矢花 一浩 (筑波大) (40+10)

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Transcript 矢花 一浩 (筑波大) (40+10)

理研研究会「原子核物理学の展望」
2008年11月26-27日
密度汎関数理論の多彩なフロンティア
筑波大学数理物質科学研究科
計算科学研究センター
矢花一浩
1.平均場理論と密度汎関数理論の違いとは?
ーKohnの理論ー
2.配位混合と密度汎関数理論
-長距離相関の扱いー
3.光と物質の相互作用
-光応答はRPAでどれだけ正確に記述できるのかー
4.非線形ダイナミクスと時間依存密度汎関数理論
-重イオン衝突の歴史とレーザー科学のこれからー
ー原子核(核子多体系)と物質(電子多体系)を扱っていて
この頃感じていることについてー
非相対論的な量子多体理論
1950年代:電子ガス、核物質、液体ヘリウム
単純な系を人工的に
作り調べる
自然界にある複雑な
物質を定量的に理解する
Hamiltonianをコントロールする
複雑なHamiltonianの固有
状態を正確に求める
・ナノ構造
・極低温原子ガス凝縮
・不安定核
・物質(分子、固体、表面、・・・
・生体分子
自然界にある複雑な
物質を定量的に理解する
複雑なHamiltonianの固有
状態を正確に求める
密度汎関数理論の成功
Beyond DFTの試み
・不安定核
・物質(分子、固体、表面、・・・
・生体分子
 min  H  
min  H   min



 r  




r



E r 
密度汎関数理論の原理: 密度に関する変分により、
多粒子系の基底状態を、原理的には厳密に求めることが可能である。
多粒子系の基底状態(エネルギー、密度)を、原理的には密度に
関する変分から厳密に求めることができる。(Hohenberg-Kohn, 1964)
 min  H  
min  H   min


 r  
 r 

E r 
self-consistentな1粒子軌道の方程式を解くことで、
原理的には多粒子系の基底状態を厳密に求めることができる。
(Kohn-Sham, 1965)


p2


i  v  r i   ii
1   2  ...
2m

 2
 r    i r 
i




v r   E r   TS  r 

ただし、軌道関数自身に物理的意味はない。
物質科学での密度汎関数理論
電子に対して量子論による扱いと、
原子核(イオン)に対する古典力学
Kohn-Sham方程式


 

 

n
(
r
')
 2  2
 
2



V
(
r

R
)

e
d
r
'


(
n
(
r
))

(
r
)



(
r
)





ion
a
xc
i
i
i

2
m
r

r
'


a



 2
交換相関ポテンシャル
n(r )   i (r )
i
 


1
r1 , r2 ,, rN  
deti (rj )
N!
-e
+Ze
-e
-e
-e
-e
+Ze
簡易に(局所ポテンシャルの形で)
相関効果を取り入れることができる。
-e
-e +Ze
原子核の平均場理論は、「平均場理論」か、「密度汎関数理論」か?
Skyrme Hartree-Fock法では、
Skyrme力(2体力+3体力)に対するSlater行列式の
期待値
(3)
E   vij (2)  vijk

