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15.社会保障
15.1 社会保障の分類と日本の社会保障制度
15.2 保険市場における政府の役割
15.3 補論 1:保険需要曲線の導出
15.4 補論 2*:間接効用関数と消費者余剰
15.5 補論 3*:自発的所得再分配の過小性と効率的な所得再分配
15.1 社会保障の分類と日本の社会保障制度
<社会保障の分類>
社会保障とは「最低限の生活を営むことができなくなるリスクを社会全体で保障すること、
およびそのリスクそのものを引き下げること」である。そして、社会保障の給付財源は「保
険料」と「租税」であるが、財源に占める「保険料」の割合がある程度以上であれば、そ
れは「社会保険(social insurance)」と呼ばれる。
また、保障あるいは給付対象となる事象に応じて分類することもできる。たとえば、所得
を得る能力が低下した場合に、所得を保障する社会保障制度としては、公的年金保険・雇
用保険・生活保護などがある。また、健康を損なった場合に、健康あるいは医療費を保障
する社会保障制度としては、公的医療保険・後期高齢者医療保険・公衆衛生などがある。
以上のような観点から分類すると次の表のようになる。
<日本の社会保障制度>
財源
社会保険
給付対象
保険料(中心)
所得
年金・雇用
両方(ほぼ半々)
税金
生活保護
介護・労災
健康
その他
医療
後期高齢者医療
公衆衛生
児童手当
社会福祉
<日本の医療(健康)保険制度>
【各医療保険制度】
平成 22 年度末
保険者数
市町村国保
国保組合
協会けんぽ
組合健保
共済組合
後期高齢者
医療制度
1,723
165
1
1,473
83
47
3,566 万人
343 万人
3,483 万人
2,995 万人
912 万年
加入者
平均年齢
49.5 歳
38.9 歳
36.2 歳
33.9 歳
33.4 歳
公費負担(定率分)
(平成 21 年度)
給付費等の 50%
給付費等の 43%
給付費等の 16.4%
定額補助
なし
公費負担額(予算ベース)
(23 年度)
3 兆 4,411 億円
2,900 億円
1 兆 1,108 億円
18 億円
なし
1,389 万人
81.9 歳
給付費等の 50%
5 兆 8,006 億円
加入者数
【窓口負担率】
6 歳未満
一般
2割
3割
70 歳~74 歳
2 割(1 割に凍結中)
(現役並所得者は 3 割)
75 歳以上
1割
(現役並所得者は 3 割)
【窓口負担以外の負担率】
財源
老人保健
後期高齢者医療制度
後期高齢者の保険料
1割
各医療保険制度の保険料
5割
4割
公費
5割
5割
15.2 保険市場における政府の役割
「情報の非対称性(asymmetry of information)
」が存在する場合には「逆選択
(adverse selection)」という好ましくない現象が発生する可能性が存在する。
ここに、情報の非対称性とは取引をする当事者間に取引する商品(製品)に関
連した情報量の格差が存在することである。
情報が対称(完全情報)の場合は、市場は競争の結果として質の悪い製品を淘
汰して品質の高い製品を「選択」する。しかしながら、情報が非対称である(不
完全情報の)場合においては、品質の悪い製品を選択するという、「逆」の選択
を市場がしてしまう可能性が生じるのである。
(1) 医療保険市場における「情報の非対称性」と政府の役割
(1-1) 医療保険市場における「情報の非対称性」
医療保険の市場には情報の非対称性に起因する逆選択現象が発生すると考えられる
理由について、まず直感的に説明する。
(1) 個人には病気になる確率が高い(タイプ H の)個人と低い(タイプ L の)個人が
いる。
(2) 個人は自分の病気になる確率が高いか低いかを良く知っている。
(3) 保険会社は個人の病気になる「平均的な」確率を知っている。
(4) 保険会社は個々の個人の病気になる確率が分からない。
以上の想定の下で、
(1) 保険会社は保険料を病気になる平均的な確率に対応するものに設定する。
(2) 病気になる確率の低い個人は保険に加入することを止める。
(3) 保険に加入している個人は病気になる確率の高い個人だけになる。
(4) 保険会社は病気になる確率の高い個人を前提にした保険料の設定をする。
という現象が生じると考えられる。
すなわち、保険会社にとっては病気になる確率の低い個人のほうが良質な顧客であ
るのに、医療保険市場では病気になる確率の高い個人のみが保険に加入するという
「逆選択」現象が生じるのである。
(問題 15-1)「逆選択」を回避するために保険会社はどのような対応策を講じているであろ
うか。
(1-2) 医療保険市場における逆選択のモデル
 i =タイプ i の個人が病気になる確率( i  L, H 、  L   H )
