日本語とフランス語 - Martine Toda

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Transcript 日本語とフランス語 - Martine Toda

MRIに基づく/s/・//の調音
‐日本語とフランス語‐
戸田マルティヌ1,2
本多清志1
1. ATR,人間情報科学研究所
2. Laboratoire de Phonétique et Phonologie
UMR 7018 CNRS/Sorbonne Nouvelle
あらまし
/s/と//の音声学的記述
/s/と//の音韻的特徴
本研究の目的
日本語話者・フランス語話者 計16人における
/s/と//の調音の計測
方法
結果
考察
音韻素性と調音の関係について
第17回日本音声学会全国大会
MRIに基づく/s/・//の調音‐日本語とフランス語
2
日本語1
/s, z/
歯茎
摩擦音
(alveolar)
日本語とフランス語の歯擦音
(音声学的記述)
フランス語
/, /
(,
d)
歯茎硬口蓋
摩擦音
(alveolopalatal)
1 斎藤, 1997
2 Bourciez, 1937;
Carton, 1974
/s, z/
舌尖歯
摩擦音
(apicodental)
または
舌尖歯茎
摩擦音
(apicoalveolar)
/,
舌尖
歯茎後部
摩擦音
(apicopostalveolar
)
/
または
舌背
硬口蓋
摩擦音
(dorsopalatal)
• 数は同じであるのに,日本語とフランス語の歯擦
音は,音声学的には同じ音ではない.
第17回日本音声学会全国大会
MRIに基づく/s/・//の調音‐日本語とフランス語
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/s/と//の音韻的な地位
日本語
フランス語
・交代
「話さない」 「話します」
/hanas-a-nai/ - /hana-i-mas/
・不完全な対立
(部分的に相補分布)
s
sa
*
s
 a
i

第17回日本音声学会全国大会
se
*
so
(稀
)
o
・あらゆる環境で最小
対立 (minimal pair) を形
成するので,音素として
完全に対立する.
s

‘ça’ [sa] - [a] ‘chat’
‘tasse’ [tas] - [ta] ‘tache’
‘sous’ [su] - [u] ‘choux’
…
…
MRIに基づく/s/・//の調音‐日本語とフランス語
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音韻と調音
• 日本語とフランス語での調音の違いは/s/と
//の音韻的地位によって説明できるか?
第17回日本音声学会全国大会
MRIに基づく/s/・//の調音‐日本語とフランス語
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目的
• 磁気共鳴画像法(MRI)により複数の日本語話
者とフランス語話者の/s/と//の調音を定量
的に観測し,言語ごとの調音の特徴を記述す
る.
• /s/と//の音韻素性(feature specification)と調
音の特徴の関係について考察する.
第17回日本音声学会全国大会
MRIに基づく/s/・//の調音‐日本語とフランス語
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方法
方法
1
• 被験者
– 日本語話者9人(男性5人女性4人)
– フランス語話者7人(男性6人女性1人)
• 言語素材
– 「単語を意識しながら」/s/と//を持続発声
日本語:
フランス語:
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「あっさり」 [assari] ・「かっしゃ」 [kaa]
‘Assam’ [asam], ‘achat’ [aa]
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方法
2
• MR撮像
– Shimadzu-Marconi ECLIPSE 1.5T
– シーケンス:FAST 3D (TE=3.3 ms, TR=10 ms)
– 矢状方向、画像解像度0.25 mm  0.25 mm,
スライス厚1.5 mmで撮像.
– 撮像範囲は口唇から
口蓋までを含む128 mm 
128 mm  45 mm.
– 撮像時間はおよそ30秒
(息つぎをしないで).
– 撮像回数各子音1回.
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「調音」:調音位置と舌形状
• 調音位置 → 歯擦音の場合,音響的には前室
(front cavity) の大きさが最も重要
• 舌形状 → 舌と硬口蓋の接近の程度(口蓋化)
第17回日本音声学会全国大会
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計測
1
1.1 舌下腔を含む前室の大きさ(調音位
置):「舌歯間面積」
1.2 舌下腔の深さ:
「舌下腔指数」
舌下腔指数

舌歯間面積

下顎前歯から狭め
までの距離
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計測
2
2.口蓋化:「非口蓋化指数」
非口蓋化指数