ij
ijk
を取るが、
・生の核力とSkyrme力は直接つながらず、Skyrme力の
パラメータは、エネルギー汎関数を表現するパラメータ
と見た方が自然。
・実際に使われているエネルギー汎関数は、期待値の
形に表せない項を含む。例えばρα(αは非整数)
これらのことから、「密度依存力を用いた平均場理論」は、
密度汎関数理論と考えた方が良い。
1.平均場理論と密度汎関数理論の違いとは?
ーKohnの理論ー
2.配位混合と密度汎関数理論
-長距離相関の扱いー
3.光と物質の相互作用
-光応答はRPAでどれだけ正確に記述できるのかー
4.非線形ダイナミクスと時間依存密度汎関数理論
-重イオン衝突の歴史とレーザー科学のこれからー
原子核の平均場計算の最近の方向から
全核図表にわたる記述と予言(エネルギー、密度、形、・・・)
・信頼できるエネルギー汎関数の構築→核物質の状態方程式
非中心力を考慮した平均場理論
単一行列式を超えた記述
・時間依存平均場理論(後述)
・配位混合、射影、相関エネルギー、励起状態、・・・
―生成座標法の現実的な計算―
多Slater行列式を用いた配位混合計算(篠原聡博士学位論文、2007)
任意のSlater行列式
16O
Local minimum
Hartree-Fock
16Oの計算で得られたSlater行列式
虚時間法計算の途中過程では、様々なLocal minimum や shoulder が現れる
• パリティ・3次元角運動量射影
• 配位混合
SGII
Energy spectrum in
second 0+: 42.4%
ground 0+: 94.8%
3-: 78.7%
12C
third 0+: 62.1%
Energy spectrum in 20Ne
SGII
(0p1/2)-1(sd)5
密度汎関数理論(Kohn-Sham理論)は、単一のSlater行列式
で、基底状態を厳密に記述するはずだった。
・配位混合計算(GCM, Projection)を行う根拠は?
・行列要素の形に現れないエネルギー汎関数の行列要素は
どうするのか?
(密度を遷移密度に置き換えるしかないが、その根拠は?)
・ゼロレンジの力で配位混合すると、収束する解は無い!
なぜ、密度汎関数理論で配位混合計算をするのか?
密度汎関数理論の現実的に可能な計算では、局所密度近似を
伴うため、長距離相関を取り入れることはできない。
密度汎関数理論の枠内で、長距離相関を別途扱う理論
(Hill-Wheeler GCMのDFT版)が欲しい。
実は、物質科学の分野でも、「密度汎関数計算に組み込めない
長距離相関」は深刻な問題。
例えば、2つの原子が密度が重なること
なく離れているとする。
局所密度近似のもとでは、この2原子間に
R
相互作用は存在しない。
しかし、現実はファンデルワールス力(~1/R6)が存在。
生体分子では、vdW力は極めて重要と考えられている。
現在の計算機では、タンパク質分子(3000原子以上、10000電子以上)
の密度汎関数(局所密度近似)計算が可能だが、そのような
計算は実はあまり意味が無いのかもしれない。
現在の処方箋は、原子の間に働く現象論的なvdW力を仮定して、
密度汎関数法計算の結果に足す。
十分距離が離れた原子(分子)間のvdW力は
時間依存密度汎関数理論から求められる。
R
W. Kohn et.al, Phys. Rev. Lett. 80, 4153 (1998)
C6
V (R)  6
R
3
C6   d  A i  B i  vdW力の係数は、虚軸上の
0
分極率から計算できる。
e
 A i    dt pA t et
I0
pA t 
虚軸上の分極率は、自己相関
関数のラプラス変換から求められる。
一様な撃力印加後の双極モーメント
2つの分子群が十分離れたとき(Dipole相互作用)から
接近した時(局所密度近似が成立)まで
連続して記述できる理論が欲しい。
1.平均場理論と密度汎関数理論の違いとは?
ーKohnの理論ー
2.配位混合と密度汎関数理論
-長距離相関の扱いー
3.光と物質の相互作用
-光応答はRPAでどれだけ正確に記述できるのかー
4.非線形ダイナミクスと時間依存密度汎関数理論
-重イオン衝突の歴史とレーザー科学のこれからー
時間依存密度汎関数理論
(TDDFT=Time Dependent Density Functional Theory)
静的な理論(基底状態)から、
動的な問題(励起状態、ダイナミクス)へ
時間依存Kohn-Sham方程式(電子の場合)


 
 n(r ' , t )

 


