなかで、新生児分野は小児医療体 制ではなく、周産期医療体制に所属 • 行政政策上、小児科と分けて把握することが 必要(産科と婦人科の関係) • 新生児科医に対する待遇改善にも必要 • 本来は小児科の拡大にも貢献するは ず、、、、 • 小児科学会と産科婦人科学会の要望書まち • 小児科学会新生児委員会の建議 Step2:NICU整備計画を設定する • 都道府県における整備計画と定期的報告 • 診療報酬の増額(NICU管理料2、他) • 長期入院対策(ただし病床の4 %弱) 杉浦私案 適正な施設規模/医療圏について なぜ大都市圏で搬送困難事例が頻発するか? 満床以上の患者を受け入れる施設側 →期待される医療水準の低下(既入院、新入院とも) →医療安全の問題 と 訴訟リスクの増加 (看護部など院内からの批判) →余裕ある施設に出来れば託したい →努力するとさらに患者が際限なく集中、地域から感謝されることもない 最高の医療を求める患者心理 →近距離に周産期施設が密集 (例:お互いの県庁が歩いてゆける距離) →その中で、常に最高の医療を要求 (例、循外がない病院への訴訟可能性) →満床以上に収容する不利益に対して不寛容 →特定施設への集中 (例:高度施設に転送しなかった紹介元への訴訟) 案1)数百万人=人口でなく生活圏=単位の大規模施設? 案2)ネットワーク(バーチャルホスピタル)として患者を収容する体制? 案3)入り口機能の施設1箇所と、常時転送する体制? Step3の前提:医師確保の障壁 医師不足+医師の偏在 診療科の偏在 地域の偏在 常勤vs.非常勤、現職vs.休職の偏在 勤務医vs.開業医の偏在 医学部定員増加は解決になるか? 〜比較的医師数に恵まれた東京都においても 周産期医療の危機は解決されていない ・・・ × Step3の1:勤務条件を改善する • 労働環境の改善 〜現時点での実現はおそらく困難 とりあえず医療秘書などの配置 • 金銭的インセンティブ 〜希望者を増やす効果は・・・? 勤務医vs.勤務医偏在是正の効果のみかも 〜同じ分娩に立ち会った産科医、助産師との格差 〜産科医同等のインセンティブは要求すべき (ドクターフィーを見据えた報酬改定要望:例ハイリスク新生児蘇生料など、、、) 〜奨学金(効果は?、心理的応援) Step3の2:教育体制を充実する • 国立大学NICU 大学における教育は依然として大切 NICU診療そのものではなく、新生児担当教員のポストに意義 (発言権、人事、新人勧誘) 様々なタイプ(総合/地域型、特殊疾患型、院内対応型など) 最小例:ネーベン当直の読み替え、 新生児教員1名 既存患者を治療室に集約、 ただし実績に応じた独自財源医師確保について確約しておく 筑波:上記より出発 → 病院講師3名 → 新人の急増 集中治療部の歴史を参考に(麻酔科の戦略) • 研修プログラム(初期、後期) 1年の場合は? 専門家集団による人材養成の提案 業務内容① 新生児科医という仕事の魅力と活動内容をHPや印刷 媒体を通じて広報 ・インターネットや印刷媒体を用いた情報提供が必要 ・NICUの現場だけではなく、キャリアパスとしての情報提供必要 ・身近にローモデルがいない場合、特に重要 ・研修指定病院にNICUが存在しないケースも多い ・諸外国における事例 業務内容② 新生児医療の研修支援(新生児専門医の取得まで) 医学生 初期研修医 後期研修医 学会OB医師が相談役として個別対応 ・新生児科医を選択することについてのカウンセリング ・相談役は研修先の選定、仲介の相談 ・研修中は定期的に連絡を維持 ・研修目的によった施設間移動も選定、仲介 ・短期研修システムの整備と相互利用(次項) ◆研修希望者と顔の見える関係 ◆研修終了までマンツーマン制度による後見人機能 ◆研修施設とも顔の見える関係(新生児科の全国ネット) 問い合わせ 相談 学会OB医師(全国ネット、中立の立場) ・カウンセラーとして登録 ・業務委託 委託費、交通費 人材バンク業務委託先 ・学会事務局などと共通の委託先 ・全国ブロック毎に設置 業務内容③ 産休・研究等で臨床を離れた医師の復帰支援 休職医師 女性医師 問い合わせ 相談 人材バンク業務委託先 ・学会事務局などと共通の委託先 ・全国ブロック毎に設置 学会OB医師が相談役として個別対応 ・復帰に必要な条件のカウンセリング ・再研修プログラムの作成 ・再研修施設の選定、仲介の相談 医局をこえた交流 短期研修プログラムの例 (神奈川県立こども医療セン ター) 業務内容④ 就業支援 当直が困難、フルタイムでは就業困難など、潜在的医師の活用 ・ワークシェア希望者に対するペアの紹介と就業支援 =新生児医療に魅力を表明する女性医師は少なからず存在 ・いわゆる正常新生児の管理業務分担 ・フォローアップ外来の業務分担 など、希望と需要に応じたきめ細やかな擦り合わせと紹介が必要 (全国ネットワーク、顔が見える関係、専門知識が必要=OB医師が適任) 地方勤務者の紹介と就業支援 (短期・場合によって長期) ・地方勤務を経験しても良いという若手医師の掘り起こし ・使命感による地方勤務者の掘り起こし ・緊急派遣に対応した人材の掘り起こし ・派遣後の復帰も支援する必要あり 民間ベースの医師紹介業とは全く異なる使命、および機能 (全国ネットワーク、顔が見える関係、専門知識が必要=OB医師が必須となる) 自治体の人材バンクは基本的に開店休業状態! 必要な基本姿勢(個人的見解) • 行政を非難するのは生産的でない 行政官は可能な範囲、在任期間でのみ施策を実行 善意に基づき支援してくれるが、我々とは異なる論理 (説明責任、公平性、財政健全性を重視: その視線の先は自治体長、議会、財務当局、メディア) 一緒に説明資料を作る関係となれば強力な援軍 • 長期的、広域的視野で行動する 個々の施設の利害、事情を超越することも必要 一時的な不利益に拘泥しないことも必要 内輪でもめない、足を引っ張らない 〜消去法では予算は回ってこない 〜予算全体が取りやめの方向へ 現在までに確保したこと • 平成20年 新生児入院医療管理料50点 • 国立大学NICU整備 • 新生児科標榜の内諾 NICU不足と、その背景にある新生児科医不足は 社会的に認知・同情された。 が、、、 具体的に何を要求するか 要求しない作戦? 医療が注目されるのは今年度限りの可能性 平成21年度厚生労働省予算 産科・救急関係 約500億円とも うち産科・新生児科関係 13億円 ←産科・新生児科 ←産科 ←産科 ←産科 ← ← 新生児医療連絡会の構想 • • • • 連絡会HPの整備(学生向け、一般向け、会員資料ページなど) 施設代表名簿の整備 各種全国調査(含むHP掲載) 学会との役割分担 • 新生児科医の人材養成・確保事業(できれば) • 平成22年診療報酬改定要望 • 分娩と健常新生児の保険適応、厚労省改革も 視野に対応策は準備しておく