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OPTIM
緩和ケアセミナー
ステップ緩和ケア(6)
吐き気の治療と看護のコツ
45分
聖隷三方原病院
ホスピス
緩和ケア認定看護師
鄭
陽
藤本 亘史
Ⅲ 症状マネジメント
3.消化器症状
吐き気の治療の基本
• 吐き気には様々な原因がある
• 原因に応じた適切な治療を検討する
• 原因や病態に応じた薬物療法やケアで
緩和する
吐き気のメカニズム
化学受容器引金帯
(CTZ)
神経伝達物質
ドパミン
ヒスタミン
アセチルコリン
セロトニン
嘔吐中枢
脳皮質
前庭器
消化管
吐き気のある患者で観るべきポイント
【現症・理学所見】
• 嘔気:持続、間欠? 強さとニード(NRS、STAS)
• 嘔吐:ある・なし、回数、嘔吐量(間隔を空けて多量に嘔吐、常に
少量ずつ嘔吐・・・)
• 嘔吐:内容(食物残渣、消化液、便汁、血性、唾液様・・・)
• 随伴症状:頭痛・めまい・耳鳴、腹痛・吃逆・便秘、咳・痰
• 増悪因子:時間(食後、朝)、体動、臭い、薬剤投与との関連
【検査】 今までの検査を振り返って、または必要に応じて追加
↓
原因は何だろう?
吐き気の原因は?
• 消化管通過障害:腫瘍による閉塞、伸展障害、圧排
上部?下部?
完全?不完全?
• 脳腫瘍、脳転移
• 腹部腫瘍、大動脈周囲リンパ節
• 化学療法、放射線療法
• 薬物:オピオイド、ジギタリス製剤、抗うつ薬、キシロカインなど
• 体液異常:高カルシウム血症、腎障害
• 良性消化器疾患:胃十二指腸潰瘍、胆道系感染、膵炎、腸炎
• 良性内耳疾患
事例(1)
50歳 男性
胃がん 食道浸潤
断続的な強い吐き気が改善しない
↓
緩和ケアチームに
症状マネジメント依頼
使用している薬剤:
リンデロン6mg
プリンペラン2A/日
クロルトリメトン2A/日
セレネース0.25A/日
屯用ナウゼリン座薬60mg
消化器症状 Overview
<P.54>
まず評価
・治療できる原因はないか?
・必要に応じて検査
↓
・STEPにしたがった治療
・ケア
↓
・治療目標
-達成されたかを確認
-達成されなければFAQなど
嘔気嘔吐
評価
主な原因
薬剤を見直す
NSAIDs、オピオイド、抗うつ薬、ジギタリス
血液検査
高カルシウム血症、腎障害
腹部検索:身体所見、X線、US、CT等
消化管閉塞、便秘、腹水、胃潰瘍
頭部検索:CT、MRI
脳転移、がん性髄膜炎
<P.54>
事例にもどって・・・
・原因は?
50歳 男性
胃がん 食道浸潤
断続的な強い吐き気が改善しない
↓
緩和ケアチームに
症状マネジメント依頼
使用している薬剤:
リンデロン6mg
プリンペラン2A/日
クロルトリメトン2A/日
セレネース0.25A/日
屯用ナウゼリン座薬60mg
原因検索と評価
原因と考えられる薬剤なし
血液検査
電解質異常なし
腎機能異常なし
理学所見と画像所見
少量の消化液嘔吐
腹部膨満なし
下部消化管の拡張なし、便秘なし
食道下部~噴門部の腫瘍
意識障害や神経症状の出現なし(頭部画像はなし)
吐こ
きれ
気ら
とか
考ら
え上
ら部
れ消
る化
管
狭
窄
に
よ
る
消化器症状 Overview
<P.54>
評価
・食道下部での狭窄
・断続的な強い吐き気
・少量の嘔吐
↓
・STEPにしたがった治療
・ケア
↓
・治療目標
-達成されたかを確認
-達成されなければFAQなど
消化器症状 治療
<P.54>
嘔気嘔吐の治療ステップ
●制吐薬の変更
