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青森県民の健康寿命とタバコ
弘前大学大学院医学研究科社会医学 中路重之
平均寿命と健康寿命
• 寿命:生まれたばかりの赤ちゃんが死亡す
るまでの時間(年数)→その平均が平均寿
命
• 健康寿命:自立した状態で、健康に暮らせ
る期間(年数)
• ※健康寿命は平均寿命と密接な関係にある。
※日本人の平均寿命は世界一長く、青森県の
平均寿命は日本で一番短い
平均寿命のもつ意味
長野県と青森県の男性の平均寿命の差3.2歳は、一人
の人間が、青森県では75.7歳まで生き、長野県では
78.9歳まで生きる、ということではない。
長野県
青森県
10万当り死亡数(2000年)
0歳
257
504(2.0倍)
30-39歳
84
117(1.4倍)
40-49歳
215
339(1.6倍)
50-59歳
541
755(1.4倍)
60-69歳
1207
1756(1.5倍)
以上のような差がたった一つの平均寿命の値の差
として計算される。
世界各国の平均寿命(男性)
80
日本
アメリカ
イギリス
フランス
ド イツ
カナダ
イタリア
アイス ランド
平 75
均
寿
命
(
年
)
70
65
1965
1970
1975
1980
1985
年
1990
1995
2000 2003
世界各国の平均寿命(女性)
90
85
日本
アメリカ
イギリス
フランス
ドイツ
カナダ
イタリア
アイスランド
平
均
寿
命 80
(
年
)
75
70
1965 1970 1975
1980 1985 1990 1995
年
2000 2003
健康寿命の国際ランキング(2002年)
男性
1. 日本
72.3歳
2. アイスランド 72.1
3. スウェーデン 71.9
4. スイス
71.1
5. オーストラリア 70.9
5. サンマリノ
70.9
7. イタリア
70.7
7. モナコ
70.7
9. イスラエル
70.5
10. ノルウェー 70.4
国連保健機構(WHO)
女性
1. 日本
77.7
2. サンマリノ 75.9
3. スペイン
75.3
3. スイス
75.3
5. モナコ
75.2
6. スウェーデン74.8
7. フランス
74.7
7. イタリア
74.7
9. アンドラ
74.6
10. オーストラリア74.3
日本人はなぜ長寿か
スリムな体型
独特の保険・医療シ
ステム
ヘルシーな食生活
少ないアルコール摂
取量
日本の長寿
高レベルの保健シス
テム
高い医療レベル
女性の低い喫煙率
交通機関の発達
健康への関心の高さ
平等主義・健診の普及
高い安全性
高い経済レベル
日本文化と日本人的気質
平均寿命は社会全体の総合力の産物
(試験でいえば得点)
保健・医療・福祉
経済
政治
気候
文化
教育
気質
都道府県の寿命ランキング
1.
2.
3.
4.
男性
1965年
2000年
東京69.8歳 長野78.9
京都府69.2 福井78.6
神奈川69.1 奈良78.4
愛知69.0
熊本78.3
女性
1965年
東京都74.7
神奈川74.1
静岡74.1
岡山74.0
2000年
沖縄86.0
福井85.4
長野85.3
熊本85.3
44.
45.
46.
47.
長崎66.3
岩手65.9
秋田65.4
青森65.3
山形71.9
青森71.8
岩手71.6
秋田71.2
茨城84.2
栃木84.0
大阪84.0
青森83.7
佐賀77.0
高知76.9
秋田76.8
青森75.7
青森県男性の寿命が長野県に追いつくためには
青森男
年齢
32
23
1~9
6349
65216
長野男
人口
死亡数
10887
28
17
12
100037
27
10~19
88448
25
18
120382
42
20~29
87892
69
49
140774
109
30~39
88154
103
73
140940
119
40~49
104611
355
252
142991
307
50~59
102432
773
549
160226
867
60~69
86632
1521
1080
127455
1539
70~79
54725
2256
1602
97924
3065
80歳~
17636
2187
1553
38587
4260
702095
7338
5210 (-2128)
1080203
10363
0歳
人口
死亡数
75.7
⇒ 死亡数(×0.735)
78.9
78.9
都道府県の70歳の平均自立期間
男性
女性
1.
山梨12.1
山梨13.6
2.
長野12.0
茨城13.4
3.
