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日本と東アジアの環境と貿易
アジア研究所
小山 直則
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今日学ぶこと
第11章 市場の失敗
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第11章 市場の失敗
●市場メカニズムが機能しない場合
⇒市場に財やサービスが過不足なしに供給され、
⇒品不足なしに需要されるためには、市場メカニズム
がうまく機能している必要がある。
⇒しかし、現実の経済では供給不足(品不足)や供給
過剰、過剰な需要が発生する場合がある。
⇒このように価格メカニズムによって最適な財やサー
ビスの供給や需要の配分(資源配分)ができない場
合を市場の失敗という。
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第11章 市場の失敗
●市場の失敗の例
1. 外部効果(第11章第1節)
⇒例. 環境汚染問題、交通混雑など。
2. 費用逓減産業(第11章第2節)
⇒電力会社、水道会社、鉄道会社など。
3. 公共財(第11章第3節)
⇒国道、公園、消防、国防など。
4. 不確実性(第12章)
⇒モラルハザード
5. 情報の非対称性(第13章)
⇒中古品市場、住宅市場、金融市場など。
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第11章 市場の失敗
●市場の失敗の例 独占市場
⇒例. いま自動車で旅行する場合を考えよう。
⇒自動車を手に入れる必要がある。自動車の
メーカーが一社しかない場合(独占市場)、
メーカが多数存在する場合(競争市場)より
も供給量が過少で、価格が高くなる。
⇒なぜなら、独占は消費者を犠牲にして企業が
利潤を獲得するからである。
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第11章 市場の失敗
●市場の失敗の例 公共財
⇒例. いま自動車で旅行する場合を考えよう。
⇒自動車を入手しても道路や橋(公共財)がなけ
れば走れない。
⇒公共財は一般的に市場メカニズムでは過少
にしか供給されない。
⇒したがって、政府が税金を徴収して公共財を
供給する必要がある。
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第11章 市場の失敗
●市場の失敗の例 外部効果
⇒例. いま自動車で旅行する場合を考えよう。
⇒道路に穴が開いていたりして道路の状況が悪い場
合、自動車の快適な走行はできないし、タイヤが
故障する可能性がある。
⇒他のドライバーの道路の利用は道路を劣化させ、自
動車に直接な悪影響をもたらす(外部効果)。
⇒このように価格メカニズム以外の要因、すなわち、あ
る経済主体の活動が他の経済主体の活動に影響
を与える効果を外部効果という。
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第11章 市場の失敗
●市場の失敗の例
⇒例. いま自動車で旅行
する場合を考えよう。
⇒中古車を購入する場合、
消費者にとって価格
情報はわかるが、高
品質か低品質かは判
らない場合が多い。
⇒この場合、売り手と買い
手との間に情報の非
対称性がある。
●見た目は綺麗な自動車
価格 100万円(高品質)
価格 50万円(低品質)
⇒品質情報がわからなけ
れば、消費者は50万円
の自動車を購入するで
あろう。
⇒情報の非対称性がある
場合、低品質の自動車
(レモン)が市場に出回
る。
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第11章 市場の失敗
●市場の失敗の例 不確実性
⇒例. 豚肉の生産計画
⇒豚肉の生産業者は現在の価格情報を知ることがで
きるが、将来の価格情報や需要情報を知ることが
できない(不確実性)。
⇒今年の価格はわかっても将来の価格がどうなるの
かわからないので、新たに子豚を購入して増産す
べきか、減産すべきかがわからない。
⇒仮に増産して他の業者も増産すると将来供給過剰
となり将来価格は下落するであろう。
⇒したがって、不確実性がある場合、供給過剰や品不
足が発生する可能性がある(市場の失敗)。
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第11章 市場の失敗
●共有地の悲劇(The
tragedy of the
commons)
⇒ある漁師が魚をとると
他の漁師はその魚を
とれない(競合性)。
⇒海の魚の収穫を入場料
などによって排除され
ない(排除可能性な
し)。
競合性 競合性
なし
排除可
能性
私的財 Club財
排除可
能性な 共有地 公共財
し
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第11章 市場の失敗
●共有地の悲劇(The tragedy of the
commons)
⇒海の資源などの共有地の利用は、利用料に
よって排除されないので資源の使いすぎの
問題が発生する。
⇒共有地の利用者はFree Rider(ただ乗り)なの
で、市場の魚は過剰に供給される。
⇒このように所有権がはっきりしない資源が過
剰に利用される現象を共有地の悲劇という。
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共有地の悲劇
●様々な例
⇒焼き畑農業による熱帯林(共有地)の減少。
⇒川の水、大気(共有地)の汚染。
⇒資料室のPC(共有地)の故障。
⇒上級生(先輩)が後輩(共有地)に雑用を任せ
る。
⇒道路(共有地)の過剰な利用による混雑現象。
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共有地の悲劇
●解決策
(1) 渋滞問題
⇒道路通行料の課金(税
金)
(2) SO2排出問題
⇒アメリカは80年代に酸
性雨問題が深刻化し
た。
⇒90年代にSO2の排出
源である電力会社に
SO2の排出権を設定
した。
●排出権取引
⇒環境技術の高い電力会
社はSO2の排出量が
少ないので、
⇒排出権を環境技術の低
い電力会社に販売する。
⇒電力会社の環境技術
開発へのインセンティ
ブが高まる。
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第11章 市場の失敗
●ネットワーク外部性
⇒携帯電話が普及していないと携帯電話を買う
人が少ない。
⇒しかし、携帯電話が普及し始めると携帯電話
の利便性が高まり、携帯電話を購入する人
が増加する。
⇒ネットワークのある財の消費者が増えるほど、
その財から得られる効用が高まることをネット
ワーク外部性という。
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第11章 市場の失敗
●ネットワーク外部性の例
(1) 携帯電話
(2) インターネット
(3) PCの互換性
(4) オンラインゲーム
(5) 製品企画の標準化
(6) Googleの検索エンジン
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補論
●3つのキーワード
⇒近年の企業戦略論は次の三つの言葉から成
り立っている。
①規模の経済性
②範囲の経済性
③ネットワーク外部性
⇒以上の三つは現代企業の分析に不可欠な用
語である。
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補論
●規模の経済性
生産規模小 単位費用高
↓
生産規模大 単位費用低
⇒生産規模を拡大させる
と単位費用が低下する
現象を規模の経済とい
う。
⇒これを利用して競合企
業の参入を阻止する。
●範囲の経済性
⇒企業がA事業またはB
事業のみを行うよりも、
⇒A事業とB事業両方を
行った方がそれぞれの
単位費用を低下させる
ことができる。
⇒これを範囲の経済性と
いう。
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補論
●範囲の経済性が生じる要因
⇒なぜ複数事業(多角化)でコスト削減ができるのか?
