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PR論
第6回 危機管理①事例と理論
:リスク・マネジメント
とクライシス・マネジメント
専任講師 関谷直也
今日のテーマ:
リスク・マネジメントと広報対応
クライシスを引き起こすような状況
– 当事者の心理
– 受け手の心理
– メディアとの関係
(1)直後対応:「緊急記者会見」「お詫び広告」
(2)長期的対応:「内部告発制度」、「レピュテー
ション管理」、
(3)広告のリスク・マネジメント:「広告の失敗」、
1
1 メディアとリスク・マネジメント
ライブドア元代表取締役社長CEO、堀江
貴文「ホリエモン」
• 2004年大阪近鉄バファローズ買収失敗
• 2005年ニッポン放送株式買いつけ
– 最終的にライブドア所有ニッポン放送株全て
をフジテレビジョンが取得。
• 2005年夏、衆議院選挙出馬。
– ライブドアは株式分割を繰り返し、時価総額
は上昇。
– ポータルサイトというビジネスモデル
– メディア露出増加によるアクセス数の増加
– 広告収入に直結。
• 実態・業績云々とは別に、メディアで好
意的に取り上げられる毎に株価は上昇。
2
1 メディアとリスク・マネジメント
• 2006年1月 証券取引法違反で逮捕
• 同社の企業活動そのものが問われ、違
法性や企業倫理が問題視
– ライブドアが実質的に支配する投資事業組
合の増資や架空売り上げの計上
– 有価証券報告書の虚偽
• 連日この事件報道は続き株価は下落
• 現在、経営陣を入れ替えて企業再生を
図っている。
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1 メディアとリスク・マネジメント
メディアでの露出=企業の業績に直結
• メディアの好意的な露出が増える
– 仮に実態がなくとも、業績や様々なステーク
スホルダーとの関係性は良好に。
• メディアの否定的な露出が増える
– ときに実態以上に業績や様々なステークスホ
ルダーとの関係性は悪化
– 企業にとって致命的な事態に。
• メディアとリスクマネジメントは切って
も切り離せない関係にある。
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2
ト
直後の対応:クライシス・マネジメン
①クライシス・コミュニケーションの失敗例:記者
会見での失言
• 雪印事件
– 2000年6月に発生した近畿地方を中心に発生した
雪印乳業の乳製品による病原性黄色ブドウ球菌
による食中毒事件
– 原材料再利用、衛生上の問題など、様々な不祥
事を露呈した。
– 報道陣に事件を追求されているときに石川哲郎
社長はエレベーター付近で会見の延長を求める
記者に発言した。
– 同社の顧客に対する姿勢として映像を通じて広
く配信された。
– 「君ねぇ、そんな事言ったってねぇ、私は寝て
5
ないんだ」
2
ト
直後の対応:クライシス・マネジメン
①クライシス・コミュニケーションの失敗例:記者会見での失言
• 東横イン
– 2006年にホテルチェーン「東横イン」の駐車場や身障者
用部屋を撤去したという「高齢者、身体障害者等が円滑
に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(通
称:ハートビル法)」違反偽装工事問題が発覚
– 記者会見で西田憲正社長は
• 「やったことは仕方がない」
• 「障害者用客室つくっても、年に1人か2人しか泊まり
に来なくて、結局、倉庫みたいになっているとか、
ロッカー室になっているのが現実」
• 「制限速度60kmの所を65kmで走ったようなもの」と
記者会見で答えた。
• メディアは典型的なシーンを切り取って「不祥事」の映像
を作り上げるタイプキャスティングという機能があるので
ある。
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2
ト
直後の対応:クライシス・マネジメン
②クライシス・コミュニケーションの成功例:記者会見や事後対応成功
• ジャパネットたかた
–
–
–
–
–
もともとのテレビ、新聞での認知度
2004年3月、ジャパネットたかたの利用者の顧客リストが発覚
「禊ぎ」:同社は一ヶ月半、地上波・CS放送、広告、販売をすべて自粛
150億近い減収となった。
企業トップの誠実な対応:直後3日、また一週間毎に謝罪と報告を繰り
返した。
– その後再開してもタレントをキャスティングしないようにしている。
• その後、各メディアは、非難というよりも情報漏洩後の事業者の模範
的対応として取り上げた
– 個人情報保護法が適用される約1年前である。
– 「実例から学ぶ危機管理術」テレビ朝日系列『サンデープロジェクト』
2007年3月25日など多数。
– この不祥事対応によって、逆に高く評価されるようになった。
– 売上高は2006年で1080億円に達している。
• これは、不祥事対応が謝罪を繰り返し、放送自粛などの禊ぎも適切
• 知名度や好感度が功を奏し、イメージストック作用が適切に働いた例。
