Transcript 馬伝染性貧血
馬伝染性貧血 (equine infectious anemia)
動衛研
お
病原体: レトロウイルス科に属する馬伝染性貧血ウイルス(EIAV)は、一本鎖
RNAウイルスで、レンチウイルス属の仲間である。抗原変異を起こし易く、発症抑
制には液性免疫より細胞性免疫が強く関与していると考えられている。
感受性動物: 馬やロバなどのウマ類にのみ感染する。
発生原因: サシバエなどの吸血昆虫により伝搬され、その他に母子の胎盤感染、
乳汁感染も成立する。過去に競馬場や牧場などで見られた競走馬の集団発生で
は、ウイルスに汚染された注射器を使用した事が原因とされるものもある。
臨床症状: 症状から、急性、亜急性および慢性型に分類される。急性型では、2
~4日の潜伏期の後、40℃以上の発熱が1週間以上持続し、貧血、口腔粘膜の
出血斑、黄疸、下肢および下腹部の冷性浮腫などが観察され、死亡する。数日で
解熱し、再度発熱を示す回帰熱に移行すると、亜急性型となる。発熱を示さず、
慢性型に移行する場合もある。慢性型から回帰熱が再燃した場合には、再燃型
と呼ばれる。一般に発熱を繰り返すと、貧血が進行し、回帰性発熱により衰弱死
する馬属の難治性疾患である。
日本獣医師会:馬
予防法: ウイルスの特性上、ワクチンと治療法はまだ開発されていない。吸血昆
虫の駆除、治療器具の滅菌などが本症の感染を予防するうえで重要である。
ヒト免疫不全(エイズ)ウイルス(HIV)
ネコ免疫不全ウイルス (FIV)
サル免疫不全ウイルス (SIV)
ウマ免疫不全ウイルス (EIV)
ウシ免疫不全ウイルス (BIV)
馬伝染性貧血 (EIAV)
BLV : Bovine leukemia virus
HTLV-1 : Human T-lymphotropic virus-1
HTLV-2 : Human T-lymphotropic virus-2
The EIAV particle with
surface projections is
analogous to this squeaky
dog toy. The proteins on the
surface mutate at a high rate
and complicate strategies
for immunization.
培養白血球で増殖するウイルス粒子
吸着・侵入 ⇒
脱殻 ⇒
逆転写 ⇒
DNAの宿主遺伝子
への挿入⇒
ウイルスの複製
(DNA→RNA→蛋白) ⇒
出芽
罹患すると重篤な貧血症状を起こす。まず40℃以上の高熱を発し、
3~4日で解熱後、1週間から10日間隔で同じような発熱を繰り返す
(回帰熱)。それと同時に貧血の程度を増していく。重症例では虚脱
に陥り、死に至る。ウイルスが変異する性質を持つため有効なワクチ
ンがなく、完治は期待できない。よって真症馬の診断が下ると、蔓延
を防ぐため殺処分となる。
中央競馬会
実験感染例: 脾臓とリンパ節の腫大
血液塗沫像:担鉄細胞の出現
発熱を繰り返すとともに貧血の程度が増していくが、貧血は赤血球
が体内で壊されるのと同時に造血機能が衰えるために起こる。壊れ
た赤血球は白血球に貪食され、この白血球のことを担鉄細胞と呼ぶ。
1978年に導入された寒天ゲル内沈降反応以前の診断法は担鉄細
胞を顕微鏡で見つけ出すことによって行っていた。しかしながら、この
細胞は感染馬の血液からいつでも見つかるわけではないため、検査
でかなりの感染馬が見逃されていたものと推測されている。
馬伝染性貧血診断用酵素抗体反応キット
馬伝染性貧血診断用沈降反応抗原
入厩検疫の迅速化と馬伝染性貧血エライザ診断法の開発
Replacement of bone marrow
fat with dark red hemopoietic
tissue (erythroid hyperplasia)
骨髄の脂肪が暗赤色の
組織(赤芽球の過形成)で
置き換わった。
⇒
Enlarged grey red liver showing lobular
pattern and haemorrhage under the capsule.