 2  2
 
2
  Vion(r  Ra )  e  dr '     xc (n(r , t ))  Vext r , t  i (r , t )  i  i (r , t )

r r'
t


a
 2m


 2
n(r , t )   i (r , t )
i
1粒子の時間依存Schroedinger方程式
を解くことで、多粒子のダイナミクスを記述する。
光応答の理論計算
線形化された時間依存平均場理論(RPA)

 t   h t   Vext t  i t 
t i
2
 t     i t 
i
i
粒子放出の境界条件を考慮した取り扱い:Continuum RPA (Green関数を用いて)
原子核の巨大双極共鳴
Shlomo, Bertsch 1975
希ガスの光吸収
Zangwill, Soven 1980
金属クラスター(ジェリウム模型)
の光吸収
Ekardt 1984
CRPAは、物質の光吸収をどの程度精度よく記述できるのか?
光吸収断面積(エチレン分子、12個の価電子)
実時間法
修正Sternheimer法
TD-DFT
Exp.
Indep. particle
2C+4Hに一致
イオン化敷居エネルギー


eikr
X i r , Yi r   f 
r 
r
修正Sternheimer法を用いた散乱境界条件の厳密な取り扱い
T. Nakatsukasa, K. Yabana, J. Chem. Phys. 114(2001)2550.
分子の光吸収スペクトルは、CRPAにより高い精度で記述できる。
比較的軽い原子核の光吸収は、RPAでどの程度記述できるのか?
Inakura, Nakatsukasa, Yabana
Theory
SkM*
β2=0.39
β2= -0.23
・平均励起エネルギーのずれ(汎関数の問題?軽い原子核のみ)
・高エネルギー側で強度が不足(テンソル相関?軽い原子核で著しい)
Kawashita, Yabana, Nakatsukasa
C60 分子の光吸収(240個の価電子):
TDDFT with Absorbing boundary condition (Preliminary)
イオン化
閾エネルギー
閾エネルギーよりはるか高い
エネルギーまで狭い共鳴が残る
Exp: H. Yasumatsu et.al, J. Chem. Phys. 104, 899 (1996)
Exp: J. Kou et.al, Chem. Phys. Lett.374, 1 (2003)
Other examples of real-time response calculations
Optical absorption of
Green Fluorescent Protein
1.平均場理論と密度汎関数理論の違いとは?
ーKohnの理論ー
2.配位混合と密度汎関数理論
-長距離相関の扱いー
3.光と物質の相互作用
-光応答はRPAでどれだけ正確に記述できるのかー
4.非線形ダイナミクスと時間依存密度汎関数理論
-重イオン衝突の歴史とレーザー科学のこれからー
原子核衝突のミクロなシミュレーション
重イオン衝突のAMDシミュレーション(波束拡散を取り入れたもの)
小野・堀内 学会誌〔2002)
H. Flocard, S.E. Koonin, M.S. Weiss,
Phys. Rev. 17(1978)1682.
核融合反応
<20MeV/A
高エネルギー原子核衝突
>1GeV/A
TDHF
~1980 量子性を取り入れた
粒子シミュレーションの発展
(1980半ばから)
カスケード模型(~1980)
VUU, QMD, AMD (揺らぎと核子衝突)
QGP
強レーザー場科学
eE(t)z
z
10-15s (1 femto sec)
超短パルス化
イオンが静止
1013-1015W/cm2
電子が静止
1023W/cm2
超強高度化
物質内の場と外場が
同程度の強度
電子の非線形ダイナミクス
TDDFTによるシミュレーション
(量子論、非相対論)
瞬時に物質はプラズマ化
相対論・古典論
電子・イオンの電磁流体
プラズマ・シミュレーションの
台頭(古典論、相対論)
レーザー加速への応用
1980年ころの重イオン衝突の理論と類似
強レーザー場中にある原子:
電子の密度分布の時間発展
dD(t ) d  
  dr z r , t 
dt
dt
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
0
5
10
15
20
x10
レーザーによりイオン化された電子が
再び原子と衝突する(再散乱過程)
・X線の生成(高次高調波発生)
・再散乱に起因する高次イオン化過程
25
30
35
3
I    dte d A t 
it
9
10
2
8
10
7
10
6
10
Ar atom 2x1014W/cm2,
800nm laser, 50fs
5
10
4
10
3
10
2
10
0
10
20
30
40
harmonic order
放出される光の強度
50
ヘリウム原子のイオン化
電子再散乱による
多重イオン化
B. Walker etal, PRL73, 1227 (1994)
eE(t)z
z
密度汎関数信奉者:
「交換相関ポテンシャルが正確であれば、
すべての現象は平均場の方程式で
記述できるはず。」
原子核の歴史からは、
衝突をあらわに扱う理論の構築が現実的。


 
 n(r ' , t )

