Transcript 意思決定会計論A_10
意思決定会計論A 第10回、第11回 戦略的意思決定と管理会計 2 戦略的意思決定とは Strategic decision 企業環境にかかわらせた経営の基本構造の変 革を伴う随時的な意思決定 多角化戦略、拡張戦略,M&A、財務戦略、国 際戦略など 意思決定会計論A 3 戦略的意思決定の必要性 企業の生産(ないしサービス)能力の変革を伴 う 諸資源の投資が必要で、意思決定の効果が長期で 、変更が困難 投資から得られる利益が実現するまでに長期 を要するのが普通 資本コストが考慮されなければならない 意思決定会計論A 4 戦略的意思決定に必要な情報 内部、外部の環境に関する的確な情報 利用可能な資金、自社の技術力、生産能力、競争 会社の状況、顧客の動向など 競争会社への影響と市場の反応 新製品の導入が競争会社に及ぼす影響、予想され る市場の反応などの情報 過去の類似環境について対応の方法、実績、 かかわり方 目標水準と予想される成果との関係 意思決定会計論A 5 設備投資意思決定 設備資産に関する資本支出の計画 資本予算として実施される 意思決定会計論A 6 設備投資意思決定の特徴 経済性計算は、投資プロジェクトを会計実体と して実施する 発生主義会計の収益・費用ではなく、未来の予 想キャッシュ・フローで評価する 計算期間は、投資の開始からその効果がなくな るまでの間 投資金額が比較的大きく、投資を行う前に十分 な検討が必要 意思決定会計論A 7 設備投資意思決定における 基礎概念 キャッシュ・フロー(現金流出入額) 原投資額 年々の増分利益 処分時の正味増分キャッシュ・フロー 減価償却費と経済命数 資本コスト 現在価値概念 意思決定会計論A 8 キャッシュ・フロー 未来増分原価、未来増分収益 原投資額 キャッシュ・アウトフロー 通常初年度一括投資 年々の増分利益 キャッシュ・インフロー キャッシュ・インフロー=税引後利益+減価償却費 処分時の正味増分キャッシュ・フロー キャッシュ・インフロー 残存資産の処分から 意思決定会計論A 9 減価償却費と経済命数 キャッシュ・フローには、減価償却費は含めない 税金の計算には、減価償却費を含める 耐用年数は法定耐用年数ではなく、経済命数 を用いる 経済命数は、投資案がキャッシュ・フローを生み 出す期間 意思決定会計論A 10 資本コスト cost of capital 資本の利用から生じる価値犠牲のこと 現在価値に割り引くための割引率 投資案の採否を決定するための切捨率 銀行からの借入 社債の発行 → 新株の発行 → 利益の留保 → → 利息 利息 配当金 他に投資した場合の利益 意思決定会計論A 11 平均資本コストの求め方 加重平均コスト 調達源泉ごとの資本コストを、 その構成比率によってウエイトづけして 平均を求める 意思決定会計論A 12 資本コストの計算例 借入金 社債 70億円(6%) 50億円(8%) 資本源泉 金 資本金 60億円(10%) 内部留保 20億円(12%) 額 資本構成 平均資本コスト コスト率 借 入 金 70億円 35% × 6% = 2.1% 社 債 50億円 25% × 8% = 2.0% 資 本 金 60億円 30% × 10% = 3.0% 内部留保 20億円 10% × 12% = 1.2% 200億円 100% 合 計 8.3% 意思決定会計論A 13 現在価値概念 将来の1万円は現在の1万円に比べて、利子分 だけ少なくなる 利子が年10%だとすると 現在の1万円は、1年後1.1万円になる 1年後の1万円は、現在9,091円である 9,091円×(1+0.1)≒10,000円 逆に 10,000円÷(1+0.1)≒9,091円 意思決定会計論A 14 現在価値の求め方 現在価値= 未来価値 年数 (1+利子率) 10,000円の現在価値(利子率10%) 0年 1年 2年 3年 4年 10,000 9,091 8,264 7,513 6,830 5年 6,209 10,000円の現在価値(利子率20%) 0年 1年 2年 3年 4年 10,000 8,333 6,944 5,787 4,823 5年 4,019 意思決定会計論A 15 複利現価係数表 1 n (1+r) n\r 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1% 0.9901 0.9803 0.9706 0.9610 0.9515 0.9420 0.9327 0.9235 0.9143 0.9053 2% 0.9804 0.9612 0.9423 0.9238 0.9057 0.8880 0.8706 0.8535 0.8368 0.8203 3% 0.9709 0.9426 0.9151 0.8885 0.8626 0.8375 0.8131 0.7894 0.7664 0.7441 4% 0.9615 0.9246 0.8890 0.8548 0.8219 0.7903 