 i =タイプ i の個人の人数の割合(  L   H  1、 i  0 )
h =病気になったときに掛かる医療費
(1単位の保険に加入することにより)病気になったときに保険金 h だけ支払う保険が存在
し、タイプ i の個人の保険料(premium)は
pi であるとする。そして、保険加入量(口数)
を x とする( x  0 )。また、 pi のもとでのタイプ i の個人の保険需要量を xi と表すことに
する。
<仮定 1>
pi  piR であれば xi  0 、 pi  piR であれば xi  1、 pi  piR であれば xi は
0  xi  1 の範囲で不定である。なお、piR を留保保険料(reserved premium)
と呼ぶことにする。
仮定1のような保険需要を個人の最適化行動から導出する方法は「15.3 補論 1」で説明す
る。
pi
保険需要曲線
piR
1
x
<仮定 2>
保険市場への参入は自由であり、保険料は保険会社の期待利潤が非負の範囲で
最低水準に決定される。
議論を限定するために次の 2 つの仮定を置くことにする。
<仮定 3>
i  h  piR (i  H , L)
<仮定 4>
pLR  ( L L   H  H )  h
仮定 3 は完全情報のもとで個人が保険に加入する均衡に議論を絞るための条件であり、仮
定 4 は不完全情報のもとで均衡を「逆選択均衡」だけに絞るための条件である。
(問題 15-2)所得水準が高いグループと低いグループでは、どちらのグループに関して逆
選択が生じやすいかを、仮定 4 の成立の是非を検討するとことで議論しなさい。
<「逆選択」が生じやすいのは所得グループの所得は高い or 低い?>
保険金額の高い保険に加入する個人の所得水準は高い or 低い?⇒ 高い
保険加入時の健康診断のコストは保険金額の比例倍以上 or 以下 ⇒ 以下
加入時に健康診断が義務化されている保険の顧客の所得水準は高い or 低い?⇒ 高い
情報が非対称な保険市場の顧客の所得水準は高い or 低い?⇒ 低い
「逆選択」が生じやすいのは所得グループの所得は高い or 低い?⇒
低い
(i) 完全情報のケース:保険会社が個々の個人のタイプを識別できる場合
タイプ i の個人向けの保険の保険料
pi  piR
pi は、その保険に加入者がいるためには、仮定 1 より
(15-1)
を満たす必要がある。
また、保険会社の期待利潤が非負であるためには、保険料
pi   i h
pi は
(15-2)
を満たす必要がある。
そして、仮定 2 と仮定 3 より均衡における保険料
pi  i h [ pi* ]
pi は、
と期待利潤がゼロとなるように定まることになる( i  L, H )。
(15-3)
(ii) 不完全情報のケース:保険会社が個々の個人のタイプを識別できない場合
タイプを識別できないので保険会社は両タイプの個人に対して共通の保険料
pを
提示することになる。
そして、不完全情報の下での均衡は、
①両方のタイプの個人が保険に加入している「プーリング均衡」、
②タイプ H の個人だけが保険に加入している「逆選択均衡」、
③タイプ L の個人だけが保険に加入している均衡、
の3種類ある。
なお、逆選択均衡では、病気になる確率の低い(良質な)個人が市場から排除され
ているという意味で「逆選択」が発生していることになる。
(問題 15-3)
「③タイプ L の個人だけが保険に加入している均衡」の可能性が無い
ことを示しなさい。
p とおけば、タイプ L の個人が保険に加入するためには、
p  pLR
保険料を
であり、タイプ H の個人が保険に加入しないためには、
pHR  p
である。したがって
pHR  pLR
(*)
が成立することになる。
<仮定 3>
i  h  piR (i  H , L)
<仮定 4>
pLR  ( L L   H  H )  h
仮定 3 と仮定 4 より、
pLR  (L L  H H )  h   H  h  pHR
(**)
である。
(*)と(**)は矛盾する。すなわち、「③の均衡」の可能性は存在しない。
(問題 15-4)「①両方のタイプの個人が保険に加入しているプーリング均衡」の
可能性が無いことを示しなさい。
保険料を
p とおけば、両方のタイプの個人が保険に加入するためには、
p  pLR
でなければならない。そのとき、保険会社の期待利潤が非負になるためには、
p  (LL HH )h
が成立する必要がある。
したがって、
( L L   H H )h  pLR
が成立することになるが、これは仮定 4 に矛盾する。
<仮定4> pLR  (L L  H H )  h
以下では、問題 15-3 と問題 15-4 より、
「逆選択均衡」の可能性に絞って検討する。
タイプ H の個人だけが保険に加入するためには、
pLR  p  pHR
(15-4)
でなければならない。また、そのとき保険会社の期待利潤が非負であるためには、
