通訳の歴史

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Transcript 通訳の歴史

先週の質問

「茶色い目の大きな犬を飼っている宇宙人」の
解釈は?

講義資料掲載サイトに解釈を掲載しました。



逐次通訳のノートとはどんなものですか?
通訳者になるための訓練とは?


http://www.geocities.jp/nagatasae/tagi-ans.htm
次回の講義で通訳の技能訓練について紹介する
専門的な内容に関する調査の方法は?


11/30の第八回目の授業で扱うことにします。
11/30は休講の予定でしたが、30分遅く開始します。
発言の内容が理解できない時はどうしますか?

逐次通訳なら


話し手に質問する。かみ砕いて説明してもらえればほとんど
問題なく通訳可能。それでも分からなければ話し手と聞き手
に通訳者は内容が理解できないことを参与者に告げる。
同時通訳なら
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
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


しばらく待って後続の情報から推測する
一緒に通訳をしているパートナーに助けてもらう
中立的で影響を与えない表現でとりあえずやり過ごす
訳さない
とりあえず字面で訳しておく
発言者の意図が理解できないことを聞き手に伝える
知らない単語や俗語が出てきたらどうし
ますか?

そうならないように事前準備をする

通訳者の用語集については下記をご参照下さい。




http://nikka.3.pro.tok2.com/dic.htm
それでも知らない単語が出てきたら、
前ページの方法にくわえ、
 起点言語の発音のまま目標原語に取り込む
 辞書をひく
俗語はなるべく対応する語を探すか、説明的に訳す
独断や偏見で勝手な創作をしないことが重要
質問:通訳と翻訳はかなり性質の違う仕事の
ようですが、両方できるのでしょうか?



向き不向きが分かれる仕事なので、どちらか一方し
かしない人も多いようです。特に英語の場合は。
現実問題として、企業内では両方の能力を求められ
ますし、フリーランスでも非英語通訳者のほとんどが
通訳翻訳兼業で、さらに語学講師もしています。そう
しなければ満足のいく収入を得ることができないから
です。もし収入を問題にしないのであれば、片方だけ
を選ぶことができます。
実際の状況を見ると、通訳をやる人は翻訳もやるけ
れど、翻訳を専業にして通訳をやらない人が多いよう
です。つまり、翻訳者人口>通訳者人口。

二つの異なる言語体系に橋を架ける方法は?



同時通訳は二言語が重なって聞きにくい?



大量の練習が基本。
常に両国語で何と言うかその違いを意識する。
イヤホンを通して聞くので特に聞きにくくはない
もともと自分がまったく知らない言語は聞いていない
通訳の方法はどうやって選ぶのか?


話し合いの性質に応じて、主催者や会議請負会社が
最も適切であると判断した方法を選ぶ
不適切な方法を用いてコミュニケーションが阻害され
ることはあり得る

メタ言語的使用とはなんですか?
言語で言語について語るということ。
 例えば、次の文を訳すことを考えてみましょう。
実際にあった話です。
「パンダのことを中国大陸では熊猫って言いますよね、
でも台湾では猫熊って言うんです。だって、パンダは
熊であって猫ではないでしょ? 熊猫じゃあ、猫じゃあ
りませんか、熊なんだから猫熊が正しいはずですよ」
 ここで「熊猫」と「猫熊」を全て「パンダ」と訳してしまっ
たら何を言いたいのか訳が分からない。だから、


メタ言語的使用においては訳さないことも必要

通訳者は現場には何人くらいいるのですか?



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

半日以内の逐次通訳:一会場に一名
一日の逐次通訳:一会場に二名
半日までの同時通訳:一ブースに二名
一日の同時通訳:一ブースに三名
立食パーティーなど:会場の広さと出席人数に応じて
通訳ガイド:団体の人数に応じて(バス一台に一名)
司法通訳:一法廷に一名(通訳の正確さを検証するた
めのモニターがつくこともある)、一取り調べ室に一名
二国間外交:各国代表に各一名
VIP付き通訳:VIP一名に専属通訳者一名

通訳と翻訳ではどちらの需要が多い?
また、需要の多い言語は?