静岡11.8
静岡13.3
4.
千葉11.7
長野13.2
44. 長崎10.8
徳島11.3
45. 鹿児島10.8
鹿児島11.2
46. 大阪10.5
大阪11.0
47. 青森10.4
青森11.0
平均余命=自立期間+要介護期間
(山梨県立看護大・小田切)
年齢別死亡率(10万人当り、2000年)
全死因、男性
18000
16000
14000
死亡率(10万人あたり)
全死亡者数の60%は、がん、
心臓病、脳卒中である。
12000
10000
青森
長野
8000
6000
4000
2000
0-4
5-9
10-14
15-19
20-24
25-29
30-34
35-39
40-44
45-49
50-54
55-59
60-64
65-69
70-74
75-79
80-84
85-
0
年代
45-49
50-54
55-59
60-64
65-69
70-74
75-79
80-84
85-
3000
0-4
5-9
10-14
15-19
20-24
25-29
30-34
35-39
40-44
年齢別死亡率(10万人当り、2000年)
悪性新生物、男性
死亡率(10万人あたり)
2500
2000
1500
青森
長野
1000
500
0
年代
年代
60-64
65-69
70-74
75-79
80-84
85-
30-34
35-39
40-44
45-49
50-54
55-59
3500
0-4
5-9
10-14
15-19
20-24
25-29
年齢別死亡率(10万人当り、2000年)
心疾患、男性
死亡率(10万人あたり)
3000
2500
2000
1500
青森
長野
1000
500
0
年代
65-69
70-74
75-79
80-84
85-
45-49
50-54
55-59
60-64
20-24
25-29
30-34
35-39
40-44
3500
0-4
5-9
10-14
15-19
年齢別死亡率(10万人当り、2000年)
脳卒中、男性
死亡率(10万人あたり)
3000
2500
2000
1500
青森
長野
1000
500
0
青森県の死亡統計の特徴
• ほとんどの年代の死亡率が高い。
• ほとんどの主要死因での死亡率が高
い。
• なかでも、生活習慣病の死亡率が高
い。
• 原因が多様で、構造的である。
青森県の短命の原因
1)高喫煙率
2)肥満(高カロリー摂取、運動不足)
3)アルコール多飲
4) その他 経済状況
出稼ぎ
雪
健康意識レベル
→自殺者が多い
教育レベル
特有の社会と家族構造
高塩食、高カロリー、食品数少ない
喫煙による健康被害
• 発がん:口、喉(のど)、肺、食道、膀胱
• 肺気腫(COPD):肺の働きが悪くなる。
• 早産、低体重児、死産、周産期死亡、
乳児死亡に影響
• 動脈硬化(高血圧、心筋梗塞、脳卒中)
※たばこによる過剰死:WHO(世界保健機構)によれば、
世界で年間約300万人、日本で年間約10万人と推定さ
れている。⇒健診よりも禁煙!
たばこの煙の中の有害成分
たばこの煙の中には約4000種類以上の化
学物質が含まれ、このうち200種類以上が
有害物質とされる。
• ニコチン:中毒をおこしたばこがやめられ
なくなる。
• タール:代表的な発がん物質。
• 一酸化炭素:人間を酸素不足にする。
都道府県別喫煙率(1987-91年)
(国民栄養調査)
男性
1. 青森 67.9%
2. 福井 66.4
19.
・
8.8
・
・
46. 鹿児島 47.6
女性
北海道 18.4
東京 15.3
青森
富山
2.8
都道府県別喫煙率
(2001年国民生活基礎調査)
1.
男性
北海道 49.1%
女性
19.8
北海道
2.
栃木
47.8
石川
17.3
3.
茨城
47.3
東京
15.1
4.
宮城
46.1
埼玉
14.2
5.
青森
45.9
京都
13.9
青森
11.1
14.
