富士山の雲画像 - 日本大学文理学部

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Transcript 富士山の雲画像 - 日本大学文理学部

富士山に発生する笠雲旗雲の発生メカニズム
日大・院・地球情報 M1 清水 崇博
笠雲
頂上付近に笠をかぶったような形の雲
旗雲
風下側に旗がなびくような形をした雲
以上2種類の雲にターゲットを絞り,発生日の安定度と地上風系から発生メカニズ
ムを探った。
【目的】
富士山に発生する雲は、その特徴的な形により、
周辺の気流をよく表現していると考えられる。そ
のため、古来より天気予報などによく利用されて
きていた。今回は、富士山に発生する笠雲や旗雲
の発生要因を調べることを通して、富士山周辺の
気流の特徴をつかむことを目的としている。
研究方法
対象期間 2002年1月1日~6月30日
NOAA集計の高層観測データ
富士山観測プロジェクト(日本大学
文理学部)による毎日2分毎の画
像(今回は山中湖のみ使用)
富士山周辺21地点のAMeDAS
風向風速データ
対象雲形が発生した時間帯の
風系図を作成する
浜松における相当
温位のアイソプレ
スを作成
安定度からみた笠雲・旗
雲の発生特性を捉える
笠雲・旗雲発生日の抽出
各月・地点ごとに全時間の風向と
対象雲形発生時の風向を比較し、
代表的な風系図を作成する
笠雲・旗雲発生時に特徴的な風
系を捉える
解析対象の雲形
笠雲
頂上付近に笠をかぶったような形の雲
旗雲
風下側に旗がなびくような形をした雲
笠雲・旗雲発生時間
笠雲発生日
2002/1/1
2002/1/7
2002/1/13
2002/1/15
2002/2/2
2002/2/17
2002/2/21
2002/2/22
2002/3/5
2002/3/14
2002/3/22
2002/4/15
2002/4/16
2002/4/18
2002/4/23
2002/4/24
2002/4/24
2002/4/28
2002/4/30
2002/4/30
2002/5/3
2002/5/4
2002/5/26
2002/5/31
2002/6/18
発生時間
11:32
16:18
10:48
12:52
4:32
5:34
15:28
5:42
6:56
10:34
8:42
11:16
7:48
4:48
13:04
17:16
21:24
6:16
11:24
13:30
15:04
12:32
19:50
3:52
16:48
終息時間
16:00
17:04
15:50
17:44
13:18
10:00
23:00
8:26
7:50
10:56
12:14
15:52
14:56
5:12
13:34
18!:22
2!:34
7:10
11:54
13:42
15:34
13:06
4!:48
4:50
19:52
平均継続時間
継続時間
4:28
0:46
5:02
4:52
8:46
4:26
7:32
2:44
0:54
0:22
3:32
4:36
7:08
0:24
0:30
1:06
5:10
0:54
0:30
0:12
0:30
0:34
8:58
0:58
3:04
3:07
旗雲発生日
2002/1/4
2002/1/9
2002/1/23
2002/1/28
2002/2/12
2002/2/15
2002/2/18
2002/3/7
2002/3/8
2002/3/19
2002/3/24
2002/4/13
2002/5/25
2002/5/25
2002/6/2
2002/6/9
発生時間
13:16
12:26
12:20
13:06
11:52
12:28
9:06
8:26
12:46
13:06
7:54
13:08
9:08
16:00
7:20
14:50
終息時間
16:00
14:26
16:20
15:20
17:44
17:00
13:52
10:00
15:50
17:18
8:50
17:38
9:24
16:36
9:42
16:10
平均継続時間
継続時間
2:44
2:00
4:00
2:14
5:52
4:32
4:46
1:34
3:04
4:12
0:56
4:30
0:16
0:36
2:22
1:20
2:48
笠雲は月平均で約4回発生し,継続時間は長いもので7・8時間,短いもので30分弱である。
旗雲は冬期に多く,その発生は1~3月においては平均4回発生する。しかし,4月以降は月1・2
回しか発生しない。継続時間は平均は笠雲とあまり変わらないが,長いものと短いものの差が少
なくなっている。
相当温位から見た解析
相当温位のアイソプレスを用いて,笠雲・旗雲の発生に
ついて解析した。これを見ると、基本的には相当温位は上
空で高く、下層で低い。しかし,笠雲の発生日について見
てみると相当温位が高い層が下層まで侵入してきている。
このことは,笠雲発生には対流不安定な成層が関わって
いることがわかる。
また,旗雲の発生日には笠雲とは逆で、下層が低く上層で
高い安定成層の元で発生していた。
月別の浜松における相当温位アイソプレス