or他の作用機序
の制吐薬・ステ
ロイドを追加
●病態に合わせた制吐薬の定期投与
・抗ヒスタミン薬
・ドーパミン受容体拮抗薬
・消化管蠕動促進薬
・抗コリン薬
・複数の受容体の拮抗薬
治
療
●原因の治療
●制吐薬の頓用
STEP1
STEP2
STEP3
「吐き気・嘔吐があるとき」(嘔気 1)のパンフを用いて、説明・ケアを行う
STEP1 原因の治療
•原因薬剤の減量または中止
•オピオイド→オピオイドローテーション
•高カルシウム血症→ビスホスホネート製剤
•便秘→排便コントロール
•胃潰瘍→制酸剤
•脳転移→治療適応を検討
STEP1 制吐薬の屯用
考えられる病態
作用機序
<P.56>
薬剤の種類
薬剤
脳転移・癌性髄膜炎
オピオイド
腹腔内腫瘍
前庭神経
迷走神経
抗ヒスタミン薬
トラベルミン
クロルトリメトン
アタラックスP
オピオイドなど薬剤
腎障害
高カルシウム血症
CTZ
ドパミン受容体拮抗薬
セレネース
消化管蠕動亢進薬
ナウゼリン
プリンペラン
抗コリン薬
ブスコパン
複数の受容体の拮抗薬
ノバミン
ジプレキサ
コントミン
オピオイド
消化管蠕動の
肝腫大・腹水による消化管
低下
運動の低下
消化管閉塞
原因が複数または同定で
きない
消化管蠕動の
亢進
複数の受容体
STEP1 制吐薬の屯用
主な中枢性制吐薬
抗ドパミン
D2
抗ヒスタミン
H1
抗コリン
Achm
抗セロトニン
5-HT3
クロルトリメトン
-
○
○
-
トラベルミン
-
○
-
-
ノバミン
○
◎
○
○
○
○
-
△
-
-
◎
-
○
-
△
-
○
○
◎
◎
-
-
-
○
-
○
◎
◎
セレネース
コントミン
ヒベルナ
ヒルナミン
ジプレキサ
ゾフラン
・蠕動を促進して胃内容物を排出し嘔気嘔吐を改善:
ナウゼリン、プリンペラン、ガスモチン
・末梢性の抗コリン作用で蠕動を抑制して嘔気嘔吐を改善:ブスコパン
STEP1 制吐薬の屯用
制吐薬の薬剤選択のポイント
•病態から
•眠気の少ないものから
•効果のあったものを使用
•作用の違いを考えて、変更(または併用)
STEP1 制吐薬の屯用
【吐き気時臨時指示例 1】
①プリンペラン1A注またはナウゼリン坐薬60mg
②トラベルミン1錠またはクロルトリメトン1A注
③ノバミン1錠またはノバミン1A注
【吐き気時臨時指示例 2】
①トラベルミン1錠またはクロルトリメトン1A注
②ノバミン1錠またはノバミン1A注
③セレネース(0.75)1錠またはセレネース0.5A注
*腸蠕動亢進を伴うときはブスコパン1A注
STEP2 病態に合わせた制吐薬の定期投与
吐き気のメカニズム
嘔吐中枢
H1 AChm
D2
5HT3
CTZ
H1 AChm
GABA
前庭器
脳皮質
迷走神経
血液
・腹腔内腫瘍
・消化管閉塞
・オピオイドなど
・腎障害
・高カルシウム血症
前庭神経
・脳腫瘍
・オピオイド
・不安
STEP2 病態に合わせた制吐薬の定期投与
制吐薬の薬剤選択のポイント
•病態から
•眠気の少ないものから
•頓用で効果のあったものを使用
•作用の違いを考えて、変更または併用
STEP2 病態に合わせた制吐薬の定期投与
【定期処方例】
単剤指示例)P.57に
併用指示例)
•ナウゼリン錠+トラベルミン錠 毎食前
•トラベルミン錠 毎食前 +セレネース錠 眠前
•プリンペラン2A+クロルトリメトン2A 点滴内混合
•クロルトリメトン4A+セレネース0.5A 点滴内混合
事例にもどって・・・
・原因の治療は可能か?
・対応は?
