企業価値をあげる事業リスクマネジメント (ERM)

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Transcript 企業価値をあげる事業リスクマネジメント (ERM)

事業リスクマネジメント学習支援教材
事業リスクマネジメント総論編 NO.1
企業価値をあげる事業リスクマネジメント (ERM)とは
ティーチングノート
学習にあたって
学習のポイント
事業リスクマネジメントに関する世界的潮流を理解する
事業リスクマネジメントの意義と目的、全体像を理解する
学習するスキル内容
事業リスクマネジメントとは何か、なぜ事業リスクマネジメントが必要なのかを説明できる
事業リスクマネジメント導入のメリットは何かを説明できる
「許容リスク」、「リスク選好」を説明できる
リスクとリターンのバランスの基本的な重要性について説明できる
組織のリスク選好を組織の事業戦略から論じられる
コーポレートガバナンスとリスクマネジメントの関係を説明できる
リスクマネジメントに関する歴史・経緯を説明できる
事業リスクマネジメントと他のマネジメントプロセスと関係を説明できる
事業リスクマネジメントには相応のコストが伴うことを説明できる
基本テキストで対応しているのは:
第1章、第6章3節、第7章です。
1
目
次
1.事業リスク・マネジメント(ERM)とは何か?
・・・・・
3
2.事業リスクマネジメントの効用
・・・・・
7
3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント ・・・・・
13
4. ERM導入と実行の傾向
・・・・・
22
5.事業リスク・マネジメントの将来像
・・・・・
25
本ノートの作成について:
本ティーチングノートは、平成15年12月に開催された
「事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業」実証プログラムにおける
マーシュ・ブローカー・ジャパン株式会社 リアド・ダビ氏のご講義
「企業価値をあげる事業リスク・マネジメントシステム(ERM)とは」
の内容を学習支援用教材に再編集したものです。挿入されております
図表等も原則として講師に提供していただいたものです。
2
1.事業リスク・マネジメント(ERM)とは何か?
(1)ERMとは?(その1)
①ERMは企業が包括的な企業リスク管理や、企業価値をあげるためのリスク・マネ
ジメントのひとつとして90年代前半に開発された。
(注)ERMは、エンタープライズワイド・リスク・マネジメント (EWRM)、戦略リスク・マネジメント (SRM)、 ビジネス・リスク・マネジメント(BRM)、 包
括的リスク・マネジメント (CRM)、統合的リスク・マネジメント (IRM)、などとも呼ばれることがある。
②COSO(トレッドウェイ委員会組織委員会)ではERM を以下のように説明している:
“エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)とは事業目的の達成について
合理的な保証を提供するために、取締役会、経営者その他従業員によって実行される。
戦略の策定は元より事業体のあらゆる領域に適用され、事業体に影響を及ぼす
「潜在的な事象」を認識するよう設計され、「リスク」をその事業体の「リスク欲求」の
範囲に治めるプロセスの事である”
出所: COSO Framework (www.coso.org)
⇒COSOの説明から以下のことが理解できる:
 ERMはプロセスのひとつである
役員から一般社員まで全員の理解や、導入する意識を共有化する必要がある
 “事業戦略策定”に利用される
 ERMはリスクの把握、評価、管理に必要である
 ERM導入でリスクを100%なくすことはできないが、企業で許容できるリスクを軽減しコントロールすることができる
ERMは完全保証ではない - 企業の戦略目標達成についての合理的保証である
事業活動に組み込まれた連続したプロセスである - 企業の目標達成を促進するものである
3
1.事業リスク・マネジメント(ERM)とは何か?
(2)ERMとは?(その2)
リスク・マネジメントはより包括的なアプローチに移行している
From
To
• 断片的
• 統合的
• 転嫁主義
• 最適主義
• 否定的
• 肯定的
• 反動的
• 積極的
• 戦術的
• 戦略的
• 一時的
• 継続的
• 単独的
• 相関的かつ総合的
• 経験的
• 予測・予見的
• コスト主義
• 成果主義
• 部分的
• 網羅的
• 個別的
• 組織的
• 機能重視的
• プロセス重視的
4
1.事業リスク・マネジメント(ERM)とは何か?