p  H  h
(15-5)
でなければならない。つまり、仮定 3 より
 h  p  p
H
(15-6)
R
H
であれば、タイプ H の個人だけが保険に加入するとともに、保険会社の期待利潤が
非負である。したがって、仮定 2 より、均衡における保険料は
p   H  h [ pH ]
*
(15-7)
と定まることになる。
以上より、情報の非対称性が存在するときは、逆選択均衡のみが存在し、そのとき病
気になる可能性の低い(良質な)個人は医療保険市場から排除されていることになる。
リスクの異なる個人のタイプがN種類存在しているとする。
 i =タイプ i の個人が病気になる確率( i  1, 2,, N 、 1  2     N )
「逆選択」の結果市場に残る個人のタイプは? ⇒ N
個人のタイプが多数存在するときはほとんどのタイプの個人は市場に残らない。
(問題 15-5)医療保険に加入することで被保険者の行動にどのような変化が生じる
だろうか(モラル・ハザード)
。このモラル・ハザードと逆選択の相違
について説明しなさい。
逆選択の原因となる保険会社にとって観察できない個人情報
= 個人のタイプ
モラル・ハザードの原因となる保険会社にとって観察できない個人情報
= 個人の行動
個人のタイプ = 保険加入後の個人の行動では変化しない個人の属性
保険会社が観察できない個人のタイプ の例 = 遺伝情報
保険会社が観察できない個人の行動 の例 =
健康的な食事や運動
(iii) 医療保険市場における政府の役割
SW P =完全情報の均衡における社会的余剰すなわち社会厚生
タイプ i の個人の消費者余剰= piR  pi* ( i  L, H )
生産者余剰=ゼロ
SW P  L ( pLR  pL* ) H ( pHR  pH* )
(15-8)
SW A =逆選択の均衡における社会的余剰
保険契約を結んでいる個人のタイプ=H
SW A  H ( pHR  pH* )
(15-9)
公的医療保険の保険料 p は強制加入のもとで期待利潤がゼロとなるように
定められるとする。すなわち、
p  (L L  H H )  h [ p S ]
(15-10)
と定められる。
SW S =公的医療保険における社会的余剰
保険料率
pS を用いて
SW S  L ( pLR  pS )  H ( pHR  pS )
と求められる。
(15-11)
(問題 15-6)  L  h  pL のとき、次の関係が成立することを説明しなさい。
SW S  SW P  SW A
(15-12)
R
SW S  L ( pLR  pS )  H ( pHR  pS )
 L pLR  H pHR  (L  H ) pS
 L pLR  H pHR  pS
 L pLR  H pHR  (L L  H H )h
SW P  L ( pLR  pL* ) H ( pHR  pH* )
 L ( pLR L  h) H ( pHR H  h)
 L pLR H pHR  (LL HH )h = SW S
SW A  H ( pHR  pH* )
 H ( pHR H  h)
 SW P L ( pLR L  h)
 SW P
問題 15-6 より、逆選択均衡が発生する場合は、強制加入の公的医療保険を導入することで、
効率性を改善できるのである。
P
A
すなわち、逆選択が生じている状況では、公的医療保険を導入することにより SW  SW
だけの、社会的純便益が生じることになる(10 章を参照)
。
(問題 15-7)
pH*  pS であることを示しなさい。
pH*   H  h  (LL HH )h = p S
仮定 4 より pS  pLR である。したがって、公的医療保険の導入はタイプ H の個人にとって
は望ましいが、タイプ L の個人にとっては望ましくはない。
pH*  pS  導入前のタイプ Hの個人の消費者余剰=pHR  pH*
 pHR  pS=導入後のタイプ Hの個人の消費者余剰
pS  pLR  導入前のタイプ Lの個人の消費者余剰=
0
 pLR  pS=導入後のタイプLの個人の消費者余剰
(2) 年金(保険)市場における「情報の非対称性」と政府の役割
年金制度=長生きした人に対して死亡するまで一定の金額を支払う制度
=長生きしたときに(資産が無くなったり、所得水準が低下したりすることで)
生活水準を維持できなくなるリスクを助け合う制度(長生き保険)
(問題 15-8)年金市場における逆選択とはどのようなことか説明しなさい。
また、年金保険市場で逆選択現象の発生する可能性について検討し
てみよう。さらに、そのような可能性を政策的に回避するためには
どのような方法が考えられるだろうか。
公的年金の存在理由=
1) 逆選択(=adverse selection)
:生存確率に関する情報格差
2) 温情主義(=paternalism):自助努力の欠如に対する自己責任?
