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小児がん治療の今
子どもにやさしい医療をめざして
順天堂大学小児科・思春期科
小児血液腫瘍グループ
齋藤正博
治療からみたやさしい医療

2000年代の治療の特徴
-Evidence Based Medicineー
これまでに
90年代、移植治療をはじめとして新規治療
開発が盛んであった
 2000年代、治療効果の判定に対して臨床
研究の概念が導入されるようになった
(Evidence based Medicine:EBM)
 新規薬剤の導入や治療法の開発は効果
判定に時間を要するようになり、やや頭打ち
の感がある

2000年代の治療の特徴

同種移植の適応症例の縮小
• ALL:Ph陽性、11q23転座、寛解導入不能、再発
• AML:Low Risk(寛解導入・t(8;21)・WBC<5万や
寛解導入・inv(16))以外の症例
• 神経芽腫では今後取り組まれる?

自家移植の適応症例の縮小
• ALL、AMLではほとんどなし
• 神経芽腫での2回移植の減少

放射線治療の適応縮小
• 除く脳腫瘍
• ALLでは全廃?
2000年代の治療の特徴

新規治療・新規薬剤の停滞(vs成人)
• 分子標的薬
• グリベック(イマチニブ):PhALL、CML
• マイロターグ(ゲムシズマブ):AML
• アルキル化薬
• テモダール(テモゾロミド):脳腫瘍(グリオーマ)
• 代謝拮抗薬
• アラノンジー(ネララビン):T-ALL、T-NHL
• トポイソメラーゼI阻害剤
• トポテシン(イリノテカン):神経芽腫、再発肉腫
Evidence Based Medicine
EBMとは
Evidence Based Medicine
患者のケアに関する意思決定において、
現在ある最良の根拠(evidence)を
十分に理解したうえで、慎重に用いること
 EBMの実践とは様々な研究など外部の臨床
的根拠と一人ひとりの臨床的専門技量を
統合すること

Evidence Based Medicine
簡単に言えば


診断や治療は、ともすれば個人の経験や慣習に
左右されることがよくある
動物実験より類推した論理や権威者の意見により
考察されることもよくある
• 白い巨塔:財前吾郎と医局員達


これらは、しばしば何の根拠もなく行われている
ためよい結果とならないことがある
EBMはこれを回避するため、より客観的な根拠を
集め、効果的で質の高い患者中心の医療を実践
するための事前、事後評価の手段
Evidence Based Medicine

より客観的な根拠を集める方法→臨床研究
• 各施設の倫理委員会の許可が必要

より早く結果を出す
• より多い参加者(患児)が必要
• 全国規模の研究
• 日本では結果が出るのに平均5年ぐらいかる?

患児および両親に説明・承諾が必要
• 病名告知、病気の理解が必要
臨床研究

日本で行われている質の高い根拠作り
• JPLSG
(日本小児白血病リンパ腫研究グループ)
• JNBSG(神経芽腫)
• JRSG(横紋筋肉腫)
• JESS(ユーイング肉腫)
• JWiTS(腎腫瘍)・JPLT(肝芽腫)
• 脳腫瘍コンソーシアム
JPLSG
2003年11月発足
 全国規模で白血病・悪性リンパ腫の治療・
研究を行う
 今後はさらに固形腫瘍の治療にも関わるよう
になる?
 TCCSG・CCLSG・JACLS・KYCCSGは発展
的解消か????

JPLSG
AML・悪性リンパ腫の治療研究継続中
 ALLの統一プロトコールが出来るのは、まだ
まだ先の話・・・・・・

急性リンパ性白血病(ALL)
ALL治療成績の向上(St Jude病院)
急性骨髄性白血病(AML)
急性骨髄性白血病
2006年6月からJPLSG治療研究開始
 世界的な成績は生存率約60%

• AML99:3年生存率78%
• 低リスク87.8%、中間リスク79%、
高リスク58.3%
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫

2004年10月より
• バーキットリンパ腫:生存率70-100%
• 骨髄・中枢神経浸潤は成績が落ちる
• 限局型は2コース程度治療
• リンパ芽球性リンパ腫;生存率80-100%
• ALLと似たような治療
• 大細胞性リンパ腫:生存率60-70%
• 世界共通プロトコールで治療研究中
神経芽腫