腫大した灰赤色の肝臓
は小葉に別れ、皮膜下
に出血がある。
FAO: Manual on meat inspection
for developing countries
CHAPTER 6
SPECIFIC DISEASES OF HORSES
2006 1-6
2006 7-12
アイルランドにおける馬伝染性貧血の発生 2006年6月
2007 1-6
2007 7-12
馬伝染性貧血は現在も世界各地で発生している。ワクチン
という決定的予防法がないためである。馬インフルエンザ
等とともに、競馬や馬術競技開催時の障害となっている。
International Portal on Food Safety, Animal & Plant Health
Committee on Sanitary and Phytosanitary Measures - Notification United States - Horses
Type: Notifications
Commodity: Live horses, asses, mules and hinnies
Country: Iceland; United States of America
Cross-Sectoral Issue:
Sanitary and Phytosanitary (SPS) Agreement
Information Source: WTO
自由貿易の障害となる不必要な検疫検査を免除
Publication Date:
Apr 2001
Short Description: (Objective) Animal health APHIS is proposing to
amend the regulations regarding the importation of horses to exempt
horses imported from Iceland from testing for dourine, glanders, equine
piroplasmosis, and equine infectious anemia during the quarantine
period. We believe this action is warranted because Iceland has never
had a reported case of dourine, glanders, equine piroplasmosis, or
equine infectious anemia, and it appears that horses imported from
Iceland would pose a negligible risk of introducing those diseases into
the United States. This action would relieve certain testing requirements
for horses imported from Iceland while continuing to protect against the
introduction of communicable diseases of horses into the United
馬伝染性貧血のOIEへの発生報告の推移
2005
前 後
2006
前 後
2007
前 後
France
Germany
Italy
Romania
UK
Ireland
2005
前 後
2006
前 後
2007
前 後
Canada
USA
Mexico
Panama
Russia
Uzbekistan
Turkey
China
Mongolia
Philippines
Australia
情報なし
過去にも報告なし
この期間に報告なし
擬似症例はあるが未確定
Argentina
Brazil
Bolivia
Colombia
Costa Rica
Cuba
Dominica
Nicaragua
Paraguay
Venezuela
感染はあるが臨床例なし
臨床例を確認
限定地域で感染確認
Hot Zone for EIA (1996)
6
5
5
14
24
2
9
18
11
1
2
30 6
15
32
4
2007年の10万頭当り陽性頭数 (Percent Positive FY 2007)
Since 1978, 92 percent of the test-positive samples have originated from
horses located in what is referred to as the “hot zone”.
USA APHIS
感染の起こり易さ
Different Degrees of Infectiousness
Acute
One-fifth of a teaspoon (one milliliter) of this
horse’s blood contains enough virus to infect 1
million horses.
Chronic Case
One-fifth of a teaspoon of blood from a chronic
case during a feverish episode contains enough
virus to infect 10,000 horses.
Inapparent Carrier
Only one horse fly out of 6 million is likely to pick
up and transmit EIAV from this horse.
To prevent transmission, commingle only test-nagative
horses after suitable quarantine periods and maintain a
separation of 200 yards from horses whose EIA test status is
unknown.