3) 世代間の所得再分配(賦課方式の公的年金のみ)
:世代間扶養 & ねずみ講
15.3 補論 1:保険需要曲線の導出
完全情報のケースにおける保険需要と消費者余剰について検討しよう。
そのために、個人の(医療費と保険料控除前の)所得を m 、状態 t における医療費控除後の
所得を m t とする。
そして、状態 1 は「病気」であり、状態 2 は「健康」であり、病気になったときのみ医療
費は h で必要になる。したがって、 m1
 m  h かつ m2  m である。
状態 t における財 y の消費量を y t と表すことにする。なお、財 y の価格は 1 に標準化され
ているとする。
そのとき、状態 1 における予算制約式は、
y1  m1  pi x  hx  m  h  (h  pi ) x [ yi1 ( x)]
(15-13)
であり、状態 2 における予算制約式は、
y 2  m2  pi x  m  pi x [ yi2 ( x)]
(15-14)
となる( x  0 )
。ここに、x は病気になったときに保険金を h だけ支払う保険加入量(口数)
であり、 pi はタイプ i の個人の保険料である。
以上より、タイプ i の個人は x 口の保険を購入することで消費点を ( yi1 (0), yi2 (0)) から
( yi1 ( x), yi2 ( x)) に変化させることができる。
(15-13)と(15-14)より、 x を消去すれば
pi 1
h  pi 2
( y  h) 
y m
h
h
である。なお、 x  0 より y2  m である。
(15-15)
ui  min(ki y  (1 ki ) y , y )
ki y1  (1  ki ) y 2 if ki y1  (1  ki ) y 2  y 2
 2
if ki y1  (1  ki ) y 2  y 2
y
1
y2
2
2
ki y1  (1  ki ) y 2 if y1  y 2

2
if y1  y 2
y
ki y1  (1  ki ) y 2  u
y 2  y1
ui
ki
1  ki
y  ui
2
y1
タイプ i の個人の効用関数は
(15-16)
ui  min(ki y  (1 ki ) y , y )
であるとする。そのとき、piR  ki h とおけば、pi のもとでのタイプ i の個人の保険需要量 xi
1
2
2
は、
pi  piR ⇒ xi  0
pi  piR ⇒ 0  xi  1
pi  piR ⇒ xi  1
(15-17)
(15-18)
(15-19)
である。
(問題 15-9)(15-17)、(15-18)、(15-19)が成立することを、図を用いて説明しなさい。また、
保険需要曲線を x pi 平面に描きなさい。
財 y の最適な消費点は ( yi1 ( xi ), yi2 ( xi )) は、(15-13)と(15-14)より
pi  piR ⇒ ( yi1 ( xi ), yi2 ( xi ))  (m  h, m)
pi  piR ⇒ ( yi1 ( xi ), yi2 ( xi ))  (m  pi m  pi )
であり、 pi  piR のときは、
pi 1
h  pi 2
( yi ( xi )  h) 
yi ( xi )  m
h
h
かつ yi2 ( xi )  m が成立する。
(15-20)
(15-21)
(15-22)
piR  ki h
y2
【 piR  piのケース】
y2  
pi
( y1  m  h)  m
h  pi
y 2  y1
yi ( xi )  m  pi
2
ki
1  ki
xi  1
ki
pi

1  ki h  pi
min(ki y1  (1 ki ) y 2 , y 2 )  m  pi
★
m  pi
=
1
yi ( xi )
pi
h  pi
y1
piR  ki h
y2
【 piR  piのケース】
y2  
pi
( y1  m  h)  m
h  pi
ki
pi

1  ki h  pi
x*  0
y 2  y1
yi ( xi )  m
2
m piR
min(ki y1  (1 ki ) y 2 , y 2 )  m  piR
ki ★
1  ki
pi
h  pi
mh
=
1
yi ( xi )
m piR
y1
15.4 補論 2*:間接効用関数と消費者余剰
効用関数(15-16)の ( y1 , y 2 ) に ( yi1 ( xi ), yi2 ( xi )) を代入したときの関数は、 m と pi の関数に