(1) 未利用資源(生産設備)の存在(Penroseの理論)
⇒例. 造船会社のドックをダイビングの練習場として利
用する。
(1) 複数事業で利用可能な資源(情報など)の存在(シ
ナジー効果)
⇒例. ボールペンの生産技術をライターに応用する。
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補論
●ネットワーク外部性と経営戦略
⇒ソフトウェアの互換性が高まると企業や消費者の便
益が高まる(ネットワーク外部性)。
⇒例. ある人が作成した文書が別の人のPCでも開け
る場合。
⇒Adobeのpdfソフトでfileを作成しても、相手がこの
fileを開けなければこのソフトは普及しない。
⇒AdobeはAdobe Readerを無償で配布することに
よってネットワークを利用した。
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補論
●ネットワーク外部性と経営戦略
⇒携帯電話の会社を変えたり、PCのソフトを変えたり
するには乗り換え費用(Switching Cost)が掛かる。
⇒乗り換え費用が掛かるために同じ財やサービスを継
続して利用するような消費現象をロックイン効果
(Lock-in Effect)という。
⇒これは企業の経営戦略でよく用いられる。
⇒例. ポイントカード、割引券、携帯電話の契約時の初
期費用の低減サービス。
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性
⇒業界に関心のある従業員を採用するために
はどうすればよいのか?
⇒例. アパレル会社(衣料)
⇒解決策
給料を安くして、そのかわりに衣料の従業員割
引制度を導入する。
⇒なぜ、この方法で業界に関心のある従業員を
採用できるのか?
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性
⇒業界に関心のある従業員を採用するために
はどうすればよいのか?
⇒例. アパレル会社(衣料)
⇒企業と労働者の間の情報の非対称性を解決
して、企業が欲しい人材を選り抜くことをスク
リーニング(Screening)という。
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性
⇒業界に関心のある従業員を採用するためにはどう
すればよいのか?
⇒解決策 給料を安くして、そのかわりに衣料の従業
員割引制度を導入する。
⇒アパレルに関心のない人は低賃金と従業員割引に
魅力を感じないので応募して来ないであろう。
⇒しかし、低賃金でも割引制度に魅力を感じる人はこ
の業界に関心が高い人であると考えられる。
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性とスクリーニング
⇒小売企業は消費者が価格志向(低価格の方
がいい)なのか品質指向なのかという情報を
十分に保有していない(情報の非対称性)。
⇒問題 低価格志向の消費者には安く、品質指
向の消費者をスクリーニングするにはどうす
ればよいか?
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性とスクリーニング
⇒問題 低価格志向の消費者には安く、品質指向の
消費者をスクリーニングするにはどうすればよい
か?
⇒解決策 時間によって価格差別を行う(バーゲンセー
ル)
⇒自分にあった色・サイズにこだわる品質指向の消費
者はバーゲンセール前に定価で購入するであろう。
⇒価格志向の消費者はバーゲンセールの期間に購入
するであろう。
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性とスクリーニング
⇒問題 混雑時(peak load)の電力を効率的に
利用するためにはどうすればよいか?
⇒問題 混雑時に利用しなくてもかまわない消
費者とどうしても利用しなければならない消
費者をスクリーニングするためにはどうすれ
ばよいのか?
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性とスクリーニング
⇒問題 混雑時に利用しなくてもかまわない消
費者とどうしても利用しなければならない消
費者をスクリーニングするためにはどうすれ
ばよいのか?
⇒解決策 peak loadの価格をoff peak(閑散
時)よりも高く設定する。
⇒混雑時に利用が不要な消費者は電力を節約
するようになる。
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性とシグナル(Signal)
⇒情報優位の経済主体
⇒情報劣位の経済主体
⇒シグナルとは財やサービスの品質に関する情報の
ことである。
⇒情報優位の経済主体が情報劣位の経済主体にシ
グナルを提供することによって情報の非対称性問題
が解決できる。
⇒例. 学歴情報、生産者情報、トレーサビリティ
(traceability)、エコラベル、格付け情報。
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第11章 市場の失敗
●情報の非対称性
⇒情報の非対称性には二つの種類がある。
①隠された情報(Hidden Information)
例. 中古車の品質情報
②隠された行動(Hidden Action)
例. 相手の行動を監視できないために発生する
行動。例えば、雇用契約後の怠業。保険契約
後の危険走行。
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