0.7599 0.7307 0.7026 0.6756 5% 0.9524 0.9070 0.8638 0.8227 0.7835 0.7462 0.7107 0.6768 0.6446 0.6139 6% 0.9434 0.8900 0.8396 0.7921 0.7473 0.7050 0.6651 0.6274 0.5919 0.5584 7% 0.9346 0.8734 0.8163 0.7629 0.7130 0.6663 0.6227 0.5820 0.5439 0.5083 8% 0.9259 0.8573 0.7938 0.7350 0.6806 0.6302 0.5835 0.5403 0.5002 0.4632 9% 0.9174 0.8417 0.7722 0.7084 0.6499 0.5963 0.5470 0.5019 0.4604 0.4224 10% 0.9091 0.8264 0.7513 0.6830 0.6209 0.5645 0.5132 0.4665 0.4241 0.3855 n\r 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11% 0.9009 0.8116 0.7312 0.6587 0.5935 0.5346 0.4817 0.4339 0.3909 0.3522 12% 0.8929 0.7972 0.7118 0.6355 0.5674 0.5066 0.4523 0.4039 0.3606 0.3220 13% 0.8850 0.7831 0.6931 0.6133 0.5428 0.4803 0.4251 0.3762 0.3329 0.2946 14% 0.8772 0.7695 0.6750 0.5921 0.5194 0.4556 0.3996 0.3506 0.3075 0.2697 15% 0.8696 0.7561 0.6575 0.5718 0.4972 0.4323 0.3759 0.3269 0.2843 0.2472 16% 0.8621 0.7432 0.6407 0.5523 0.4761 0.4104 0.3538 0.3050 0.2630 0.2267 17% 0.8547 0.7305 0.6244 0.5337 0.4561 0.3898 0.3332 0.2848 0.2434 0.2080 18% 0.8475 0.7182 0.6086 0.5158 0.4371 0.3704 0.3139 0.2660 0.2255 0.1911 19% 0.8403 0.7062 0.5934 0.4987 0.4190 0.3521 0.2959 0.2487 0.2090 0.1756 20% 0.8333 0.6944 0.5787 0.4823 0.4019 0.3349 0.2791 0.2326 0.1938 0.1615 会計学総論B 16 年金現価係数表 n (1+r) -1 n r(1+r) -n 1-(1+r) r n\r 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1% 0.9901 1.9704 2.9410 3.9020 4.8534 5.7955 6.7282 7.6517 8.5660 9.4713 2% 0.9804 1.9416 2.8839 3.8077 4.7135 5.6014 6.4720 7.3255 8.1622 8.9826 3% 0.9709 1.9135 2.8286 3.7171 4.5797 5.4172 6.2303 7.0197 7.7861 8.5302 4% 0.9615 1.8861 2.7751 3.6299 4.4518 5.2421 6.0021 6.7327 7.4353 8.1109 5% 0.9524 1.8594 2.7232 3.5460 4.3295 5.0757 5.7864 6.4632 7.1078 7.7217 6% 0.9434 1.8334 2.6730 3.4651 4.2124 4.9173 5.5824 6.2098 6.8017 7.3601 7% 0.9346 1.8080 2.6243 3.3872 4.1002 4.7665 5.3893 5.9713 6.5152 7.0236 8% 0.9259 1.7833 2.5771 3.3121 3.9927 4.6229 5.2064 5.7466 6.2469 6.7101 9% 0.9174 1.7591 2.5313 3.2397 3.8897 4.4859 5.0330 5.5348 5.9952 6.4177 10% 0.9091 1.7355 2.4869 3.1699 3.7908 4.3553 4.8684 5.3349 5.7590 6.1446 n\r 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11% 