1ヤード=0.91m
伝播の起こり易さ
アブの数が増加(ウマ
サシバエ、シカアブ)
アブがいない/少ない
馬の飼育環境における 乾燥し、樹木が少ない
アブの生息場所(広葉 環境
樹林の湿地)
大型の吸血昆虫が吸
血を中断し、30分以内
に別の馬を吸血する
昆虫の発生時期
小型の吸血昆虫が一
頭の馬で吸血を完了
冬季
未感染馬と感染馬の
混在
感染馬を未感染馬と物
理的に離す
発熱状態の急性また
は慢性の罹患馬が感
染性血液の供給源
不顕性感染馬が感染
性血液の供給源となる
Equine Infectious Anemia: A Status Report on Its Control, 1996
EIA is considered a classic blood-borne infection. People have played an
important role in EIAV transmission over the years by using bloodcontaminated materials on different horses. Although this mode of
transmission was more prevalent before serologic tests to identify EIAV
carriers were available, it is wise for owners and veterinarians to apply the
same universal precautions that are used to reduce the risk of spreading
blood-borne disease agents in humans. 「一頭一針」
Controlling the spread of EIAV involves minimizing or eliminating contact
of horses with the secretions, excretions, and blood of EIAV-infected
horses. This has been effected in most areas of the world by testing and
segregating test-positive horses from those that are test-negative. When
this separation is done, it is imperative to retest the test-negative band at
30- to 60-day intervals until new cases fail to appear. Once the reservoirs
of EIAV are identified, separated, and maintained a safe distance from
other horses, the transmission of EIAV is broken. This sounds easy, but
until all horses are tested, one must assume that each horse is a potential
reservoir of EIAV and take precautions to commingle only with horses
whose background is impeccable, i.e., they come from farms where only
test-negative horses are found and have never been exposed to testpositive horses or other equids. 「隔離」、「非感染群からのみ新規導入」
馬車鉄道
万馬終
頭だ戦
にけ直
、で後
昭百の
和万昭
50 頭 和
年 を 25
に超年
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僅が飼
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万和
2 40 れ
千年て
頭代い
ま初た
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減 マ
は
っに
たは、
農
三
。 用
十
古来、人力に負えない作業をこなすために、馬や牛は様々な方面で使われてきた。農業、輸送、山の木
の切り出し、土木作業、建築、・・・・・
一馬力: ジェームズ・ワットが蒸気機関の能力を示すのに、標準的な荷役馬1頭のする仕事を基準としたことに始まる。
10000
8000
6000
4000
年 2000
間
0
摘
発
頭
数
300
250
200
150
100
50
0
耕
耘
機
の
導
入
8
万
台
戦前は毎年数万頭の軍馬が殺処分され、「伝貧」は
人々から忌み嫌われる病気だった。国内馬総頭数
は、戦前は150万頭前後で維持されていたが、戦後
は1946年の105万頭から1952年には111万頭に達
したが、その後激減した。
飼養頭数の減少とともに、
300万台
発生頭数も減少してきた。
地方競馬での集団発生
新診断法の導入
15 5
1984年以降は陽性馬はな
かったが、1993年に2頭が
摘発された。しかし、それ
以降は発生がない。
4
2
日本における伝貧馬の摘発頭数の推移