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ト
直後の対応:クライシス・マネジメン
③お詫び広告
• 「お詫び広告」 (猪狩 2007)
– ①欠陥製品が出た場合、その製品の回収を告知するもの
– ②工場の火災・爆発、公害による河川・大気汚染などを地域社会
に謝罪するもの
– ③違法行為などが摘発・告発されたりして、再発防止を約束する
もの
• ①欠陥製品の例
• 松下電器、ナショナルの1985年から1992年製のナショナルFF式石油
温風機のリコール。
– 2005年11月上田市で起きた、一酸化炭素を含む排気ガスが室内に漏れ出
すという一酸化炭素中毒事故を契機に、事故がいくつか起きていたこと
が発覚、
– テレビコマーシャルにおいて、当該商品の使用時に於ける事故について
の注意および回収を呼びかけた。
• パロマガス、屋内設置型のFE式瞬間湯沸器のリコール
– 2006年7月に排気ファンの動作不良を原因とする一酸化炭素事故が発生。
– 2006年8月にはテレビコマーシャルで、当該商品の使用時に於ける事故に
ついての注意を呼びかけた。
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2
ト
直後の対応:クライシス・マネジメン
③違法行為などが摘発・告発されたりして、再発防止を約
束するもの
• 2007年会社更生法の適用を受けたNOVAが虚偽の説明や
事実に反する「誇大広告」など、18の違反事実を元に業
務停止命令後に出した、お詫び広告
• 東京電力の節電よびかけとともに行ったその原因となっ
た原子力発電所停止の原因となったトラブル隠し後の広
告
– 2002年、東京電力は原子力発電所のトラブルを隠していて、長
期間、原子力発電所を停止せざるを得なくなった。2003年初頭、
東京電力は、「節電」のCFを流した。
– 1月→3月
:節電の呼びかけから、謝罪を中心とする内容になった。節電
の呼びかけの前に、まず「不祥事」が問題であり、「謝罪」か
ら入らなくてはコミュニケーションが成立しないということに
気づいたのである。
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1
係
広報と「リスク・マネジメント」の関
(1)「包含関係」としての区分
• ①「危機管理」「リスク・マネジメント」とは、Public
Relationsの実践そのものという考え方
– 広報とは、Public Relationsの訳語である。
– Public Relationsとは、「さまざまなステークスホルダーとの関
係性を構築・維持するためのマネジメント技法」(Cutlip,
2005)。
– 組織とさまざまなステークスホルダーとの間の関係がうまくい
かないことが多いからこそ、そこが経営上の重要な課題となる。
• 不祥事や事件・事故
– 関係性が一度壊れてしまったとき、
– 相手に不利益や不信をもたらしたとき/もたらす可能性が高い
とき
– ステークスホルダーの行為によってある組織体がなんらかの不
利益を被ったとき/被る可能性が高いとき
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1
係
広報と「リスク・マネジメント」の関
(1)「包含関係」としての区分
• ②Public Relationsの実践の一分野に「危機管理」があり、「リスク・
マネジメント」は更にその一分野という考え方である。
• 井之上(2006)は日本語でいう「危機管理」にあたるものを3分類
「イッシュー・マネジメント」 ※米国の用語
– 予想される新しい課題や問題を抽出し、それらに対する企業の対応
策を考え実施すること
– クライシスを引き起こすような社会問題、企業が直面する社会習慣
やタブーへの対処という予防的手法
「リスク・マネジメント」
– 危険にあう可能性をヘッジする方策・対応策を考える
– 買収などの財務リスク、自然災害、訴訟などの法務リスク、相手先
の倒産などの事業リスクなどへの事前の対処
– 保険やヘッジという具体的対象を想定
「クライシス・マネジメント」
– 事故や災害など「リスク・マネジメント」の対象が発生した場合に
おけるそれ以降の対応のことである。
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1
係
広報と「リスク・マネジメント」の関
(2)「時期」による区分
•
リスク・マネジメントは危機が起きる前の対応をさすことが多い。
広報(猪狩,2007)
• 「リスク・マネジメント」
– 危機予防や保険によるリスク・ヘッジや平時の広報対応
• 「クライシス・マネジメント」
– 緊急事態が発生した場合の対応を
日本の自然災害対策(廣井,2004)
• 「リスク・マネジメント」
– 事前の対策
• 「危機管理」
– 直後の対策 ※ 英語でいう「クライシス・マネジメント」
– 行政の「危機管理監」「危機管理室」
• 安全にかかわる緊急事態への対処および事態の発生防止
• 主に自然災害や人為災害やテロを対象
– 企業の「危機管理室」