国際病理分類INPC、国際病期分類INSSの
導入による世界共通の分類
• 治療成績の比較が可能となる

予後因子は明らかになりつつあるが、リスク
分類は世界で模索中
神経芽腫 治療

低リスク
• 手術のみ、摘出不能例には化学療法

中間リスク
• 情報が少ない、低用量の化学療法

高リスク
• 化学療法・放射線療法・手術・大量化学療法(自
家移植)
• CPM、VCR、THP-ADR、CDDP、VP16
• 90年代からあまり変化はない・・・・・
神経芽腫 研究治療
13-シスレチノイン酸(自家移植後6ヶ月?)
 131I-MIBG

• 日本で数施設のみ可能

GD2抗体を用いた治療
• 1施設程度で研究中
マススクリーニングはどうなった?
1985年から国家事業
 2004年中止へ

• マススクリーニングは進行神経芽腫の早期発見、
予後の改善に寄与しているか?
横紋筋肉腫
化学療法(VAC療法)・放射線療法・手術
 低・中間・高リスクグループに分け、治療研究
が進行中
 高リスクグループに対し自家移植を取り入れ
た(結果の解析はこれから・・・)

横紋筋肉腫 予後(5年生存率)
予後良好群
1)予後良好部位(Stage1)胎児型 94%
2)予後不良部位(Stage2,3)胎児型
完全切除(GroupI)、顕微鏡的残存(GroupII) 93%
予後中間群
1)予後不良部位(Stage2,3)胎児型
残存腫瘍(GroupIII) 83%
2)10歳未満 遠隔転移(GroupIV) 胎児型 59%
3)遠隔転移のない胞巣型 55%
予後高度不良群
1)10歳未満 胎児型を除く、
初診時遠隔転移のある全て 30%以下
ユーイング肉腫
化学療法(VDC+IE)・手術・放射線療法
 予後不良因子

• 体幹部・骨盤発生、15歳以上、腫瘍量>200ml、
腫瘍摘出不完全、遠隔転移、LDH高値、など

5年無病生存
• 転移のない限局例:約60%
• 転移例:40%以下
腎腫瘍・肝腫瘍
治療の改善はほとんどなし
 ウイルムス腫瘍

• 腫瘍摘出、VCR+CPM+ADM、放射線療法

肝芽腫
• CDDP+ADM、腫瘍摘出
• 肝臓全体を占める腫瘍に対し肝移植(保険適応
なし)
脳腫瘍コンソーシアム
参加施設は西日本中心
 髄芽腫・PNET、上衣腫などに対する
治療研究
 脳外科、小児科、放射線科の連携は
うまくいくか?
 晩期障害が一番強い

ちょっと脱線
2000年代何が変わったか
病気の情報量の増加
90年代前半には病気について書いた本すら
ほとんどない
 がんの子どもを守る会などを通じ徐々に情報
量が増える
 2000年に入り、インターネットの普及とともに
爆発的に情報量が増加

• 研究グループのホームページなど
病気の情報量の増加

ICのために病気についての知識を持つ
必要性が増加
• 病気についての専門的な、かつ、一般向けの
講演会が多く開かれる
• 情報の整理も必要
情報伝達速度の増加

インターネットや携帯電話の普及
• 特にメール!
• 世界の情報にアクセス可能

お母さん情報の迅速かつ膨大な情報量
• 医療者の情報が瞬く間にひろがる(いいことも悪いことも)
• 主治医が知る前に子どもの異変が友達から親に伝わる
• 新しい患児-医療者関係の到来か
• オープンかつ医療情報の整理
支持療法からみた子どもに
やさしい医療
支持療法の改善が大きい!?
支持療法
制吐剤
抗菌薬
血管アクセス
社会心理的医療
栄養
経静脈的栄養
放射線療法
幹細胞移植
病理学
化学療法 患児 画像検査
手術
輸血
増殖因子
分子生物学的検査
疼痛管理
看護
歯科医療
小児ライフケア
制吐剤
化学療法にほぼ必発の副作用
 年長児になるほど顕著
 点滴がぶら下がったとたん、嘔吐が始まる
 92年に臨床投与されるようになり、化学
療法中に嘔吐する児はほとんどみられなく
なった
 消化管にある迷走神経末端と第4脳室にある
5-HT3受容体にセロトニンが結合することを
防ぐことにより強力な制吐作用がみられる