50歳 男性
胃がん 食道浸潤
断続的な強い吐き気が改善しない
↓
緩和ケアチームに
症状マネジメント依頼
使用している薬剤:
リンデロン6mg
プリンペラン2A/日
クロルトリメトン2A/日
セレネース0.25A/日
屯用ナウゼリン座薬60mg
事例にもどって・・・
STEP1-2
STEPの選択肢
この患者さんの選択肢
STEP1
・原因の治療
・癌そのものへの治療は困難
・ステロイド効果なし(STEP3)
・制吐薬の屯用
STEP2
・病態に合わせた
制吐薬の定期投与
プリンペラン2A/日
クロルトリメトン2A/日
セレネース0.25A/日
・ナウゼリン、プリンペランの効果が△。
違う制吐薬を考えよう。
・眠気は無いので制吐薬の増量をしよう。
+ドレナージ目的で経鼻胃管留置。嘔気出
現時だけでなく定期的にこまめに吸引した。
対応例:
【定期制吐薬】
・「蠕動促進薬の効果が△」「眠気が無い」のでクロルトリ
メトン2A→4A/日に増量
・効果が無ければ他剤の追加:ノバミン、セレネース増量
【経鼻胃管留置】
腫瘍の部位や伸展性の消失で消化管容量が少ない場合
には、少量の貯留で吐き気が誘発されドレナージが有効
に効かないので管理の工夫が必要
【吐き気時指示】
①経鼻胃管の吸引
②クロールトリメトン1Aまたはノバミン1A静注(有効な方
1日3回まで)
③コントミン2.5mg皮下注(1日2回まで)
事例にもどって・・・
・STEP1-2後の経過は?
50歳 男性
胃がん 食道浸潤
断続的な強い吐き気が改善しない
↓
緩和ケアチームに
症状マネジメント依頼
↓
・制吐薬調整+NGチューブからの
少量ずつの吸引で症状は軽減
・眠気が出現
*吃逆もあり、眠りの確保も兼ねて
ワコビタール座薬50mgも併用していた
事例にもどって・・・
・吐き気と眠気のバランスは?
制吐剤調整後に眠気が出現
↓
患者は吐き気はSTAS1に軽減し
眠気は不快ではなく許容できる範囲
医療者「眠気強すぎるみたいですかね~」
本人「いや、眠れる方が楽だからこれでいい」
事例(1)のまとめ
50歳 男性
胃がん 食道浸潤
断続的な強い吐き気が改善しない
↓
上部消化管狭窄による吐き気
↓
・経鼻胃管を挿入し定期的に吸引する
ことで容積が少ない部位での有効な
ドレナージを心がけた
・難治性の嘔気嘔吐となる場合が多く、
制吐薬による眠気が患者にとって苦痛
かどうかを確認しながら調整を行った
事例(2)
67歳 女性
盲腸癌 腹膜転移
右半結腸術術後
数日前より腹部膨満感と嘔吐
吐き気時屯用はプリンペラン
間欠胃管吸引で茶色液を多量に吸引
腹痛を伴いペンタジンで対処中
在宅希望
↓
緩和ケアチームに
症状マネジメント依頼
レントゲン
消化器症状 Overview
<P.54>
まず評価
・治療できる原因はないか?
・必要に応じて検査
↓
・STEPにしたがった治療
・ケア
↓
・治療目標
-達成されたかを確認
-達成されなければFAQなど
原因検索と評価
理学所見
便汁様の大量吐物
腹部膨満
蠕動亢進に伴う腹痛
少量の排便排ガスはある
腹部X線、腹部CTの確認
小腸ガス
ニボー形成
便秘なし
既往
麻痺性イレウス既往なし
これらから腹膜転移による
下部消化管の不完全閉塞
による症状と考えられる
一応基本に戻って他の部分も見直しを!