・
・
・
45. 沖縄
37.4
鳥取
6.9
46. 京都
35.0
鹿児島
6.0
47. 石川
34.9
島根
5.3
世界各国の喫煙率
(世界保健機構、2002年)
男性
女性
日本
52.8%
13.4
アメリカ
25.7
21.5
イギリス
27.0
26.0
ドイツ
39.0
31.0
フランス
38.6
30.3
イタリア
32.4
17.3
ロシア
63.2
9.7
中国
66.9
4.2
喫煙と平均余命
(青森県男性2万5千人の追跡調査)
40~44歳
「喫煙なし」
「喫煙」
「喫煙なし」-「喫煙」
42.30
39.45
2.85
青森県の喫煙者は非喫煙者に比べ40~44歳で2.85年
早死にする。
喫煙本数と肺がん死亡率
(平山らによる計画調査,1966-1982年,日本男性)
15.1
16
14
12
相
対 10
危 8
険 6
度
4
2
3.6
1.0
4.7
5.9
6.0
7.2
2.2
0
吸わない
10~
20~
1日喫煙本数
40~
がんの部位別死亡に及ぼす毎日喫煙の寄与危険度割合
(平山,1966~82年,日本,男性)
喉頭(
こうとう)
4%
肺
咽頭(
いんとう)
29
35
65
72
96
口腔(
こうく
う)
食道
膀胱
31
42
58
52
48
69
寄与危険度割合=
(全体の死亡率)―(非喫煙者の死亡率)
全体の死亡率
受動喫煙
喫煙者の周囲の人は、空気で多少
薄
まるが、喫煙者と一緒にいるだけ
で、
たばこの被害を受ける。肺がんの
死亡
喫煙妊婦の4割早産-黒石保健所(2000年)
喫煙妊婦のうち早産 → 43.7%
非喫煙妊婦のうち早産 → 21.4%
喫煙妊婦の約60 %が低体重児を出産
平成10年の管内の乳児死亡は、すべて低体重児
青森県の若い女性の喫煙率
(生活基礎調査、2001年)
年齢
20-29歳
30-39歳
青森県
26.5%
24.4%
全国
20.2%
18.6%
日本と米国のタバコの主流煙の成分比較
タール
ニコチン CO
(mg/cig)
ニトロサアミン類 ベンゾピレン
(ng/cig)
米国のタバコ(8種類)
13
1.0
13
576
11.4
日本のタバコ(6種類)
10
1.0
10
245
8.5
1本当たりの量、平均値、Djordjevicら、1999
いまさらの禁煙は効果があるのか
禁煙後10年以上たつと肺がんの死亡率は2分の1から3分の1く
らいまで低下する。また、循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中など)
のリスクは、禁煙直後から低下する。
禁煙後の年数と肺がん死亡率
(倍)
5
喫煙
4
4.5
肺
が 3
ん
死
亡 2
率
1
禁煙後
1~4年
2.0
禁煙後
5~9年
1.6
禁煙後
10年以上
1.4
非喫煙者
1.0
0
(平山、1990)
脳卒中・心筋梗塞の危険因子
年齢
酒
高脂血症
喫煙
飲
糖尿病
脳出血
++
高血圧
+
+++
-
±
+
脳梗塞
++
++
+
+
+
+
心筋梗塞
++
++
+++
++
-
+
健康で長生きするためには
• 長生きする=老化を遅くする
• 老化を遅くする=動脈硬化を遅らせる
• 動脈硬化を遅らせる=健康的な生活を送
る
• 健康的な生活とは、
①肥満しない
②タバコを飲まない
③大酒を飲まない
④楽しく生きる
※健康診断を受ける:親からゆずり受けた
ものや、偶然出てくる病気もある
健康で長生きするためには
肥満(過食+運動不足)
高脂血症(高コレステロール、
糖尿病
食塩
高中性脂肪)
動脈硬化
豊
か
な
人
生
喫煙、多量飲酒
高血圧
脳卒中(脳梗塞、脳出血)
心筋梗塞
がん
健診
自殺予防
加齢と共に病気は出てくる
ピロリ菌、肝炎ウィルス対策
正しい知識を持つことの重要性:喫煙の例
• 喫煙で寿命が5~7歳短くなる。
• 喫煙しないと喉頭(こうとう)がんにはほとんど
ならない。
• 医師の対応も喫煙者と非喫煙者では異なる。
• がんは逃れられても、次には肺気腫(COPD)、
動脈硬化、高血圧、脳卒中、心筋梗塞(こうそ
く)が待っている。
• たばこが原因で肺がんにかかり、手術を受けた患
者さんの多くはたばこをやめる。
• 禁煙してからの年数がたてばたつほど肺がんの危
険性が低くなってくる。
• 早産、死産、低体重児出産、周産期死亡、新生児