0.9009 1.7125 2.4437 3.1024 3.6959 4.2305 4.7122 5.1461 5.5370 5.8892 12% 0.8929 1.6901 2.4018 3.0373 3.6048 4.1114 4.5638 4.9676 5.3282 5.6502 13% 0.8850 1.6681 2.3612 2.9745 3.5172 3.9975 4.4226 4.7988 5.1317 5.4262 14% 0.8772 1.6467 2.3216 2.9137 3.4331 3.8887 4.2883 4.6389 4.9464 5.2161 15% 0.8696 1.6257 2.2832 2.8550 3.3522 3.7845 4.1604 4.4873 4.7716 5.0188 16% 0.8621 1.6052 2.2459 2.7982 3.2743 3.6847 4.0386 4.3436 4.6065 4.8332 17% 0.8547 1.5852 2.2096 2.7432 3.1993 3.5892 3.9224 4.2072 4.4506 4.6586 18% 0.8475 1.5656 2.1743 2.6901 3.1272 3.4976 3.8115 4.0776 4.3030 4.4941 19% 0.8403 1.5465 2.1399 2.6386 3.0576 3.4098 3.7057 3.9544 4.1633 4.3389 20% 0.8333 1.5278 2.1065 2.5887 2.9906 3.3255 3.6046 3.8372 4.0310 4.1925 会計学総論B 17 設備投資の経済性計算 設備投資意思決定において、投資案の優劣を 決めるための方法 原価比較法 投資利益率法 回収期間法 現在価値法 内部利益率法 意思決定会計論A 18 原価比較法 2つ以上の投資案があるとき、その原価の低い方を優 位な投資案として採用する方法 年額原価法 年額原価=資本回収費+操業費 資本回収費 利子率を考慮しないで、減価償却費のみで計算する方法 投下資本に資本回収係数(年金現価係数の逆数)を乗じた 値として求める方法 操業費 労務費、動力費、維持費など機械・設備を運 転するのに必要な原価 意思決定会計論A 19 例題9-1 現状維持 操業費=\10,000,000 新機械導入 資本回収費+操業費 =\10,000,000÷3.7908+\8,000,000 =\10,637,966 現状維持が有利である 会計学総論B 20 投資利益率法(return on investment method) 投資案の年々の平均利益の原投資額に対する 割合を求め、その大小によって投資案を評価す る方法 ①総投資額を用いる方法(総投資利益率法) ②平均投資額を用いる方法(平均投資利益率法) 総投資利益率= 年々の税引後利益 平均投資利益率= 総投資額 ×100 年々の税引後利益 平均投資額 ×100 会計学総論B 21 投資利益率法の長所・短所 長所 ①収益性を考慮していること ②会計上の利益と整合性があること ③計算が簡単であること 短所 ①時間的要素を考慮していないこと ②会計(発生主義会計)上の利益を用いているので、 減価償却費などの埋没原価を計算に含めているこ と ③支出額の決定(資本的支出か収益的支出か)に恣 意性が入ること 意思決定会計論A 22 例題10-2 A機械 減価償却費:(500万円-0円)÷5年=100万円 税引前利益:300万円-100万円=200万円 税引後利益:200万円×(1-0.5)=100万円 平均投資利益率:100万円÷(500万円÷2)=40% B機械 減価償却費:(300万円-0円)÷5年=60万円 税引前利益:200万円-60万円=140万円 税引後利益:140万円×(1-0.5)=70万円 平均投資利益率:70万円÷(300万円÷2)≒47% B機械が有利である 会計学総論B 23 回収期間法(payback method) 原投資額を回収するのに必要な期間を計算し、それ が短いものを有利と判断する方法 原投資額の回収にはキャッシュ・フローが用いられる 収益性よりも財務流動性あるいは安全性に重点をお いた方法 回収期間= 原投資額 年々のキャッシュ・インフロー 会計学総論B 24 回収期間法の長所・短所 長所 ①キャッシュ・フローによって計算を行うので、計算の 恣意性が除かれる ②安全性を重視している ③計算が簡単でわかりやすい 短所 ①キャッシュ・フローの時間的要素を考慮していない ②投資額回収以後の収益性を無視している 会計学総論B 25 例題9-3 A機械 年々のCF:100万円+100万円=200万円 回収期間:500万円÷200万円=2.5年 B機械 年々のCF:70万円+60万円=130万円 回収期間:300万円÷130万円≒2.3年 B機械が有利である 会計学総論B 26 