dm2semi_2005-10

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Transcript dm2semi_2005-10

木星雲対流モデル構築に向
けた雲微物理過程に関する
レビュー
杉山耕一朗(北大理)
[email protected]
2005 年 10 月 13 日
於 北大DM2ゼミ
目次

はじめに


対流モデルにおける雲微物理過程の扱い


具体的な数値計算手法の紹介
木星雲対流研究における雲微物理過程


木星での対流活動
従来の研究で利用された数値計算手法のまとめ
木星雲対流モデル開発の進捗状況
1. はじめに
1. 木星の雲対流


ボイジャー探査機およびガリレオ
探査機の撮像した木星画像には,
活発な雲対流の証拠と考えられる
小スケールの雲の成長の様子が
捉えられている(Hunt et al., 1981,
Gierasch et al., 2000).
地球における雲対流と同様に, 木
星の雲対流も潜熱・化学反応熱の
解放と雲粒による放射加熱・冷却
を通じて, 木星大気の循環構造と
物質分布の決定に重要な役割を
担うと考えられる.
ガリレオプローブの観測した乾燥領域

大気深部で水の存在度が小さい

太陽組成の場合,5 bar で水は凝縮.この領域の成因は?
従来の研究では

雲対流の個々の物理過程に着目した研究が, それぞれを専門とする研
究者によって独立に行われてきた.

木星大気中の雲の種類とその存在量




Weidenschilling and Lewis (1973), Atreya and Romani (1985)
熱力学平衡状態を仮定
雲分布と流れ場の整合性は明らかでない
雲と流れ場の研究




Hueso and Sanchez-Lavega (2001)
興味の対象は1 つの雲の生成から消滅までをシミュレートすることであり, 多数の雲の
生成消滅の繰り返しを経ることで決まる木星大気の循環構造と物質分布を調べること
ではなかった.
Nakajima et al. (2000)
雲対流に伴う木星大気の循環構造と物質分布を調べたが,水の凝結のみ考慮
本発表では

研究の動機



雲の生成消滅が,より大規模な循環構造と物質分布
に与える影響を調べる
そのために必要な木星対流モデルの開発を行う
本日の発表では,従来の地球や木星の大気研
究で用いられてきた雲微物理過程を俯瞰する


相変化が対流に与える影響
現在のモデル開発状況
Cf:地球大気の階層構造
2. 対流モデルにおける雲微
物理過程の扱い
・バルク法とビン法
・暖かい雨のバルク法,湿潤飽和調節法
雲微物理過程の数値的取り扱い

雲微物理過程



バルク法


核形成,拡散成長,粒子間衝突といった素過程
厳密に取り扱うためには,大きさの区分, 形状の分類, 密度
の区分が必要となる
雲粒子,雨粒子をいくつかのカテゴリーに分け,できるだけ少な
い変数で雲と降水の微物理過程を表現する数値的手法
ビン法

カテゴリー分けされた粒子をさらにいくつかの粒径に分け,より
正確に微物理過程を表現する数値手法
暖かい雨のバルク法

Klemp and Wilhelmson(1978), CReSS


「水蒸気」,「雲粒」,「雨粒」のカテゴリ分け
以下の素過程を考慮
水蒸気
EVcv
EVrv
CNvc
雲粒
CNcr, CLcr
雨粒
CNvc: 凝結による水蒸気から雲水への変換 (condensation)
EVcv: 蒸発による雲水から水蒸気への変換 (evaporation)
EVrv: 蒸発による雨水から水蒸気への変換 (evaporation)
CNcr: 併合成長による雲水から雨水への変換. 併合や水蒸気拡
散により, 雲粒子が雨粒の大きさにまで成長する
(autocondensation)
CLcr: 衝突併合による雲水から雨水への変換. 大水滴が小水滴
を衝突併合する (collection)
方程式系

温位と水蒸気,雲水,雨水の時間発展
θ:温位,qv: 水蒸気混合比, qc:雲水混合比 ,qr:雨水混合比
π:無次元圧力,
Adv: 移流項,Turb: サブグリッドスケールの拡散,
Pr: 雨水の重力落下に伴う雨水混合比の変化
微物理素過程 (1)

雲水から雨水への変換:CNcr, CLcr


Kessler (1969) のバルクパラメタリゼーション
雨水の蒸発:EVrv

Ogura and Takahashi (1971)
ρ:密度,qvsw:飽和蒸気圧
微物理素過程 (2)

雨水のフラックス:PRr

Soong and Ogura (1973), Kessler (1969)
Ur: 雨水終端速度,ρ0:地表面密度

水蒸気と雲水の間の変換:-CNvc + EVcv


湿潤飽和調節法を用いて評価
Soong and Ogura (1973)
湿潤飽和調節法

dS = 0 (断熱条件)とμ水蒸気=μ水(平衡条件)の
交点を反復的に求める


CNvc と EVcr を除いた
予報方程式から,暫定的な
θ*, qv*, qc*, qr* を求める.
反復的に θ, qv, qc, qr を
収束させる
湿潤飽和調節法 (2)