• 自然災害、人為災害とともに、情報漏えいや不祥事対応
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係
広報と「リスク・マネジメント」の関
(3)危機時の広報対応:クライシスコミュニケーション
• 広報とは、Public Relationsの訳語
• 現実に「広報部」「広報担当」があり、狭い意味でこの
組織の仕事を「広報」という場合ももちろんある。
危機時の広報対応:クライシスコミュニケーション
• 事情や対応をメディアを通じ人々に伝えていく広報対応
• クライシス・マネジメントの一つとして、いったん不祥
事対応や危機的問題が起こったときには、直後の対応が
決定的に重要となる。
• 通常のプレスリリースや記者会見とは異なる特殊な広報
の実践。
– 「クライシス・コミュニケーション」と呼ばれる場合がある。
– リスクマネジメントにおける広報対応として重要な業務の一つ。
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係
広報と「リスク・マネジメント」の関
(4)広報と「リスクマネジメント」「クライシスマネジメン
ト」の関係
• 最も広い意味
– 広報とは「リスク・マネジメント」そのものである。長期的な
対応として「CSR」「環境対策」、直後の対応としての
「BCP」
• より一般的な意味
– 事前対応が「リスク・マネジメント」
– 直後の対応が「クライシス・マネジメント」
※ 両者とも広報の中心的な分野。
• 狭い意味
– 危機が生じた直後の広報、不祥事対応や危機的状況における広
報が「クライシス・コミュニケーション」
– リスク・マネジメントにおける広報対応として最も重要な業務
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PR論
第9回 危機管理②:
クライシスコミュニケーション
専任講師 関谷直也
危機管理:クライシスコミュニケーション②理論
今日の内容
1 広告の「リスク・マネジメント」の関係
2「クライシス・コミュニケーション」の心理学
3「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
4 長期的な対応:予防と評判形成
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1
広告とリスク・マネジメント
①タレントの不祥事
• タレント自体がなんらかの問題を起こしてしまったため
に、そのタレントを利用した広告自体を取り下げなけれ
ばならない事例である。
• 2004年、社会保険庁の国民年金保険料の納入をよびかけ
る広報のイメージキャラクターとしてCMに出演してい
た江角マキコが、実際には保険料を納めていなかったと
いうスキャンダル
• 研音が、責任を広告代理店やキャスティ
ング会社になすりつけるような対応をし、
記者会見を時間で区切るなどしたことか
ら、非難が相次いだ。
• 出稿対象となる人々の感覚を熟知してい
るものが広告作成に参画したり、出演タ
レントの綿密な査定など出稿計画におけ
るリスクマネジメントが求められる。
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1
広告とリスク・マネジメント
• グレーのパンツスーツ姿、鎮痛な面持ちで現れた江角は冒頭、深々
と頭を下げ、「私自身は支払っていると思ったので、話を聞いてた
だただ驚いた」と説明。「CMに出演していながら保険料を払って
いないということで、大変ご迷惑をおかけしました。払っていない
ことがわかったので納付いたしました」と述べ、“証拠”として年金
手帳を報道陣に公開した。
• 今回のCM出演にあたっては、広告代理店から納付について問い合
わせがあり、平成14年分の確定申告書をもって納付の証明として
いた。
• 江角は実業団から芸能界入りする際、厚生年
金から国民年金の切り替えを忘れ、2年分の
保険料が未納になっていたが、税理士がこれ
を確認しないまま確定申告していたという。
• 同席した弁護士は「過った申告は平成9年分
までさかのぼる。支払っていない税金は数日
のうちにはきちんと手続きしたい」などと話
したが、会見では江角の社会的責任や「脱税
では」といった厳しい声も相次いだ
ZAKZAK 2004/03/26
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広告とリスク・マネジメント
②広告の失敗
• 広告の内容そのものが過大・誇示広告にあたり
消費者を欺瞞するとして問題となる場合(景品
表示法)
• 広告の内容が差別・侮辱などの問題を含むとさ
れ問題となる場合:人種差別、性差別、
– ハウス食品のインスタントラーメン「シャンメン」
のCMで若い女性と幼い子供が「わたし作る人」若
い男性の「ぼく食べる人」というセリフが性別役割
の固定にあたるという抗議があり、CMが中止され
ることになった。
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広告とリスク・マネジメント