•新たな薬剤の投与や原因と考えられる薬剤なし
•電解質や腎機能の異常なし
•意識障害や神経症状の出現なし(頭部画像はなし)
消化器症状 Overview
<P.60>
消化管閉塞による嘔気嘔吐へ
↓
評価
・麻痺性イレウス、便秘は否定的
・腸蠕動は亢進し腹痛を伴う
・下部消化管での不完全閉塞
↓
・STEPにしたがった治療
・ケア
↓
・治療目標
-達成されたかを確認
-達成されなければFAQなど
消化器症状 治療
消化管閉塞による嘔気嘔吐の治療ステップ
●制吐薬
●サンドスタチン
±ステロイド
治
療
●消化管蠕動促進薬
(プリンペラン)
●輸液 1000mL+異常喪失量
●鎮痛(NSAIDs、オピオイド、ブスコパン)
●消化管ドレナージ(経鼻胃管など)
STEP1
STEP2
STEP3
「吐き気・嘔吐があるとき」(嘔気1)のパンフを用いて、説明・ケアを行う
STEP1~3
輸液
1000ML/日+嘔吐量(異常喪失量)が目安
•2000ML/日以上の輸液は腹水、胸水、浮腫を
増悪させることが多い
•体液過剰兆候が出てくれば減量
参考:日本緩和医療学会「終末期がん患者に対する輸液治療のガイドライン
http://www.jspm.ne.jp/
STEP1~3
鎮痛
持続痛:疼痛の治療ステップに従って
蠕動痛:ブスコパンを併用
• オピオイドの選択:
通過を維持する方向で考えるのなら
腸管運動抑制の少ないフェンタニルを使用
通過改善よりも鎮痛を優先するならモルヒネを
• サンドスタチンも鎮痛になりうる
STEP1~3
消化管ドレナージ
• 下部消化管閉塞では、輸液やサンドスタチンな
どの薬物療法で吐き気の緩和が可能で、ドレナ
ージが必要にならない例も多い。またドレナージ
が必要であってもイレウスチューブでなく経鼻胃
管でもOK。
• 外科的対応
• 胃ろう、PTEG(経頚部食道胃管挿入術)
• 病態だけでなく患者の価値観に応じた目標設定
が必要
STEP1 消化管蠕動促進薬
完全閉塞または蠕動痛
あり
なし
•動かして通過改善を
狙う方針なら使用
•使用しない
制吐剤や下剤などの腸蠕動を促す薬剤
は中止に(プリンペラン、ナウゼリン、ガス
モチン、パントール、ラキソベロン、プル
ゼニドなど)
STEP2 サンドスタチン
• 作用機序:
消化液分泌抑制→腸管伸展減少
嘔吐減少
嘔気減少・腹痛減少
• 上部消化管閉塞でも試してみる
分泌される消化液量が下部と比較し少ない
ために効果が表れにくいと考えられるが、
ときに有効な場合がある
STEP2 サンドスタチン
対象数
デザ
イン
治療
効果
Mercadante S
SCC 2000; 8:
188-191
18名
RCT
幽門狭窄は
除外
サンドスタチン300ug/日
vs. ブスコパン60mg/日
サンドスタチンが有意に有効
嘔気(2日後):
1.5→0.4 vs. 2.0→1.7
嘔吐(2日後):
5.5→0.4 vs. 5.3→2.8
Mystakidou K
Anticancer
Res 2002; 22:
1187-1192
38名
サンドスタチン600-800ug
+コントミン15-25mg /日
vs. ブスコパン60-80mg
+コントミン15-25mg/日
サンドスタチンが有意に有効
嘔気(2日後):
-93% vs. –86%
嘔吐(2日後):
-82% vs. –67%
RCT
サンドスタチンは下部消化管閉塞に対して
ブスコパンと比較し有意に有効
STEP2 ステロイド
• 作用機序
抗炎症作用による閉塞部位の浮腫の軽減
対象数
デザイン
治療
効果
Hardy J
Palliat Med
1998; 12: 437442
39名
RCT
デカドロン16mg vs.
Placebo
のクロスオーバー
×5日
イレウスの解除は
全体の54%
そのうち…
デカドロン62% vs.
Placebo 38%
Laval G
Palliat Med
2000; 14: 3-10
58名
RCT
プレドニゾロン群 vs.
Placebo
×3日
イレウスの解除
68% vs. 33%
研究デザインや統計処理は不十分だが
ステロイドは有効な傾向
事例にもどって・・・
・対応は?