(3)ERMとは?(その3)
①企業の包括リスク・エクスポージャーの算出手法ではない
②事業戦略の代替案ではない
③コーポレート・ガバナンスの代替ではない
④日替わり/月替わりメニューではない
⑤追加コストではない
⑥管理評価の手段ではない
⑦官僚的な管理手段ではない
⑧人口知能(完全無欠)ではない
⑨責任、義務、権限を移行するものではない
5
1.事業リスク・マネジメント(ERM)とは何か?
事象の把握
目標を達成する過程で事業体にインパクトを与える潜在的な事象の特定とリスクの把握
リスク・アセスメント
目標設定
事象の把握
リスク分析・評価
リスク・アセスメント
リスクへの対応
リスク対応策の検討
コントロール活動
リスクへの対応
コ
ン
プ
ラ
イ
ア
ン
ス
戦
略
内部環境
子会社
ビジネス・ユニット
事業部門
組織全体レベル
目標設定
ミッションやビジョンに基づいて事業体の目的を設定するプロセス
レ
ポ
ー
テ
ィン
グ
内部環境
リスクについてのマネジメントの考え方、方針、および企業全体のカルチャー、企業構造、事業体内部の態勢
オ
ペ
レ
ー
シ
ョン
(4)ERMの構成要素の目的の関係図(COSO)
コントロール活動
リスク対応策を効果的・効率的に実行するため設定される管理方針および手続き
情報とコミュニケーション
情報とコミュニケーション
リスクの把握、評価、対応するために必要とされる情報収集とコミュニケーション
モニタリング
モニタリング
日常的な経営管理、独立した評価、あるいは両方の組み合わせなどの方法で遂行される。
6
2.事業リスク・マネジメントの効用
(1)価値の創造 - 基本コンセプト
《企業を取り巻く環境》
 経済理論から見れば、企業に投資をした投資家への十分な還元をする。
 株主へリターンを提供するため、企業は有効な手段で価値を創造し、継続的にキャッシュフローを産み出
さなければならない。
 潜在的にマイナスの影響を及ぼす“不確実性”あるいは“リスク”をより良く管理できる企業こそが事業目
標を達成し、かつ企業価値を創造できる。
 企業の価値は昔から株主価値に反映している。
企業がより効果的、積極的にリスク・マネジメントを導入することは、
企業の事業目標の達成につながり、最終的には企業価値を高める。
どのように
達成するか?
どのように
達成したか?
達成財務指標#1
リスク
達成財務指標#1
達成財務指標#2
リスク
達成財務指標#2
ビジネス
プラン
ビジネス戦略
達成財務指標#3
リスク
達成財務指標#4
リスク
リスク・
マネジメント
投資家
株主価値
達成財務指標#3
達成財務指標#4
7
2.事業リスク・マネジメントの効用
(2)株主価値を脅かすリスクとは(その1)
リスク・マネジメントの欠如が企業に悪影響をもたらすという
ことは最近の調査でも言われている:
 リスクは株主価値に悪影響を与える
 リスクは株主価値へ長期に亘り影響を及ぼす
“ほとんど全ての資産価値はそれらが将来
創造するであろう利益によって決定される。しかしながら
資産価値の公正なる判断は将来発生するであろう
不確実な事象に左右されかねない”
出所: Alan Greenspan, Chairman of the Board of Governor of the Federal Reserve System
8
2.事業リスク・マネジメントの効用
(3)株主価値を脅かすリスクとは(その2)
フォーチュン1000社 における分析
フォーチュン1000社のうち10%程度の企業が1ヶ月で25%以上の大幅な株価下落に見舞われた
% of top 100
25
24
株価下落の主な要因 (企業数)
20
15
12
11
10
7
7
6
7
6
4
5
3
2
1
1
1
2
1
0
0
競合による
プレッシャー
需要予想
の見誤り
市場に
合わない
製品提供
主要顧客の
喪失
M&A後の
価格設定におけ
統合による問題 る消費者からの
プレッシャー
戦略リスク
研究開発
の遅れ
規定上に
おける問題
予想外の
コスト上昇
供給業者に
おける問題
非効率な
経営手法
による問題
会計上の
不正行為
海外におけ 価格の
るマクロ経済 急騰
的問題
金利
変動
0
訴訟
問題
自然
災害
サプライ・チェーン
にまつわる問題
オペレーショナル・リスク
財務リスク
災害リスク
出典:1993年から1998年にかけて行われたマーサー・マネジメント・コンサルティングによる調査結果
注記: このほかにも株価下落の要因として5つあるが、ここでは記載されていません。
9
2.事業リスク・マネジメントの効用
(4)株主価値を脅かすリスクとは(その3)
顕著な災害や損害に見舞われたフォーチュン1000社の内10%程度
の企業は株主価値を発生前の株価まで持ち直す事は出来なかった。
リスクの発生が投資家離れを引き起こし、株主価値低迷を長期化
させた事実である。
S&P 500社と損害に見舞われた100社の株価推移比較
(Indexed percent change in stock price)
160
150
140
株価
インデックス
S&P 500 1
130
120
110
100
90
2
100 Cos. Suffering drops
80
70
Source: Compustat, MMC analysis
Note: 1 S&P 500 index is the sum of the
S&P indexes corresponding to time
period for each of the 100 cos. suffering
stock drops.