• 典型例は2003年、中国の自動車雑誌に掲載された一汽トヨタ自動車
販売の「ランドクルーザー」や「プラド」の広告が中国への侮辱に
あたるとして問題になった事件である。
• 「ランドクルーザー」の広告は競合他社である東風汽車製のものに
似たトラックを牽引しているものである。
• また「プラド」の広告は「プラド(覇道)、あなたを尊敬しなければ
ならない」というキャッチコピー中国の象徴である石橋の「獅子
像」がプラドにむいて敬礼するというものであった。
• 石橋が盧溝橋をイメージさせるようなものであった。
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広告とリスク・マネジメント
• この広告は中国の製作会社によるものであった
が、トヨタ自動車本社の中国事務所に確認を
とっていなかった。これらは、インターネット
で悪評として広まっていき、発覚した。
• これらは他国への事業進出にあたって文化的背
景の認識や、広告における倫理規範の認識と
いったイッシュー・マネジメントが重要であり、
海外での広告にはきわめて注意を払う必要があ
る。
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広告とリスク・マネジメント
– ベネトンの一連の広告のようにあえて、反人
種差別、反エイズをはじめとして、その議論
自体をも狙って広告が出稿される場合もある、
多くの場合は出稿してから問題となるケース
が多く、文化的意識の違いが大きい海外での
広告などに多く見られる。
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広告とリスク・マネジメント
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広告とリスク・マネジメント
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広告とリスク・マネジメント
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広告とリスク・マネジメント
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広告とリスク・マネジメント
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2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(1)「アンチ・コンプライアンス」の心理-不祥事を起こす
社会心理
• 談合やリベートなど法律を違反するような「不祥事」が、
なぜクライシス・コミュニケーションが必要とされる不
祥事がおこるか。
① 「ウチ」「ソト」の文化
道徳心の高さ、世間体を気にする日本特有の文
化として「公共性の価値観」が「ウチ」でしか
通用しない
• 日本の業務慣行
• 「業界(身内)の常識と異なる行動を取ることこそが、
仲間内の調和を乱す恥ずかしい行為と捉えられる場合が
ある」 「社会人には、市民と組織人・事業者という2
つの立場があるが、日本社会では、消費者や利用者とい
う市民の立場よりも、事業者の一員としての立場での発
想が多いことが、日本の公共性を脆弱なものとしてい
る」 (野口 2005)
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2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(1)「アンチ・コンプライアンス」の心理-不祥事を起こす
社会心理
• 談合やリベートなど法律を違反するような「不祥事」が、
なぜクライシス・コミュニケーションが必要とされる不
祥事がおこるか。
① 「ウチ」「ソト」の文化
道徳心の高さ、世間体を気にする日本特有の文
化として「公共性の価値観」が「ウチ」でしか
通用しない
• 特に日本においては、この「ウチ」に関する意識が「日
本」や「企業」「業界」などのより広い集団までに適用
されるという点について指摘されることが多い。
• 内集団への献身や愛情、相互承認の対象となり、外集団
への差別につながるという点については、世界的に観察
される心理
• 「内部告発」を難しくしている要因でもある。
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2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(1)「アンチ・コンプライアンス」の心理-不祥事
を起こす社会心理
• 談合やリベートなど法律を違反するような「不
祥事」
②遵法性
• 「法令の内容は知っているが常に遵守していて
は本当の仕事はできないという業界内エリート
の意識の一形態」。必要悪として存在。
• 日本社会では、法や規則に対する心理として
「大岡裁き」のような人情を解した法や規則の
運用の仕方に納得する心理がある。