笠雲発生時の風向
旗雲発生時の風向
1月
2月
3月
4月
5月
6月
富士山
WNW
NW
WNW、NNW~N
W
NW
W,NW
SSW
御殿場
S
S~SSW
S~SSW
S
S
S
×
NW
山中
NW
NW
SE,NW
SE
NW
NW
WSW~W
WNW
W,NW
河口湖
WSW~WNW
NW,N
NNW
WSW
W
NW~N
E,W
E
ENE,ESE
×
上九一色
W
WSW
W
ENE~ESE
S,WNW
WSW,NW~NNW
×
SE、NNE
SSW
SW
NNW
中富
NNE,S
S
SSW
SSW
E~ESE
NE~ENE
SSE
×
SSE
SSE
NW
×
×
S
S
S
S
NE
南部
SW
SE,S,NNW
SSE
SE~SSE
S,NNW~N
SE,NNW
W
W
WSW
SSW~SW
NE
WSW,WNW
大月
SSW
SSW
SSW
NNE,ENE
×
SSW~SW
×
WSW
×
SW
ENE
S,WSW
浜松
W
NNW
WNW
SW
W
WNW
S
×
SW
SW
NNW~N
ESE,SSW
御前崎
W
W
WSW~W
WSW
W
W
×
×
×
S~SSW
N
ENE
静岡
WSW~WNW
SW~WSW
SE,WSW
WSW
N,SE~SSE
SSE~S
SW
NNW
S
SSE~S,SW
NNE、NW
E,S
清水
SSW~WSW
SSE~SSW
SSE~SSW
×
E
SSW
三島
石廊崎
×
×
SW
WSW~W
WSW,NNW~N
W~WNW
吉原
SW
E,S
S~SW
SSE~S
×
SSE
×
W
WSW~W
SW,W
×
W
三島
SW~WSW
WSW
WSW
SW
×
WSW~W
松崎
WNW
ESE,WNW
E,W
WSW~WNW
×
WSW
牧の原
×
WSW
N,SSW,WSW,
SSW
NE
E,SSW
福田
WSW,NNW
N
WSW,NW
S,WSW
N,ENE
WSW,NW
小田原
×
×
SSE
SW~WSW
SSW
×
石廊崎
松崎
牧の原
福田
小田原
W
W
W,WNW
W,WNW
WSW
W
W
WNW
WNW
SW,WSW
WSW~W
W
SSW,W
W~WNW
SE
WSW
SW,WSW
WNW
WSW
SSE
SW~W
WSW,W
SSW,W~WNW
WSW,WNW
E,SE~SSE
SW
W~WNW
SSE,WNW
W,WNW
SSE
辻堂
×
×
SSW
SSW
×
SSE
辻堂
SW
S~SSW,WSW
S~SSW
SSE
SE~S
×
海老名
S
×
SSE
S~SSW
SSW
SSE
海老名
SE,S
SSE~WSW
S~SSW
S
SSE,NW
NNE
1月
2月
3月
4月
5月
6月
富士山
WSW,WNW
WSW
SW~WSW
WSW
SW
WNW,NNW
御殿場
山中
河口湖
S,SW
×
S
SSW
SE,SW
SE,S
SSE~S
SSE,NNW
E,S
WNW,ESE
×
WSW
上九一色
W
ESE,SSE
中富
南部
×
大月
浜松
御前崎
静岡
清水
吉原
発生時の風向はウィンドローズを用いて解析した。発生時に特徴的であると判定したのは,
平均風向に対して発生時の発生頻度が10%以上上回っているときである。
地上風系から見た解析


笠雲発生時は駿河湾から入ってくる南南西風が富士山腹に当
たった時,富士山の両側を回り込む風系が成立していた。そし
て,その地形効果により無理やり曲げられた風と,山頂付近の
南西系の風との間に鉛直シアを生じる。この風系は,富士山
の周りを回り込む下層風と,相関場と同じ南西風の上層風と
いう2層構造を生じ,この事が笠雲発生に大きく寄与しているこ
とが推測される。
旗雲発生時は,西よりの風が吹いているときに発生している。
河村(1966)によると,冬型気圧配置による北西季節風吹走
時の中部地方の風系は,脊梁山脈を回り込むため東海地方
から吹いてくる西風と,北西から吹いてくる風の二つに分かれ,
その二つは中部地方で収束線を生じる。旗雲発生時にはこの
収束線がちょうど富士山の東側で形成されていた。
気圧配置による考察
日本海低気圧通過時に笠雲が発生しやすい
↓
低気圧に吹き込む南風が原因

左が笠雲発生時の2002年1月1日の天気図で,右が旗雲発生時の2002年1月4日の天気図で
ある。過去の研究(たとえば大井ら,1974)によると笠雲は日本海低気圧がある時に発生す
るとあるが,本研究で得られた結果と総合して考えると,笠雲発生に必要な対流不安定成層
や,南南西風系は,この日本海低気圧が引き起こしていることが分かる。弱い冬型気圧配置
(冬型気圧配置への移行期)に発生していることがわかり,この弱い季節風が富士山の東側
で収束線を生じる.
まとめ


笠雲の発生
①下層で相当温位の高い対流不安定成層
②南南西風吹走時の地形作用によるシア
この2つの効果で発生する。
旗雲の発生・・・冬季に特徴的な地上風系の元で発生。
①北西風と西風との収束線
②富士山頂を越える風の作用
の2つによる上昇流により発生。
これらの条件を作り出す気象条件は?
笠雲→日本海の低気圧による南南西の暖湿気流
旗雲→西高東低の冬型気圧配置による地上風系
今後の課題




富士山プロジェクトは山中湖だけではなく、周辺5方向
からの画像を取得している。これを利用し、三角測量に
よる雲の位置決定に取り組む。
富士山周辺の気流をより具体的に捉え、噴火時の降灰
分布の推定に役立てる。
笠雲・旗雲発生時の安定度について、具体的な数値を
出す。
気圧配置による考察を深める。