馬の用途別輸入頭数
年度
繁殖用
乗用
競走用
肥育用
その他
合 計
1999
248
234
352
3,535
0
4,369
2000
179
201
338
4,130
24
4,872
2001
166
205
353
4,224
13
4,961
2002
117
187
327
4,036
9
4,676
2003
136
129
269
3,658
8
4,200
輸入馬の監視伝染病の摘発状況
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
馬伝染性貧血
0
0
0
0
1
馬パラチフス
2
2
2
0
4
馬ウイルス性動脈炎
2
0
0
0
0
馬鼻肺炎
1
2
0
0
1
日本生物科学研究所 「わが国における重要な馬のウイルス感染症と防疫」
競走馬の殺処分のエピソード:
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
明治以前の日本における獣医療
595 高句麗の僧恵慈来朝、厩戸皇子(聖徳太子)これを師とする。皇子は、侍臣
橘猪弼をして恵慈について療馬の法を学ばせこれを後世に伝えた。
701 大宝律令官位令中に「馬医師」なる字句が見える。同職員令中に左右馬療
に馬医各2人をおくと定められる。
804 硯山左近将監平仲国勅を奉し唐に入り、大延なる者につき馬医の業を学び
多年留学ののち帰朝する。
905 延喜式官制中「馬医寮」なる字句が見える.馬療の官員に年酒を賜る白馬
の節会なるものがある。又馬の薬の条に毎季の馬薬の名および量が記さ
れている。
1267 西阿なる馬医、七郎兵衛忠泰に「馬医絵巻」を伝う。
1557 奥州伊達門士桑島新右衛門尉藤原仲綱(桑島家中興の開山)、弟子赤塚
雅楽助に「療馬図説」なる馬療伝書を与えた。本書には、馬体各部の名称
および灸治の諸法が記されている。
1620 桑島信実が「伯楽病理論」を桑島采女正に伝授した。当時の治療法は、鍼
理、灸治、薬治、呪理および術理の5つの方法を以て行うものとされた。
1680 5代将軍綱吉、四ツ谷に病理厩を設け府内の病馬を悉くここに収容した。
1688 「要馬秘極集」発刊。
1717 大坪本流「武馬必要」巻之五医馬の中に獣医の2字が初めて出る。
1725 幕府は和蘭より馬を輸入し、この際蘭人も来朝した。ケイズル(ケイスリノ
グ)は騎乗,療馬の法をよくし、これを伝授し、日本に11年留る。
戦前の日本における獣医学と軍馬の関わり
1973 (M6)
1875 (M8)
1877 (M10)
1880 (M13)
1885 (M18)
1886 (M19)
1893 (M26)
1895 (M28)
1896 (M29)
1899 (M32)
1906 (M39)
1909 (M42)
1929 (S4)
1930 (S5)
1939 (S14)
1978 (S53)
陸軍省兵学寮,陸軍獣医養成のため馬医生徒を募集
陸軍馬医条例発布
陸軍馬医学会(陸軍獣医学校の前身)設立
札幌農学校で獣医学教育を開始
獣医免許規則公布、大日本獣医会(日本獣医師会の起源)を組織
獣類伝染病予防規則制定
日本獣医学発展史年表
陸軍獣医学校設立
馬匹調査会規則公布
【馬匹(ばひつ)】 馬のこと。「匹」は、
獣疫予防法公布
二つにわれた尻の形。尻を見て、馬を
ロ蹄疫が明治35年まで流行
見わけたことから。 「漢字源」より
内閣直属の馬政局を新設
馬伝染性貧血症予防のため馬政局に臨時馬疫委員会
法律に基づく馬伝染性貧血症の殺処分断行
国際獣疫事務局(OIE)に加盟
鹿児島高等農林学校に
獣医学科設置
馬伝染性貧血症の診断法が担
鉄細胞の検出から寒天ゲル内
沈降反応検査に改められる
近代馬政の時期的区分
馬頭観音(ばとうかんのん/めづかんのん)
仏教における信仰対象であ
る菩薩の一尊。観音菩薩の変
化身の一つであり、六観音の
一尊にも数えられている。梵名
のハヤグリーヴァは「馬の首」
の意である。これはヒンドゥー
教では最高神ヴィシュヌの異
名でもあり、馬頭観音の成立
におけるその影響が指摘され
ている。
転輪聖王の宝馬が四方に
馳駆して、これを威伏するが如
く、生死の大海を跋渉して四魔
を催伏する大威勢力・大精進
力を表す観音であり、無明の
馬頭観音: 頭上に馬頭を戴き、胸前で馬 重き障りをまさに大食の馬の
の口を模した「馬頭印」という印相を示す。 如く食らい尽くすという。
牛頭天王(ごずてんのう)
インドの神で祇園精舎の守護
神である。後に日本の神素盞鳴
尊(スサノオノミコト)と習合した。
単に天王といえば、牛頭天王をさ
すことが多い。
京都祇園の八坂神社(全国の
広峯神社・津島神社・氷川神社)に
祀られ除疫神として尊崇されてい
る。疫病を撒き散らすと同時に親
切に迎え入れた農民に対しては
万病に効く術を授けたとも言われ
ている。
佐脇嵩之『百怪図巻』の「うし鬼」
ヒトと動物の関係学会
獣医学は、様々な動物における病気の予防と治療を
担う専門職である。生きる上で最もやっかいな病気、こ
れを制圧したいという願いは、万人のものである。いや、
全ての命ある生物の願いである。
しかし、生物は生物を食べることによってしか生きられ
ない。ヒトがヒトを食べることは許されないが、ヒトが牛を
食べることは何故許されるのか?
いのちの食べかた
病原体も、35億年前に発生したとされる原始生命体
から進化してきたものであり、我々と共通の祖先を持つ。
排除(100%安全なのですか?)の方向ではなく、共生す
る方向(ワクチン等)を目指すことが大事ではないか?