• 規則をその規則どおり厳密に適用するというこ
とを是としない文化。規則には違反していても、
現場を優先 (野口,2005)
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(1)「アンチ・コンプライアンス」の心理-不祥事
を起こす社会心理
②順法性
• 談合やリベートなど法律を違反するような「不
祥事」接待、癒着、リベート、談合、記録改竄
などの業界慣行があり、これを熟知、秘守する
ことが日本で「出世」につながるという慣行
• 内部告発がおこしにくいばかりか、一旦不祥事
が発覚しても組織を守るため「問題隠蔽」「問
題を小さくみせよう」とする意識が働く
• 都合の悪い情報を隠そうとしたり、情報の提供
を小出しにする
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2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(2) 日本人の「安全観」「企業観」―安全と情報公開の心理
• 安全性が問題になるような不祥事や事件・事故のあとに、
科学的な「安全性」を主張しても「安全」は伝わらない。
• 人々は価値観のレベルで「安全に絶対はない」、「人間
に絶対はない」と思っている。
• 安全といわれればいわれるほど、ひょっとしたら何かあ
るのではないか、「安全」ではないのではないかと考え、
「風評被害」や「不買運動」が続く。そう簡単に人々は
「安全」だとは思わない。
• O:157、BSE、鳥インフルエンザ、雪印食品、JCO臨界事
故、続く原子力発電のトラブルなど
• これらの問題は、時間が経つとある程度収まっていく。
この理由は、いつの間にか、人々の意識の中から消えた
だけである。政治家のパフォーマンスでもなければ、
人々が科学的に「安全」と理解したわけではない。
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2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(2) 日本人の「安全観」「企業観」―安全と情報公開の心理
• 人々は何か問題を起こした企業について考えると
き「企業は情報を隠しているはずだ」「うさんく
さい」と思う。
• 事実、問題が次々と発覚していったり、最初の情
報と違うことが後から明らかになっていくという
パターンが多い。
• だからこそ、最初にできるだけ包み隠さず、情報
を公開することが必要である。
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2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(3)「義理」の文化――M&Aの心理学
• 不祥事以外で、企業を危機的状況に陥れる敵対的買収などM&A
– 2005年 ライブドアによるニッポン放送株の買収
– 2005年 楽天のTBSの株式の大量取得
– 2005年 スティールパートナーズのブルドックソースへのTOB
– 2006年 王子製紙が北越製紙に対し、敵対的株式公開買付け
(TOB)
• 株式取得自体は、基本的に株式市場における競争原理に基づき法的妥
当性を持ち、その上で株主の権利を主張している。「資本の論理」
「法の論理」にのっとっている。
• 報道番組やワイドショーでの取り上げられ方をみると、「資本の論
理」「法の論理」と別のことを問題にしている。
• 企業買収という「法の論理」「資本の論理」に基づく行為の是非とは
別に、次元の異なる「心理的」「感情的」な問題が存在。「義理人情
を欠く」行為に対する拒否反応の一端である。
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2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(3)「義理」の文化――M&Aの心理学
①欧米的なM&A、敵対的買収は「日本の風土・文化になじまない」
– 経営陣だけではなく社員も、買収をしかける企業に対して拒絶反応
を示す。これは「日本においては、企業は株主のものというだけで
はなく経営者・社員のもの」という考え方の一端を示している。
– 有り体に言えば「人の家に土足で踏み込んで」という心情。
②「マネーゲーム」への嫌悪感
– 「マネーゲームの一環」「金の亡者」と人情なき「金儲け」は悪印
象を持たれる。買収の当事者もこのような印象をもたれることを避
けようとする。
③「若造ごときが、、、」「新参ものが、、、」
– M&Aを仕掛る企業=IT企業など新興産業、買収計画の中心に若手や
外資系。
– 「ワカモノ」、「ヨソモノ」の考え方と、大企業とそれを率いる年配
者との間には考え方のズレがある。「年功序列」「長幼の序」とい
う制度や文化、年配者が若者と同じ土俵で対等の立場に立つこと、
また「ヨソモノ」への違和感がある。「勉強が足りない」「名前も知
らないやつが、、、」という表現は、この心理の延長線にある。
• だからこそ、M&Aの対象とされる企業は経営陣、社員だけでなく、視聴