なるので vi (m, pi ) と表し、「(タイプ i の個人の)間接効用関数」と呼ぶことにする。
そして、(15-20)、(15-21)、(15-22)より、
vi (m, pi )  m  min( pi , piR )
が成立することになる。ここに、 piR  ki h である。
(問題 15-10*)(15-23)が成立することを説明しなさい。
(15-23)
保険料 pi が与えられたもとでの(タイプ i の個人の)支出 Ei を、(15-15)より
Ei 
pi 1
h  pi 2
( y  h) 
y
h
h
(15-24)
と定義する。
そして、(15-16)と y2  m の制約のもとで、最小化された支出は効用水準 ui と保険料 pi に
依存するので Ei ( pi , ui ) と表すことにし、最小支出(あるいは補償所得)と呼ぶことにする。
そのとき、定義より Ei ( pi , ui ) は
ui  vi (Ei ( pi , ui ), pi )
を満たすことになる。
(15-25)
保険料が pi1 から pi2 に低下することにより生じる等価変分 EVi と補償変分 CVi を求めよう
( pi1  pi2 )。
pij が与えられたもとで、個人が最適な保険量を選択したときに達成できる効用水準 uij は
uij  vi (m, pij ) である( j  1, 2 )。したがって、効用水準 uij あるいは無差別曲線
uij  min(ki y1  (1  ki ) y 2 , y 2 )
(15-26)
j
と保険料 pik が与えられたもとでの補償所得 Ei ( pik , ui ) は、(15-25)より
uij  v(Ei ( pik , uij ), pik )
(15-27)
を満たすことになる( j, k  1, 2 )。
したがって、
vi (Ei ( pi2 , uij ), pi2 )  uij  vi (Ei ( pi1 , uij ), pi1 )
が成立する( j  1, 2 )。
(15-28)
定義より
EVi  Ei ( pi1 , ui2 )  Ei ( pi1 , ui1 )
CVi  Ei ( pi2 , ui2 )  Ei ( pi2 , ui1 )
(15-29)
(15-30)
だから、
Ei ( pi1 , ui1 )  m  Ei ( pi2 , ui2 )
(15-31)
であることを考慮すれば、
vi (m, pi2 )  vi (m  EVi , pi1 )
vi (m  CVi , pi2 )  vi (m, pi1 )
(15-32)
(15-33)
が成立する。
そして、(15-23)を用いれば、
EVi  min( pi1 , piR )  min( pi2 , piR )  CVi
である。たとえば、 pi1  piR であるとすれば、
EVi  piR  pi2  CVi
(15-34)
となるので、等価変分 EVi (そして補償変分 CVi )は保険料 pi2 のときの消費者余剰と一致
することになる。
pi
piR  pi
x*  1
piR  pi
x*  0
保険需要曲線
piR
1
x
piR  pi
x*  1
piR  pi
x*  0
pi
 pi  pi
R
消費者余剰=
2
1
pi
piR
2
pi
1
x
15.5 補論 3*:自発的所得再分配の過小性と効率的な所得再分配
他の個人の消費が正の外部性を持っているときに、
自発的所得再分配(voluntary redistribution)が
過小になることを示すとともに、所得再分配で効率
的な資源配分を実現できることを示そう。
3 人の同じ選好の個人がおり、その効用関数が
ui  u(ci , min(c1 , c2 , c3 ))
(15-35)
であるとする。
ci は個人 i の消費量である。
min(c1 , c2 , c3 ) が個人 i の効用に直接影響を与える理由としては、
利他性や治安などが考えられる。
個人 i の所得を mi と置いて、個人 3 の所得のみがゼロであるとする。つまり、
min(m1 , m2 )  m3  0
(15-36)
を仮定する。
個人 i から個人 j への所得再分配を dij と置くことにして、簡単化のため、
d31  d32  d12  d 21  0 ( d11  d 22  d33  0 )
(15-37)