舌口蓋間面積

基準線から狭め
までの距離
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結果
舌歯間面積
• /s/は言語間で大差がな
いが,
• //に関してはフランス
語が高い値を示してい
る.(調音位置が日本語
よりも後方である.)
最大値
第3四分位
第2四分位(中央値)
第1四分位
最小値
日本語
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フランス語
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舌下腔指数
• フランス語の//は舌歯間面積を下顎
前歯から狭めまでの距離で割っても,
なお高い値を示すので, 調音点が後
方にあるのみでなく,深い舌下腔が設
けられる傾向があるといえる.
日本語
フランス語
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日本語話者 jpT2
フランス語話者 frJ
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非口蓋化指数
• 日本語では/s/と//が二分されて
いるのに対し、フランス語では
重複している.
日本語
第17回日本音声学会全国大会
フランス語
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話者ごとの/s/と//の区別
赤:日本語話者 青:フランス語話者
●
/s/
*//
非
口
蓋
化
指
数
• 日本語では, 口蓋化
の違い(縦軸)が両
子音の区別に使われ
ているのに対して,フ
ランス語では、舌歯
間面積の違い(横
軸)が特徴である.
舌歯間面積
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話者ごとの/s/と//の差(//-
/s/)
非
口
蓋
化
指
数
の
差
フランス語話者
日本語話者
• 話者ごとに/s/と//の
差をとると,日本語と
フランス語のデータ
が二分される.
• 日本語では,子音間で
舌歯間面積の差が小
さく, // のほうが/s/よ
りも必ず口蓋化して
いる.
• フランス語では,舌歯
間面積の差が大きい
ことが話者間で共通
している.
舌歯間面積の差
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考察
音韻体系と調音
• 音韻体系を形成する音韻素性 (phonological
feature) はどのように調音に反映されるか?
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日本語の子音体系
• 服部(「国語の音韻体系」,1950)に従えば, 日本語の子
音を表記するにあたって拗音に j を用いることは,音
声的事実を良く説明し,また,体系的でもある.
• 例として,「サ行」の音は次のように表せる.
se sa so su si sja sjo sju
セ サ ソ ス シ
シャ ショ シュ
• このような表現は,日本語の子音を
–
–
–
–
調音位置
調音様式(破裂音,摩擦音,鼻音など)
有声/無声
口蓋化の有無
の4つの特徴によって定義することとほぼ同義である.
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alveolar/
alveolo-palatal
labial
j
pj,
p,
b bj

m
mj
velar
j
t,d,
ts,
dz
glottal
j
j
tj ,
dj
k, kj,
([t, g gj
d])
s, z
s j,
zj
([,
])
n
nj ([])
h
hj ([])

このように考えると, /s/と//は共通の調音位置をも
j


ち,かつ口蓋化の有無によって対立する.
w 第17回日本音声学会全国大会
j
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フランス語の子音体系
labial
dental/
alveolar
p,
b t, d
f,
v
m
postalveolar/
palatal
velar
uvular
k,
g
s, z
, 
n
l

-

(,
j, 
• w)
/s/と//は調音位置によって対立する.
w
• 口蓋化は,音素の単位では,有意味な素性ではない.
(ただし,子音群 (consonant cluster) に/Cj/という組み合わせは存在
する.)
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音韻素性の調音における発現
(日本語)
非口蓋化指数
フランス語話者
非
口
蓋
化
指
数
の
差
日本語話者
舌歯間面積の差
日本語 フランス語
• /s/-//間で口蓋化の
厳密な使い分け
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• 調音位置と関係する
舌歯間面積の差が
/s/-//間で僅少
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音韻素性と調音(フランス
語)
話者ごとの差
舌歯間面積
非口蓋化指数
フランス語話者
非
口
蓋
化
指
数
の
差
日本語話者
舌歯間面積の差
日本語
日本語 フランス語
フランス語
• /s/-//間で舌歯間面積
が大きく異なる(調
音位置が異なる)
第17回日本音声学会全国大会
• 口蓋化に対する自由度が
大きい.
MRIに基づく/s/・//の調音‐日本語とフランス語
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結論
結論
• 舌歯間面積,舌下腔指数,および口蓋化指数によって,
日本語話者とフランス語話者による/s/と//の調音を
定量的に記述し,日本語とフランス語での調音の違い
を示すことができた.
• 子音の音韻素性を調音の中に確認することができた.
– 逆に,調音の分布から有意味な素性とそうでない素性を判断
できるのなら,各言語の音韻体系の最適な記述法は,調音を
調べることによって決定することができるのではないか.
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課題
• 日本語とフランス語において/s/と//の音響的な基準
は何か,また,調音のどのような特徴とむすびつけら
れるか.
• 個人差は何に由来し,どのように説明できるであろう
か.
– 話者間での音響的なばらつきを最小にするため,発声器官の
形態の個人差を補償する調音動作か?
– 話者ごとに音響生成を最適にするために,発声器官の特徴を
利用した調音動作か?
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本研究は通信・放送機構の研究委託
「人間情報コミュニケーションの研究開発」
により実施したものである.
ポーランド語と英語も含めると…
日 仏 ポ 英
口
蓋
化
指
数
の
差
△ /sj/-/s/
▲ //-/s/
• 英語・ポーランド語で
は,フランス語と同様
に,//と/s/の間で舌歯
間面積の違いが大きい.
• ポーランド語では,日本
語と同様に, /sj/の方が
/s/よりも口蓋化してい
る.また, //‐/s/と比べる
と, /sj/‐/s/のほうが舌歯
間面積の差が小さい
(調音位置が近い).
舌歯間面積の差
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