者も、マネーゲームやヨソモノへの違和感を示す。それがメディアにお
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ける表象へも反映されるのである。
2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(4)「誠意」の文化――「真実」より「謝罪」を求める心理
• 不祥事や事件・事故の後、重要なことは、「事実」や会社側にとって
の「真実」(たとえば科学的な「安全性」)を伝えることではなく
「謝罪」。
• 2005年JR西日本の尼崎脱線事故
– 原因究明の問題だけではない
– 被害者に対する誠意のない対応
– 「謝罪」がなされないことが問題となった。
• 食品偽装
– 2002年の雪印食品・日本ハム
の牛肉偽装事件
– 産地や品質の偽装表示問題
– 賞味期限問題
– 不二家、白い恋人
• 連日、新聞に謝罪広告が
掲載され続けている。
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2 「クライシス・コミュニケーション」
の心理学
(4)「誠意」の文化――「真実」より「謝罪」を求める心理
• 不祥事や事件・事故の報道で、謝罪会見の映像
– 「何について」の謝罪かの説明が簡単にある
– 謝罪の内容や経緯については、ほとんど報道されない。
– 種々の裁判報道でも、事件の係争点よりも、遺族や被害者に対し
「謝罪をした」かどうかが報道の中心。
– 「謝罪をした」という事実が大事
• 謝罪の方法:①事実を伴うこと
– まず、販売や営業を「自粛」
– トップが「引責辞任」
②「順序」
– 「言い訳」を先にしては反感を買う。
– 「謝罪」から入らなくては
– コミュニケーションが成立しない
• ③「謙虚」な態度
– 「ふてぶてしい」とおもわれたら、
「謝罪」とならない。だから、謙虚
な態度までも求められるのである。
41
3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
(1)映像の「タイプキャスティング」機能
• テレビのニュースでは、社会問題や事件・事故、謝罪など
の抽象的な概念を表現する。しかし、基本的にこれらは、
映像でしか表現できない。抽象的な概念を映像で表すため
には、それを連想させるような「パターン化された映像」
が必要なのである。
• Typecastingとは、ある俳優に同じようなはまり役を当て
はめて、配役を決めることである。このような作用は、映
像技法においても発生する。テレビ・新聞などのマスメ
ディアにおける報道には、ある一定のパターンがある。何
か映像化したいことがあると、その枠に当てはまるように
「パターン化された映像」をつくりこもうとする傾向がみ
られる。
• ある社会問題や事件がおこると、それぞれの事件・事故を
あらわすのにふさわしいシーンを考え、あてはまるような
風景や登場人物や音声(アイコン)を用意し、映像を構成
する。
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3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
殺人事件の記号:事件・事故のタイプキャスティング
• 臨場感
– レッドテープ、救急車、ブルーシート、逮捕シーン、
現場捜査シーン(警察官)、警察署の前でのコメント
• 原因追及(犯人さがし)
– 記者会見映像、再現映像、 時系列表、原因探し(生い
立ち)
• 被害の悲惨さ
– 被害者の写真、葬式、遺影、献花、
• 街の声
– 近隣の人の声(意外性か異常性)、モザイク処理また
は壁にだけ光を当てたインタビュー
• 専門家
– 犯罪心理・精神学者(作田明、影山仁佐)のコメント 43
(1)食品・環境問題
第五福竜丸ビキニ湾被爆と放射能パニック
(非日常の現場)
(権威)
異常さ
(白衣)
(廃棄の現場)
人々・社会への影響の大きさ
(消費)
(被害者)
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(1)食品・環境問題
社会問題化:鳥インフルエンザ
(非日常の現場)
(権威)
異常さ
(白衣)
(廃棄の現場)
人々・社会への影響の大きさ
(消費)
(被害者)
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(1)食品・環境問題
社会問題化:所沢ダイオキシン報道
(非日常の現場)
(廃棄の現場)
(権威)
(被害者)
異常さ
(白衣)
人々・社会への影響の大きさ
(消費)
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3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
健康番組の記号:健康番組のタイプキャスティング
•
•
•
•
•
内容:身近なもの、身近なこと
被験者の少ない擬似実験・具体例
専門家による(専門的ではない)コメント・証言