事例
67歳 女性
盲腸癌 腹膜転移
右半結腸術術後 化学療法中
数日前より腹部膨満腹感と嘔吐
吐気時屯用はプリンペラン
間欠NG吸引で茶色液を500ML吸引
腹痛を伴いペンタジンで対処中
在宅希望
↓
緩和ケアチームに
症状マネジメント依頼
事例にもどって・・・
STEPの選択肢
STEP1-2
この患者さんの選択肢
STEP1~3
・輸液
・高カロリー輸液 2000ML/日:浮腫や胸腹
水はなくこのままで良さそう
・鎮痛
・ペンタジン15mg筋注屯用 2-3回/日:痛み
が続いており新たな対処が必要
・消化管ドレナージ
・嘔吐350ML+NG挿入で500ML/24時間
ありその後症状が軽減したため抜去された
STEP1
・蠕動促進薬
STEP2
・サンドスタチン
・ステロイド
・プリンペラン+パントール各2AがIVHに混
合:蠕動痛があり中止
・下部消化管での通過障害なので始めよう
・感染繰り返してる、多発狭窄で効果乏しそ
う→使用せず
対応例
治
療
目
標
・症状マネジメントを行って退院;なるべく簡便な薬剤使
用
・わずかな通過は保たれており、スープ程度の少量の
経口摂取希望があり、通過を維持したい;鎮痛剤の
ベースはフェンタニルで
1)入院中にフェンタニール+早送りではじめて量が決
まればデュロテップパッチ+アンペック坐薬屯用に変更
プ 2)イレウスに対する治療としてサンドスタチンを開始
ラ 3)蠕動痛が強いのでプリンペラン+パントールを中止
ン
↓
・イレウス症状が強まってフェンタニルだけで鎮痛がで
きなくなれば、サンドスタチンのシリンジェクターにモル
ヒネを少量から追加
処方例:サンドスタチン
サンドスタチン3A+生食47ML/合計50mL持続注
投与方法:クーデックシリンジェクター2ML/時
他に・・・
•維持輸液内に混合し持続静注
•バクスターLV1.5で1週間分持続注
•1A+生食100ML×3/日 1時間かけて
★高カロリー輸液への混合は効果が減弱する
可能性がある
STEP1-2までで対応できないときは・・・
事例(2)
67歳 女性 盲腸癌 腹膜転移
在宅で過ごしていたが
腹痛増強と嘔吐で再入院
使用している薬剤:
デュロテップ10mg
モルヒネPCA15mg/回
サンドスタチン3A/日
原因検索と評価
理学所見
便汁様吐物
腹部膨満
蠕動亢進に伴う腹痛
腹部X線、腹部CT
消化管のびまん性拡張
胸水、腹水の出現
一応基本に帰って見直しはしましょう
•薬剤
•電解質、腎機能
•神経症状
腹膜転移による狭窄症状
の進行(閉塞)
消化器症状 治療
消化管閉塞による嘔気嘔吐の治療ステップ
●制吐薬
●サンドスタチン
±ステロイド
治
療
●消化管蠕動促進薬
(プリンぺラン)
●輸液 1000mL+異常喪失量
●鎮痛(NSAIDs、オピオイド、ブスコパン)
●消化管ドレナージ(経鼻胃管など)
STEP1
STEP2
STEP3
「吐き気・嘔吐があるとき」(嘔気1)のパンフを用いて、説明・ケアを行う
事例にもどって・・・
STEPの選択肢
STEP1-3
この患者さんの選択肢
STEP1~3
・輸液
・高カロリー輸液 2000ML/日:悪液質進行
や胸腹水出現があり減量が妥当だろう
・鎮痛
・イレウス症状が強まっており、通過よりも
鎮痛が優先される。モルヒネPCAの効果あ
るのでモルヒネを増量しよう。
デュロテップ10mg
モルヒネPCA15mg
・消化管ドレナージ
・サンドスタチン使用していても腸液が貯留
してきているためとりあえず胃管
STEP1~2
サンドスタチン3A/日
STEP3
・制吐剤
(対応済)
・ドレナージをしても吐き気が残れば制吐剤
調整は必要になるだろう
対応例:
•輸液を1000ML/日に減量