Note: 2 Data was not available for all
companies for all 24 months after the
stock drop (e.g. for stock drops in the
last two years). Where data was not
available, companies were excluded
from that month for both the 100 cos.
and the S&P 500 index.
60
期間
10
2.事業リスク・マネジメントの効用
(5)株主価値を脅かすリスクとは(その4)
リスク・マネジメントがもたらす株主価値への効果を計ることは困難だが、
ここに1件の好事例を紹介すると:
 ある一企業が
 2回の類似した損害に遭い
 異なるタイプの結果をもたらした
2つの事象での違いは?
…
効果的かつ積極的なリスク・マネジメントの導入をしたかどうかである
日付: 1982年9月
事象: 元社員が製品であるタイレノール内に
青酸カリを注入し、それを購入した消費者7名が死亡
予想損害額: 製品回収に100万ドル、
事業中断に50万ドル
日付: 1986年2月
事象: 青酸カリが混入されたタイレノールを服用した
女性が死亡
予想損害額: 製品回収に150万ドル
11
2.事業リスク・マネジメントの効用
(6)なぜ今ERMなのか?
①最も効率的かつ費用対効果が高いリスク管理手法である
• リスクの集中管理ができる
• リスクの関連性/連鎖の把握ができる
• マイナス因子の「リスク」の軽減と、プラス因子の「機会」の最大化を図れる
②今日のビジネス環境に合致している
• 株主やステークホルダーの立場でリスクを考える
• コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスなどの様々な事象に対応できる
• ERM は新価値創造モデルに適合!
③国や地域を跨いで網羅的な導入が可能である
• 社会・文化・経済・金融・法環境の違いにかかわらず
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3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(1)今日のビジネスの眺望
①ビジネスのグローバリゼーションとメディアの発達
• ビジネス機会増大、競争激化、新市場創設と拡大、ステークホルダーの増加→リスク増大
• ニュース(特に悪影響を及ぼす)の伝播速度上昇
②投資環境における個人投資家の増加
• 金融・資本主義メカニズムの理解が不完全な投資家に対する情報開示
(収益性、責任、透明性)の必要性の増大
③リスク・マネジメントの新たな方向性
• リスク・マネジメントは単なる保険マネジメントではなくなった
⇒企業はリスク・マネジメントを投資家の利益を保護・保証するものへと変化してきている。
④1980年代後半から1990年代初頭の共産圏崩壊
• 市場の自由化がもたらした企業スキャンダル → 規制強化 → 投資スタイルの変容
⑤新しい規制環境
• ビジネス慣習、規格や基準、コーポーレート・ガバナンスなど
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3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(2)株主の次なる期待
①株主は収益の“偏差(ぶれ)”に対して敏感になってきている。
②投資家の4分の3が企業を評価に際して役員の実行力が財務諸表に
劣らず重要であると見なしている。
③優れたコーポレート・ガバナンスはより高い利益を生み出すという期待
に基づき、株主は世界中から企業投資に参加してきている。
④適正株価の検証は困難だが、概してコーポレート・ガバナンスとリスク
・マネジメントを導入している企業の株価は高くなると期待されている。
⑤企業統治が高い水準にある企業は、世界の資本市場において投資家
に魅力を与え投資意欲をもたらす。
⑥株主は企業が潜在的に有しているリスクとその影響への関心を高め
てきている。
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3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(3) 一般社会の次なる期待
①市民の3分の2は企業の過去の財務状況より向上することを願
い、より社会に貢献する事を望んでいる。
②5人に1人は、企業が肯定あるいは否定的に評価された主因が
社会的貢献度合いによるものと考えている。
③世論調査によると企業に対する社会全般の強い要望により今
後更に社会に貢献する役割は増加するとの結果が出ている。
④企業に対する印象を図る物差しとして、3人に1人はビジネス実
務の属性と答え、10人に6人はその要素として労働環境や経営
倫理などを挙げている。
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3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(4)ステークホルダーの次なる期待
①一般消費者は訴訟提起をするなど、企業に対する要求内容が多くなってきて
いる(世界的に消費者グループの役割が増大)。
②消費者の購入パターンや嗜好は企業の社会的行動によって影響を受ける。
③企業業績と経営陣の報酬制度を相対的に考えるようにとの外部的圧力が増
加している。
④供給業者などのビジネスパートナーもその企業のリスク・マネジメント・システ
ムの有効性や実効性によって大きな影響を受ける事が増えてきている(操業・