専門的用語、数値、グラフ
図解
※
※
科学の翻訳
インフォマーシャル
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3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
(1)映像の「タイプキャスティング」機能
• 送り手はこれらが映像化のために必要であることを、ルー
チンワークの中で経験知として知っている。そこに、イデ
オロギーはあまりない。
• これは、マスメディア業界の「経験知」の成熟化、OJTで
しか行われないジャーナリスト教育やルーチンワーク化な
どを原因とする。
• ときに誤報やいわれなき報道被害を生む結果にもなり(松
本サリン事件など)、時に「科学」でないものを「科学
的」たらしめる作用(「あるある大辞典」など)をももっ
ている。メディアの中で「ある事実」を「社会問題」化し
てしまったり、「疑似科学」を「科学」化してしまったり
するのである。裏返せば、これらのシーンが必要なのであ
る。
48
3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
すなわち、不祥事の報道であれば、
–
–
–
–
–
–
–
–
「失言」
「怒りをあらわにしているシーン」
「謝罪として頭を下げているシーン」
「記者会見でのやりとり」
「取材拒否の音声や取材を拒絶する様子」
「その問題となった現場の映像」
「過去の関係者の写真」
「記者会見・関係者の家の前に詰め掛ける
取材陣(メディアラッシュ)の様子」
が必要とされる。メディア関係者は、これら
を必死に集め、報道しようとするのである。
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3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
(2)「イメージストック」作用(井之上,2006)
条件
• 企業努力によって構築された企業イメージの蓄積
• 企業の対策や対応が適切であれば、
• 製品事故などの場合、企業イメージやブランドに対する
信頼感は一般的に低下するが、損失は最小限にとどまる。
• 往々にして、有名な人、企業の場合はニュース価値があ
ると判断してメディアは大きく取り上げ、様々な瑣末な
ことまでも批判の対象となっていく。ただし、対策や対
応が適切であれば、かえって信頼が増すこともある。
• 「イメージストック」の構築のために、環境対策やCSR
活動や地域活動への参加など地道な努力や常日頃のブラ
ンド構築が重要。
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3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
(3)「緊急記者会見」の原則論
• 不祥事や事件・事故が起こった場合、まずクライシス・
コミュニケーションとして求められるのは緊急記者会見
である。
• 日本において、初期に求められるのは道義的、社会的責
任であり、法律的責任ではない。欧米では弁護士を記者
会見に同伴することも多いが、そもそも「道義的」に訴
訟リスクを重視しては反感を買うという点で欧米と異な
る。
• 記者会見の後も、誤報には資料配布などで対応する、
「企業体質」「組織に問題」などまで踏み込んでいると
経営責任につながるので注意が必要。
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3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
(3)「緊急記者会見」の原則論
• 緊急記者会見の5つの原則(電通PR編,2007;猪狩,
2007)。
– 「謝罪表明」「原因究明」「現状説明」「再発防止」
「責任表明」
• 緊急記者会見のセオリー(川野 2007)
– 会見時間を区切らない
個人的見解は話さない
– 専門用語は使わない
感情的な受け答えしない
– 責任転嫁をしない
回答に一貫性を持たせる
– 「ノーコメント」と言わない ウソをつかない
– 情報を小出しにしない 。
• 記者会見の服装
– グレーのスーツ、白シャツ、高価な時計などは身につけ
ない、足を開かない
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3 「クライシス・コミュニケーション」
のメディア論
(3)「緊急記者会見」の原則論
• 不祥事に関する報道がパターン化
– 「緊急記者会見」の原則論などが様々な書物でマニュアル的に
なっている。記者会見に求められているのは「謙虚」な姿勢に
よる「謝罪」。メディアにおける「謝罪」の形式が存在する。
• 緊急時における対応のポイント井之上(2007)
– 「メディアに対する対応は的確かつ迅速にしなければならな
い」
– 「直接被害を与えていなくても、不安を与えたという前提で接
し、誠意ある態度で臨む」
– 「誠意ある態度で事態収拾後の説明に臨む」
