2014年9月9日(坂井正弘)(2.0MB)

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Journal Club
2014.9.9
N Engl J Med 2014; 370: 1583-93.
飯塚病院 総合診療科 後期研修医
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター
坂井 正弘
論文の背景
■Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)では、MAP 65 mmHg以上
に保つようにする初期蘇生が推奨された
■ただ、アテローム性動脈硬化症や高血圧症の既往がある患者では、よ
り高く血圧を保つことの有効性が示唆されてきた
・MAP 75 mmHg以上に保つことで腎機能を維持できるかもしれない
Dunser MW, et al : Intensive Care Med 2009; 35: 1225-33.
・より高く血圧を保つことでの有用性が、小規模の前向き観察研究で示
唆されている
Badin J, et al : Crit Care 2011 ; 15: R135.
・慢性的な高血圧症の生理学的な機序に関する研究で、脳の血圧と血
流のauto-regulation curveが右方シフトするため、より高い血圧維持が正
当化されうることが示された
Strandgaad S, et al : Br Med J 1973 ; 1 : 507-510.
Septic Shockの患者において、どの程度の血圧目標が効
果的か、については議論が分かれており、慢性的な高
血圧の患者において、血圧をより高く保つことでの有用
性についても検討が必要
PICO
P:Septic Shockの18歳以上の患者
I :MAP 80〜85 mmHgに保つ(高MAP群)
C:MAP 65〜70 mmHgに保つ(低MAP群)
O:Primary outcome:28日死亡率
Secondary outcome:90日死亡率、28日時点までのカテコ
ラミン投与、人工呼吸器装着、腎代替療法がない状態での
生存日数、ICUや病院への滞在期間、重大な有害事象
研究デザイン
多施設RCT(中央コンピューター管理)
Open-Label
フランスの29の施設で、2010年3月から2011
年12月
Septic Shockの患者に対し、最長で5日間も
しくは昇圧剤投与が終了するまで、MAP 80
〜85 mmHgもしくは65〜70 mmHgに保つ
慢性的な高血圧の有無で層別化
手法
 第一選択はNAD
 低MAP群(65〜70mmHg)
MAP > 70 mmHg→NAD 0.05 μg/Kg/min減量
MAP > 75 mmHg→NAD 0.1 μg/Kg/min減量
MAP < 65 mmHg→直近の量に戻す
 高MAP群(80〜85mmHg)
MAP > 85 mmHg→NAD 0.05 μg/Kg/min減量
MAP > 95 mmHg→NAD 0.1 μg/Kg/min減量
MAP < 80 mmHg→直近の量に戻す
Inclusion criteria
Septic shockと判断してから6時間以内で、18歳以
上の患者
・SIRS基準を2つ以上満たす
・細菌感染が疑われる、もしくは証明されるもの
・sBP < 90 mmHgであり、6時間以内の30 ml/kgの
生食・細胞外液投与に反応がなく、昇圧剤の投
与が必要とされるもの
・NAD 0.1γが最小投与量
本人、家族、後見人からの同意が得られたもの
Exclusion criteria
法的保護下の状態(同意提供が不完全かつ
保護者・後見人がいない場合、もしくは投獄
中)
フランスのヘルスケアシステムへ未加入
18歳未満
妊娠
他の医学研究に参加
本研究のPrimaryもしくはSecondary outcome
をエンドポイントとする他の介入研究への参加
蘇生しないと判断された
統計解析
 Stata software(version 12.1)を使用
 検定方法
 コックス回帰モデル : 28日および90日死亡率の比較
 ショーンフィールド残差分析:比例ハザードの仮説検定
 χ2乗検定もしくはFisher’s exact test : 質的変数の解析
 Kaplan–Meier法 : 生存解析
 ITT解析:全登録患者(800症例)を対象
 両側検定、α 0.05、power 80%
 低MAP群の28日死亡率を45%、ARR 10%を想定
 サンプルサイズ 800人と算出
Randomization
患者背景
患者背景
結果
結果
Yes, Open-label
Yes
No
Yes
Yes
34.0% 36.6%
7.6%
-2.6%
論文のDiscussion
 各治療群で28日および90日死亡率に有意差は
なかった.
 慢性の高血圧の既往がある患者では、MAP 80
〜85 mmHgを目標にすることで、血清Cr値の悪
化をきたしたり、腎代替療法を導入する割合は
減少した.
 全体の有害事象発生率には有意差がなかった
が、高MAP群の患者ではAfが多かった.
→カテコラミンの量に関係しているのかもしれな
いし、カテコラミン投与期間の長さによるのかも
しれない.
論文のDiscussion
 慢性の高血圧を有する患者と有さない患者にお
いて、高MAPに保つことでの重大な有害事象は
発生しなかった
→高MAP目標が許容されることを示唆している
かもしれない.
 低MAP群で実際に観察されたMAPは、ほとんど
70〜75 mmHgであった.同様に高MAP群で観察
された値は85〜90mmHgであった
→目標の群間差は維持されたが、2群いずれに
おいても、設定より高く維持されたMAPがどのよ
うに結果に影響したかについては不明.
Limitation
予想された28日死亡率より本研究のそれが
低かったことは、研究のパワー不足につな
がったかもしれない.
→心筋梗塞等、いくつかの有害事象の発症
率の差を同定できなかったかも
本研究では糖質コルチコイドや活性化プロテ
インCの使用が多く、一般化は困難であるか
もしれない
マリアンナ救急としての方針
 SEPSISPAM研究の評価できる点
・対象をSeptic shockに絞っている
・低MAPに比して高MAPは死亡率や重大な有害事象に有意差をもたらさな
いことを示した
・慢性の高血圧の有無で層別化した
 本研究の問題点
・慢性の高血圧の患者において低MAPは脳血流の低下につながりうる
→Secondary outcomeに神経学的評価がない
・慢性の高血圧患者におけるベストなMAP目標を提案しているわけではな
い
 慢性の高血圧を有する患者では、MAP 65 mmHgよりも高めに設定しても
良いかもしれない
 その際はAfの合併に注意する