•モルヒネ持続注を増量
•胃管留置(ドレナージ後に一旦抜去)
•ノバミン頓用が効果あったのでノバミン2A/日
を点滴内に混合
上記をやったうえで症状が悪化したら・・・
•適宜ドレナージの検討
•クロールトリメトン追加
•セレネース追加
•コントミン1/10-1/5Aから眠前に点滴
事例(2)のまとめ
67歳 女性
盲腸癌 腹膜転移
右半結腸術術後 化学療法中
数日前より腹部膨満腹感と嘔吐
吐気時屯用はプリンペラン
間欠NG吸引で茶色液を500ML吸引
腹痛を伴いペンタジンで対処中
↓
下部消化管狭窄閉塞による吐き気
↓
・サブイレウス症状に対する蠕動促進薬の見直しと鎮痛剤調整
・サンドスタチン使用による嘔気嘔吐の軽減
・経鼻胃管によるドレナージと中枢性制吐薬の調整
今日のまとめ
• 嘔気・嘔吐には様々な原因がある
• 原因に応じた適切な治療を検討する
• 原因や病態に応じた薬物療法やケアで緩和
する
• 上部消化管閉塞では、胃管の管理の工夫が
症状緩和につながる
• 下部消化管閉塞では、胃管がなくても苦痛緩
和できる場合が多い
• 中枢性制吐薬では、眠気と吐き気のバランス
を患者の意向をふまえながえら調整する
ワンポイント
吐き気に対する看護のコツ
1)特徴を把握する
2)日常生活への影響を確認する
3)患者の認識・体験を確認する
(患者自身の対処方法を確認する)
4)上記を踏まえて対処する
(患者・家族と目標の設定を共有し対処する)
吐き気への看護のコツ
1)特徴を把握する
・がん患者の約5割が亡くなるまでに体験する
・消化管疾患・腫瘍がなくとも生じる
・吐き気の原因・機序の理解が重要である
・吐き気の機序にあわせた薬物を選択する
・消化管閉塞の吐き気は上部閉塞・下部閉塞で
対応が異なる
・消化管閉塞の吐き気に胃管は有効であるが
患者の認識・希望に応じた対応が重要である
吐き気への看護のコツ
2)日常生活への影響を確認する
*摂食・栄養
*清潔(特に口腔)
*楽しみ
*睡眠
*運動
少数回の場合は耐えられるが
持続する場合には耐えられない
食べれないことの辛さは
楽しみや生きる意欲を奪う
吐き気への看護のコツ
3)患者の認識・体験を確認する
「吐いても食べたい」
「食べることで病気と闘っている」
「食事はみるのも嫌」
「食べれなくても点滴があれば良い」
「鼻から管が入ったら最後」
吐き気は主観であり 体験した患者にしかわからない
患者の認識・体験を知ることがケアの近道になる
吐き気への看護のコツ
4)対処する
①口渇への対処
②環境整備
③食後の体位
④制吐剤使用の選択
⑤胃管の挿入・管理
⑥家族ケア
①口渇への対処
口腔内を定期的に観察する
(口腔内の刺激を避けている場合が多い)
乾燥 汚染 感染
■乾燥を防ぎ 唾液の分泌を促す
・氷片、濡れガーゼ、水溶性潤滑剤 オーラルバランス
ウエットケア
・室内の乾燥が強ければ加湿器を使用する
■汚染・感染の予防と対処
・舌苔の評価と除去 疼痛の有無
・ステロイド使用時にはカンジタ症の有無と定期的な評価
・口臭予防 入れ歯の手入れ 齲歯 歯周病
セルフケアの指導が重要
②環境調整
③食後の体位
④‐1 制吐剤の使用の選択
臨床症状
・動くと悪化する
・めまいを伴う
考えられる病態
作用機序
薬剤の種類
脳転移・癌性髄膜炎、 前庭神経の刺
激
オピオイド
抗ヒスタミン薬
・持続的な嘔気・嘔吐 オピオイドなどの薬剤、
化学受容体
・オピオイド血中濃度 高カルシウム血症、
(CTZ)の刺激
腎障害
に合わせて増悪
ドパミン受容体
拮抗薬
・食後に増悪
・便秘
オピオイド、肝腫大・
腹水による消化管
蠕動の低下
消化管蠕動の
低下
・蠕動痛がある
消化管閉塞
消化管蠕動の
亢進