– 「従業員への説明を行う」
– 迅速に事実関係を掌握したり、ミスを正直に報告させたりする
ため、根本的にはオープンな環境づくり、社内風土が重要。
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4
長期的な対応:予防と評判形成
(1)長期的な対応:予防と評判形成
• なにか問題のある事象がおこったときのために備えてお
くことも重要であるが、そもそもそのような危機的な状
況が起こらないようにすることも重要である。
• 具体的には、「情報公開」「内部告発」などを前提にし
たコンプライアンス(法令順守)であり、「レピュテー
ション管理」である。
• ①情報公開や内部告発
• 情報公開として、普段からさまざまな事象をつつみ隠さ
ず、ステークスホルダーに対して説明責任を果たすこと
は、現代において社会的責任として重要なことでもある
し、それは広い意味で、不祥事の隠蔽を防止することに
もつながる。ただし、社内において、それらがうまく機
能しなかった場合、たいてい不祥事や事件・事故は内部
告発という形で発覚してしまうことが多い。
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4
長期的な対応:予防と評判形成
(2)長期的な対応:予防と評判形成
• ①情報公開や内部告発
–
–
–
–
–
–
–
–
2000年の三菱自動車工業のリコール隠し
2002東京電力の原子力発電所のトラブル隠し
2002年の雪印食品の輸入牛を国産牛と偽っていた牛肉偽装事件、
2002年日本ハムの牛肉偽装事件も、監督官庁や報道機関への告
発から発覚した。
2006年には不二家の消費期限が切れた牛乳を使用していた事件
2007年には食品加工卸会社「ミートホープ」が豚・鶏などを混
入したミンチ肉を「牛100%」として販売していた問題や賞味期
限の改ざん
2007年石屋製菓「白い恋人」の賞味期限改ざん問題
2007年老舗和菓子メーカー「赤福」の消費期限偽装・再包装・
再加工問題
• 同族経営の弊害として風通しが悪かった点なども指摘
• これらはすべて内部告発から問題が発覚した。
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長期的な対応:予防と評判形成
(2)長期的な対応:予防と評判形成
• ①情報公開や内部告発
• 食品偽装や食品安全がかかわる問題は工場内部ですべて
が行われるものであり、内部告発以外においては発覚す
ることが難しい。
• 「内部告発」を、制度として機能しうるように仕組みを
整えることも、各企業だけではなく、企業における不正
行為防止のため日本全体として重要。
• 2006年に「公益通報者保護法」が制定され、様々な不祥
事が発覚:終身雇用制や雇用流動性が低いため、必ずし
も内部通報者がその後の生活の保障などを受けていると
はいえず、問題を含んでいる。
• だが雇用の流動化などにより、個々人の企業への求心力
は落ちており、今後も内部告発による不祥事の発覚は増
大するものと考えられる。
• 「内部告発」を当たり前と考えて、コンプライアンスに
取り組む姿勢が求められている。
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長期的な対応:予防と評判形成
②レピュテーション管理
• デファクトスタンダードとしての「環境・CSR
活動」
– これらを行わないことは、評判を下げる(他企業と
比べて評判が上がらない)要因となる。
– 長期的にみれば、それは長期的な株式保有の妨げや
SRI(社会的責任投資)による投資の機会の逸失にな
り、かつ、環境汚染、地域住民からの反感、ステー
クスホルダーとの関係性の悪化などを引き起こす遠
因にもなる。
• すなわち「レピュテーション(評判)」が重要
– テレビ・新聞、雑誌といったマスメディア
– ブログや掲示板などのインターネット上の評判
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長期的な対応:予防と評判形成
②レピュテーション管理
• 1999年の「東芝クレーマー事件」
– 1999年、ユーザーが東芝のビデオデッキの修理依頼をしたところ、
東芝側が「お宅さんみたいのはね、お客さんじゃないんですよ、
もう。クレーマーっちゅうのお宅さんはね。クレーマーっちゅう
の」というような暴言を吐くなどした。
– このユーザーが経緯や電話応答の録音音声を「東芝のアフター
サービスについて」と題する自身のウェブページでリアルオー
ディオ形式で公開した。インターネット内外で大きな話題となり、
東芝不買運動へと発展した。
– 東芝側は、売上減少という事態を重く見て、副社長が担当者が不
適切な発言を行った事に対する公式謝罪
– どちらが正当性を有するかというというよりも、何か問題が発生
するとそれがネットを通じて共有されていくこと、企業批判や不
買運動につながっていく契機となってしまうことを知らしめた。
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