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認知学習論:熟達化
~熟達化~
担当者: 今井むつみ
熟達化とは何か
 熟達者の特徴とは何か。
 熟達者は初心者とどこがどのように違うのか
熟達化とは?熟達者とは?
 求められる特性は領域によって異なる
(領域依存)
 ある程度の転移はあってもある領域での熟達が
他の領域での熟達を保証しない


熟達した科学者は必ずしも熟達した数学者ではな
い
マイケル・ジョーダンはバスケットボールでは超一
流だが野球では超一流でなかった
熟達者の特徴
 下位技能の習熟(下位技能の自動化)
 習熟した領域での記憶能力(一般的な記憶力で
はない)
 問題の見え方(perception)
 問題の解決法に対する直感
 適切な評価基準などのメタ認知スキル
下位技能の自動化
 熟達者は下位技能が高度に自動化しており、意
識的なコントロールなしに自動的に処理される。
そのため、意識的コントロールを必要とする高度
の認知的処理のために初心者よりも多くの情報
処理スペースを割くことができる
珠算の熟達者の例(Hatano et al., 1977)
 珠算の熟達者にそろばんを使っての計算と暗算
の課題実行中に妨害を与えた(言語的な干渉、
別の計算、運動の干渉)
 珠算の熟達者はそろばんを使より暗算の方が早
く、運動干渉による妨害も受けない。計算干渉課
題では多少の影響を受けるが言語的干渉には
影響を受けない
熟達者は見るところがちがう
 熟達者と初心者では同じ知覚情報に接しても注
目する場所が異なる
野球の熟練者/初心者(1)
福田研究室の実験結果
右打席の視点で右投手がセットで投球した刺激における視線の軌跡例
熟練者
非熟練者
野球の熟練者/初心者(2)
注視位置度数分布
熟練者
非熟練者
野球の熟練者/初心者(3)
リリース時における視線位置の楕円近似
熟練者
非熟練者
操船者の見張り(1)
福田研究室の実験結果
被験者2:商船大学生
40
400
35
350
30
300
25
250
20
200
15
150
10
100
5
50
0
0
1
2
被験者
3
注視時間(msec)
注視点数(points)
被験者1:一般学生
被験者3:熟練航海士
注視点数
一注視点あたりの
平均注視時間
操船者の見張り(2)
太平洋
明石海峡
高知港
操船者の見張り(3)
ジェットフォイルの高速航行(翼走)時と低速航行時(艇走)時
のパイロット(船長)の注視分布
大型船船長の見張り時の頭部および眼球運動範囲(a)と初心者のそれら(b)の比較
熟達者は見るべきところが瞬時に
わかる
 Helsen & Pauwels, 1993)
 フィルムに様々な要素(フリーキック、ペナルティキック、
ドリブル、パス、オフサイドなど)を含むサッカー場面を投
影。被験者はアイカメラを装着して自分に向けられた
ボールに反応する
 測度



反応時間
反応の正確さ
注視点の固定の時間と数、場所
熟達者は見るべきところが瞬時に
わかる(2)
 熟達者は初心者よりも反応を起こすまでの時間が短い
 熟達者は初心者より反応の正確さが高い
 視線の固定の時間には両グループに差がないが、回数
では熟達者が初心者よりも少ない
 熟達者はどこをみたらよいかが最初からわかり、さっと見
ただけで必要な情報をスキャンできる
熟達者は見るべきところが瞬時に
わかる(3)
 熟達者と初心者では視線の固定の場所が違う
 熟達者が視線を固定する場所
pass receiver, free back, free space
 初心者が視線を固定する場所
attacker, goal, ball
 熟達者→schema driven
 初心者→search driven
熟達者の記憶
 熟達者は熟達した領域に関して、領域特有の仕
方で優れた記憶力を持つ
スポーツ選手の記憶(1)
 選手の位置関係がゲーム展開に非常に重要なスポー
ツ(バスケットボールなど)では熟達者は選手の位置関
係について優れた記憶を示す
スポーツ選手の記憶(2)
 しかしバレーーボールのように相手選手の位置を覚える
ことが重要でないスポーツでは選手の位置の記憶に熟
達者と初心者で差がない
 バレーボールの優れた選手→ボールの位置に
ついて優れた記憶
スポーツ選手の記憶(3)
 バレエダンサーの振り付けのシークエンスの記憶の研究
(Starkes, Deakin, Lindley & Crisp, 1987)
 熟達者と初心者に複雑な振り付けのシークエンスを教え、
再生させる。