営業中断リスクとビジネス継続プラン構築の有無)。
⑤企業不祥事は社会的信用を阻害し、監査報告の正確性を欠いてしまう。
⑥著しい環境、人口変動や技術変革は根本的に企業のリスクプロファイルを変
えさせてしまい、本質的にリスク・マネジメントのフレームワークを再構築する
必要が出てくる。
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3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(5)新しい規制環境
AMERICAS
Brazil
Recomendações sobre Governança Corporativa
Code of Best Practice of Corporate Governance
Canada
Proposed New Disclosure Requirement and Amended Guidelines
Beyond Compliance: Building a Governance Culture (Saucier
Report)
Five Years to the Dey, Toronto Stock Exchange and Institute of
Corporate Directors
The Toronto Report
Mexico
Códigode Mejores Prácticas Corporativas
Peru
Principios de Buen Gobierno para las Sociedades Peruanas
Perú: Código de Buen Gobierno Corporativo para Empresas
Emisoras de Valores
United States of America
The Breeden Report on Corporate Governance for the future of
MCI, Inc.
Commission on Public Trust and Private Enterprise Findings and
Recommendations
The Conference Board - Corporate Governance Rule Proposals
Reflecting Recommendations from the NYSE Corporate
Accountability and Listing Standards Committee
The Business Roundtable, May 2002 Governance
American Law Institute, 1994, revised 2002
Teachers Insurance and Annuity Association-College Retirement
Equities Fund
The Business Roundtable, September 1997
Sarbannes and Oaxley
COSO Framework
EUROPE
France
The Corporate Governance of Listed Corporations
Pour un meilleur gouvernement des entreprises cotées
Recommendations on Corporate Governance
Vienot II Report
Vienot I Report
Germany
Amendments to the Cromme Code
Cromme Code
Baums Commission Report (German title:Bericht der
Regierungskommission Corporate Governance)
Corporate Governance Rules for German Quoted Companies
German Code of Corporate Governance (GCCG), Berliner
Initiativkreis, June 2000 - DSW Guidelines
Gesetz zur Kontrolle und Transparenz im Unternehmensbereich
(KonTraG)
Drittes Finanzmarktförderungsgesetz
United Kingdom
The Combined Code on Corporate Governance
Audit Committees - Combined Code Guidance (the Smith Report)
Review of the role and effectiveness of non-executive directors
The Responsibilities of Institutional Shareholders and Agents Statement of Principles
The Hermes Principles
Review of the role and effectiveness of non-executive directors
Code of Good Practice
The Combined Code: Principles of Good Governance and Code of
Best Practice
Hermes Statement on International Voting Principles
The KPMG Review Internal Control: A Practical Guide