英語翻訳が圧倒的に多い。次が中国語。
同時通訳における情報の取捨選択が最も難しい
のでは?




情報の取捨選択にはいろいろなレベルがある
主語、単数・複数形、時制など文法範疇にかかわる
取捨選択は割合に問題なく、また特に意識せずに
行っている
冗語(余計な言葉や同じ内容の繰り返し)を切り捨て
ることもさほど問題ない
最も難しいのは同時通訳で原発言の情報密度が高
すぎる場合→追いつけないときはまとめて訳出する

通訳と共通語の問題

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


通訳者が用いる話し言葉は最大公約数の共通語
 Sorry,「標準語」という呼び方は不適切でした
聞き手の誰にでも受け入れられることが基本
NHKのアナウンサーが話している言葉は実際には存
在しない人工的な言語かもしれないが誰でも分かる
聞き手全員の出身地や居住地が限定できる場合は
時には方言を取り入れることも効果的
アクセントによって意味が変わってしまう語


石段と医師団
アクセントの違いを聞き手が補正して理解することになると、
それだけ理解の反応速度が遅くなり聞いていて疲れる
通訳翻訳論第六回
http://www.geocities.jp/nagatasae/2004tuuyaku.htm
通訳の歴史と通訳研究の歩み
通訳の歴史
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近代以前
職業としての通訳はいつ生まれたのか
日本における通訳の歴史
近現代における通訳の歴史
日本生産性本部の視察団派遣
世界の同時通訳の歴史
日本の同時通訳-アポロ宇宙船の月面着陸
近代以前の通訳の歴史

行為としての通訳は古代にさかのぼる



異なる言語の境界線上にある地域での二言語併用
異民族間の通婚
職業としての通訳の成立

大航海時代(十五世紀末~十六世紀初)


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
お茶、香辛料の貿易
コロンブスの新大陸発見(現地の子供を連れ帰り通訳に)
日本にもポルトガル商船(南蛮船)が渡来(オランダ通詞)
宗教の布教

宣教師の渡来
職業としての通訳の誕生

通訳の歴史はあまり研究されていない。
 翻訳と異なり関連する文献が残らない。
 通訳者自身による著作がほとんどない。
 研究対象としても注目されることがなかった。
 一方で通訳は最も歴史の古い職業と言わ
れる。
 バベルの塔の伝説以来か?
日本における通訳の歴史
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中国との古来からの行き来


ポルトガルとの南蛮船貿易





二カ国語を話す人材
長崎でのキリスト教布教(最初は黙認)
信者の増加→幕府は団結を恐れるようになる
16世紀末、バテレン追放令
鎖国時代に唯一海外に開かれた窓口「出島」
17世紀初、長崎の出島




オランダ、中国などとの往来
出島の商館
阿蘭陀通詞、唐通事の成立
他にタイ語、ベトナム語、インド地方言語の通訳も存在
近現代の通訳の歴史

日本では第二次世界大戦後に通訳の需要が飛
躍的に伸びてきた

極東国際軍事裁判(東京裁判)


進駐軍との折衝



山崎豊子の『二つの祖国』:米軍将校となった日系人が極東
軍事裁判で同時通訳のモニターを担当
アメリカ進駐軍のために通訳を行う人材が集められた
アメリカ大使館勤務にあった西山千氏も
日本生産性本部の代表団派遣随行同時通訳者

村松増美 『私も英語が話せなかった』
日本生産性本部の視察団派遣

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

1957年、日本はアメリカの産業界視察のために
代表団を派遣
日本国内で日英通訳を行なう人材を募集
通訳者はアメリカの国務省で通訳訓練を受けた
当時、日英両国語間では語順が違いすぎるた
め同時通訳は無理だとの主張


1951年ごろ、西山千氏が進駐軍でウィスパリング形
式の同時通訳をしていた
生産性本部で通訳を行なった通訳者が帰国後
に日本で初の通訳者養成学校を設立
世界の同時通訳の歴史