振り付け師がつくったシークエンス
ランダムなシークエンス
スポーツ選手の記憶
 古典バレエのダンサーは構造化されたシークエンスの時
のみ熟達者>初心者
 モダンバレエのダンサーはどちらの場合も熟達者は初心
者よりも高い再生率
チェスや将棋の熟達者の記憶
 Chase & Simmon (1973)の研究
 初心者、中級者、上級者にチェスの局面を5秒間見せ、
そこでコマの配置を別のチェス盤に再現させる
 上級者は初心者より早く盤を再現し、再現率も高い
 しかし局面を意味のないランダムな配置にすると熟達者
と初心者の再現率の差はなくなる
分類のしかたもちがう
 Allard & Burnett (1985)
 バスケットボールの初心者と熟達者にバスケットの試合
の様々なシーンの写真を見せ、類似したものどうしのカテ
ゴリーを作らせる
 初心者はシーンに何人の選手が含まれているかに依っ
てカテゴリー
 熟達者は構造化された階層構造をもつクラスターをつく
る

Defence (team /individual) / Offence (team /individual)
熟達者は反応が速くて正確
 熟達者は初心者にくらべ、判断が瞬時にでき、す
ぐに体が反応する。
 ただし、実験場面で特定の課題を遂行する反応
時間より、熟達者の実際の場面の反応時間の方
が速いことが多い。
つまり、熟達者は初心者より
 下位技能が自動化されている。
 見るべきところだけを見ている。
 記憶がよい。
 判断に要する時間が短い
 正確
 1+1+1=10!(熟達を支える下位技能の単
なる足し算ではない)
熟達したパフォーマンスの背後に
あるもの
 下位技能の自動化
 知覚の自動化(短時間で必要な情報に選択的に
注意を向け、短時間に情報を処理する)
 知覚の自動化の背後にあるもの


豊かな領域の宣言的知識
宣言的知識の手続き化
 知識の再記述化

要素に取り出し可能な形に再記述される
熟達者の問題解決
 問題解決場面(今、どのように動くか、次はどの
手を打つかなど)の判断における初心者と熟達
者の違い
→最善の「手」が何であるかに対する「直感」。多
くの可能性の中から選ぶのではなくその局面で
最善の解決法が「直感的」に
思い浮かぶ
直感の背後にあるもの
 知識の構造化、手続き化が関係していると思われる
知識が構造化、チャンク化されているため、短い時間でもっとも
必要とされる情報に短時間でアクセスできる
 しかし、どのような形で知識が構造化されているのか、ど
のようなプロセスでそれぞれの状況でもっとも必要な情
報を取り出す(検索)することができるのかは現在の認知
科学の最も重要でchallengingな問題の一つ
熟達者になるには
 10年修行の法則

どのような領域でも真の熟達者になるには最低1
0年はかかる
 集中力をともなった意図的な練習を日常的に続
ける
 練習に純粋な「喜び」を見いだすが同時に練習を
より高いレベルに到達するのに必要な手段であ
ると考える。
熟達者になるのに才能は必要
か?
 熟達者になるために必要な汎用基礎能力はある
のか?

熟達者の情報処理のスピード、記憶力、身体的反
応のスピードなどはそれぞれの熟達の領域に限ら
れ、一般的な能力としては統制群と変わりがない。
学習の臨界期の問題
 熟達者が持つ能力が生得的に備わった能力な
のか、早期からの練習によって獲得されたものな
のかを決定するのは困難


例:熟達した音楽家の多くは絶対音感を持つ。し
かし絶対音感も生得的能力ではなく幼少時の訓
練によって身につけられたものかも知れない
卓越したスポーツマンの身体的特徴(例:優れた
心肺機能など)
生まれつきの才能は必要か?
 従来生まれつき必要だとされていた能力の多く
は幼少時の集中的な訓練によって獲得されたも
のかもしれな い(Ericsson, 1996)
 ただし、本当に才能が必要ないかどうかについ
ては疑問

Deliberate practiceは必要条件で十分条件では
ない?
才能は必要という考え
 絵画の領域(Winner, 1996)で才能のある子どもは
 普通の子どもにはない集中力で絵を描き続ける
 遠近法などの技術を教えられることなく獲得する

既存のテクニックを独学で学ぶだけでなく、新しい手法を開
発したり、普通の人と全くちがう知覚のしかたをする。→オ
ブジェクトをどこからはじめても描くことができる