 


 2  2
 
2





V
(
r

R
)

e
d
r
'


(
n
(
r
,
t
))

V
r
,
t

(
r
,
t
)

i


(
r
, t)





ion
a
xc
ext
i
i

2
m
r

r
'

t


a



 2
n(r , t )   i (r , t )
i
誘電体と強レーザーの相互作用
ー物質はいつまで透明でいられるか?-
レーザー加工の例
(歯のエナメルに穴を開ける)
M.D. Perry et.al,
J. Appl. Phys. 85, 6803 (1999)
Laser pulse
Dielectrics
1.4 ns
350 fs
光絶縁破壊
時間に依存するバンド理論
Bertsch, Iwata, Rubio, Yabana, Phys. Rev. B62(2000)7998.
断面図
Intensity I = 3.5×1014 ( W/cm2 )
Frequency  = 0.5 (eV)
Electric Field (a.u.)
強レーザー場を照射した結晶中の電子ダイナミクス(シリコンの場合)
0
Total electron density (110)
10
20
30
Time (fs)
40
Density difference from ground state (110)
ダイアモンドに強いパルスレーザーを照射
(1x1015 W/cm2, 3.1eV, 40fs)
T. Otobe, M. Yamagiwa, J.-I. Iwata, K. Yabana, T. Nakatsukasa, G.F. Bertsch,
Phys. Rev. B77, 165104 (2008)
最初は誘電体として応答
 0  5.7
次第に電子励起が進む, > 15 fs
- 外場 Eext(t) と内部電場 Etot(t) に位相差
- 励起電子数の急激な増加
⇒ 絶縁破壊
金属的な応答, > 25 fs
- 励起電子数、エネルギー移行が止まる
Eext(t)
Etot(t)
励起電子数
励起電子数 0.4/atom でのプラズマ振動数
 4 nex 
  4eV
 m 0 
 p  
これは照射したレーザーの振動数に近い。
レーザーから
電子への
エネルギー移行
パルスレーザーから物質(電子)へのエネルギー移行
Optical breakdown
7x1014 W/cm2 (16fs)
2光子吸収
Keldysh理論 (1965)
2
 1  e 


 e2



i  i t     p  Atot t   Veionr    dr '   n(r ' , t )  xc n i t 
t
c
r r'

 2m 




Atot (t )  Aext (t )  Aind t 

d Aind t  4

2
dt
V
2

d
r
 j r , t 
cell
様々な時間スケールの競合
Eext(t)
・電子‐電子衝突(数fs?)
・電子‐イオン衝突(数十fs?)
Etot(t)
長いパルス(ピコ秒)での常識:
電子衝突に伴う雪崩機構
励起電子数
どの位短いパルスから、
電子衝突は効かなくなるのか?
(時間領域でのバリスティック運動)
⇒ 電子衝突を取り入れた
時間依存平均場理論の必要性
レーザーから
電子への
エネルギー移行
まとめ
密度汎関数理論は、原子核物理と物質科学世界で、
現時点で、大規模な系、複雑な系を、そこそこのコストで、
それなりの精度で記述するバランスの取れた理論として
受け入れられている。
構造に対する密度汎関数理論、ダイナミクスに対する
時間依存密度汎関数理論とも、しばしば原子核と物質科学で
共通する課題がある。その例として、
・局所密度近似で取り入れることのできない長距離相関
原子核の相関エネルギー、配位混合
物質科学の分散力(vdW力など)
・ダイナミクスで粒子間の衝突をあらわに扱う必要性
原子核では重イオン衝突で長い歴史がある。
強レーザー・超短パルスレーザーを用いた最近の分光学で、
電子ダイナミクス、特に電子衝突をあらわに扱う理論が必要とされている。