抗コリン薬
・原因が複数、もしくは同定できない
複数の受容体
複数の受容体
拮抗薬
消化管蠕動
亢進薬
薬剤の種類はステップ緩和ケア P56~57 参照
④‐2 制吐剤の使用の選択
・患者の日常生活に焦点をあてて症状をアセスメントする
患者と共に家族からも情報収集する
・薬剤使用による患者体験・認識を確認する
・制吐剤の副作用と対策を説明する
特に眠気・錐体外路症状には十分な観察が必要
「眠気はうとうとして、ちょうどいいぐらいですか?それとも、不快な感じですか?」
パーキンソニズム (手の振るえ 流涎 前傾姿勢 仮面様顔貌)
アカシジア (静坐不能症)を生じる
症状イコール薬剤だけではなくケアを融合させる
⑤胃管の挿入・管理
■ 胃管の適応なのか判断するために
病態を把握する
優勢な臨床症状
薬物療法の効果
上部消化管閉塞
嘔気・嘔吐
不良。制吐のために、ドレナージが必要な
ことが多い
下部消化管閉塞
腹部膨満、疼痛
ドレナージを使用せずに、苦痛を緩和でき
る場合が多い
⑤胃管の挿入・管理
■胃管挿入の拒否
ルーチンに胃管挿入を勧める前に
「なぜ拒否しているか」を知る
・患者にとっての「嘔吐や胃管」の意味を知る
「最も好む対処」
「このまま病気が進んでいくだけ」
「管が入ったらもう抜けない」
・患者の体験・認識を理解することは
看護者ができるケアの糸口になる
⑤胃管の挿入・管理
■胃管を使わずに嘔吐することを好む患者
吃逆、胸焼け、上腹部の膨満感、飲水後など
嘔吐の傾向をアセスメントする
嘔気が助長されないように不快な臭いを避ける
・体位や換気など環境整備の強化する
・吐物をすばやく処理する
ガーグルベースン ビニル袋 タオルなど準備しておく
⑤胃管の挿入・管理
■胃管の間歇的挿入と種類
・胃管=留置ではなく
症状の強い時や夜間だけなど工夫する
・吐物の性状にあわせた胃管の種類を選択する
粘稠度が低ければできるだけ細い径にもの
8~10Fr ファイコンE‐7 経腸用など
⑤胃管の挿入・管理
■胃管挿入中の飲水・摂食の希望
・胃管=絶飲食と決め付けない
「胃管が入っているから飲水できる」場合が多い
・患者の希望や気持ちを理解しようとする姿勢
「飲めば少しでも栄養になる」
現実を押し付けるのではなく希望を支持する
・飲水・摂食の形態
かき氷・炭酸→爽快感
スープや流動食など温かいもの→充実感
するめなど噛んで出す→楽しみ
⑤胃管の挿入・管理
■胃管挿入中の鼻の痛み・入れ替え
・胃管が鼻孔に密着させないように毎日固定部を変える
(下向き固定 アダプターの使用)
・胃管を軟かく細いものに変更する
・胃管の持続挿入が必要か確認する
(例:排液がないのに挿入されている)
・胃管を抜去するためにソマトスタチン・ステロイド使用や
輸液減量などを行ったか確認する
・PEGやPTEG の適応があるか担当医に確認する
⑤胃管の挿入・管理
■胃管挿入中でも嘔吐する
・ルートの閉塞の確認
(吐物が粘稠・血液混じりは詰まりやすい)
・著明な肝転移により胃が圧迫される・胃全摘後などで
内腔がない場合(わずかな容量でも嘔吐する)
・咽頭刺激・臭気によるもの
・側臥位・セミファラー位などで誤嚥を防ぐ
・前駆症状の観察(吃逆・時間間隔など)
嘔吐前に胃管吸引や薬剤投与など工夫する
⑥家族のケア
■ 家族も患者が吐いたり・食べられないことに
不安を感じている
・「この先、いつになったら食べられるのか」
「もどすのが辛そうだが何もしてやれない」
家族も苦しんでいることを理解する
・家族の認識や希望を確認する
・家族と患者の状態や変化を密に情報交換する
・家族に協力できることを提案する
(口腔ケアや患者の好みに合わせたジュースなどを
ブロックアイスにして差し入れもらうなど)