現在価値法(present value method) キャッシュフローを現在価値に割り引いて投資 案の評価を行う方法 資本コストによってキャッシュ・フローの現在価 値を求め、インフローとアウトフローの現在価値 の大きさによって、投資の採否を決定する 正味現在価値法と現在価値指数法がある 会計学総論B 27 正味現在価値法(net present value method) 正味現在価値の大きさによって投資の優劣を 決定する方法 資金効率がわからない NPV= CIF1 1+r + CIF2 (1+r)2 CIF3 CIFn-1 CIFn + +‥‥+ + -COF 3 n-1 n (1+r) (1+r) (1+r) 会計学総論B 28 現在価値指数法(present value index method) キャッシュ・フローの現在価値によって投資の資 金効率を計算する方法 現在価値指数が大きいものほど資金効率がよ い 現在価値指数= キャッシュ・インフローの現在価値合計 原投資額 ×100 会計学総論B 29 現在価値法の長所・短所 長所 ①貨幣の時間的要素を考慮している ②内部利益率法より計算が簡単 ③相互排他的代替案の区別ができる 短所 ①現在価値に割り引くための資本コストを決定するの に問題がある ②完全市場を前提としている 会計学総論B 30 例題9-4 A機械のNPV= 200万円 200万円 200万円 130万円 130万円 + +‥‥+ -500万円 2 5 1+0.1 (1+0.1) (1+0.1) =200万円×3.7908-500万円 ≒258万円 B機械のNPV= 130万円 + +‥‥+ -300万円 5 1+0.1 (1+0.1) =130万円×3.7908-300万円 (1+0.1)2 ≒193万円 A機械が有利である 会計学総論B 31 内部利益率(internal rate of return method) キャッシュフローを現在価値を考慮して、投資案 の内部利益率を算出し、この利益率によって投 資案の評価を行う方法 内部利益率とは、投資案のキャッシュ・インフロ ーの現在価値とキャッシュ・アウトフローの現在 価値を等しくする割引率のこと 内部利益率の大小によって順位づけするが、 内部利益率が資本コスト(切捨率)を上回らない ときは投資案は採用されない 会計学総論B 32 内部利益率 以下の算式を成立させるiの値 CIF1 1+i + CIF2 (1+i)2 CIF3 CIFn-1 CIFn + +‥‥+ + =COF 3 n-1 n (1+i) (1+i) (1+i) 会計学総論B 33 内部利益率法の長所・短所 長所 ①貨幣の時間的要素を考慮している 短所 ①再投資に関して一定の仮定をおいているので、相 互排他的投資の正しい順位づけが出来ない ②2つ以上の利益率が求められることがある ③マイナスの値になることがある ④投資規模を考慮に入れられない 会計学総論B 34 例題9-5 A機械 200万円 200万円 + (1+i)2 200万円 +‥‥+ (1+i)5 =500万円 1+i 上の式が成り立つiを求めると、約29%になる または、500万円÷200万円=2.5を求め、 年金現価表から5年で2.5に近い利率を求める B機械 130万円 1+i + 130万円 (1+i)2 +‥‥+ 130万円 (1+i)5 =300万円 上の式が成り立つiを求めると、約33%になる または、300万円÷130万円≒2.3077を求め、 年金現価表から5年で2.3077に近い利率を求める 両者資本コスト以上であるが、B機械が有利である 会計学総論B 35 租税効果 税金(法人税・住民税)は、経済性計算のため に考慮しなければならないキャッシュ・アウトフ ローである 税金の計算には、減価償却費を含めた会計上 の利益を使う点に注意が必要 意思決定会計論A 36 設備投資の経済性計算の実際 日本 経済性計算 22% 総合的評価 71% 日本における経済性計算の方法 回収期間法 52.2% 投資利益率法 36.8% 内部利益率法 5.5% 現在価値法 4.9% アメリカにおける経済性計算の方法 内部利益率法 49% 現在価値法 19% 回収期間法 8% 投資利益率法 12% 日本では、安全性を重視し、経済命数が短い 意思決定会計論A 37 リスクの取扱い キャッシュフロー、経済命数などの予測に不確 実な側面 確率を利用して、期待値によってリスクを評価 PPMなどにより、投資案を組み合わせる 回収期間の短い投資案を採用 会計学総論B 38 リースの問題 設備資産を一定期間借り受けて使用する賃貸 契約 短所 ①リース料が高い 短所 ①多額の初期投資を必要としない ②B/S上固定資産として計上されない ③契約期間が税法上の耐用年数より短い ④損金算入できる 会計学総論B 39 期中評価・事後評価 設備投資意思決定は投資金額が巨額で、途中 での変更が困難 ⇒ 事前管理が中心 期中管理・事後管理も重要 会計学総論B