のケースに限定して議論を進める。つまり、所得再分配としては個人 1 と個人 2
から個人 3 に対するものだけを考えることにする。
個人 i から他の個人への所得再分配の合計を
di と お く 。 つ ま り 、
di  di1  di 2  di3 である。このとき、個人の予算制約式は
ci  di  mi
( i  1, 2 )
c3  d1  d 2
となる。
(15-38)
(15-39)
さらに、
d1  d 2  mi  di
( i  1, 2 )
(15-40)
のケースに議論を限定すれば、 min(c1 , c2 , c3 )  c3 なので、効用を
ui  u(ci , c3 )  u(mi  di , d1  d 2 ) ( i  1, 2 )
u3  u(c3 , c3 )  u( d1  d 2 , d1  d 2 )
(15-41)
(15-42)
と表すことができる
以下では、効用関数(15-35)が、
ui  ci  vi (min(c1 , c2 , c3 ))
(15-43)
のケースに限定する。
そのとき、(15-38)、(15-39)、そして min(c1 , c2 , c3 )  c3 なので、
ui  mi  di  vi (d1  d 2 )
(15-44)
と効用を表すことができる。
vi (c3 )  0 かつ vi(c3 )  0 を仮定するとともに、 MBi (c3 )  vi (c3 ) と表す
ことにする。
個人 1 と個人 2 は所得再分配 d1 と d 2 を自発的に選択している状況を想定しよう。
そのときの、Nash 均衡は次のようにして求めることができる。
個人 1 が個人 2 の所得再分配 d 2 が与えられたもとで、効用を最大化するよう
に自らの所得再分配 d1 を選択するとき満たすべき条件は、
MBi (d1  d 2 )  1
(15-45)
である。したがって、この条件式から求められる個人 1 の反応関数は、
d1  max(d10  d 2 , 0)
(15-46)
である。ここに、
MBi (di0 )  1
(15-47)
である。たとえば、 d10 は個人 2 の所得再分配がゼロのときの個人 1 にとって
最適な所得再分配の水準である。
 d 20 を仮定する。同様にして、個人 2 の反応関数は、
d 2  max(d 20  d1 , 0)
(15-48)
0
そして、 d1
と求められる。
d10  d 20 の仮定のもとでは、Nash 均衡 (d1N , d 2N ) は
(d1N , d 2N )  (0, d 20 )
(15-49)
となることを示すことができる。
(問題 15-11*) d1
d 2 平面に個人 1 と個人 2 の反応曲線を描くことで、
(15-49)が成り立つことを確認しなさい。
*
*
(パレート)効率的な所得再分配を (d1 , d 2 ) 、効率的な個人 3 の消費水準を
c3* と置けば、
c3*  d1*  d2*
であり、 c3* は、
MB1 (c3* )  MB2 (c3* )  1
(15-50)
(15-51)
を満たすことになる。
(d1* , d 2* ) は不定であるが、 c3* は一意的に決定され、
d1N  d2N  c3*
(15-52)
が成立することを示すことができる。
(問題 15-12*)(15-52)が成立することを、図を用いて説明しなさい。
効率的な (d1* , d 2* ) で Nash 均衡 (d1N , d 2N ) をパレート改善するものは、
mi  di*  vi (d1*  d2* )  ui
( i  1, 2 )
(15-53)
を満たすものである。
ここに、 ui は Nash 均衡における個人 i の効用水準である。つまり、
u1  m1  v1 (d 20 )
u2  m1  d 20  v2 (d 20 )
(15-54)
(15-55)
である。
以上より、(15-50)と(15-53)を満たすように政府が(強制的に)個人 1 と個
人 2 から個人 3 への所得再分配を実施することで、自発的な所得再分配のも
とでの資源配分より効率性を改善できることになる。
15.社会保障
15.1 社会保障の分類と日本の社会保障制度
15.2 保険市場における政府の役割
15.3 補論 1:保険需要曲線の導出
15.4 補論 2*:間接効用関数と消費者余剰
15.5 補論 3*:自発的所得再分配の過小性と効率的な所得再分配