同時通訳の始まり

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


1926年、IBMが同時通訳装置を開発
1927年、ジュネーブの国連会議で初めての同時通訳
1928年から、旧ソ連においてコミンテルン(共産党国
際組織)で利用
1935年、当時のレニングラードで開催した国際生理
学会でパブロフの演説が英仏伊独語に同時通訳
1945年、ニュールンベルグ裁判、極東国際軍事裁判
現在国連では公用語である英語、フランス語、スペイ
ン語、中国語、ロシア語、アラビア語の同時通訳
アポロ宇宙飛行の通訳

NHKで7号から17号まで四年間にわたって放送
 米国で育った西山千氏が担当
 最初は同時通訳は出演者だけに聞こえてい
た
 その後、同時通訳者の声をそのまま放送
 アポロ8号から通訳者が画面に出るように


視聴者から同時通訳をしている機械翻訳装置はど
んなものかという問い合わせがあったため
このアポロの同時通訳によって日本国中に通
訳者の存在が知られることになった
通訳理論研究の概要
何が研究されているのか
通訳研究

同時通訳のモデル
解釈理論
 処理プロセス
 努力モデル


通訳研究の展望
同時通訳プロセスに関する研究

同時通訳ではいくつかのタスク(作業)が同時に
行なわれている




起点言語の理解と目標言語への転換と産出が常に
オーバーラップ
目標言語の産出が起点言語の聴取に影響を及ぼす
複数の同時作業はいかにして可能なのか?
同時通訳を可能にするためにはどのような条件
が必要なのか?
同時通訳を制約する要因

外部的要因






発言の速度
有意義の語彙の密度
発言者のアクセントやイントネーション
ノイズ
資料や原稿の有無
内部的要因


通訳者の知識(言語・世界・状況・専門知識)
通訳者の通訳技能
通訳・翻訳の解釈理論

Seleskovitch & Lederer (1989/1995)
解釈理論(意味の理論)
1.言語的意味(meaning)の諸要素を言語外の知識と
融合し、「意味」(Sense)を獲得する
2.「意味」が生じると同時にそれを非言語化する
3.「意味」を自発的に目標言語で表現する
 言語的形態(起点言語の違い)は制約とならない



意味は言語とは独立に存在しているのか?
起点言語に依存しないことをどのように証明でき
るか?
同時通訳の情報処理モデル

David Gerver(1976)





フローチャートで同時通訳のプロセスを説明
記憶と注意の役割に注目
短期記憶→作動記憶→短期出力バッファ→出力
↑
長期記憶(語彙・文法)
受容・変換・構成
同時通訳者は正常な状態では注意力を複数のタスク
にうまく分割して振り分けている
何らかの通訳阻害要因があると注意力がdecoding
かencodingに集中し、入出力に影響を与える
Effort Model
Daniel Gile(1989)


1.
2.
3.


三つの非自動的な構成要素を想定
聴取と分析
記憶と検索
談話の生成
人間の処理能力にはある程度の容量限界があり、
複数のタスクの合計が処理容量を超えない範囲内
において同時通訳は可能であるが、いずれかの処
理に注意力を大幅にさいてしまうと破綻する
聴取+記憶+生成=努力の合計<処理容量
通訳理論研究の展望
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

ブラックボックスである通訳の内部プロセスの仮
説を作ることで様々な現象を説明
脳波、眼球運動、心拍、血圧といった通訳者の
身体的負荷からの研究
通訳者の内言を報告することで問題解決に用い
ている方略を探る think aloud
通訳の入力と出力を用いて言語学的に研究
通訳者の介在するコミュニケーションの特徴
通訳者の社会的役割とは
今日のまとめ
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通訳の歴史
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

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


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近代以前
職業としての通訳はいつ生まれたのか
日本における通訳の歴史
近現代における通訳の歴史
日本生産性本部の視察団派遣
世界の同時通訳の歴史
日本の同時通訳-アポロ宇宙船の月面着陸
通訳の研究


同時通訳モデル
研究の展望