Internal Control : Guidance for Directors on the Combined Code
(Turnbull Report)
Hampel Report (Final)
Greenbury Report
Cadbury Report (The Financial Aspects of Corporate Governance)
AFRICA
South Africa
King Report on Corporate Governance for South Africa
ASIA
Hong Kong
Model Code for Securities Transactions by Directors of Listed
Companies: Basic Principles,
Corporate Governance Disclosure in Annual Reports
Code of Best Practice
Japan
Revised Corporate Governance Principles, Japan Corporate
Governance Forum
Report of the Pension Fund Corporate Governance Research
Committee, Action Guidelines for Exercising Voting Rights
Corporate Governance Principles: A Japanese view
Urgent Recommendations Concerning Corporate Governance
Korea
Code of Best Practice for Corporate Governance
Malaysia
Malaysian Code on Corporate Governance
Pakistan
Code of Corporate Governance (Revised)
Stock Exchange Code of Corporate Governance
Singapore
Corporate Governance Committee, Council on Corporate
Disclosure and Governance (CCDG)
AUSTRALIA
Principles of Good Corporate Governance and Best Practice
Recommendations
Corporate Governance: A guide for fund managers and
corporations
Horwath 2002 Corporate Governance Report
Corporate Governance: A Guide for Investment Managers and
Corporations
Corporate Governance - Volume One: in Principle, Volume
Two: In Practice
AIMA Guide & Statement of Recommended Practice
Bosch Report
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3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(6)新価値創造モデル
①「キャッシュフローのみが株主価値を創造する」旧来の概念の喪失
②現在、企業は他の価値創造で投資家の興味を促す必要
③ERMは新価値創造モデルに対応するリスク・マネジメント・プロセス
ERMは企業の財務、経済、社会、環境面での、それぞれの役割にあった
企業価値向上を助成する
財務面 - 株主への利益還元
経済面 -雇用創出、製品やサービスの提供
企業価値
社会面 - 財やサービスの提供を通じた社会発展や福祉への
貢献
環境面 -環境保護に配慮を置いたビジネス活動の展開
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3 .企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(7)企業に必要とされる行動
企業が事業戦略の優位性を高め、成功するために株主、
ステークホルダー、行政および一般社会へ次のことを
報告する必要がある:
 主要なリスクを把握・評価している
 予期せぬ事態に対し、臨機応変に対応ができる
 リスクのコントロールやモニタリングをするための手法や
方法論を持っている
 “リスク文化”を持っている(共通言語、リスクの展望)
 隠れていたり埋もれているリスクは、将来の企業価値を
著しく阻害する要因となり得ることを承知している
 継続的に企業の財務的、経済的、社会的および
環境的役割を達成していかなければならない
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3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(8) マネジメント層に必要とされる行動
①リスクの評価とモニタリング - 金融、商取引、規制、自然、地
政や評判(ブランド)などにかかわるリスクなど
②種々のマネジメントチームを持つことで正負両面の影響を予
見できるような柔軟性ある決定を下せるようにする。
③短期のみならず長期的な展望に立った目標設定と達成した
場合の利益還元のメカニズムを創出する
④最高経営責任者と会長の役割を分離する
⑤文化生活に根付いた建設的なインプットを提供する。
20
3.企業価値をあげる手段としての事業リスク・マネジメント
(9)ERMの挑戦と導入成果