輸血
90年代初期より成分輸血が主流となってきた
 94年頃より輸血後ウイルス感染症の予防の
ため、白血球除去フィルターの使用、血液
製剤に放射線照射を行うようになった
 2000年代になると顆粒球輸血も行われるよう
になってきた

小児がん患児の栄養評価と介入は
なぜ必要か
低栄養はがん患者によくおこることである
 低栄養が患児に対して有利に働く病態は
知られていない
 低栄養は化学療法に耐えられなくなり死亡率
を増加させる
 早期に低栄養を見つけることはその後の
強力な栄養支持療法(中心静脈栄養など)を
除くことが出来る

がん治療中の栄養状態の特徴

化学療法や放射線療法を受けている患者は
同年齢の対象と比較して栄養の摂取量が
少ない
• サイトカインの影響→食欲減少
• 化学療法や放射線療法の副作用→
食欲減少、消化器症状、味覚異常
• 精神的なもの→うつから来る食欲減少
経口栄養

食事の変更
• 細菌を減らす、質感の変化、
• 感染症の減少に対する滅菌食の有効性は証明されてい
ない
• やわらかい食事→口内炎で
• 高Mg、高K食→化学療法や抗生剤で喪失が多いとき
• カロリー補助食→がん治療中の体重維持や増加に
• 治療中は塩気の強い濃い味を好む(ジャンクフード)
《小児考慮食の献立》
★小児の献立が朝パンの時と昼食は献立どおり★
食事
入院中の食事は、ストレス発散・気分転換
以上の意味をもつ
 毎日続く、非常に基本的なこと、かつ体に
とって大切なこと

• の、割りにあまり真剣に考えられていない?

食事、この栄養学のみならず文化的なもの
• 各病院で子どもと家族と医療者の戦いは続
く。。。。。
ここで、さらに脱線
疼痛管理
日本では一番対応が遅れているもの?
 採血、腰椎穿刺、骨髄穿刺、全て家族の
参加が可能(なはず)
 人形などを用いた検査の事前説明:プリパ
レーションの実施
 十分で確実な鎮静剤、麻酔剤を用いた処置
(小児専門の麻酔科医はほとんどいない)

社会心理的医療

子どもや家族の心理的・精神的な
支援は重要=児童精神科・臨床心理士の
参加が絶対必要
• 兄弟のケアやグリーフケアを含む
• 家族の一大事件(それは家族を強くする?)

同時に医療スタッフ(看護師や担当医)の
心理的・精神的な支援も必要
• 燃え尽き症候群の防止
• ただでも少ない小児科医で血液腫瘍を志す小児科医
は更に少ない(3年に1人いれば御の字by Dr I)
小児ライフケア

専門の訓練を受けた、病棟で子どもたちの生活を
支援する専門家
• チャイルドライフスペシャリスト(アメリカ)
• ホスピタルプレイスペシャリスト(イギリス)
• 病棟保育士(日本)



子どもたちの側に立ち、検査や治療や入院生活に
伴うストレスや不安などを解消し子どもたちの発育を
支援する
治療が円滑に進むよう子どもと医療者のつながりを
支援する
2000年ごろから日本の病院でも受け入れが始まった
(が、正規の職員と認められているのは極少数)
感染症






発熱性好中球減少は今でも治療に伴う最大の合併症
広域抗菌剤・抗真菌剤などどのように使うかが課題
中心静脈ラインが多くなり、ブドウ球菌などが問題なっ
ている(耐性菌が多い;MRSAなど)
有効性が認められず、二次癌の問題も認められたた
めG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)は使われなく
なってきた
マスクやガウンテクニックなどの感染予防法は施設に
より異なっている
予防の基本は手洗い!
晩期障害





本邦には現在10万人くらいの長期生存者がいると
推定
小児がん経験者は成人の600~1000人に1人
十分なフォローアップ体制があるとはいえない
二次がんの発生率は治療後25年で約5~12%
小児がん経験者の支援、ならびに治療の問題点を
明らかにし、副作用の少ない新しい治療を開発する