過飽和もしくは雲水が存在する場合には, 凝縮もしくは蒸
発させる.これを収束するまで繰り返す
もしも雲水量が負の場合には,全て水蒸気に変換する
3. 木星雲対流研究における
雲微物理過程
・利用されるパラメタリゼーションの調査
分解能と計算領域による分類

全球モデル



雲集合モデル


積雲パラメタリゼーションを利用
Parotai and Dowling (2005)
Nakajima et al. (2000)
雲解像モデル

Stoker (1986), Yair et al. (1992, 1995, 1998),
Hueso and Sanchez-Lavega (2001, 2002)
雲の微物理過程による分類

非常に単純化された雲微物理過程



暖かい雨のバルク法


凝縮物のうち,ある一定の割合を雨水とみなし,残りを雲水とみ
なす
Hueso and Sanchez-Lavega (2001,2002),
Nakajima et al. (2000), Hueso et al (2005) [タイタン対流]
冷たい雨のバルク法


氷の雲も考慮
Yair (1995, 1998)
Yair et al. (1998)

雲解像モデル





軸対象,非静力学モデル
解像度: 水平 0.5 km, 鉛直 1 km
計算領域: 水平・鉛直 100 km
積分時間: 3 時間(10,800 秒)
冷たい雨のバルク法


凝縮成分は水
結果


水雲の構造と雷発光を評価
ガリレオプローブの観測した太陽組成の 0.2 倍の水混合比で
は,雷発光の生じる可能性は低い
Nakajima et al. (2000)

雲集合モデル





2 次元非弾性モデル
解像度:水平 2km, 鉛直 2 km
計算領域: 水平 512 km, 鉛直 300 km
積分時間: 300 時間(1,080,000 秒)
暖かい雨のバルク法


凝縮成分は水
結果


雲対流によって形成される流れ場の構造を調べた
水の凝結高度を境に対流構造が変化.
Hueso and Sanchez-Lavega (2001)

雲解像モデル





3 次元非弾性方程式系
解像度:3.2 km
領域:水平 150, 270 km, 鉛直 163 km
積分時間:3,000 –12,000 秒
単純化された雲微物理過程


凝縮成分は, NH3, H2S, H2O
結果

適当なシアーが存在すれば,ガリレオプローブの観測した太陽
組成の 0.2 倍の水混合比でも雲が発達する.
4. 木星雲対流モデル開発
進捗状況
・我々のモデル紹介
・テスト計算の紹介
雲対流モデルのデザイン

目的
 木星大気中の雲微物理過程を考慮し, 多数の雲の生成消滅の繰り返
しを経ることで決まる木星大気の大気流れ場・雲分布・安定性を明ら
かにすること.

方程式系
 準圧縮系方程式


雲を分解できるような解像度では,静水圧平衡が成立しない
凝縮成分の扱い
 大気中に含まれる凝縮成分の種類と存在量をパラメタとして簡単に変
更できるようにする


木星大気の雲層の温度,物質分布は未だ直接観測されていない
平衡凝縮計算を,クラウジウス・クラペイロンの式からではなく,ギブス
自由エネルギー最小化で求める方法を模索する

ギブス自由エネルギー最小化を使う対流モデルは存在しない
非静力学モデル deepconv/arare

準圧縮系の方程式


基本場を設定し,基本場からのずれを解く
密度変化を許容するため,音波が発生する
速度
無次元圧力
温位
水蒸気混合比
雲水混合比
雨水混合比
C: 音速,ρ:密度
方程式系の離散化

離散化方法

時間: 時間分割法




音波に関する項は短い時間ステップ、音波以外の項は長い時間ス
テップで積分
音波に関する項は HE-VI 法で離散化。u は前進差分、pi, w は後
退差分
音波以外の項は leap-frog 法
空間: 4次精度中心差分


水平格子: arakawa-c グリッド
鉛直格子: Lorentz グリッド
乾燥対流のテスト計算(火星大気条件)
by北守さん

Odaka et al (1998) の再現計算

同様の結果が得られた
雲微物理過程の扱い

段階を踏んで複雑化する方針




地球大気モデルや従来の木星大気モデルでよく利用される「暖
かい雨のバルク法」を導入.水のみ凝縮するケースを考える
水以外の凝縮成分の雲微物理過程の導入.微物理過程の係
数が問題となるので,場合によっては Hueso et al. (2001) の
ような素過程を簡略化する
湿潤飽和調節法の相平衡条件を,クラウジウス・クラペイロン
の式からギブス自由エネルギー最小化に変更
利用する定式化自体の変更を視野に入れた,方程式系
の再検討

ギブス自由エネルギー最小化法を使う場合,予報変数を速度,
圧力, エントロピー,にする方が自然

詳細な検討はこれから....
テスト計算 with 暖かい雨のバルク法

現在進行中

計算の妥当性の検討中

初期値が過飽和の場合
まとめ

木星大気の雲対流モデルの構築を目指し,これ
までに行われてきた雲微物理過程の扱いを俯瞰
した

現在開発中のモデルでは,暖かい雨のバルク法
を導入している.

今後,相平衡条件をクラウジウス・クラペイロンの式
から,ギブス自由エネルギー最小化法に変更する予
定