企業価値の増大
リスク認識の向上
信頼度の向上
意思決定の円滑化
リスクが成果やリターンに影響
を与えることを理解する
リスク転嫁コストを最適に見積
もる
許容可能なリスクの大きさを把
握できる
代替的なビジネス戦略導入の
影響度を計量化する
リスク・マネジメント資源の活用
が増える
資本や資源の最適配分が可能
となる
企業のゴールを妨げる固有の“
不確実性”を予測し、処理策を
協議する
組織的にリスク評価プロセスを
導入・実行する
リスク・マネジメントと戦略、ビ
ジネス・プランの統合
リスク・マネジメントとライン・マ
ネジメントの合体
社内外のステークホルダーに
対してリスク開示の透明性の精
度が高くなる
21
4.ERM導入と実行の傾向
(1)世界的傾向
①株主とステーク・ホルダー間における株主価値に対する理解の合致
②高いリスクプロファイルを潜在的に保有している業界内で導入
•
•
•
•
過去/継続中の不祥事 - 金融機関
高いリスクプロファイル - 石油化学業界や製薬業界
リスクの本質 (計量化可能 vs. 計量化不可能) - 金融機関 - 石油化学業界
サービス産業 - 公益事業 - 通信 - 航空 - 消費者製品メーカー - 食品業界
③ERM導入の助長した理由や背景
•
•
•
•
•
規制
訴訟提起が一般的になり株主やステークホルダーからの情報開示に対する要求度合いの増加
コーポレート・ガバナンスの浸透(透明性や開示など)
過去の事故やスキャンダルの噴出(企業個々あるいは業界特有)
競争の優位性維持
④戦略やオペレーショナルリスクは他のカテゴリーより高い関心を持たれている
(処理方法の模索)
• リスク計量化の不完全性がリスク・マネジメントの処理手法の制限を誘発 - 限られたリスク転嫁
市場
22
4.ERM導入と実行の傾向
(2)地域の特性
北 米
ヨーロッパ
英 国
日 本
企業の
役 割
•経営者や株主を豊かに
すること
•雇用や適正な生計を供
給することにより社会に
貢献すること
•3つの原理(使命)が混
在するが、経営者や株
主を豊かにすることに重
点
•財やサービスを提供で
きる充分な資源を保有
し、かつ調達する
経 済
•100%資本経済
•資本経済+国有経済
•100%資本経済
業 界
•全体で導入の傾向、
•特に、金融、製薬、鉱
業、医療、公益事業、通
信、航空、消費者向け
製品メーカー、食品業界
•金融、石油化学、製薬、
通信、航空、消費者向
•全業界
け製品メーカー、食品業
界
障 害
•強い経済力
•ガバナンス拡大解釈
•緩やかな規制緩和(電
力、通信)
•一般投資家の参加が
緩やか
•“セーフティーネット”が
既に制定
•伝統的なビジネススタ
イルを踏襲
•少数であるが着実に浸
透中
•特に、航空、通信、製
薬、消費者向け成否m
メーカー
•投資環境(系列システ
ム)
•ERM導入のパイオニ
ア不在
•法的環境(クラスアク
ション訴訟の事例少)
•コピー(独自性の欠如)
23
4.ERM導入と実行の傾向
(3)ERM導入の主な理由
北 米
•法規制(バーバーンス・オクスレイ法等)の可視的傾向により導入機運が上昇
•訴訟システム・・・支払いや弁済能力の高い企業に対する訴訟が顕在し、高額賠償や罰金が賦課
•財務報告書の透明性とリスクの全面開示
ヨーロッパ
•ステークホルダーは歴史的に要求が強い - 特に従業員や顧客
•法規制の可視的傾向により導入気運が上昇 (ドイツのコン・トラグ法、フランスのビエノ・レポートな
ど)
•訴訟システム - 審判、賠償や罰金が存在するほか、刑法に重点を置いている
•財務報告書の透明性 (プロ・フォーマ)
•海外機関投資家 - 特に米国
英 国
•規制の環境(キャドベリー&ターンブルレポート)
•訴訟システムは米国に類似 -高額賠償や罰金・罰則(ディープ・ポケットの概念が浸透)
•北米とのビジネスの結びつきが強く長い
日 本
•経済の停滞
•競争の優位性の保持
•規制(コーポレート・ガバナンス原則改定)
24
5.ERMの将来像
新しいコンセプトが登場するときと同様、ERMを取り巻く世界にも大きく分けて3人のプレーヤーがいる
- 支持者、批判者(懐疑的見解) 、傍観者(賛否両論)である。
支 持 者
• ERM確立は2001年9月11日事件
を契機にしている(必要不可欠)
• 既に多くの企業に受け入れられ、
導入に成功している
• CRO(最高リスク管理責任者)も
年々着実に増加している
• 新しい規制とERMのコンセプトが
同列にある(ターンブル・レポート
、サーバンズ・オクスレイ法など)
• 株主やステークホルダーのERM
に対する考え方が合致しており、
そのことが企業のERM導入に拍
車をかけている
• 計量化技術が進歩し、オペレーシ
ョナル・リスクも例外ではない
• テクノロジー企業がITにかかわる
リスク処理策を提供し始め、ERM
導入気運を高めている。
傍 観 者
批 判 者
• ERMは道理にかなっている
• 単なる流行にすぎない
• 理論と実際の両方にあてはまる
数少ない手法のひとつである
• CROがすべき事の理想と現実に
大きな隔たりがある
• 思うほど難しいものではない
• 全てのリスクを計量化することは
不可能である
• 思っているより難しい
• 世界各国で導入を実施している
• あまりにも理論的であり(机上の
空論)、実践的ではない
• 非常に便利で重要であるが、リス
クの計量化は絶対に必要ではな
い
• テクノロジーがERMに適合しな
い
• ERMは株主・ステークホルーダ
の両者のニーズや要求を満たす
• 技術の向上 - 計量化の技術や手
法が向上している
• データ(リスク/ロス)不足
• リスクそのものが本質的に不確
実であり、把握しきれない
• 過去10年間で保険・金融市場と
もに目覚しい創意・改革が行われ
ている
25